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遭難艦と鉄道と天使 4

いったい昨日だけで一体いくつ作戦立案があったのだろうか?


すぐ作戦などと銘打つのは、武官の悪い癖ではないか?


なによりも、その作戦への参加数が最も多いのはロサ軍曹と私。いくら成り行きとはいえ多すぎだ。助かった暁には臨時ボーナスと長期休暇をもらってやる。


とはいえ、他の隊員も不眠不休で哨戒機の取り出し、整備をしてくれてるわけで、2人だけが苦労しているわけではない。皆の期待に応えるべく、ここはひと頑張りするしかないか。


そういう気持ちで臨んでいるのか、さっぱりわからない人物が今ここにいる。ロスアーナ嬢、通称ロサ軍曹、自称視力4.0の女性士官だ。


彼女の天然ぶりと大物ぶりは昨日拝見させていただいたが、今日くらいは「手下」の私の活躍ぶりを見せつけてやりたい。負けん気の強いパイロット魂がくすぶる。


今日乗り込むのはやや大型の哨戒機。航空機というには、真四角で翼がほとんど付いてない、まるで小型の遊覧船といった感じの機体だ。


私も操縦経験はあるので問題ないが、戦闘機のように自由に動き回れる機体ではないので、あまり好きではない。しかし事情が事情だけに、致し方ない。


乗るぶんにはゆったりしたコクピットで申し分ない。特にロサ軍曹にとっては快適きわまりない。落ち着きのないあの性格では、戦闘機のコクピットは狭すぎた。


離陸して昨日の「港」に向かう。ゆったりとしたコクピットなら少しは口数が減るかと思いきや、少しも変わらない。いやむしろ増えたのではないか。


ただ幸いなのは、後部座席があるおかげで、ずっーっと真横から話しかけられる事態は避けられた。眺めがいいのか、彼女はほとんど後ろの席をうろうろしていた。本来、飛行中に席を離れるのはあまりよくないことだが、彼女にそれを要求するのは不可能というものだろう。


とにかくこの大物エンドレスラジオを標的に投下、必要な資材を入手するのが今作戦の概要。それまではせいぜいのびのびしてろ。


などと心の中で悪態をついていると、目的地に到着。こちらの隊長殿はすでに着いていて、出迎えてくれた。


昨日より人が増えている。2~30人はいるだろうか。大軍接近ということで、増員したようだ。その中になにやら一人豪華な甲冑を着ている人物がいる。貴族か何かだろうか?


着陸すると、早速隊長殿が近づいてきた。


「なんだか昨日よりでっかいのできたなあ。なんだ?これは。」

「これならあと4人乗れますよ~。どうです?隊長殿。」


ロサ殿、遊覧飛行にきたわけではないから、あまり気軽に誘わないで欲しい。


さて、約束の帝国軍の位置に関する情報と、ついでに上空から撮った写真と、昨日渡したのと同じ地図を持ってきた。


兵力は概算で1万2千。投石機が10基。写真があると実に説明がしやすい。


これを隊長と、もう一人の貴族風の人物に説明した。


「やはり、明日には川向こうに着きそうですな。どうします?迎え撃つ準備を整えますか?」

「いや、数が多すぎる。我ら3000が出ていったところで渡河を防ぐのは困難だ。やはり籠城戦しかなかろう。」

「しかし子爵様、籠城戦ともなれば、住民や工房に損害が出るのは免れられませんぞ。」

「元より損害の回避は不能、帝国を退ける可能性の高い手段を取ることにしよう。」


昨日の試算通り、こちらの国はやはり3000の兵力のようだ。1万2千相手にするにはやや少なすぎる兵力だ。


しかしこちらも黙って渡河を見過ごすわけにはいかない。わずかでも兵力を配置して時間稼ぎをする、そういう結論になった。


ただしその足止め部隊の兵力はわずか300。総兵力が3000ほどの国ではこれが精一杯のようだ。


ここで、私が口を開く。


「我々に提案があるのですが。」


ここで、我が艦を盾に川向こうの敵を食い止める作戦を話した。


もっとも、我が艦がどんなものかを知らないので、本当にそんなことが可能かどうかを理解してもらうのはいささか無理がある。


しかも、艦を動かすためには鉄板が必要。そんな条件、飲んでもらえるだろうか?


「うーん、よくわからないが、その船というのは我々が見て驚くほどのものなのかね。」

「いや大きいですよ~。この機体よりずーっと長くて太いんです。ご覧になります?」

「一度見てみたい。どこにあるんだ?」


地図を取り出して場所を示す。


「ちょっと遠いな…ええと、川までの距離がこれだから、ここまで行くには半日はかかる。」

「これに乗ればすぐに到着しますよ。」


と私が言うと、子爵様と隊長はちょっとのけぞった。これに自分が乗るという発想はなかったようだ。


「これは…乗れるのか?」

「はいっ、快適ですよ。あと4人までお乗せできます。」


ロサ殿は相変わらず気軽に誘う。しかし、ここではこの気軽さがネガティブな雰囲気をぶち壊してくれた。


「し…子爵様…どうなさいます?」


豪快なイメージの隊長殿が、少し弱気になっている。


「そなたの話では、これは天使の乗り物ということではないか。どうせこの先は地獄、天国に連れてってもらえるかもしれんし、私とお前、2人で乗ってみようではないか。」


天国ゥ…は無理ですが、快適な空の旅ならお約束しますよ。


「どうぞどうぞ、遠慮なさらず。美味しいお菓子もご用意してますから。」


何故お菓子が載っている?そんな話は聞いてないぞ?まあともかく、この場は彼女に任せるのが良さそうだ。


彼女のペースにまんまと乗せられた子爵様と隊長は、後部座席に座る。


「我が遊覧機にご乗車いただき、誠にありがとうございます。当機の案内を務めさせていただきます、ロスアーナと申します。どうかお見知り置きを。」


ロサ殿はすっかりフライトアテンダント気取りだ。


離陸前に、こういう事態になったことを無線で知らせておいた方がいいな。


「カスティーラよりロングボウ、ただいまより子爵様、隊長様同行の上、帰還する。受け入れ許可を願います。」


当初より受け入れ前提だったので、すぐに許可が下りた。


「ロングボウよりカスティーラ、受け入れ許可了承、進路クリア、直ちに帰還せよ。」

「了解、カスティーラ、離陸する。」


ちなみにカスティーラとはこの機体のコールサイン。この星の人間は、ロサ殿も含めこのお菓子が大好きだ。確かにカスティーラのように四角い機体だし、気持ちはわかる。


なお、彼女が持ち込んだお菓子というのもカスティーラ。甘くて柔らかいお菓子なので、こちらの星の子爵様もお気に召された様子だ。


さて、このまままっすぐロングボウに向かってもよかったが、帝国軍の予想進路にもほど近いため、寄り道を提案。


やはりこの目で見てみたいということもあって、子爵様は了承。森の中の細い道に沿ってしばらく飛んだ。


我が艦の近くあたりで、大軍を発見。長い列をなして行軍する様子を後席の2人はじーっとみていた。


ともすれば、明後日には自分たちの城に押し寄せてくるかもしれない相手。あまりの数の多さに、2人とも言葉を失っていた。


その2人がさらに驚いたのは、我が艦にたどり着いた時だった。


「なんだ、この大きい城のようなものは!」


ロングボウ、駆逐艦ながら400メートルという比較的大型の船。確かに、この星ではお城並みのサイズではある。


「本当にこれが飛ぶのか?」


子爵様は半信半疑だ。


そこで私は、艦の周囲を旋回し、後部エンジンの方を指差して言った。


「あそこに穴が空いてるため、浮かぶことはできても、前に進めないんですよ。」


ゆえに修繕のため鉄板が必要だと話した。


ぐるっと回って艦のすぐ横に着地。


すると中から艦長と、参謀殿が出てきた。


「ようこそ我が艦においでくださいました。艦長のバルターと申します。」


よく似た自己紹介をさっきも聞いたが、こっちの方が大人だ。


2人は早速艦内に案内された。艦橋の見学と、我々に関する情報、宇宙のこと、連合、連盟のこと、そして我々が遭難中であること。


ただいずれ救援隊がこちらを見つけて駆けつけてくるため、それまで我々が軍の役割として、停戦行動を行う義務があることを付け加えた。


「しかし、あなた方は我々よりはるかに進んでいる。救援隊が駆けつけたとして、その矛先は我々に向かうのではないか?」


惑星ファーストコンタクト時のFAQだ。これに対する回答は、地球001による不幸な歴史と、二つの陣営に分かれた経緯を話す必要がある。


「我々の目的は、連盟を屈服させて宇宙を再び統一すること。そのためにはあなた方の協力が必要なんです。」


まあ、一応はご理解していただけた。


「で、まずあなた方はこの艦を動かすため、鉄が必要なんですな。」


ストレートに切り出してきた。


「いいでしょう。なんとかしましょう。」


これを聞いて、艦橋の皆が安堵した。


「さっきの乗り物で、今度は王都に向かってはくれませんか?直接陛下に進言いたします。」


王都とは、先ほどの城塞都市のことだ。すぐさまその王都に向けて発信することとなった。


さて、王都まではものの10分ほどで到着。どこへ着陸して良いか尋ねたところ、城壁内にある、とある建物の前を示された。子爵様の御屋敷らしい。


突如上から妙なものが飛んできて、中から子爵様が現れたものだから、屋敷内は大騒ぎだった。しかし子爵様はすぐにお城に向かわれることとなり、陛下の許可を取り付けるまでここで待機するよう言われた。


私だけならいいのだが、ロサさんはここでも好奇心全開。庭にある花やら彫刻やらを見ては大喜びだし、屋敷にいるメイドや従者に手当たり次第話しかけている。


ものの1時間ほどで、屋敷内のものと意気投合してしまった。一体どういう魔法を使ったのか、つくづくこの娘の力は恐ろしい。


さて、ここでこの王国の名前を聞いた。


”鉄の王国”というそうだ。


身もふたもないネーミングだが、それほどまでに鉄に依存した国家だということがわかる。


さて、そんなことをしているうちにようやく子爵様ご到着。鉄受領の許可をいただけた。有難い。


で、今度は鉄を受け取るため鉄工所へ赴く。2メートル四方の大きさの鉄を予備も含めて2枚もらうこととなった。どうやって持っていくか、いろいろ悩んだが、機体の下部に縛り付けることにした。


2メートル四方で厚さ10ミリ。これが二枚で重さ600キロ超。


重さはともかく、外にぶら下げたままの飛行なので、落っこちないようにゆっくり飛んで、なんとか帰還した。


これを今度は整備課に回す。徹夜で修復させるそうだ。


なお、隊長殿が同行した。王国の代表として、この艦に乗れとの子爵様の命令だ。


ロサさんの相手をしたばかりに、今度は自身が得体の知れない船に乗ることになるとは、心中お察しします…と言いたいところだが、案外嬉しそうだ。


何せ国家の代表としてこの艦に赴任、私を含めみんなちやほやしてくる。食堂では変わったものが食べられて、まんざらでもなさそうだ。


でも隊長殿、人間てのは親切にしている時ほど下心があるものなんですよ。彼らが考えてることは、このまま救援隊が来なかったらこのままこの国に取り込んでもらおうというやましい思いですぞ。それこそ救援隊が来たら、皆帰って態度が悪くなりかねませんよ。


そんなことを思いながら、外に出てエンジンの修復作業をぼーっと眺めていた。


明日はあの哨戒機を何度か飛ばすことになりそうな気がする。そのために早く休まないといけないはずなんだが、どうもすぐには寝られない。


ロサ殿はさっさと寝てしまったらしい。やはり私とは精神構造がかなり違うのだろう。


あまりにうまく行き過ぎたというか、予想以上に多くの人を巻き込んだというか、ここに落っこちて来た日から立ったの二日で、事態は大きく動いている。


日が変わるたびにめまぐるしくいろんなことが変わるため、毎日夢を見ている気分だ。ある日突然目が覚めて、今のは全部夢でしたって終わりが待ってるんじゃないか。そんな気がする。


しかし、明日は国家の存亡に関わる作戦が行われる。これが夢だったとしても、今はこれが現実だ。さっさと寝よう。

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