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マイ親衛隊が色々とアレだった件

「これは、タナカ様!」

「久しぶりだな、マイはどこだ?」


 城門前にとりあえず転移したら、たまたま蛇吉が城に入るところだった。

 不意に現れた魔力に気付いた蛇吉が、慌てて駆け寄って来る。


「魔王様なら、恐らく玉座の間かと…ただ今はすぐにお会いにならぬ方がよいでござる」

「分かった、すぐに行く」


 玉座の間の入り口に転移すると、難しい顔をしたエリーが立っている。


「どうしたというのだ一体」

「あっ、タナカ様!その、マイ様が私達に対して反乱と言いますか、反抗と言いますか…そのマイ様曰くストライキを決行すると言って部屋に籠ってしまわれてですね」

「ストライキか…良く分かった」


 エリーが何やら口ごもっていたが、なんとなく状況が少し見えて来た。

 恐らくだが、魔王の引き継いだ魔力に体が馴染んだことと、配下の魔族の強化に伴って自身の魔力量が大幅に増えた事で調子に乗って、エリーの魔王学含め様々な業務に対して放棄をしたという事だな。

 本当に力を得るとすぐに調子に乗る奴だ。


「おい、マイ入るぞ!」


 俺が扉越しに声を掛けると、中からガタガタガタっという慌てた物音が聞こえる。


「なっ、なんでタナカが居るんだよ!誰だタナカを呼んだの!裏切り者―!」


 おいおい、先に部下を裏切ったのはお前だろう。

 俺は大きく溜息を吐くと、扉をゆっくりと押開く。

 施錠されていたが、そんなもんは魔法ですぐに解除できる。


「魔王様、こちらの爺さんはなんですか?」

「何やらただものじゃない気配、こいつは危険だ」

「魔王様に近づけてはならぬ!行くのだお前たち!」


 玉座に座るマイの姿を見ると、頭を抱えて蹲っている。

 そして、そのマイの前にずらりと並ぶ新種の魔族?達…

 いや、これアウトだろ…


「おいエリー、なんでこんな奴等がこの玉座の間に我が物顔で並んでるんだ?」

「その、申し訳ありません…そこまで強くは無いのですが、倒しても倒しても蘇ると言いますか…」


 俺の質問に、エリーが顔を背ける。

 まあ、確かにこいつならアレがあればすぐに蘇るだろうな…

 だが…俺が思いっきりマイを睨み付けると、顔を覆う手の指の隙間からこっちを一瞬見てガタガタと震え始める。


「いきなり入って来て挨拶も無しとは、この無礼者め!受けて見よ、我が必殺の一撃!アンコパーンぶへらっ!」


 言わせねーよ!

 目の前の丸い頭をした、マントを纏った魔族がこっちに水平飛行しながらパンチをかましてくるのに合わせて、ハイキックでその頭を吹っ飛ばす。


「おい、アンパン男がやられたぞ!」

「すぐに新しい頭を!」

「アンパン男、新しい顔だぞ!」


 周囲に居た、ぼうおかずパンの顔をした魔族がアンパン男と呼ばれた魔族に対して、新しい顔を投げる。

 寸分違わずに、首から下だけになったアンパン男の顔に新しい顔が乗っかる。


「魔力百倍アンぶへらっ!」


 すかさず、再度その頭をハイキックで吹っ飛ばすと周囲の魔族を片っ端から上位火炎系魔法で消し炭にしていく。

 あっという間に、マイ一人だけになるとようやくマイが諦めたのかこっちを向く。

 それから、引き攣った笑顔で立ち上がる。


「えへへ、久しぶりだね」


 俺はマイの言葉を無視してツカツカと目の前まで歩いて行くと、その脳天に思いっきり拳骨を叩き込む。

 某お父さんのばっかも~ん!という声が聞こえてきそうな一撃だ。


「いったーい!」

「いったーい!じゃねえよ!おまっ、なんだよこいつ等!」


 思わず眩暈を起こしそうになったが、こいつの作り出した魔族はどっからどうみても子供達に人気のあのアニメに出てきそうな魔族ばかりだ。

 しかも食べ物限定で統一されているあたり、こいつらしいっちゃこいつらしいが完全にアウトだ。

 すでにこの流れすらアウトだ。


「そのね…一生懸命【キューピー】の練習してたんだけどね、なんかこんなのばっかり出来ちゃって。それで消すのも可哀想だからって、私の直属の部下に…」

「ふーん、で?ストライキってのはなんだ?」


 俺の言葉にマイがたらたらと冷や汗を流し始める。


「ちょっと、最近勉強と仕事ばっかりで疲れちゃったなーって…」

「おい、エリー!こいつの一日のスケジュールは?」


 おれについて部屋に入って来たエリーに聞くと、エリーが何やら手帳のようなものを開く。


「はい、平日は7時に起床、7時半から朝食、8時から座学が2時間、10時からは魔王様の仕事の引継ぎと実務が12時まで、それから1時間の昼休憩を挟んで3時までは魔力講座もしくは武術訓練、3時にティータイムを挟んでその後は城内、もしくは城下町で視察という名の自由時間です。週末は基本イベントが無ければ何もありません」


 なんだと?俺の時とやけに違い過ぎませんかエリーさん?

 確かに座学や魔力講座、武術訓練なんかしたことは無いが、なんだろう…俺の時はこう城内のもめ事の対応や、勇者という名の強盗の対応、聖教会とかいうテロ組織の鎮圧に、さらに住民の生活向上のための実務や、復興作業、はたまた治安維持活動や、部下たちの鍛錬や強化に、一応外交関係も一人でやらされていたのだが?


「あまったれるなー!」


 俺が大声で怒鳴るとマイが泣きそうな表情になっている。

 しかし、まあ多少は反省してもらわないと、いちいちこんな事で呼び出されるのも…ん?こんな事で呼び出される?


「おい、マイ?お前、わざとだろ?」

「ん?なんの事かな~?」


 わざとらしく目を反らして、吹けもしない口笛を吹く真似をする。


「そうか?まあ、それならちゃんと反省しとけよ、俺はもう帰るからな」

「えっ?」

「ん?別に、もう説教は終わったし、真面目にやっとけよ」

「ちょっと待ってよ!」


 急にマイが慌てだす。


「えっと、折角だから一泊してったりとか?」

「俺も忙しい中、わざわざ空いた時間を使って来てやってんだ、用事が済んだならすぐにあっちに戻らないと」


 途端に、マイの表情が不機嫌なものに変わる。

 うん、君今まで俺に説教受けてた身だよね?

 なんなのそのふてぶてしい態度は?


「あーあ、タナカさん変わったわ。中央の世界行って変わったね。ねえ、エリーさんもそう思うでしょ?前なら、ついでに泊まって他の魔族や住人に顔見せてたのにもう帰るんだってさー」


 酷い言われようだ。

 だが、こいつの目的がはっきりとしてきた。

 要は()が恋しくなっただけだろう。

 なんだかんだ口実を付けて俺を呼び戻したかったのだろうが、なんぼなんでもやり過ぎだ。


「ああ、そうだな。それなら皆に会って手料理の1つでも振る舞ってやるか」

「本当!」

「ただし、お前はここで今までサボった分の勉強をやっとけよ!」

「えっ?」


 俺がそう言って部屋を出ると、中から絶望的な叫び声が聞こえて来た。

 といっても、どうせこいつにも料理を振る舞う事になるのだろうと思うとちょっと癪だが、しょうがない…

 本当に俺って甘いよな…なんて事を思いつつも城内の面々に会って回って、城下町で今日も宴を開く事となる。

 子供たちが新作の料理を振る舞ってくれたり、相変わらずムカ娘がお皿を持って恨めしそうにこっちを見ていたりと、平常運行だった。

 ちなみに、コウズさんに至ってはもはや、完全に魔国に馴染んでいて今じゃ物知り爺さん的な立場で子供達に色々な事を教えたり、日本の昔話を聞かせたりしてなかなかの人気者らしい。

 いつの間にか、北条さんも町を出歩くほどになっているし、いつかこの人には中央の世界に来てもらうつもりだが、今はここに居る方が幸せだろう。


 ―――――――――

 ちなみにだが…


「さてと、反省したか?」

「うー…もう無理―!これ以上勉強したって、頭ん中に入るスペース無いよー」

「そんだけ余裕があるなら、まだまだいけるな」

「えー!鬼!悪魔!」


 なんてやり取りをマイと数十回繰り返す、体感時間で3日くらい経過したあたりで予め掛けていた時間停止型の幻惑魔法を解除してやった。

 精神と時の魔法ね!なんて上手い事を言ったつもりでドヤ顔をかましてきたので、もっかい幻惑魔法を掛けて、ひたすらエリーに説教してもらったら、次解除した時にはすっかり大人しくなっていたが。


 ―――――――――


 そのマイも、今は俺の横で凄い勢いで料理を食べている。

 思わず笑ってしまう程、女を捨てたその姿に懐かしさを覚えつつも、魔王にしたのは失敗だったかもしれないが、救う事が出来て良かったとは思えた。


「さてと、悪いが本当にあっちも忙しいからな…次からはちゃんとした方法で呼びに来い、少しくらいなら時間作ってやるし、なんなら誰か寄越せば手土産くらい持たせるから」

「えっ?もう行っちゃうの?泊まってかないの?」


 俺が立ち上がると、マイが慌ててこっちを見て袖を掴む。

 まあ、ゆっくりしたいのはやまやまではあるが、実は中央世界でまともな料理が出来るのはルカくらいなんだよな。

 ユミも最近は良く手伝ってるみたいで、簡単なものなら作れるようになったらしいが。

 とはいえ、田中城に住む魔族も増えて来た事だし、流石に昼はルカにお願いしたが夕飯くらい作りに戻らないと、ルカの負担が大きいしな。

 そもそも、なんだかんだ言って中学生くらいの子を夜も働かせるのも可哀想だしね。


「ああ、あっちの世界の魔族の世話も見ないとならないしな」

「あはは、相変わらずあっちでも苦労性みたいだね!」

「誰のせいだ!誰の!」


 ただでさえ忙しいのに、くだらない小芝居までして呼びやがって。

 そもそも、こっちとあっちを合わせて一番迷惑かけてるのはお前だ。

 俺は大げさにため息を付くと、フッと笑ってマイの頭を優しく撫でる。


「まあ、本当に困ったときは呼べ!逆に言うなら、本当に困ってないときは呼ぶな!」


 それだけ言うと、転移で田中城へと戻って来る。

 あっ、結局ムカ娘の料理食べてなかったわ…まあ、子供たちの分だけでも頂いたから良いか。


「あっ、田中様戻って来られたんですね」


 城に戻ると、すぐにルカが走り寄って来る。


「すいません、もしかしたらと思ってお夕飯の支度も済ませたのですが、御迷惑でしたか?不要なら持って帰ってあの子達と頂きますが」


 なん…だと?

 なんてええ娘なんやー!

 最近は本を読ませたりして、言葉遣いもかなり丁寧になってきたし、しかも自発的に他の住人の為に大変だろうに料理までして。

 うん、マイに会った後だから余計に、この子の面倒見のいいところや、責任感の強いところが際立って見えるわ。


「いや、すまんな気を遣わせてしまって」

「いえ、田中様の方こそ折角の里帰りでしたのに、もっとゆっくりしていらして良かったのに」


 うん、一言一言が胸に染み入るよ。

 なんで、こんな良い娘があんな辛い目に会わないといけなかったんだろうな。

 やっぱり、中野は許せんな。

 どんな事情があっても一度は殺しとこう。

 取りあえず殺してから、よっぽどの事ならば生き返らしてから考えよう。


「ふふ、そうだな。ルカが居るんだ…こっちは何も心配いらなかったな」

「私なんてまだまだですよ。でもそう言って頼りにしてもらえると、やる気が出ます」


 涙が出そうになる。

 同じ女の子でもこうも違うものなのか…

 流石にこんだけ歳の離れた子に、惚れたりって事は無いがもしお年頃だったら、嫁にしたいって思ったかもな。

 まあ、将来この子の旦那さんになる人は幸せもんだな。


「そうだな、じゃあこれは頑張ったルカへのご褒美だ」


 俺がそう言って魔法で、新しい着物を作り出すとルカに手渡す。


「綺麗な布ですね…でもこんな高価なもの頂いても良いのですか?」

「ああ、俺の魔力で作り出してるから高価に見えるが、実際はタダだしな…とはいえ、物は確かなものだから大事に使ってもらえると有難い」


 俺がそう言うと、ルカが目を大きく見開く。


「本当に不思議な方ですよね…王様らしくないというか。あっ、私ったら失礼な事を…申し訳ありません」

「いや、褒め言葉として受け取っとくよ。それじゃあ、折角だし俺もルカの料理を頂くとしよう」


 それから夕飯を食べた後、ルカを魔法で離れまで送り届けてから自分も部屋に戻る。

 それにしても、マイの奴は…



色々と問題のある日常回でした。

たまにこういう無意味な話を書きたくなるだけでなく、書いて投稿しちゃうのはご愛敬って事で勘弁してください。

むしろ、元々はこういうやまなし・おちなし・いみなしな話を書くつもりで始めたので。

次は田中に西の大陸辺りに遊びに行ってもらいます。


ブクマ、評価、感想頂けると幸せですm(__)m

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(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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