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望遠鏡と宇宙船と星雲 3

もう日が変わる時間に、エリックさんと一緒に家へ向かう。


私はまだちょっとぼーっとしている。望遠鏡を抱えるエリックさんを、私はちらっと見あげた。


エリックさんはにこっと笑いかけてくれる。


「遅くなってしまったから、町長殿はお怒りでしょうかね?」

「さ、さあ、どうでしょうか?父もまだ帰ってるかどうか、分かりませんし。」


役場の方には真夜中だというのに、政府や占領軍の車が走ってくる。多分、父はまだいるだろう。


家に着いたが、人の気配がない。やはり父はまだ帰っていなかった。


「では、サオリさん、またお会いしましょう。」

「はい、エリックさん。今日はありがとうございました。」


エリックさんから望遠鏡を受け取って、私は家に入った。


エリックさんから望遠鏡と学習機というものをもらった。部屋にこの2つを置いて、私は眺めていた。


改めて、宇宙船に乗ったことを悟る。大きな望遠鏡、そしてこの地上では手に入れることができない宇宙人の文字を学習するための機械。


そして、エリックさんのお部屋での、さっきまでの行為をふと思い出す。恥ずかしさのあまり、私は思わず手で顔を覆い隠す。


その時、父が帰ってきた。


「なんだ、サオリ。まだ起きていたのか。」

「え、ええ、お父さん、帰りが遅いなぁと思って、心配で待っていたのよ。」

「そうか…ところでお前、何かあったのか?」

「え?」

「いやなに、こんな夜中だというのに、妙に浮かれた声をしているなあと思ってな。」

「い、いいえ、お父さんが無事帰ってきてよかったなぁって思って…」


何か悟られたのだろうか?少し心配になる。


だが、そのあと父は何も言わず風呂に入り、そのまま寝てしまった。多分、政府関係者や占領軍のお偉い方のお相手をなされていたのだろう。こんな小さな町の町長には、荷が重い仕事だったろうと思う。


翌朝、私は大学校へ行く。


教室では、昨日見たエリス星雲の話で盛り上がっていた。なにせ、あれほど綺麗な星雲を生で見たのだ。感動しないはずがない。


それに伴って、教授は星の成り立ちに関する授業を行ってくれた。


あの星雲が誕生するには、少なくとも私たちの太陽の数十倍以上の大きさの星が必要だという。その星が寿命を迎えて大爆発を起こし、あのようなガスを生み出したのだという。


ただ、もちろんその爆発を見たわけではない。あくまでも共和国の論文に書かれている仮説にすぎない。ただし、昔から夜空に突然まばゆい星が出てくるという伝承は各地にあって、この爆発がその寿命を迎えた星の終焉の姿であり、星雲を生み出しているのではないかといわれているそうだ。


途方もない話だ。私たちの太陽でさえ、この地球の百倍といわれているほどの大きさだ。それよりもさらに桁違いに大きい星が、大爆発を起こしてしまう。なんだか信じられない。


でも宇宙人なら、もしかしたらその爆発を目撃しているのではないだろうか?


その疑問を、エリックさんにぶつけてみた。


「え?宇宙の大爆発?ちょっと待っててくださいね…」


いつも思うのだが、エリックさんに何か質問をすると、手元の黒い板で何かを調べだす。


「あったらしいですよ、昔。地球(アース)113の領域で、超新星爆発が目撃されたらしいです。」


やっぱり、さすがは宇宙人。そういうのをすでに見ているんだ。


今から70年ほど前に、地球(アース)113という星の30光年以内の星で、すさまじい光を目撃したそうだ。


その星からわずか1光年離れた場所にある大きくて赤い星が、突然大爆発を起こしたそうだ。


その星に最も近い星で、当時は鉱石の採掘がおこなわれていたそうだが、この異常事態により大急ぎで離脱したらしい。


そのままその星にいたら、強烈な爆風が遅いかかってきて、星の表面の施設ごと吹き飛ばされてしまうとのことだった。


実際、数年後にその星に行くと、表面の主な施設はことごとく吹き飛ばされていたそうだ。


このときの記録は写真や動画、論文と数多くの資料として残されている。その時爆発を起こした場所では、今でもガスが膨張しているそうだ。やがてエリス星雲のようになるんじゃないかと言われてるとのこと。


やっぱり、宇宙のことはこちらの方が進んでいる。数百光年もの宇宙を、我々が旅行に行くぐらいの感覚で行き来している人々だ。だから、我々が知らない様々なことを、彼らはすでに解明している。もっとこの人達の持っている知識を知りたい。どうやったら地球(アース)388の論文が手に入るのだろうか?


「エリックさん、学術的な情報って、やっぱりエリックさんの星まで行かないとないですか?」

「そうですねぇ…まだこの星にいるのは艦隊だけですからね。もうちょっと物流や交易が盛んになれば、超光速恒星間通信を使って、いろいろ入手できるようになるんですけどね。」


やっぱり、エリックさんの星に行かないとだめか…いつかは行けるようになるのだろうが、私の卒業までには間に合いそうにない。


「もしよろしければ、地球(アース)388に行ってみます?」

「え?エリックさんの星に?私が?」


思わぬ提案だった。


「多分ですけど、頼めば行けると思いますよ。」

「はい!是非行きたいです!お願いします!」


興奮のあまり、私はエリックさんにしがみついてしまった。


「ああ…すいません。私ったらつい…」

「いえ、いいんですよ。私も昨日、似たようなことをしてしまいましたし。」


そういえばエリックさんも、突然私を抱き寄せてきたっけ。ああ、また昨晩のことを思い出してしまった。


「先ほどの話、こちら側で何か方法がないか聞いてみますね。ただ、町長殿のお許しがないと多分無理でしょう。そちらの方は、サオリさんがお話しするしかないですね。」

「はあ、そうですよね。だめかもしれませんけど、聞いてみます。」


そうだ、さすがに父に話さなくてはいけない。家を出て遠くの星に行くのだ。共和国などよりもずっと遠くに。でも、お許しが出るだろうか?


夜、父が帰ってくるのを待った。今日も遅くなりそうだ。


父が帰ってきたのは、日付が変わる直前のこと。やっぱり今日も占領軍や政府の方とお会いになっていたんだろう。


「おかえりなさい、お父さん。」

「おお、サオリか。まだ起きてたんだな。」

「あのね、お父さん。私、お父さんをお話しがあって…」

「そうか、だがわしもお前に話があるんだ。」

「何でしょう?」

「あのな、サオリ。お前にその…あちらの星に行ってくれないかと言われたのだ。」

「え?ええっ!?」


なんと、父から地球(アース)388への渡航話が出てきた。これはどういうこと?


「実はな、あちらさんが、我々の星の人を地球(アース)388に招待したいそうだ。そこで、彼らと接触のある人物ならどうかと言われ、お前の名が挙がったのだ。」

「そうなの?でもそんな重要なお役目、いいの?私で。」

「まず彼らと言葉が交わせるのが、今のところ我が国の人間だけだ。それに、お前はそれなりの大学校の宇宙関係の学科に行っているくらいだから、彼らと多少は渡り歩ける知識があるんじゃないかということになった。なによりも、彼らと接触しており、彼らに抵抗感がないことが最も適任とされたようだ。」


今までたいした予算も出してくれなかったのに、こんな時だけ宇宙物理学専攻であることを利用するなんてと思ったが、これは願ってもない話だ。


「わしも自分の娘にこんなお願いをしなきゃならないとは、つくづく罪な父親だと思う。マサオや母さんが聞いたら、なんと言うだろう。よりによって、娘に遠い宇宙の別の星へ行けなどとは…」

「お父さん、私、行きます。その地球(アース)388に。」

「何!?いいのか、サオリ。」

「私、むしろあの星に行ってたくさんのことを知りたいの。ここよりずっと進んでいるし、なによりも宇宙に行ってみたい。だからお父さん、行かせて欲しいの、彼らの星に。」

「そうか…そういうことなら、すぐに行けるように返事をしておこう。すまないな、サオリ。お前に我々の事情を押し付けることになって。」

「いいのよ、お父さん。この敗戦の混乱の最中、私はお父さんのおかげでのんびりと大学校に行かせてもらって、好きなことをしてきたのよ。こんなことでお返しできるなら、私は喜んで受けます。」


父の手をそっと握った。歳のわりにはシワが多い手。戦争のおかげで母と兄を失い、戦後も占領軍とのやりとりで苦労をしてきた父だ。そんな父の役に立てる時が来た。それが、私の願っていたことだったから、なおさら嬉しい。


出発は3日後に決まった。乗り込むのは、エリックさんの乗るあの駆逐艦3340号艦だ。この船を含む300隻と、戦艦1隻が随行するとのこと。地上には別の船が来てくれるそうだ。


なお、宇宙に行くのは私だけではない。私の教室から2人行くことになった。私と、シオリだ。


「サオリ1人じゃ寂しいでしょ?だから、私も行くことにしたの。」


などと行ってくれるシオリ。自分が望んでいたこととはいえ、未知の場所へ1人行くのはやっぱり不安だ。この友人の存在は心強い。


ほかにも政府関係者や占領軍からも数人ほど行くことになったそうだ。


ところで占領軍といえば、急遽あの威張り散らしていた士官が居なくなって、代わりにすごい切れ者が来たそうだ。この町が宇宙人さんのおかげで急に重要拠点となったため、共和国側もそれなりの人物を送り込んで来たようだ。


でもこの人、てきぱきと仕事をこなし、理不尽な要求をしないから、やりやすくなったと父は言っていた。


そしてついに、出発の日を迎える。


大きなカバンを抱えて、私はあの駆逐艦に向かう。


家を出る時に、近所の人たちが集まって、バンザイで送り出してくれた。出征するわけじゃないんだからと言ったのだけれど、祖国のため、この星のために頑張って来て欲しいと、町内会長さんから励まされた。


駆逐艦に着くと、いつもの人が出迎えてくれた。


「こんにちは、エリックさん。」

「ああ、こんにちは、サオリさん。」

「今日から、お世話になります。」

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。」


すっかりエリックさんとは顔なじみになってしまった。ほんの少し前まで、まさか宇宙人と交流するだなんて、思ってもいなかった。それが今日、ついに宇宙に出て、別の星に旅立つこととなった。


父がやってきた。数人の政府関係者と、占領軍の人と一緒だ。この人達が同行者らしい。


「じゃあ、お父さん、行ってくるね。」

「ああ、気をつけてな。」


他の人の相手もしていたため、あまり言葉を交わせなかった。でも最後に手を振ってくれた。


まず、私は部屋に案内された。あの星までは10日、向こうに2週間滞在、計34日間の旅行となる。


宇宙を飛ぶ往復20日間を過ごすのが、この部屋というわけだ。エリックさんと同じような部屋で、机とベッドが一つづつ。それに、壁には妙な黒い四角いものが張り付いている。


「エリックさんのお部屋にもありましたが、何ですか?この黒い額縁のようなものは。」

「ああ、これはテレビです。こうやって使うんですよ。」


エリックさんは机の上にあった小さな四角いものを持って、そこにある赤い小さな突起物を押した。


するとこの黒い額縁に映像が映る。音まで流れてきた。人が出てきて、何かをしゃべっている。どうやらこのあたりの明日の天気のことを話しているようだった。


別の突起物を押すと、別の画面が出てきた。今度は、山々の風景が映る。


「ここを押すと、外の風景が見えるんですよ。」


テレビには私の町が映っていた。この船の外に付けられたカメラの映像がこうやって映るそうだ。全部で3カ所あるそうだ。


この船、大きいのに窓が極端に少ない。艦橋にある大きな窓以外には、展望室と呼ばれるところに小さな窓があるだけ。外を見るなら、テレビで見る方が早いということだ。


こんな仕掛けが壁に張り付いていたなんて、思いもよらなかった。閉鎖された空間であるこの船の中で、情報を与えてくれる存在。ちょうど私達のラジオのようなものだろう。


荷物を置くと、渡航者全員、艦橋に来るように言われた。いよいよ出航するそうだ。


エリックさんに連れられて、私は艦橋に向かう。他の渡航者達も集まってきた。


私とシオリ以外には、我が国の政府関係者が2人、占領軍の人が2人。計6人が、この星の住人としては初めて宇宙に出る。


「艦長のホレスです。地球(アース)388までの旅と、その復路を皆様とご一緒させていただきます。」


艦長の挨拶が終わると、いよいよ出航だ。


「これより大気圏離脱に入る!両舷微速上昇!」

「機関出力3パーセント!両舷微速上昇!」


艦長と航海士の間で命令が反復される。その直後、この大きくて重そうな船が上に向かって動き出した。


重力子というのを操って力を生み出し、この思い船を持ち上げているそうだが、その説明では正直、何を言ってるのかわからない。教授も言っていたが、我々の知らない物理法則で動いているんだ。


その教授からは1つ宿題を頂いた。この宇宙に関する論文集のようなものを入手して欲しいということだった。


私も教授と同じで、何か気になる文献を見つけたいと思っているが、それ以上に見たいものがある。


それはあのイリス星雲だ。


地球(アース)388までの通り道にその星雲があるという。つまり、私はあの星雲を間近で見ることができるのだ。


そんなことを考えているうちに、ずいぶんと高いところに来た。


まだ昼間だというのに、空は真っ暗。もうここは空気が薄いのだろう。ずっと向こう側には大気の層が見える。


「規定高度4万メートルに到達!前方300キロ以内に障害物なし!進路クリア!」

「これより、大気圏離脱を開始する!機関全速!両舷前進強速!」

「機関出力100パーセント!両舷前進強速!」


掛け声の後に、急に船内がうるさくなった。ゴォーッという音が鳴り響く。


ガタガタと椅子が小刻みに揺れている。でも、不思議と前に進んでいる気がしない。


窓を見ると、すごい加速をしているのが分かる。が、なぜか後ろに押し付けられる感じがない。車でも前に動き出すと、加速とは反対側に体が動こうとするものだが、そういうものが感じられないのだ。


多分、そういうものを打ち消すなにかを彼らは持っているのだろう。本当に彼らの技術は進んでいる。


それよりも、外の風景がすごい。


私達の地球が、どんどん遠くなっているのだ。


青くて丸い星がぽっかりと浮かんでいる。あれが私達が住んでいる星。


宇宙から見ると、地球はまるでラピスラズリのように真っ青な星に見える。その表面には白い絵の具でさっと描いたような雲が載っている。その青い星が、徐々に遠ざかっていく。


徐々に機関音が小さくなってきた。20分ほどで、月の横を通り過ぎた。


月というのは、こんなにも表面がゴツゴツしていたんだ。それはそれで新たな発見だ。いずれここにも人が降り立ち、資源開拓や中継地に使われる日が来るだろう。


「本艦はこのまま、この星系のアステロイドベルトに向かう。そこで300隻と合流、ただちに地球(アース)388へ向かう。以上。」


艦長が艦内に放送していたようだ。アステロイドベルトというのは、我々が小惑星帯と呼ぶ場所のようだ。あと6時間で着くとのこと。


それまで、私達は食堂へ行くことになった。


そこで私は、他の同行者と初めて話をした。


政府代表のお2人は、まだ官庁に配属されたばかりの人ばかりで、それぞれ経済省と総務省からいらしたそうだ。


経済省のタカヒロさんは、私と同じ大学校出身。でも経済学部出身のため、校舎は違う場所にあるため、あまり同じ大学とは実感できない。


とにかくこの国の経済をどうにかしたいと思ってるようだが、ここに来て急に宇宙に行けと言われた。そこで彼らとの交易でこの国の立て直しを考えてるそうだ。


総務の方はヤスシさん。こちらは地球(アース)388の社会の仕組みを知りたくて、この旅に志願したそうだ。共和国からそういうものを学び取ろうと思っていたところ、突然技術の進んだ宇宙人が現れた。ならば、そちら学ぶのが良かろうと思ったらしい。


占領軍の2人もなかなか面白い人だ。しかも2人とも私達の言葉を話せる。それでこの派遣隊に選ばれたそうだ。


グレイさんはかつて私達の国に住んでいたそうで、占領軍では通訳として働いていたらしい。ただ誰かの言葉を伝えるだけの仕事ばかりで嫌気がさして来たので、ちょうどいい機会だと思っているらしい。


一方のデニーさんは、ここに来て3年で我々の言葉を覚えたようだ。まだ片言だけど、それにしてもわざわざ敗戦国の言葉など覚えようと思ったものだ。


デニーさん、占領軍としてここに来た時にある風景を見て感動して、それで我が国のことを知ろうと思ったとのこと。


この2人に共通するのは、せっかく宇宙に行けるのだから、何かを得て帰ろうと思っていること。いつまでも軍隊にいるつもりもなく、大金になりそうな夢をつかんでさっさと辞めてやろうと思っているようだ。


つい3年前までは敵対していた人々だが、こうして話してみると楽しい人たちだった。占領軍というと、私はあの威張り散らす士官のことが頭に浮かぶけど、こういう人たちもいたんだ。


6人で楽しく話をしていたら、エリックさんが来た。


「皆さんお揃いで、楽しそうですね。」

「エリックさんもいかがです?あ、でもエリックさん、お忙しいですよね…」

「いえいえ、この船ではパイロットというのは暇なんですよ。この宇宙では、航空機の出番があまりないですからね。」


そういうものなんだ。パイロットというと、私達の国では花形の職業という印象だけど、宇宙では少し事情が異なるようだ。


そのエリックさんを入れて、7人で話が始まった。


「エリックさんって、なんでパイロットになったんですか?」

「ああ、実は私、男爵家の次男で、それで宇宙艦隊に入ったんですよ。」

「ええっ!?男爵!?」


びっくりする話だ。突然「男爵」というキーワードが出てきた。


「ということは、エリックさん、貴族の方なんですか?」

「そうですよ。領地はなくて、形だけの貴族なんですけどね。でも身分制度だけが残っていて、どの家も長男がそれを継ぐことになってるんですよ。」


エリックさんの星は、今から110年前に連合側の星に発見されたんだそうだ。


その時の地球(アース)388は国王や貴族が支配する中世な星だったそうだ。


それが110年かけて今のようになったそうだ。だが、その時の身分制度が未だに生きているとのこと。


でも、貴族というのは長男しか継承できないため、次男以降は大人になれば家を出ていかなければならない。


男爵家ならば、大抵は事業の一つや二つ持っているものだが、それを2つに分けるようなことはしないそうだ。御家存続のため、次男以降は自立しなければならない。


多くの貴族では、次男以降の人は軍に志願するのが慣わしとなっているとのこと。それでエリックさん、軍大学に進み、パイロットとなり、宇宙艦隊に入ることになったそうだ。


我々よりも進んだ技術を持っているのに、裏ではそんな事情がある人もいることを知った。宇宙人といえども、大変なんだ。


「だから、元は我々の星の方が文化レベルは低かったんですよ。もしいまだに発見されていなければ、よくて蒸気機関を発明できてるくらいの、そんな星なんですよ、地球(アース)388は。」

「そうなんですか、でもそんな昔から人の住む星の探索というのは行われているんですね。」

「そうですね。でも発見されてるのはまだ770個ほど。全部で3千以上あると言われてますから、まだ多くの星が未発見のまま取り残されていると言われてます。」


そんなにたくさんあるんだ。この調子で全部見つけるには、いったいあと何年かかるんだろうか?


「さて、そろそろ夕食の時間ですね。ここはちょうど食堂ですし、何か召し上がっていきます?」

「え?もうそんな時間ですか?」

「はい、艦内では時間の感覚がつかみにくいので、ついつい時間を忘れがちですけど、もうそんな時間ですよ。」


ヤスシさんの腕時計を見ると、確かに夜の7時だった。窓もなく、周りが見えないと、こんなに時間感覚がずれてしまうものなのだ。エリックさん、この状況でよく時間が分かるものだ。やはり慣れだろうか?


ややこしいことに、艦内にいるみんな時間がずれているようだ。皆さん、自分の故郷の時間だったり、私の町の時間で動いていたり、様々だ。


ただ、艦隊標準時というものがあって、全体ではその時間で動いている。ちなみに今、艦隊標準時では午前0時、つまり、真夜中だ。


エリックさんはなるべく艦隊標準時で動いてるそうだが、今は私達の国の時間で動いてくれてるとのこと。それを聞いた我々は、艦隊標準時に合わせようということになり、慌ててご飯を食べて早く寝ることにした。


ところで、お風呂はどうするのか?ここは軍艦、女性用のお風呂なんてあるんだろうか?


と思っていたら、ある女性士官に案内してもらった。私とシオリは女性専用のお風呂に入る。


それにしても、ここのお風呂はすごい。銭湯のようにいつでも湧いているお風呂があるのは当然としても、シャワーなんていうものもついている。


でも、宇宙空間では水は貴重なもの、こんなにバシャバシャ使っていいものかと聞くと、このお湯は汚れや細菌を濾した後、再利用しているそうだ。


お風呂からあがり、シオリと別れた後、私は部屋に戻るふりをしてエリックさんのお部屋に行く。


エリックさん、まだ寝てなかった。そこでまた文字の勉強に付き合ってもらった。


で、目が覚めたらエリックさんのベッドの上だった。あんまり居心地がいいので、ついエリックさんと一緒に寝てしまったようだ。ああやばい、どうしよう、シオリに怪しまれる。


時間は、艦隊標準時で10時過ぎ。私達の時間では朝の5時。シオリのやつ、今どっちの時間で動いてるのか?ちょっと焦る。


エリックさんと別れて、ゆっくり忍び足で部屋に戻った。幸い、誰にも見られず部屋に戻ることができた。


結論から言えば、シオリは私達の時間で10時過ぎに起き出した。まあ、彼女に朝帰りがばれなかったのは幸いだけど、シオリ、その生活習慣はダメでしょう。


そんな調子で、3日が過ぎた。


私はこの3日で、随分とこちらの文字が読めるようになってきた。エリックさんの個人指導のおかげ。エリックさんが使っているスマートフォンという機械の使い方にも慣れてきた。


駆逐艦内では、ネットにつながっていないため調べられる情報に制限がある。それでも私が調べたいことは大抵出てくる。この艦内だけでも、かなりの情報が蓄えられてるようだ。


「戦艦に行けば、超恒星間通信が使えるので、いろいろな情報が拾えるようになるんですけどね。」

「そうなんですか?でも、戦艦に行く用事がないですからね。しょうがないですね。」

「いえ、明日には戦艦に行きますよ。」

「えっ!?いけるんですか?戦艦に。」

「はい、そろそろ補給を受けないと行けませんから…」


戦艦で補給?ちょっと何を言ってるのかわからないけど、どうやら戦艦にはいけるらしい。


「そこで私、調べ物してもいいですか?」

「いいですよ。なんならシオリさんのスマートフォンを1つ、買いましょうか。」

「ええ!?こんな高そうな機械、いいんですか?」

「実は今回乗っていただいた方全員に、こういうものが渡されているんですよ。」


それは小さな四角い樹脂片だった。なんだろうか?これは。


「これ、電子マネーといって、お金になるんですよ。1人当たり2000ユニバーサルドルが入っていて、この上限額まで自由に使えます。金額はこうやって確認できるんですよ。」


そう言って、エリックさんはその樹脂片をスマートフォンに当てた。すると確かに2000.00という数字が出てくる。


「ものを買うときには、支払いするところにこれを当てる機械があるので、それを当てるんですよ。そうすると支払いが完了します。」

「そうなんですね。でも、空になったらどうするんです?」

「スマホ経由で補充することもできますが、現金を持って補充できる機械に持って行くという方法もあります。現金で直接買い物することもできるんですが、現金に対応していないお店が多くて、我々はほとんどこの電子マネーですね。だからあまり現金を持ち歩かないんです。」


ちなみに、エリックさんはスマホにこの電子マネーを内蔵しているとのこと。でもたいていの人はスマホと電子マネーを別々にしているそうだ。落としたらすべてを失ってしまうため、別々にしたがる人が多いんだとか。


で、私はこの電子マネーをいただいた。2000ドルという金額がどれくらいのものかわからないが、スマホが大体400ドルくらいと聞いた。あんな高そうなものが400ドル。ということは、2000ドルあれば家が建つのかしら?


「でもエリックさん、電子マネーってどこで使うんですか?この駆逐艦内はお金が要らないですし。」

「はい、戦艦内の街で使えますよ。」

「戦艦の街?なんですか?それは。」


エリックさんによれば、あの大きな戦艦の中には街があるんだそうだ。


確かに、この駆逐艦の10倍以上の大きさの船だから、街があってもおかしくはない。でも、なぜ軍艦内に街があるのか?


「それは、この駆逐艦にずっといると気がめいってきますよ。だから時々息抜きできるように、戦艦の中に街ができたようですよ。我々がお金を使えば艦隊も儲かりますし、我々は気分が晴れる。そういう仕組みです。」


なんだかちょっと変な話だ。軍隊がお金儲けに走っているようにも聞こえる。でも、これだけたくさんの船を維持しなきゃいけないわけだし、多少はこういうことをしないと元が取れないのかもしれない。


というわけで、明日はいよいよその戦艦の街というところに行くことになった。


食堂でシオリと話す。


「えーっ!いいなぁ、サオリは。」

「何言ってんの。シオリだってもらえるんだよ?その電子マネー。」

「だって、サオリはエリックさんがついてきてくれるんでしょ?私はどうするのよ。」

「うーん、エリックさんについてくればいいんじゃないかなぁ。別に私だけの引率者というわけではないし。」

「そお?一夜を共にしている仲じゃないの。私がついて言ったら邪魔よね。」


あれ?シオリのやつ、私の朝帰りのことを知っていたの?


「しょうがない…私はマーティンさんと一緒に行くか。」

「えっ!?誰!?マーティンさんって。」

「ああ、えっと、さっき知り合ったのよ、食堂で。砲撃担当なんだって。でね、何かあったら相談乗りますよって言われてさ。」

「ふーん、そうなんだ…」


なんだか不思議と下心を感じるなぁ、そのマーティンさんという人。大丈夫だろうか。


他の4人は政府関係者ということで、戦艦内は軍の上層部が案内するそうだ。このため、私とシオリだけがこの駆逐艦の人に付き添われて戦艦の中に行くこととなった。


こうして翌日を迎える。例によって私はエリックさんのお部屋で一夜を明かし、朝の6時に部屋に戻る。


…あれ、シオリがきょろきょろとして歩いている。思わず私は隠れたが、シオリは気づかず、そのまま部屋に入っていった。


シオリのやつ、まさか朝帰りか?でも昨日の話ぶりでは、まだマーティンさんと知り合ったばかりじゃないの?ちょっと気になった。


部屋に帰って文字の勉強をしていると、艦内放送が入る。


「本艦は、あと2時間で戦艦アークロイヤルに寄港する。艦隊標準時1200から2100まで戦艦内への立ち入りを許可が出た。規定時間の30分前までに帰還せよ。以上。」


いよいよ戦艦に寄港する。私は初めて、宇宙船内にある街に行くのだ。いったいどんなところだろうか?なんだかちょっと楽しみだ。

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