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田中はこれからも一生懸命働きます

「これから何をするのですか?」


 俺が本殿の後ろで、一生懸命一本の苗木を植えているとたまたま通りがかったネネが声を掛けて来た。

 うん、たまたまというか常に一定距離の範囲内にいるよねこの娘。

 何かあれば、話のきっかけにしてすぐに話しかけてくるけど、軽くストーカーと化して来てるな。


「ん?田中城の整備も大分進んだから、そろそろ御神木なるものを作ろうかと思ってね」

「ゴシンボク?」

「ああ、この地を守る神が宿る木とでも言ったらいいかな?まあ、俺が作るのは文字通りこの地を守る木だけどね」


 そう言って俺は杉の苗木に魔力をふんだんに注ぎながら、さらに時間を加速させていく。

 大体2000年くらいの時間を進めつつも、自身の魔力の約20%程度を注ぐと驚くほど巨大な木へと成長していった。

 うん、やりすぎた。


「こっ…これは」


 その木の放つ壮大な魔力に、ネネが驚愕の表情を浮かべている。

 すでに、北の幹部など足元にも及ばないほどの魔力を内に秘めた巨木だ。

 意思も宿っているが、基本的には自ら喋ったり動き出すことは無いだろう。


神籬(ひもろぎ)と言って、俺の世界じゃ神の宿る木とされていたが、まあこいつ自体がここの守り神みたいなもんだな」


 そう言って、しめ縄を魔法で作り出して巻くと軽く手でパンパンとその太い幹を叩く。


(初めまして我が主様、お陰様で自我を得る事が出来ました。この身体なら永遠にこの地を見守る事ができます)


 木の意思が俺の中に流れ込んでくるが、なかなかに上出来だと思える。

 というか、木の精霊体だろうか?

 擬人化された半透明型の巫女装束の女性が、木の前に立っている。

 うん、やり過ぎだ…


「ああ、これから宜しく頼むな」


 俺がそう言うと、嬉しそうに微笑み返してそっと木の中に消えていった。


「まあ、俺の世界には世界樹とか、ユグドラシルとか伝説上の神木も存在していたが、それにひけを取らない良いものが出来たと思う」

「そ…そうですか」


 ネネの表情が引き攣っているが、まあ良いだろう。

 取りあえず、この城の最後の目玉が出来たところで一度城へと戻る。


「さてと、それじゃあ配下の者達を集めてくれ」


 俺がそういうと、マヨヒガが新たな配下全員に集合の合図を飛ばす。

 キーンという耳鳴りのような音が響くと、慌ただしく中央の魔族が集まって来る。


「さてと、集まってもらったのは他でもない。俺はこれから西の大陸と東の大陸の四天王を配下に加えて、いよいよ大魔王の討伐に乗り出そうと思う」


 俺の言葉に、全員が神妙な面持ちになる。

 まあ、元とはいえ上司を打つ宣言だからな、微妙な心情なのだろう。


「そうですか…それで、我々はどうすれば?」


 ブルータスが俺に質問してくるが、俺からは言うことはすでに決まっている。


「ああ、だから最終確認だ。今からでも遅くは無い…俺の元を離れて中野の元に戻りたいやつはこれが最後のチャンスだ。今ならまだ不問に処すが、戻りたいやつはいるか?」


 俺の質問に対して、魔族全員が首を横に振る。

 ん?何人かは戻りたいと言い出すかと思ったが、満場一致で俺に付いて来てくれるのか?

 うーん、それは有り難いが、大丈夫なのかな?


「タナカ様を見て来た俺らからすれば、この戦争大魔王様は確実に負ける」

「ああ、そうですね…でもそれ以上にここの環境は、大魔王様のところより遥かに良いですからね」

「うん、田中様の方が私は良い」


 犬男やカイザル、ボクッコが目を閉じてしみじみと語っている。

 そうか、短い付き合いだが思った以上に好かれていたようだな。


「それに、ここの料理は絶品やからな。ここの飯食ったら、もう元の生活には戻れんわ」

「確かに…お風呂も素敵ですしね」

「うんうん、私も肌がスベスベになってきたし…それに着物も綺麗ですし…シャッキ様も褒めてくださいますし」

「ちょっ、バニー余計な事言うなや」


 うーん、シャッキは飯に釣られたのか…

 ネネと、バニーさんはお風呂やオシャレに目覚めた感じだな。

 というか、シャッキ…


「わしはここなら、自分の理想とする世界が出来ると信じておる。それにシュウやユミ、ルカとも折角仲良くなれたしのう…この子らの顔を曇らすようなことはしたくないのう」

「うんうん、そうやな。それがグレズリーのおかんも望んだ世界やしの…というか、お前おかん連れてきたったええやん?」

「はっ!」


 グレズリーがそうだったみたいな表情してるけどさ、生きてたの?

 なんか、あたかも死んだ人みたいな語り口調で話してたからてっきり死んだものかと思ってたけどそうじゃないんだ。


「私はウララ様についていくだけです」


 フォックスは完全にウララ信者だな。

 ウララもフォックスに対しては、偉そうな態度取ってるし…ただの狐じゃなかったのか?


 まあ他の魔族は百人衆や四天王が俺に付いてくると言っているんだから、断る術も無いか。

 とはいえ、個人的に戻りたかったらこっそりで良いから言えよとは伝えたが、全員が良い笑顔でこんな素敵な場所に居たら、今更戻るなんてありえませんよなんて言ってたけど。


「じゃあ、全員の意思は良く分かった…この城の構築もいよいよ最終段階に入ったから、俺の理想の城の真骨頂を見せてやろう」


 俺がそう言ってマヨヒガと、御神木にさらに魔力を込めると城が振動を始める。


「なっ、何が起こるんや?」

「何事ですか!」


 突然の事態に、他の魔族がざわめくなか辰子と、荒神だけが落ち着いている。

 まあ、辰子はともかく荒神は俺がする事は基本全肯定だからな。


「うん、予定よりちょっと早いけど俺の元部下がちょいちょい結界を破って侵入してたから、そろそろここもバレると思ってね…まあ、これは俺の趣味なのだが」


 次の瞬間、城を含め周囲の森がバリバリバリという音を立てて、砂漠から飛び立つ。

 そう、俺はご神木に浮力の魔法を使えるように叩き込んだのだ。

 そして、この巨大な敷地を宙に浮かせて維持するために、俺の規格外の魔力の20%もの力を分け与えたのだ。


「これが我が城、我が国だ!天空の城『田中』いざ始動せよ!」


 どんどんと森が上空へと上昇を始める。

 次第に地面が遠ざかっていき、雲の上まで浮かぶとそこで制止する。


「なんて魔力の無駄遣いなのね!」

「これなら、地面に隠した方がよっぽど魔力の消費が抑えられるだろうに」


 カイザルとグレズリーが何やらぼやいているが、フフ、男の浪漫だよ…諦めろ。

 逆にボクッコと、辰子は目を輝かせながら大広間の中心に映し出される俯瞰の映像を見てはしゃいでいる。

 この映像により、この森が今現在どこを飛んでいるかが分かるようになっている。


「さてと、でだ!シャッキ、ブルータス!」

「ん?なんや?」

「はい!なんでしょう」


 俺が呼びかけると、シャッキとブルータスが緊張した様子でこっちを見てくる。


「今からお前らは人化して、俺の配下のカインことタケルに合流してもらう」

「はあ、カイン様とですか?」

「誰やカインて?」


 そう言えば、シャッキにはカインに会わせた事無かったな。

 まあいいや、こいつらならカインともすぐに馴染むだろうしな。


「それは後で紹介する。シャッキはゼン、ブルータスはコウという偽名を使って勇者パーティとして東の大陸の攻略をお願いしたい」


 俺の言葉に、シャッキがちょっと面倒くさそうな顔をする。


「東言うたら、白桜鬼のピンキーの担当やな…わい、あの女苦手やねん」

「こらっ、タナカ様の命令だぞ!」

「まあ、そう堅苦しく捉えなくても、カインが上手い事やってくれるはずだからサポーターとして参加してくれたらいいよ」


 俺の言葉に、それならとシャッキも納得する。

 それにしてもピンキーか…女の鬼というのも興味があるな。

 俺がそっちに行けば良かったか。


「ちなみに西の大陸の四天王はどんな奴なんだ?」

「ああ、西は黄鬼のオウガって奴や。まあ、完全に脳筋の大馬鹿たれやけど、力だけはほんまもんやで!逆に言えば力だけ…魔力は四天王の中でも最弱や」


 ああ、ますます東に行きたくなってきたが、まあ全員の前で大々的に命令しちゃったわけだし、やっぱそっちが良いなんて言う訳にはいかないか。


「よし、それだけで十分だ」


 色々とね…もう十分ですって感じになった。

 まあ、折角だし配下には加えるけど、まあコレクターとしてって感覚でいこうか。


「じゃあ、こっちはグレズリーに付いて来てもらおうかな」


 俺がそういうと、グレズリーの表情が固まる。


「ん?四天王様の相手にわしなんぞが行っても役者不足では?」

「ああ、大丈夫大丈夫、お前には強化魔法も掛けるし、良い装備も与えてやるからむしろお前が先陣切ってオウガを捕まえろ」

「えぇ…」


 なんか不満そうだが、なんとなくオウガってのが暑苦しそうなイメージで相手したくないんだよね。

 出来るなら、ここで強化軍団を送り込んで高みの見物といきたいくらいなのだが。

 そうだ、どうせ東の方は時間かかるだろうし、適当に町でも練り歩きながら追い詰めていくかな?


「四天王全てを掌握したら、城ごと中央の大陸に殴り込みに行こうと思う。皆頑張ってくれよ!あっ、他の魔族の皆は各地の町を魔帝軍として開放してってくれ。その中で優秀な知り合いが居たら、こっちに連れて来てくれると助かる」

『えっ?』


 俺の言葉に他の全員が固まる。

 こいつら、きっと何もせずにここでゆっくり過ごせるとか思ってたんだろうな。

 いやいや、そろそろ働いてもらいますよ?

 ただ飯ぐらいなんていりませんからね?

 といっても、基本的な運営的な部分は俺一人でやってるからね。

 これから、城の住人や城下町を作っていったら多少は町の運営が出来る魔族が欲しいからね。

 そうなると、一応統治的なポジションの責任者を経験したことのある魔族も手駒に欲しいしね。


「安心しろ、お前らにも身体強化と、装備の強化を施してやるから」

『ほっ…』


 あからさまに、安堵の表情を浮かべる魔族達を見て苦笑いをするしかない。

 なんともまあ、残念な奴等ばかり集めてしまったもんだ。

 とはえい、これでいよいよ本格的に中野嫌がらせタイムに入れそうだな。

 できれば将軍と呼ばれる幹部達も配下に加えたいところだが…

 それから、人間の軍にも動いて貰わないとな。

 その為にも、解放後の外交は慎重に行わないと…となると、適役は…


 周囲の魔族を見渡して、思わずため息をもらす。

 人化出来るのは荒神と辰子だけか…

 となると、沢山ある国や町との交渉は俺か荒神の仕事だな。

 ここでも、人材に苦労する事になるとは。

 エリーだけでも、連れてくればよかったかな?と思いつつも、新たな魔王の教育に燃えている彼女の手を煩わせるわけにもいかないか。

 仕方ない…ここが正念場だ。

 いや、いつも俺の仕事量が一番多いよな。


 王様って、こんなんだっけ?

 いや、真面目にやるとこうなのかな?

 確かに会社の社長も一般社員から見たら遊んでるようにしか見えないけど、実際は人脈作りに…特に銀行関係や、お得意先との交渉に、会社の舵取りと実は真面目に会社の事を考えて動くと正直飛んでもなくしんどい仕事だもんな。

 それで居て、社員や幹部達のベクトルを揃える為に苦心して、あげくに社員全員とその家族の生活を支えるというプレッシャーまで背負ってるわけだから、トップになれば楽に出来るというのは、トップの実情を知らない人間の楽観的で軽薄な考えでしかない訳だ。

 まあ、優秀な人材を揃える事が出来たら、金だけ集めて好き勝手出来るという事もあるがそんなもんは、本当に一握りの人間だけだ。

 そういった人間は、人を見る目、時代を見る目、そしてカリスマなどなど様々な才能がいる訳で、俺みたいな凡庸な人間から魔族に転生して、魔力だけしか取柄が無いとこうやって苦労していくしかないわけで…

 おっと、一人で物思いに耽って居たら他の連中が心配そうにこっちを見てたわ。

 いかんいかん、もうちょっと気楽に行こう。


「まあ、俺からは以上だ!解散!」


 取りあえず、しばらくは空の旅を楽しもう。

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(仮)邪神の左手 善神の右手
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