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ピッグ

終わらなかった…

「ぷはー食ったわい」

「うん、とっても美味しかった」

「ああ、そうだな。流石大臣がお勧めするだけの事はある」


 俺達は、ポークに勧められた路地裏にある創作料理のお店に来ている。

 店主は人間だったが、魔族が良く訪れるのだろう。

 特に緊張した様子もなく、ちゃんとしたものを出してくれた。


 驚いた事に魚の皮の湯引きや、揚げ物などが出て来た。

 聞けば、元々地元で父親が食堂を営んでいたらしく、後を継ぐために修行の旅に出ていたらしい。

 どうやらそこで出会った異世界の人間の元で修業を行ってきたらしく、自分の父親から教わった料理をアレンジして作ってみたところ思いの外、高評価を頂いたらしい。

 ただ、父親の営む食堂には似つかわしくないという事で、食堂は彼の弟が継ぐ事になり、代わりに彼はここにお店を開いてもらったらしい。

 開業費用は全て親が出してくれたらしいが、彼は売り上げからそれを返しているらしく、いつか全額返せたら父親の食堂の名前を付けるつもりとの事だ。

 中々に、親子そろって思いやりがあって良いな。

 結果、料理にもその心が繁栄されているのだろう。


「さてと、ごっそさんお代はいくらだ?」

「しめて40銀貨(4000円)になります」


 夕飯にしては妥当な値段だが、ちょっと安い気もする。

 俺は金貨をカウンターに置いて、2人を連れて店を出る。


「ああ、お釣りは結構だ。店主の料理に対する姿勢と心意気の分だと思ってくれ」

「あっ、有難うございます」


 慌てて店主がカウンターから出て来て頭を下げるのを、手で制してお店をあとにする。

 うん、すっかり日が暮れてしまったな。

 どこか手ごろな所に泊まるのもいいが、ルカも居るしちょっと不味い気がするもんな。

 取りあえず、オウキさんとやらに会いに行こうか。

 夜分遅くに失礼なんてことも無いだろうし…

 目指すは町の一番奥にある城か。


「つーわけで腹もいっぱいになったし、ちょっと勧誘に行くか?」

「えっ?今からですか?」

「私も付いて行って宜しいので?」

「流石に年頃の女の子を連れて、ホテルに行くのも気が引けるしちゃっちゃと片付けて、家に帰ろうぜ」


 俺の言葉に二人が溜息を吐く。

 まあ俺の奔放ぶりは今に始まった事じゃないしな。

 それに、今までも強引に勧誘しまくってたし。


「そうだ、ルカはこいつと一緒にさっきの子供達を探して、俺の城に来る気が無いか聞いてみてくれないか?」


 そういうと、俺は城から白蛇を2匹召喚する。

 ついでに、この2匹には人化の術を授けておくか。

 俺が、蛇の頭に手を翳して人化の法を直接脳内に刻み込むと、2匹が淡い青色の光を放って綺麗な女性へと変貌する。

 透き通るような白い肌に、真っ白な髪の毛が神秘的だ…その赤い目を除けば。

 ついでに青いカラーコンタクトを作り出して、2匹に手渡す。

 使い方を説明して付けてもらうと、大分マシになった。


「こいつらは…えーっと…あの、その」

「ハクです」

「コウです」


 名前が分からなくて言い淀んでいたら、2匹が自ら自己紹介を始める。

 ハクとコウというのか、なかなか良い名前だ。

 2人とも全く同じ容姿をしているから、よそ見をしてる間に入れ替わったら分からないから、取りあえずコウの服は青い着物に、ハクの服は赤い着物に変化させておこう。


「ああそうだった、ハクとコウだ。お前の護衛兼補佐だな。転移石も預けておくから、よほど危険な状況になったらそれを使って先に戻っててくれ」

「あっ、はい…でも子供達起きてますかね?」

「ああ、まだ夜になったばかりだし、仕事終わりの魔族や人相手に商売してると思うから、一応探してみてくれ。見つからなかったら、帰ってていいぞ」

「分かりました。それじゃあ、お二方もお気を付けて。ハクさんとコウさん、よろしくお願いします」


 そう言ってルカが頭を下げると、2匹が優しく微笑みかける。


「主様の命令ですからお気になさらずに」

「それに、ここに私達より強い魔族は居ない。安心しろ」


 柔らかく透き通るような声をした、優しい口調の方がコウで、ちょっと低めのハスキーボイスのぶっきらぼうな方がハクか。

 喋ればなんとなく分かりそうだな。

 まあ、子供達の方は3人に任せるか。


「お前らも油断するなよ」


 そう言って、俺はグレズリーと二人で城に向かう。

 それにしても、綺麗に区画整理されていて、城まで大きな道が一本走っているので楽で良いな。


「あっ、そうだった。グレズリーにも強化を施しておかないとな」


 俺がそう言って、魔力を込めるとグレズリーに身体強化と魔力強化を施しさらに、その状態を定着させる。

 ついでに魔核にも内緒で細工しておこう。

 あとは、こいつは空が飛べなかったはずだけど、羽を付けるのもおかしいし、かといってプカプカ浮かぶ熊もどうかと思うから、脚力を超強化しておこう。


「えっ?あっ、かたじけない…というか、これ…えっ?この湧き出る力、これやばくないか?すでに四天王級の魔力を内から感じるのじゃが」

「ん?たかが四天王級だろ?別に気にする事じゃない」

「たかが?はあ、まあタナカ殿からすると、たかがかもしれませぬのう」

「気にするな、気にしたら負けだ」


 俺はそう言って、困惑しているグレズリーを連れていざオウキ城へと向かう。

 特にこれといってトラブルも無く、城の入り口まで辿り着くと当然衛兵に止められる。

 衛兵はリザードマンか…さっきの揉めていたリザードマンとは違うみたいだが、こいつも同類なのだろうな。


「おい、止まれ!この城は西のオウガ様の妹君オウキ様の居城であるぞ?」

「ああ、知ってる。だから来たのだが?」

「そっ!そうか…という事はオウキ様の知り合いか?」


 俺がさも当然のように答えると、衛兵の男が困惑した様子で訪ねてくる。


「いや、知らんよ?今日これから初めて会うんだが、取次頼めるか?」

「いや、素性の知れぬものを勝手に通すわけにはいかんからな。ちょっと確認取る。二人か?えっとそっちは熊人族だな。お前は…」

「わしはグレーと申す。こちらのカナタ様の護衛じゃ…といっても、この方の方が遥かに強いがのう」


 グレズリーの言葉に、衛兵の男の表情が固まる。


「お…いや、貴方は昼間にうちの者とトラブルを起こさなかったですか?」


 それから、ちょっと丁寧な口調で問いかけてくる。

 グレズリーがどう答えようかといった感じで、こっちに視線を投げかけてくる。


「そう言えば、お前昼間にリザードマン2匹ともめたろ?」

「う…うむ、あれは余りにも2人が度を越した行動を取っておりました故、見過ごせずつい…」


 そんな俺たちのやり取りを見て、衛兵の男の顔が青くなる。

 それからスッと道を譲ってくれる。


「これは、大変失礼いたしました。将軍様ゆかりの方とは存じ上げず、同僚が申し訳ありません。二人からは将軍様の関係者がお忍びで参られているという事はお聞きしております。このような所までご足労頂き有難うございます」


 そう言って深々と頭を下げる。

 盛大に勘違いしてる上に、間違った情報が城に流れているようだが、まあ取りあえず中には入れて貰えるみたいで助かった。


「すぐに、ピッグ様をお呼びします」


 ん?ポークじゃないんだ。

 ビッグって、これまた豚っぽい名前だな。


「あっ、ピッグ殿はポーク殿の弟ですぞ。確かオウキ様の直属の護衛隊長だったかと」


 グレズリーがそっと俺に耳打ちをしてくる。

 そうか、ここの豚は優秀なんだな。

 逆にちょっと不安になってきた。


 しばらく城の一室で待たせて貰っていると、豚と呼ぶのも憚られるような豚面の筋骨隆々の魔族がやってくる。


「これはこれは、カナタ様とグレー様ですか…我々も将軍様とは直接お会いする機会がありません故、お二方の所属と身分を表すものを提示して頂いても宜しいですか?」


 早速来た。

 まあ、さっきの衛兵がポンコツ過ぎるというのもあったが、こっちはちゃんとしているようでここに来て面倒くさい事になったな。

 まあ、城内に入る事は出来たから催眠でもかけて誤魔化すか?


「どうされました?まさか将軍様の直轄の部下を証明する、身分証をお持ちでないのですかな?」


 すぐに答えなかった事で、早速不審がられてしまったか…


「う…うむ、今回は身分を隠しての来訪ゆえ、カナタ様もそう言ったものは持参しておらぬでのう」


 グレズリーがかなり苦しい言い訳をしているが、当然通用するわけが…


「そうですよね。でしたら仕方がありませぬな…今回は特別にオウキ様へのお目通りをお許し致しましょう」


 通用したよ!

 ちょっと、魔族見直したけどやっぱりポンコツだったわ。


「どうぞこちらへ」


 ピッグに連れられて、城の奥へと案内される。

 少し大きめの部屋に連れて来られると、しばらくお待ちくださいと言ってピッグが姿を消す。

 どうやら、オウキを呼びに行ったのだろう。

 あまり時をおかずに複数の足音が聞こえる。

 うん…バレてた!

 明らかに武装した兵隊が集まってるよね?

 ガチャガチャ鎧の音がしてるし。

 ポーク欲しいなと思ってたけど、こいつも結構優秀だな。

 俺のスカウトした魔族共が頼りないってのもあるけど、こいつも是非欲しいね。


「これはどういう事かな?」


 10人近い衛兵を連れて入って来たピッグに、グレズリーが問いかけるとピッグが鼻で笑う。

 というか、鼻を鳴らしたのか?


「ブヒッ!いくら将軍様直轄といえども、その証たる龍鱗章を持ち歩かないなんて事はあり得ないと兄上が申しておった。もし持っていないなら、最近この世界を荒らしている魔族としか考えられぬともな」


 そう言って剣を構える。


「勿論、噂でその実力は聞いておるからのう…だから悪いが、この部屋に罠も張らせてもらってある!発動せよ!マジックリデュース!」

「なっ!」


 グレズリーが突然の事に声を上げる。


「魔力が奪われていく!カナタ様、ここは危険です!この下に魔法陣が埋め込まれておりますぞ」


 それから慌ててこっちを見てくる。

 うーん…魔法陣型の罠か、しかも魔力を激減させる効果があるのか。

 逆にあいつらは胸に下げた宝石が光っているな。

 あれが、この罠を無効化する道具かな?

 こっちは下がるけど、あっちはそのままって事か?

 なんて事を考えていたら、突然衛兵の1人が大声を上げる。


「あ…あつい!なんだこの魔力は!」

「グッ!ダメだ、魔石が暴走を始めたぞ!」

「お…俺のもだ!」


 その一人を皮切りに、次から次へ衛兵達が胸の宝石を押さえて、狼狽え始める。

 あれっ?もしかしてこの部屋で吸い取った魔力を、あの宝石に吸収させて衛兵を強化する仕組みだったのかな?


「お前ら落ち着け!魔集石をすぐに取り外すのだ!」


 ピッグが大声で叫ぶと、他の衛兵達が慌ててペンダントを投げ捨てる。

 が次の瞬間


「あっ、魔力が…」

「うっ、力が抜ける…」

「しまった!これじゃあ、俺達も魔力を…」


 アホや…アホすぎる。

 この罠をレジストする魔道具を外したら、そうなるのは分かりきった事じゃん?

 まあ、かといって魔集石とやらを付け続けて居たらどうなっていたんだろう?

 ちょっと、気になるな。

 幸い、まだ身に着けている衛兵も3人程入るし、ピッグも顔を歪ませながらも耐えているようだしね。

 ちょっと、魔力を解放してみようかなっと。


「うわぁ!不味い!石の暴走を抑えるのじゃ!」

「これ以上は持ちません!」

「あああああああ!」


 次の瞬間、魔集石が強い光を放ったかと思うと、大きな音を立てて破裂する。

 当然、身に付けていた連中は胸で小型の爆弾が爆発したようなもんだからな。

 その胸に大穴を開けて、口から血を吹いてその場に倒れ込む。

 ピッグはかろうじて、直前で石をこっちに向かって投げつけるという方法を取ったようだが、グレズリーがそれを手で掴んで抑え込む。

 グレズリーの右手の掌の中で何かが弾けた音がする。


「アチチ、結構な衝撃でしたが思った程では…ただちょっと手が痺れておりまするが」


 うん、強化しすぎたかな?

 鎧を付けた魔族が胸に大穴開けてるのに、貴方は手から煙を出しながらもその程度ですか…そうですか。


「なっ!化け物か!」

「無理ですよ隊長!ここは引きましょう!すぐにオウキ様を連れて逃げてください」

「私達が囮になります!その隙に」


 囮になりますとか言っちゃったよ。

 こうなったらピッグだけ気を付けてたら良いって事だろ?

 ご丁寧に作戦を教えてくれる魔族が多くて、楽でいいわ。

 なんて事を思っていたら、横から激しい衝撃を感じる。

 ふと目を向けると、地面に大きな熊の足跡が残っている。


「ひっ!」

「うわっ!」


 グレズリーが凄い速さで飛び出したかと思うと、ピッグに爪で襲い掛かっていた。

 すんでのところでピッグが手に持った剣でその爪を受け止めるが、壁際まで弾かれている。


「うむ…思ったより飛び過ぎたわい。それにしてもこの膂力なら魔力なしで、こやつらを簡単に制圧できそうじゃな」


 それから首をゴキゴキっとならして、グレズリーが手を閉じたり開いたりして自分の身体の具合を確かめている。

 なかなかナチュラルに、様になる演技がかった行動が取れるもんだ。

 器用な熊だな。


「くっ、この城でもっとも力が強いはずのわしが、壁際まで押し返されるとは…世界は広いのう」


 うーん、ピッグの喋り方ってグレズリーと被ってるよなー…

 あんまり部下同士で、口調が被るのって考えもんなんだけど、2人とも武人だしね。

 しょうがないか。


「この程度で一番強いのか?それなら、とんだ期待外れじゃのう」


 グレズリーが床に爪を刺したかと思うと、そのまま床を抉ってピッグに向かって投げ飛ばす。

 余りの速さにピッグが、回避も取れずに剣を両手で支えて受け止めるのが精一杯だった様子だ。

 だが、その一瞬の隙の間にグレズリーがピッグの目の前に移動し、手を横に振ってピッグを弾き飛ばす。

 凄い勢いで壁にピッグの身体がめり込む。


「ぐはっ!馬鹿な!動きが…見えぬとは」


 そのまま壁から剥がれ落ちて、地面に倒れ込むと忌々し気にグレズリーを睨みつけている。


「そこまでじゃ!」


 その時、部屋の入り口から野太い女性の声が聞こえた。

 うーん、鬼姫っていうから期待してたけど、そっちかー…

 目の前に現れたのは、筋肉ムキムキの露出高めのただの鬼だった。



ブクマ、評価、感想頂けると幸せです。

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(仮)邪神の左手 善神の右手
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