落ち武者の姫君と瀬戸際参謀と成果主義な上司 1
私はアルフレート。階級は中尉。地球517遠征艦隊の駆逐艦5070号艦で作戦参謀をしている。
地球775として登録される予定の惑星を探索中。今から私は、まさに地上に降りて探索を行うところだ。
私のような作戦参謀が地上に直接行くことは、通常はやらない。私が地上に行くことになったのは、上司であるグスタフ参謀長の命令によるものだ。
この星にきて1週間。チーム艦10隻からは鉱物調査などは進んでいるが、人的接触が全くない。
このため、一向に大きな成果が出せないチーム艦隊に業を煮やした参謀長、ついに私を派遣することにした。
と言っても、私とて地上の任務に何か秀でたものがあるわけではない。ただ、参謀長にとって命令しやすい部下だったから、派遣されたというだけだ。めちゃくちゃな人選である。
人との接触、できれば実力者との交渉権を獲得せよ。それが我が上司の要求だ。
しかしこの参謀長、そこまで成果にこだわるならば自ら地上に降り立てばいいのに、忙しいと言って一向に艦内のデスクを動かない。どうせうまくいい人物と接触したら、まるで自分がやったかのように艦隊司令部に報告するつもりだろう。そう考えると腹立たしい。
ともかく、私は地上に降りる。哨戒機にはパイロットのコルト少尉に私、それにクリストフ交渉官もいる。
「すいませんねぇ、交渉官殿。まだ接触できる人が見つかったわけでもないのに、うちの上司が呼び出したりして。」
「いいよ、どうせ僕ら交渉官は、交渉すべき人が現れるまでは待ってるだけなんだし、それなら少しはこの星の状況を直接見た方がましさ。」
このセリフ、うちの上司にも聞かせてやりたい。どうせよく分からない書類作成に忙しいだけだろうから、この交渉官のように地上の様子でも見ればいいのに。
とある林の中に降下した。この近くに小さな集落があったので、そこに向かおうと考えて降り立った。
とても実力者がいるとは思えない集落だが、まずは言語調査を行わないといけない。少人数の集落の方が、突然我々に襲って来たとしても逃げやすく、安全だ。
ここが統一語を使う地域なのかもわかっていない。だから、まずは言葉が通じるかどうかのチェックは必要。今回の任務は、言語さえ分かればよし。そういうつもりでいた。
地上に降りて、哨戒機のハッチを開く。
そこに突然、林の木々の間から3人の男が現れた。
何だろうか?あの集落から来た人達だろうか?私は彼らの方を見る。
彼らの格好を見た瞬間、私に戦慄が走った。
まるでサムライのような格好、手には抜かれた刀、それも血糊でべったりなやつを握っている。
これはやばい。絶対やばいやつだ。
「おのれ!何者か!?」
1人が叫んできた。言葉がわかる、統一語の人だ…などと考えてる暇はない。
3人のうちの1人が、いきなり私に向かって斬りつけてきた。
私は腰にある携帯バリアのスイッチを押す。一度も使ったことはないが、今はこれに頼るしかない。とっさの行動だった。
だが、バリアは幸いうまく機能してくれた。火花と共に相手は吹き飛び、刀が折れる。
どさっという音とともに、相手は倒れこむ。
「ちょ…ちょっと、待って!あの…」
「おのれ!怪しい技を使いおって…」
もう1人が私を睨みつけてくる。また斬りつけてくる気だ。刀を構え、ジリジリと近づいてくる。
地上に降りて、いきなり命を狙われる羽目になった。なんでこんな目に…もういやだ、この状況。
私はまた携帯バリアのスイッチがある腰に手をかける。その時だった。
「待て!」
3人目のサムライが叫んだ。
「しかし、親方様…」
「見たところ、ヒデヤスの手のものではなさそうだ。もし敵の手のものであれば、真っ先にわしをめがけて斬りつけてくるはず。」
「ですが、我らを油断させ、親方様のお命を狙うつもりかもしれませぬぞ!」
「たった3人相手にか!?そんな小細工、無駄であろう。」
「あの…すいません、ちょっとお聞きしたいのですが…」
「なんじゃ?」
私は、明らかにこの3人で一番偉そうなお方に声をかけた。
この人だけ、鎧が違う。兜もかぶっていて、いかにも上官といった風格だ。
「もしかして、この辺りで戦闘があったんですか?」
「なんじゃ、お主。あれだけの大合戦、知らぬと申すか。」
「はあ、たった今、空から降りてきたばかりなので…」
「空からとな!?お主はいったい、何者か?」
そこで、私は宇宙から来たことを話す。といっても、宇宙という概念がこちらの世界にはまだないようで、説明するのに苦労した。
途中、交渉官も出て来て、私を補佐してくれた。スマホのホログラムも使って、なんとか納得していただく。
ついでに、この大将のことを伺う。名前はサンナリ殿。ここより少し先の山間で、西と東に分かれて4万人同士がぶつかり合う大合戦があったそうだ。
で、このサンナリ殿は、西側の軍の総大将だったそうだ。私はいきなり、総大将にお目見えする事となった。
しかし、一部の味方が裏切ったため、西軍は総崩れ。そこで、この先にある自身の城に戻って、もうひと合戦するつもりらしい。
「…だが、もうかれこれ3日もさまよっている。すでに敵軍はサナヤマの城にたどり着いておるやもしれん。」
「そうだったんですか…なら、お連れいたしましょうか?お城まで。」
「それはありがたいが、どうやって行くのだ?」
「あれに乗って行きます。あと3人乗れますから、皆さんを連れて行けますよ。」
「あれに…乗る!?」
「だ…大丈夫なのだろうな!」
「はい、大丈夫ですよ。哨戒機といってですね…」
サンナリ殿とその部下を哨戒機に乗せようとした、その時だった。
「いたぞっ!」
林の中から、わらわらとたくさんのサムライが現れた。
「…追っ手か!」
サンナリ殿が呟く。どうやら、この方の命を狙う相手のようだ。
これはもう、逃げるしかない。だが、思いの外近くまで接近されてる。
「私が彼らを牽制します!サンナリ殿は交渉官殿と一緒にあれに乗ってください!交渉官殿!」
「分かった!先に行く!」
交渉官と3人の落ち武者は、哨戒機に飛び乗る。
追っ手が数人、刀を抜いてじわじわと近づいてくる。
私は、拳銃を取り出す。出力目盛りを目一杯回した。
彼らの目の前めがけて、一発撃ち込んだ。青白い閃光と共に、大きな発射音が響く。
着弾した地面で爆発が起き、地面がえぐり取られる。
追っ手はその場で後ろに倒れこむ。兵の動きが止まった。
「アルフレート中尉!」
交渉官が呼ぶ。私は急いで哨戒機のハッチに飛び込む。
哨戒機のエンジンはすでに始動していた。私はパイロットに叫ぶ。
「コルト少尉!機体を急速上昇!高度500まで一気に上がれ!」
哨戒機は急上昇を開始、あっという間に地上の兵士は小さくなっていった。
「おい!さっきの鉄砲は何だ!?それにこれは…」
「話は後です!まずは、サンナリ殿のお城に向かいます!」
サンナリ殿とその部下に、居城であるサナヤマ城の方角を聞く。ゆっくりとお城へと飛ぶ哨戒機。
「アルフレート殿、手が震えておるぞ!大丈夫か!?」
自分では自覚していなかったが、私の手は震えていた。いかに威嚇射撃とはいえ、人に向けて発砲したのだ。
「すいません、戦闘は初めてなもので…」
「そうか。だが初陣であれだけの冷静な判断、たいしたものだぞ。」
敗軍の将とはいえ、大将に褒められた。どちらかと言うと上司に恵まれていない私にとって、このお方の言葉は励みになる。
「見えました!前方、2時の方向!お城です!」
コルト少尉が前を指差す。我々もその方角を見る。
城だ。小高い丘の上に、石垣と天守閣が見えた。あれがサナヤマ城か!?
だが、近づくにつれて、お城の周囲の状況があまり芳しくないことに気付く。
城の周辺には、ぐるりと旗が囲んで見える。その旗の下には、おびただしい兵士がいる。
少なく見積もっても数千、いや、数万かもしれない。
一部の兵は動き始めている。まさに、城攻めが始まるところだった。
サンナリ殿は唖然として地上を見る。城の方はせいぜい数百。この兵力差、攻められればすぐに勝敗が付いてしまうだろう。上空から見れば、一目瞭然だ。
だが、我々は宇宙艦隊の軍人だ。防衛規範に則り、この戦闘を停止させる義務がある。我々は城攻めを阻止すべく、行動を起こした。




