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本好き貴族と城好き大尉と強盗団 3

翌朝、眼が覚める。


横でぐっすり寝ていらっしゃるのは、ナポリタンさんだ。


あまりシーツを剥がすと、彼女のきわどい部分が見えてしまい、また理性が吹っ飛びそうになるので、そおっと抜け出した。


キッチンでは、調理ロボットが朝食の用意をしてくれていた。


昨日の朝は1人分しかセットしておらず、慌ててもう1人分を追加で作ってもらったが、今日はちゃんと2人分用意されていた。


軍服を着て朝食を取ろうとした時に、ナポリタンさんが現れた。


一緒に食事をとる。今日の朝食はパンに目玉焼きにサラダ。昼は彼女のリクエストで「ナポリタン」をセットして置いた。どんだけ好きなんだろうか?あのパスタ。


夕方には帰るという話をしたが、その間どうやって過ごすのか聞いてみた。


「本が15冊ある。大丈夫だ、問題ない。」


…相変わらずぶっきらぼうな喋り方だ。それはともかく、考えてみれば今までも1人で時間を潰してきたわけだ。こういうことは慣れっこだろう。


だが、本だけではかわいそうだと思ったので、タブレット端末を持ってきて、動画配信アプリを開く。


私が暇つぶし用に契約してるサービスだが、せっかくだから使ってもらうことにした。


「戦記物」を検索すると、ずらずらと作品がヒットする。


絵を見たナポリタンさん、興味津々だ。


「これはなんだ?」

「ああ、これは動く映像が観られるんですよ。ナポリタンさんのお気に入りがあると思いますよ。」


そう言って、軽く操作方法を教えておいた。


さて、やっと外に出た。教練所に向かう。


今日は、戦闘時における艦隊運用の話だ。


戦闘は30万キロ以内で行われる。ただ単に撃ち合うだけの戦闘だが、意外とやるべきことは多い。


10隻ごとに作戦参謀が配置されてるのには理由がある。艦隊司令部が出す命令を正確に実行するためだが、例えば前進の命令が出た時、周りの艦の動きと同期化しないと、攻撃にムラができてしまう。


1万隻もの艦隊だ。ただ前進せよという命令を受けただけでは、艦の動きがばらばらになる。そこで、うまく艦の動きを調整するために、10隻ごとに私のような作戦参謀というのが配置されている。


他にも、命令が届かないことがある。後退命令が出てるのに、自分のチーム艦だけ取り残されるということが起きる場合もある。


その時は、他の艦の動きを見て、チームを後退させる判断を下さないといけない。こんな感じに、一個艦隊での戦闘であっても、現場では細かい臨機応変を求められることもあるのだ。


今日は、その時の対処法を実例をもとに説明するというのが講義内容である。


この講義を、参謀候補生として集められた生徒に行う。生徒は全員貴族出身。やはり、こういうことは貴族がやるものだというのが、この星の常識らしい。


ただ、どの生徒も次男か三男だ。長男は家督を継ぐため、長男以外が送り込まれてきた。貴族にすれば、部屋住みで無益に過ごされるよりも、星の役に立つと送り込んできてるようだ。一方の候補生の彼らも、活躍できるまたとないチャンスと、熱心に勉強に取り組むものが多い。


星を挙げて、今懸命に宇宙艦隊を結成すべく努力している。そういう空気が感じられる場所だ。すでに1千隻が建造されて、最初の中艦隊が外宇宙に単独行動に出ようとしていたところだ。


まだこの星は、女性で艦隊運用をやろうという人がいない。すべて男だ。我々の星には女性士官というのは少なからずいるものだが、彼らが別世界の文化に触れてまだ3年。なかなかそこまでの思想変化は起こっていない。


昼食を彼らと一緒に食べる。この時、何気なく貴族の娘について聞いてみた。


彼らの結婚相手というのはのは、やはり貴族になるようだ。といっても、次男だと部屋住みという身分ゆえに、なかなか結婚とはいかない。それなりの「何か」を持たないと、次男以降は結婚など考えられない。


昔なら、例えば築城技術を覚えて城の建設に携わったり、歴史家として書籍を書いたり、文化や技術に手を出す人が多かったようだ。だが、そういう道で成功を収めるものなどそう多くはない。次男、三男以下だと、身を立てるのも大変らしい。


そこへ行くと、今はまさに好機。宇宙で活躍できるといううってつけの職業が見つかったわけだ。軍の統制は貴族本家の仕事だが、宇宙艦隊は別とあって、彼らの活躍の場として注目された。特に突出した才能を要求されるわけでもなく一人前になれる職業、彼らのやる気が高いのも当然だ。


というわけで、身を立てる目処がついた彼らは、結婚相手についていろいろ考えてるらしい。しかし、男爵、子爵なら、相手は同等かそれ以下の身分から貰い受けるとのこと。


伯爵家の娘なら、いったい誰と結婚するのだろうかと聞いてみると、そりゃ普通は別の伯爵家か、公爵、王族に嫁ぐのが普通だよと言われた。2、3人娘がいる伯爵家ならば、戦略結婚として男爵、子爵家に嫁ぐこともあるようだが、次男に来ることはない。そういうものだそうだ。


まさか私が昨夜、伯爵家の娘と大人の行為に及んだなどとはとても言える空気ではなかった。やはりこの世界では、身分の差はでかい。


なお、結婚相手に平民を考えるかと言われると、そこはまた身分の壁があるようだ。もし平民の娘を嫁にするとすれば、それは2人目以降だそうだ。次男以下では2人も養えないから、彼らはどこかの男爵家の次女あたりが狙い目だという。


なんだか身分の話を聞くとくらくらする。私の星は、連合参加前は文化レベルが4。しかも宇宙進出から100年近くが経っている。身分などという考え方は、すでに200年以上も前に無くなっている。


この星もこういう身分という考え方がなくなるのはいつの日だろうか?100年はかかるだろうか?そんなことを考えてしまった。


いずれにせよ、やっぱり伯爵家の令嬢というのはとんでもない存在であることが分かった。私なんぞが手を出していい相手ではなかったのだ。


そんな話を聞いたものだから、少しナポリタンさんの印象が変わった。


と、せっかく私の中で威厳度の向上したその伯爵家のご令嬢は、我が家ではジーパンにシャツ一枚を着ただけの格好で、タブレット端末を握りしめて食い入るように何かを見ていた。ノーブラなので、かなり刺激的な格好だ。


それにしても、一体何を見ているのか?覗いてみると、それはドキュメンタリー番組だった。


4万人弱の軍勢が、20万人以上の軍勢を撃ち破ったという戦いの解説動画が流れていた。結構有名な戦いだ、これ。


斜めの陣形で敵の中央を分断し、その中央部分から少数部隊が突入して敵の大将を追い込む…そんな戦いだったはずだ。


そんなものをこの伯爵家ご令嬢が興味を抱いて見ているとは、なんだか変な光景だ。


「すごいぞ!この板は!他にも7万人もの軍勢が、鶴翼陣形を敷いた8万の舞台を相手に戦い、敵の一部を寝返らせて勝ったとかいう話があった。本当にあるのか?そんな話?」


わりとそれも有名な戦いだ。多分、ドキュメンタリー番組を何本か見たようだった。ちょっと興奮気味のナポリタンさん。


他にも私が知っている有名な戦いの話をした。5千人もの軍勢をわずか500の城兵が翻弄し、ついには相手を退却に追い込んだ話、5千の兵しか持たない武将が4万の敵に攻められたが、うまく敵本陣の場所を見つけて、敵の大将の首をとって勝利した話など。私の話に食い入るように聞くナポリタンさん。よっぽどこの手の話が好きらしい。


彼女の本にも色々な歴史上の戦いが出ているらしい。2万もの王国軍が谷間を進軍中に、側面の崖から1千の兵に襲われて退却に追い込まれた話があった。それを教訓に、あの城が築かれたそうだ。


全部で45の戦いについて書かれてるらしい。一冊あたり3つの話は載ってて、彼女はもう暗記するほど読み込んでるそうだ。


動画という新たなコンテンツを手に入れて、新たな境地を手に入れたようだ。考えてみれば、彼女を雇ったのは「話し相手」としてだったから、ちょうどいい相手だったようだ。


私もこの手の話は大好きだ。だから、作戦参謀になった。


宇宙の戦闘では、大軍が少数に負けるという戦闘はほとんどないが、全くないわけではない。今から80年くらい前に、1万隻の艦隊の側面へアステロイドベルトに潜んでいた2千隻の艦隊が攻撃して艦隊を分断し、後方の艦隊を完膚なきまでに叩いたという話がある。


その時、2千隻の艦隊であると悟られぬよう、小惑星を引き連れていかにも一個艦隊がいるかのように見せかけたそうだ。


このため、分断された艦隊の前側はすぐに撤退。もしこの時、この艦隊が偽装に気づいていれば、おそらく負けたのは2千隻の方だっただろうと言われている。


こういう話をすると、目をキラキラさせて聞いてくる。なぜ彼女はこんなに戦闘の歴史が好きなのか?


聞けば、どうやら父上の影響らしい。息子に恵まれなかったため、彼女にそういう話を小さい頃からしてくれたらしい。


で、15歳の時に蔵書のある部屋をもらい受け、その中にあった15冊の戦記物をずっと読んでるそうだ。


他の本はほとんど見ていないとのこと。物語や植物学だの、礼儀作法の本など、あまり興味を持てない内容だという。ただ、築城技術の本はちらっと読んだことがあるそうだ。


私の星なら、真っ先に女性士官候補生になれそうだ。参謀役にはうってつけな人材だ、ナポリタンさん。


上手く育っていれば、どこかの伯爵家でこの15冊の本とともに嫁いでたのだろうが、幸か不幸か、一介の軍人の使用人になって、戦記物の動画に夢中だ。


「明日もいろいろ見たい。また検索とやらをしておいてくれ。」


どっちが使用人だかわからないことをおっしゃる。まあいいですけど。


でもまた寝る時間になると、彼女は私の部屋にやってきた。


「なんだか、ご主人からは父上の香りがする。」


それが一体どういう香りか知りませんが、戦記物をとくとくと語るあたりが彼女の父上に重なるんだろうか?一度ナポリタンさんの父上とも語ってみたかった。さぞかし盛り上がったことだろう。


だが、その夜もナポリタンさんと盛り上がってしまった。


しかしナポリタンさん、自分から言い寄ってくるわりにはいざという時には恥ずかしくなって、大事なところは隠したがる。そこがかえって男としてはそそられるのだが、これは本当に恥ずかしがってるのか、それともそういう戦術なのか。


これが戦術とすれば、彼女は相当な策士だ。こういう方向の戦術を、私も学ばねば。

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