プロローグ
この銀河の端には、地球と呼ばれる惑星が735個存在する。
最初の「地球」である「地球001」が、宇宙に点在する「ワームホール帯」と呼ばれる超次元の通り道を利用したワープ航法を発見し宇宙に進出したのは今から220年ほど前。その10年後に第2の人類生存惑星である「地球002」が発見され、その年を「宇宙暦1年」と定めた。
以来、人類の住む惑星が次々と発見されるが、各々の地球はその登録順につけられた番号で呼ばれている。120番目の地球なら、「地球120」という具合だ。
当初は技術も軍事力もまさる地球001がその力を背景に、他の地球に対し威圧的な外交を展開、時には軍事行動により多くの人命が損なわれる歴史が繰り返されてきた。
が、180余りの「地球」が発見された宇宙暦54年。「地球023」が突如「地球001」に対し宣戦を布告。同時に100以上の惑星がこれに同調、地球023を中心に「銀河解放連盟」が設立された。
残りの80足らずの惑星はこれに対抗すべく、地球001を中心にした「宇宙統一連合」を樹立、以来160年、この"連盟"と"連合"の間では慢性的な戦争状態となっている。
この両者は互いの陣営の地球を自身の組織に組み込むべく外交工作を展開する一方、人類に生存する新たな「地球」探しにも精力的に取り組んできた。宇宙暦215年の現在、連合側408、連盟側327となっている。
発見される「地球」は、弓と剣が支配する中世レベルの惑星だったり、あるいは蒸気機関が発明され産業革命のただなかにある惑星であったり、まれに魔法や亜人が存在する不可思議な惑星が見つかることもあるが、いずれも宇宙に進出できていない、いやそもそも宇宙に他の人類が存在することなど知らない「未開」の惑星であることがほとんどだ。
しかし、この宇宙が2つの勢力に分裂した歴史的背景があるため、未開の惑星といえども軍事力による支配は行われず、対等外交の樹立、交易の推進、技術供与、宇宙艦隊設立まで支援などを組織をあげて行うという戦略が取られている。こうして、連盟、連合ともにお互いの勢力を拡大し続けている。
ところで、この宇宙には2つの”謎”が存在する。
1つは、どの惑星でも使われている言語があること。「統一語」と呼ばれるこの言語は、どういうわけかどの「地球」でも使われている。
連盟・連合を問わず、この統一語が公用語として使われているが、なぜ数千光年も離れた場所で同じ言語が使われているのか、まったくの謎である。
もう1つの謎、それは全ての「地球」は半径7000光年、厚さ1000光年のリング状の領域にのみ存在するということ。この領域内の公転周期 340~380日の、自転周期23~25時間の地球型の惑星のみ人類が生存している。
なぜこんな不自然な分布が形成されたのか?
当然、リングの中心には何かあろうということは容易に想像されるが、そこには小さな赤色矮星が存在するのみで、惑星などは存在しない。
便宜上、この地点を「地球0(アースゼロ)」と呼んでいるが、そこにかつて何かあったのかどうか、今の我々には知る由もない。
ともかく今この1万4千光年の領域では2つの陣営による終わりのない勢力拡大が行われている。
そして、連合側によって736番目の「地球」が発見された。