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14,秋の夜空の下

 シュンと美菜はケーキを食べ終えた。

 外はもう完全に夜となり、少し涼しくなる。しかし空を見れば月が明るく、それほど暗さを感じさせない、星もよく見える。

「今日は満月かな」

「違うんじゃねえか??よ〜く見たら、ちょっと欠けてっぞ」

 美菜の独り言のような呟きにシュンは柔らかく反論。ただ会話らしい会話は続かない、二人は秋の虫の鳴き声しかしない中、夜空をずっと見上げていた。

 何かが起きる訳でも無く時間が過ぎる。啓次と恵も何故かまだ帰って来ない。

「…………あ!?」

「どうした??何か見つけたのか?」

 美菜は夜空からシュンへと目線を映し、すぐ余所へ目を離す。しばらく挙動不審に辺りをキョロキョロと見渡したかと思えば、俯き黙りこんだ。

 シュンは、この美菜の不思議な行動に、本気でおかしくなったんじゃないのか、と思えた。

「………」

「…………??」

 また美菜は、無言で夜空を見上げる。シュンも続いて見上げた。

「……星……綺麗だねー……」

「ちょっと曇ってるけど……そうだな」

 惜しい、余計なひと言がとても惜しい。

「……ねえシュン」

「なんだ?」

「星座、解る??」

「うーん……俺の知ってる範囲だとオリオン座くらいか。あとはわかんね」

 昔のシュンは、寒い時期のランニング、よくオリオン座を見ながら走っていた。だからこそ知っていたのだが、それ以外の星座の事は全く関心無く、さっぱり知らないわけだ。

「あ〜……オリオン座は見つけやすいもんね。他は??」

「全く知らん」

 きっぱりと当然の答えを言う。

「じゃあ、教えてあげるね」

「いや、遠慮しとく」

 きっぱりと断る、が美菜は聞いてない、夜空の所々を指差しながら勝手に星座の話を始めていった。

「あれがね、秋の大四辺形って言ってね〜」

「聞けよ!!」

 小声でツッコミ、しかしスルーされる。

「ちょっと雲が掛かっちゃってるけど上下に伸びてるでしょ、あれがぺガスス座だよ」

「……サじゃなくてスなのか」

 何処の場所を言っているのか解っていないものの結局話を聞く事にし、そして妙なところに食い付いたシュンだが、美菜はそれすらも聞いていない。

「でね、ぺガスス座の上の……あのWで並んでる五つの星があるでしょ。あれがカシオペア座なんだよ」

「…………ふわぁ〜〜あ……」

 シュンにとっては極限の詰まらなさであろう。あくびすらこらえる気でない……まあ、眠らないだけマシと思えるか。

「それでカシオペア座の……ああもう雲が邪魔だなあ〜〜……あの横にある、ロケットみたいな形した星座があるんだけど、それがね……け、けけ……何だっけ??」

 一人考え込む美菜。

「け、ケレ??ケレムスだっけ??あれ、何か違うような……け、何とか、だと思うんだけど……え〜〜っと……」

 ベンチ後ろからゴニョ声。

「お嬢様お嬢様、ケフェウスです」

「あーーー!!そうそう、ケフェウス!!」

「………」

「でねでねー……」

 シュンは一切夜空を見ようとせず、ただベンチの後ろをひたすら注目。しかも一人で無く二人居た。

「あの向こう側ね、ケフェウス、カシオペア、と続いてその隣が……隣が……」

「姫、ペルセウス座ですよ」

「ペルセウス座って言うんだよ〜〜、で、また雲で見えないぺガスス座とカシオペア座の中間辺りの、確かぺガスス座とちょっと被ってたんだけどね、えっと……」

「美菜、ちょっと待てな。……この……お前っ!!らっ!!出てこいっての!!」

 お前、でまず平手で一撃を。ら、のところでもう一人に一撃。

「いたぁ〜〜い!!」

 後ろで頭を押さえてうずくまり、涙目でシュンを見る恵。

「……お嬢様、アン「だから出て来いっての!!」

 一撃殴られたにも関わらず、美菜に吹き込もうとする。シュンはそんな啓次に更にもう一撃を入れた。

「あれ!?いつから居たの二人とも!!??」

「いや……絶対気付いてたろ……」

「今、来たばかりです」

「軽く嘘言うな、さっきから美菜に吹き込んでたじゃねえか」

「普通に歩いてたらこんな所入っちゃって」

「それは無理あるぞ」

「はいシュンうるさい!!」

「何故!!」

 きちんと三人の戯言にツッコミを入れるシュン。間違いは言っていないが、やはり美菜に怒鳴られてしまう。二人もベンチの後ろから大人しく出てきて席へと座った。

「んしょ……でもいい雰囲気だったのにブチ壊しちゃってゴメンね」

「いいの全然、悪いの全部シュンだから」

「俺かよ!!」

「だってシュン、黙って聞いてくれればいいのに下らない事言うし、あくびとかするし……」

「な……!?……見てたのか……」

 シュン、しばし反省。

「でも美菜ちゃん、星座の話するなんてね〜……。やっぱりあれでしょ、“シュンがね、ペルセウスでね。私がね、アンドロメダでね。いつか、縛られた私を助けに来てくれるの、私、ずっと待ってるんだから〜〜”で、ででで、それ聞いたシュンは、“怪物なんてもういない、俺が君を自由にしてやる”そして二人は愛の逃避行〜〜〜〜!!……なんてことを期待してたんじゃないの??このこの〜〜〜〜〜!!」

 一人、盛り上がる恵。美菜を肘で小突く。

「……メグちゃん、何それ」

 空気が凍りつく……。

「あ、あれ?私、滑った……??」

 三人の顔色を一人づつ窺うも、誰一人として目を合わせようとしない。確実にそんな空気を察知をしている恵ではあるが、ここで止めたら冬から氷河期に突入してしまうと思い、目を忙しく動かしてふざけた表情で三人を見続けた。

 しかしそれはそれで辛い。

 こんな恵に歯止めを掛けたのは、なんと啓次だった。

「滑ったにも関わらずその態度、最悪ですドン引きです三流芸人ですバカですKYです鬱陶しいです目障りです邪魔者ですウザったいです退場ですレッドカードです有罪です実刑です死刑で「ストップ!!啓次、それ以上言うとホント洒落にならんからストップな」

 止まらないマシンガンのような罵倒、シュンは強制終了させた。

 もはや周囲は極寒の空気となり、恵に無数の弾は全て直撃していたようで。

「……別に……良かれと思ってさ……。そこまで、言う事さ……」

「恵、まあ今のは仕方無いって」

「………」

 実は恵、結構打たれ弱い。いつもは割と強気で少々の事を言われたぐらいではビクともしないが、ある一線を越えた場合、気持は一気に逆転し弱気、弱虫となる。こうなると立ち直るまで時間がかかる、慰める必要があるわけだ。

 恵が落ち込んだ場合、シュンが慰める。シュンが落ち込んだ場合、恵が慰める。そんな関係は幼い頃から続いていた、なので対応も慣れたものである。

「あの貧弱な啓次の顔をあそこまでやっちまったんだ。だからな、あそこまで言われるのも仕方しゃー無いって」

「………」

 肩を叩き、声を掛ける。しかし恵からの応答は無い。恐らく、納得できない、そういうことなのだろう。

 美菜も慰めの言葉を掛けた。

「でも9:1の割合で啓次が悪い、うん。だからメグちゃん気にすることないよ〜〜」

 根本の原因は美菜にあるのでは??とシュンは思ったが、言葉にせず、ぐっと飲み込んだ。

 そして完全に悪者扱いされた啓次はと言うと、この状況にあたふたしていた。彼としては恵からの反論がまた面白く場を和ませる、そんなつもりの冗談であった。だが結果は最悪、今更ながら、言い過ぎの節を感じ後悔する。

 なんとか自分の立場や考えを解ってもらおうと言い訳を語りだした。

「……あ、あのですね。今のは、その、冗談ですよ……。だからそこまで深く考える事は……」

 恵は今の言葉を聞き、怒りに満ちた表情で啓次に睨みを利かす。

「うっっさい!!!!このばぁぁぁぁか!!!!ばかばかばかばぁぁぁぁかっ!!!!」

 ひねりも何もない、幼稚で単調な暴言で言い返した。別に泣いてるようでは無いが、赤い。キレている。

 ……美菜も参加。

「啓次ばーーーーーか」

「お、お嬢様まで……」

 シュンは啓次の肩に手を乗せ、首を横に振る。

「啓次よ、もう何言っても通用しない。諦めて、ここは素直に謝った方がいい。あと、オマケは気にするな、ほっとけ」

「オマケって私〜〜??」

 啓次はシュンに言われたとおり、オマケを無視。

「うわ〜〜んうわ〜〜ん、みんな私を無視する〜〜」

 懲りずにオマケは泣きマネで存在を主張……横目で恵の反応を見ながら。

「……く……くす……」

 恵の反応は上々。口元が緩み、若干ながら微笑んでるのがわかる。これを見た美菜は心の中でひそかにガッツポーズをした。

 男二人は残念ながらその様子には気付かない。しかも勝手に深刻化している。

「ほら啓次、行ってこい」

「……はい」

 シュンの声に頷いた啓次は、重い面持ちで恵の前に立つ。相手に全く反応が見られないものの、覚悟を決めて頭を下げた。

「先程は恵様に無礼な態度を申し訳御座いません。御詫びは、私が出来る範囲の事ならば何でもしますので、どうかお許し下さい」

「……へえ〜……ホントに何でも??」

 顔を上げ、不敵な笑みを浮かべる恵。

「え、ええ……。私が出来る範囲なら……」

 啓次は自分の発言に少し後悔した。しかしもう言ってしまった、自分の発言には責任持つ、が信条であるが故、嘘です、と言って覆すのはさすがに出来ないようだ。

 二人を横で見てたシュンは、何故か嫌な予感がした。

「お、おい恵。常識の範囲内で言えよ。家買ってとか無しだからな」

 恵に歯止めかける。

「はあ?何言ってんの??そんなの言う訳ないじゃん」

「いや、お前なら言いかねん……」

「いいのです俊輔、恵様がお望みならば……」

 無理を言うのを警戒したシュンを啓次は制止させた。執事は以外にも給料が良いらしい。

「もう啓次君、あんな立派な屋敷に居候させてもらってるのに、今更そんな無理言う訳ないって」

「では他に何かお望みのものはありますでしょうか」

 他の望みを要求する。もう恵に不機嫌な態度は見られないのだが、啓次はどうしてもお詫びをしたい、と言うよりしなきゃ気が済まないらしい。

 恵以外の三人は何を望むか、しかと見守る。しかし恵は美菜に向けてこう言った。

「ねえ美菜ちゃん、ホントにいい??」

 これに美菜は不気味な笑顔を作る。

「ふぅ〜〜ん、そういうことぉ〜〜??」

「うん、そーゆーこと」

 このやりとりに、啓次とシュンは何の事かさっぱりで。二人、顔を見合わせる。

「どーぞどーぞ、お好きなように」

「ありがと。では、啓次君」

「え、あ、は……えっ……!!」

 振り返る啓次に、急に抱きつく恵。顔を見つめ、望みを言った。

「ねえ、キスして……」

「ええ!!??そ、それは……ちょっと……」

「何言ってんの、これから私の彼氏になるんだからこれくらい当り前のようにやらなきゃダメよ」

「へあぁ!!??」「何っ!!!!????」

 当然、啓次は驚くのだがそれ以上にシュンが驚いた。

 先日に告白された身、それを考えれば憤りを感じ、啓次以上のリアクションを起こす。

「何だよお前!!男だったら誰でも良かったのかよ!!そこまで恵が××××だとは思わんかったぞ!!!」

「ちょっ、ちょっとそれは勘違いよ!!」

「はあ何言ってんだ?!この期に及んで……」

「はいシュン、ちょっと落ち着いてね〜〜」

 美菜の冷静なる対処。興奮するシュンの肩を押さえ、ベンチに無理矢理座らせた。

「邪魔すんな美菜!!何も知らん奴が出てくんな!!」

「多分、アナタヨリシッテマ〜〜ス」

「はあ??!!」

 片言の日本語であしらう。シュンはふざけた態度を見て怒りを通り越え、呆れた。けれどもそのお陰で冷静さを取り戻せたようで、今一度、言葉の意味を訊いた。

「美菜、俺より知ってるってどういう意味だよ」

「それではご説明しましょう」

 もう暴れないであろう、と判断した美菜はシュンの肩から手を放して、恵の言葉の真意を説明する。

「恵はご存じの通り劇団員です。ただ、今、恵は活動休止中です。そしてその理由は彼氏がいないからです」

 シュンは手を挙げた。

「あの……」

「はいシュン君!」

「彼氏いないのとは関係ないのでは……??」

「この辺、面倒くさいんだけど、説明いります??」

「出来ればお願いします……」

「もう仕方ないな〜〜」

 しぶしぶ語り出す美菜。

「恵は、芝居が、そりゃもう下手くそであるが故、万年裏方でした」

 恵は、心が少し傷ついた。説明は続く。

「でね、ある日、恵は指摘されました。芝居が下手な理由は今までヘボい恋しかしてないからだろ、と」

 恵は、心が更に傷ついた。説明はまだ続く。

「そして彼氏がいない間は破門となり、それだったら彼氏作ったろかい、と奮起します。しかしモテない恵はなかなか彼氏が出来ません。そして仕方なく地元へGO!!」

 恵は、心が深く傷ついた。説明はまだまだ続く。

「で、唯一の幼馴染であり、唯一好意を抱かれたシュンに、付き合って、と告白。だけど過ぎた月日は人の心を変えるもの、敢え無く撃沈します。そして結局、地味で取り柄も何もない青年に手を出したとさ。おしまい」

「な、なるほど……」

「地味で取り柄も何もない……それは私なのでしょうか……」

 シュンはそれなりに納得の様子、啓次はさりげなく傷ついた。

 そして一番の被害者は……。

「み、美菜ちゃん……言い過ぎ……」

「えっ、でもちゃんと言ってあげないとシュン誤解しちゃうよ??」

「そういう意味じゃ……もう、いいや……」

 今日一番傷ついた恵であった。

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