遭難艦と鉄道と天使 3
今日は大忙しだった。朝から2回飛び、ブリーフィングもこれで2度目だ。
ただし今回の主役はロスアーナ軍曹殿。なにせ、この惑星の人間と初めて友好関係を結んだ功労者だ。
しかし彼女の話はとにかく長い。天使に間違われた話や、パンをもらった話など、とりあえずこの場ではどうでもいい話までしている。
時々私が割って入り、なんとか話を進めた。この調子では明日の朝までしゃべっていそうだ。
「で、手下殿の話によれば、明日の朝に再び彼らと接触することになってるんだな。」
ほら、余計なこと言うから、私に変な呼び名がついた。
さて、ここで城塞都市と、彼らが帝国軍と呼ぶ大軍の規模を比較してみた。
まず帝国軍だが、上空写真から推測される兵力はおよそ1万2千。
そして、城塞都市の軍勢の規模。これは城塞都市の大きさ、建物からおおよその人口を割り出し、そこから動員できる兵力を割り出してみた。
この文明レベルでは兵力動員数はだいたい人口の2、3パーセントというのが一般的だ。非常動員時でも10パーセントが限界。
動員兵力を5パーセントとして考えて、城塞都市の人口がおよそ6万人程度と考えられるので、そこからおよそ3000人程度と計算された。
攻め込む相手はおよそ4倍。輸送部隊を除いても3倍は硬い。攻守3倍の法則にかなった兵力となっているようだ。
しかも、帝国軍は大型の投石機を10基ほど揃えているようだ。いくつかの荷車には投石器と思われるものが載っているんじゃないかと参謀殿の御意見。
こうしてみると、正直、城塞都市側にあまり勝ち目はない。
せっかく体張って友好関係を結んだ相手が、風前の灯火という事態に、この場のものは愕然とした。
「せめてこの艦が動かせれば、軍を足止めできるんだが。」
参謀殿がボソッと答えた。
「歩兵相手に艦砲を撃ち込むのか?」
「いやそこまでしなくても、目の前に立ちはだかるだけでも充分脅しになる。それでもだめなら未臨界砲撃という手もある。」
大気圏内における艦砲の使用は、軍規で固く禁じられている。あまりの膨大な放射エネルギーで、大気に与える影響が大きいためだ。昔、どこかの星で発砲し、その星を滅ぼしたという言い伝えがある。その出来事以降、大気圏内での主砲発砲は厳禁とされてきた。
ただし、状況により1バルブ以下の装填での発射は認められている。
1バルブ以下では臨界に達せず、主砲すぐ前方で爆発するだけ。それで未臨界砲撃と呼ばれる。ほとんど破壊力はない。
しかしそれでも周囲に凄まじい音と光を撒き散らすため、「脅し」の手段としては非常に有効だ。
「しかし、そのためには艦を動かさなければだめだが、今のエンジンの状態では無理だ。」
航海課、意見具申。
浮くことはできても、まっすぐ進めないため、作戦行動が不能というのが航海側の見解だ。
そこで整備課のエンジンの修理状況に話がうつる。
まず被弾した左上エンジンと、燃料系がつながった右下エンジンは観戦に復旧不能。重力子供給炉と、その後ろの核融合炉が破壊されている。
一方、左下と右上のエンジンは健在。ただし、左上の噴射口外側のパネルが吹き飛んで、穴が開いている状況だという。
この穴さえ塞がれば、重力子を後ろに噴射できるため、なんとか艦を安定航行させることが可能になるとのこと。
「艦内の備品でなんとか穴を埋められないか?」
「いやあ、いいのがないんですよ。せめて鉄板でもあれば、なんとかなるんですけどね。」
うーん、艦内の物資では足りないか…これでは艦を動かすなど到底…
いや待てよ。
今、鉄板でもあればと言わなかったか?
「どれくらいの鉄板があればいい?」
「そうですね~、だいたい2メートル×2メートル、厚さは10ミリもあればなんとかなります。」
「その鉄板、あの城塞都市から貰い受けることはできないか?」
一同騒然となった。
「いや、そんなものもらえるのか?どうやって交渉する?」
「ダメ元で正直に話してみる。向こうにとっても、悪い話ではないだろう。」
そこで、鉄板調達作戦が立案された。
交渉人はロスアーナ軍曹と私。なにせここの世界の人間との接点はこの2人だけだ。
明日の朝、あちらの要望する帝国軍の位置に関する情報と共に、こちらの踊り作戦と、鉄材の提供を提案してみる。
場合によっては、城塞都市の代表者を連れての帝国軍視察、またはこの艦への乗艦許可も与える。ここまで妥協すれば、鉄材の提供に及んでくれるかもしれない。
その間に味方の救援隊とコンタクトできれば、停戦任務を委託すれば良い。
エンジンさえ直れば、大気圏外に出ることも可能になり、より救援隊との接触確率が増してくる。
これは、やってみる価値は大いにある。
このまま座して待っても、何も起こらないように思われた。
ただ、これを行うには複座機ではダメだ。艦の下側ハッチにある哨戒機が必要だ。
こちらの人間を載せたり、鉄板を運んだりするのはどう考えても6人乗りのあの機体が必要だ。
そこで、今夜中に一旦艦を浮上させて、この哨戒機を引きずり出す作戦を行うことになった。
私とロサは明日に備えてすぐに就寝せよとの命令。引きずり出し作戦にはもう1人のパイロットがあたる。
ただ、寝てる間に艦が浮き上がったり降りたりをやらかしてくれたおかげで、正直あまり休めた感じはないのだが、ともかく、翌朝になった。