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北の異変

閑話というか、里帰りに繋がる回ですね。

「それで突然どうしたというのだ?」


 俺は広間でモー太とチビコに質問を投げかける。

 まず、モー太の内包魔力が依然と同等まで戻っている事。

 チビコの魔力が爆発的に伸びている事。

 なぜモー太が来たのか?

 疑問は尽きない。


「えっとですね…まず北の魔族なのですが、すでに多数の者が以前タナカ様に仕えていた時と同等の魔力にまで成長してるモー。絶倫の話だと、一度大幅に魔力が上がった為、体内の最大魔力値が大幅に伸びていた上に、聖教会との諍いもしばらく起こって無い為に超回復が発生したとの事だモー」


 なるほど…マイの配下になった事で魔力はマイに合わせた値にまで下がったが、その後その魔力を大きく使う事も無かった為に、どんどん貯め込まれていったと。

 また、俺の配下の時の魔力値に合わせて、魔力の貯蔵機能が膨らんでいたためその収縮速度よりも先に、魔力の回復が終わってしまったということか。

 一度伸びてしまった袋が縮むより、そこに貯め込む速度の方が上だったという事だな。


「それは今の説明で分かったのだが、チビコはまたどうしてそんなに強くなったんだ?」

「うん、チビコはね魔力の循環?のやり方を絶倫おじさんに習ったのと、いっつもモー太おじさんとの修行でいっつもヘトヘトになるまで魔力を使ってたら、どんどん魔力が溢れてくるようになったの。それからスッピンさんといっつも一緒に居たら、すっぴんさんの不思議な力が移っちゃったみたい…」


 うんそこまでは分かったが、理解が出来ない。

 すでに8歳…いや、もう9歳か?の人間の子供が扱い切れる魔力量ではない。

 しかも、神気まで纏うようになるとは…

 ん?北条さんの神気はどうやって得たんだ?


「それで北条さんの方はどうやって?」

「えっとね、それは北条さんがついでに付けてくれたの。なんか信者さんが減って神気が余ってるらしくて…お陰でほらっ?」


 そう言ってチビコが指を3本立てると、薬指に黒い魔力が、中指に白い神気が、そして人差し指に黄金の神気が纏われる…って、黒い魔力って闇の魔力?なんで?

 白い神気がすっぴんので、黄金が北条さんかな?

 ヤバいぞカイン…人類最強の座が危ぶまれてきたぞ?


「なるほどな…で、ここには来たからには何か相談があるんだろ?」


 俺の言葉にモー太が頭を押さえる。

 何やら深刻な状況のようだが…


「あのですね…新しい魔王様の事ですモー」


 ん?マイがまたやらかしたのか?


「最近配下の魔物達の総魔力が上がった事で、マイ様自身も大幅に能力が向上して…日夜【三分調理(キューピー)】の特訓をなされているのですが…いつまでたっても成功しないどころか…その、代わりに召喚されるものがですね…とんでもないものばかりでして…」


 何やら歯切れが悪いな。

 というか、あいつは国の運営ほったらかして何をやってるんだ?

 一度説教をしにいかないといかんな…


「ほう…どんなものを作り出してるんだ?」

「そ…それが、喋る緑の炭酸水とか、食べるものを絡み取って動けなくするパスタとか…あとは、牙の生えたハンバーガーに、灼熱を放つ唐揚げとか、しかもそれらの内包魔力がすでに、過去の魔王軍幹部に匹敵するものですから処分に大分労力を割かれてるモー」


 な…なんだと?

 それはそれで、色々と興味を惹かれる物ばかりだな。

 むしろ、そんなに魔力を持っているなら、戦力としても申し分無いな。


「それで、処分に困って居たら魔王様がそれらを纏め上げて、新たなる親衛隊を作り上げまして…奴らがまた生意気なんですよ…魔王様の権威をかさに、城内で傍若無人に振る舞うものでして相手するのが大変だモー」

「そ…それはまた…苦労を掛けるな」

「だから、一度元魔王様に戻ってきていただいて、魔王様を叱って欲しいんだモー」


 うん、そうだな…それは俺の責任でもあるわけだし、吝かでは無いが。


「分かった、一度北の世界に戻るとしよう。こっちは辰子と荒神に任せておけば危険は無いだろうしな」

「辰子と荒神?新しい配下かモー?」

「ああ、そう言えば紹介がまだだったな。といっても荒神の方は会った事あるかもしれないけどな。おい辰子、荒神」


 俺の言葉にすぐに二人が転移して現れる。


「こ…これはまた、とんでもない魔力だモー」

「すごーい!この女の子、私と同じくらいなのに凄い魔力を秘めてる」

「初めまして、辰子だよ!パパの娘なんだー。あっ、貴女がチビコちゃん?パパから聞いた通り、小さくて可愛い!」


 そう言って辰子が、チビコに抱き着く。


「ちょっ!何急に!」


 チビコがビックリして暴れてるが、辰子が嬉しそうにしながらチビコを抱き上げてクルクル回ってる。


「貴女凄いねー!とても人間とは思えない魔力だし、それ神気っていうんでしょ?カッコイーな!あっ、パパ!チビコちゃんとユミたちに紹介しても良い?」

「ああ、構わないが、その前にチビコを放してあげなさい」


 俺の言葉に、自分の腕の中で目をクルクル回しているチビコにようやく気付いた辰子が慌てて手を放す。


「あっ、ゴメンねー!あまり、私くらいの子でこんなに強い子見た事無かったから。ねえねえ、あっちに私の友達が居るから一緒に行こう!」

「えっ、ちょっと!あっ、待って!引っ張らないで!ちょっ、魔王さまーーーーーー!」


 それから凄い勢いで離れに連れていかれてしまった。

 うん、頑張れチビコ!

 そうだ!チビコもあれだけ強くなったのなら、装備品の1つでもプレゼントしないとな。

 そんな事を思っていると、モー太が荒神をジッと見つめている。


「お主、どこかでお会いしたか?」

「ええ、まあ初めましてというべきか、御無沙汰しておりますというべきか…ウロ子様の元眷族が一人です」

「おお、あの老齢の青大将か?確か、長寿故に肥大化と魔力を纏うようになったとウロ子が可愛がっておったペットの1人だったのう」


 まあ、北の世界の住人からすれば、荒神は所詮ペットの域を出なかったんだろうな。

 今は、俺の魔改造のせいで大幅な能力の向上がされているが。

 それでも、当時のイメージが残っているのか、それとも魔力の質で判断しているのか。

 とはいえ、記憶に残っているということは、ウロ子が本当に大切にしていた蛇の一匹だったんだな。

 まあ、青大将sの大将として寄越されたくらいだから、もともとただの青大将でも無かったのだろうが。


「しかし、お主見違えたのう…今のお主なら新参の幹部共など一息に始末できそうだモー」

「はい、これも全て田中様のお陰です。とはいえ、今のモー太様の足元にも及びませんが」

「ふふ、言ってくれるモー。今のわしでも無傷でお主を無力化するのは難しいモー」

「でも、無傷では難しくても、無力化自体は簡単ですよね?私もまだまだです」


 確かにその通りだ。

 簡単にとはいかないかもしれないが、このモー太なら荒神を無力化するのにそこまで時間は掛からないだろう。

 それほどまでに、北の世界は規格外なのだ。

 そのきっかけは、人間の暴挙に俺が心を痛めたせいなのだが、その時に新たな力に目覚めた災厄と呼ばれる幹部達は、この世界の四天王クラスなら同時に相手をしても、無傷で殺す事が出来るだろう。


「それで、ちょっと北の魔王がまたなにやらおかしなことになってるらしいから、俺は明日、一度北の世界に戻ろうと思う。すぐ戻るつもりだが、あっちに行ったらすぐには帰して貰えそうにないかなら…」

「ああ、久しぶりにタナカ様にお会いするわけですから、積もる話に、その、あれですよね?」

「ああ、アレだ…何故か帰郷してお客様として扱われてもいいはずの俺が、もてなさないといけなくなるだろう…」


 間違いなく説教タイムの後は、宴会が控えているはずだ。

 そして、そこでの料理は俺が作る事になるだろう…

 しかも町を挙げての大宴会になるはずだから、並大抵の労力ではない。


「そうですモー!それに、わしの料理の腕も悲しい事に大幅にあがったのに魔王様が満足されないので、是非元魔王様に食して頂いて足りないところを教えて貰いたいモー」

「ああ、お前の苦労は十分に理解している積もりだ。もしかしたら、俺が魔王を退位して一番迷惑を掛けたのはお前かもな?すまないな」

「その言葉だけで救われるもー…でも、元魔王様が戻ってもらった方が救われるモー」


 そう言って豪快に笑うモー太につられて、俺も荒神も大声を出して笑う。


「それだけじゃないモー!城下町の子供達も次はいつ帰って来るのか、いっつも会うたびに聞かれるモー!なんか、新しい料理を勉強しているらしくて、早く食べてもらいたいって言ってたモー」


 うん、それは楽しみだな。

 こないだの卵焼きも、子供が作った物にしてはかなり上出来だったし…うん、北の魔族は何をやっているんだ?

 このままじゃ、次世代は料理人だらけの魔王軍に、食材メインの親衛隊になるのか?

 ちょっと、頭が痛くなってきた。


「まあ、今日のところはうちの自慢の風呂に浸かって、ゆっくりしていくといい。明日、俺が転移で連れて帰ってやるから」

「それは助かるモー…タナカ様の転移は理不尽だけど、物凄く便利なのは間違い無いモー」


 うん、俺の転移魔法はもはや北の魔族からすると、最強の攻撃魔法扱いになっているらしい。

 なんせ、抵抗不可能な転移魔法だからな…

 そのまま転移でマグマの中に突っ込まれたら、もしくは地中深くに転移させられたらなすすべなく死を待つだけという認識だ。

 とはいえ、俺は攻撃に使用するつもりどころか、そんな発想すらしてなかった訳で。

 若干、不本意な思いをしている。


 ―――――――――

「いやあ、良い風呂だったモー…元魔王様のアイデアは外れが無いモー…ん?お主らは?」

「ん?ああ、ブルータスとシャッキか、どうした二人揃って?」


 モー太を案内するついでに一緒に温泉を満喫して廊下に出ると、ブルータスとシャッキが待ち構えていた。

 2人は若干緊張した面持ちだが、その目にはなにやら固い決意のようなものが見える。


「いえ、先ほどその御仁に対してなすすべもなく突破を許してしまい、申し訳ない」

「ん?そんな事か?まあ、気にするな。こいつの突進力はちょっと異常だからな」


 俺の言葉に対して、2人が首を傾げる。


「まあ、その突進を片手で受け止めるタナカ殿も大概異常だと思うのだが…」

「そうか?それで何の用だ?」


 シャッキが苦笑いしながら呟いているが、そんな事より何しに来たんだろ?


「で…一度、本気の状態でモー太殿とお手合わせお願いしたいと2人で相談して、こちらに足を運んだわけなのですが」

「おいおい…遠路はるばるきて疲れてる上に、折角お風呂で汗を流したっていうのに、今からか?それはちょっと、中央の魔族とはいえ失礼じゃないか?」

「ええ、出来ればお風呂の前に一汗と思ったのですが、すでにお風呂に入られたという事だったので、後日で良いので、手合わせの約束をしてもらえたらと」


 まあ、流石にそこまで自分勝手じゃないか。

 別に、手合わせ自体が悪い事とは思わないし、日を改めてならいいかな?


「どうだモー太、2人がこう言ってるが今度時間作って相手してやってもらえないか?」

「ん?別に今からでも構わないモー!そしたら、もう一回このお風呂に入れるモー!」


 えらい軽いな。

 俺なら、折角の風呂上りにこんな面倒は御免だが、モー太が良いっていうなら…別に良いか。


「それに、手合わせして、一緒に汗を流して、その後一緒にお風呂に入って言葉を交わせばお互いより深く理解出来るモー!」


 うん、相変わらずおおらかな性格のようで安心した。

 俺なら、こんな失礼な奴等、この瞬間に汗一つかかずにけちょんけちょんにしてやるけどな。

 まあ、モー太に任せようか。


「宜しいので?」

「構わないモー!それに、新しい元魔王様の幹部の力も知りたいモー!」

「ははは、お前ら責任重大だな!これで、一矢報いる事が出来なかったら、中央の魔族どころか俺の評価も下がるからな」


 俺の言葉に、2人の顔がサーっと青くなる。


「えっ?そこまで大げさなものじゃ」

「いや、本当に軽い気持ちでちょっと手合わせしてもらえたら…」

「さっ、決まったからにはさっさとやっちゃおうぜ!」


 そう言って俺が指をならすと、一瞬でお馴染みの荒野に転移する。

 といっても、時間停止型の幻惑魔法によるイメトレだが。


「おお相変わらず出鱈目だモー…しかも、これはあれかモー?」

「ああ、例の奴だから全力を出し貰っても構わないぞ」

「例のあれ?」

「というか…マジで強制転移半端ねーな。この魔法だけで世界を滅ぼせる気がしてきたわ」


 うんうん、転移魔法如きで驚いてないでさっさと済ませろ。

 つっても、どんだけ時間掛けたところであっちじゃ1秒も経たないんだから構わないけどさ。


「まあいいや、とっとと終わらせろ!」

『それはどっちに向かって言ってるのですか(モー)?』


 俺の言葉に3人が疑問をぶつけてくるが、そんなの決まってる。


「ん?別にそんなに興味が無いから全員に言ってるのだが?」


 俺の言葉に3人がガックリ来ているが、まあ知ったこっちゃない。


 ―――――――――

「…」

「…」


 おーい、ブルータスとシャッキ君、大丈夫ですか?

 幻惑魔法を解除したというのに、目の前の2人は真っ白に燃え尽きている。


「便利な魔法だモー!汗一つかいてないモー」


 モー太はそんな事を口走っているが、他の二人は周囲をゆっくり見渡した後でダラダラと冷や汗のようなものを流し始める。


「な…えっ?はっ?」

「あれ?あっ、生きてる…というか、腕?ある…足も…無事か…」


 ようやく状況が掴めてきたのか、2人が自分の手を握ったり開いたりしながらボソッと呟いたあとで、心底安心した様子で溜息を吐く。


「凄い魔法だモー!時間停止型の幻惑魔法らしいけど、その世界での疑似体験は現実と区別がつかないモー」

「えっ?幻惑魔法?はっ?いや、痛みも感覚もちゃんとあったのですが?」

「いや、俺死んだかと思ったわ…ていうか、なんやあの魔法?隕石群を召喚するとか…しかも、物理無効とか…モー太さんは北の幹部の軍団長か何かなんか?}


 ようやく状況を理解し始めた2人が、モー太の方を恐る恐る見つめる。


「ん?わしは北の魔国の料理長だモー?他の幹部も似たりよったりだモー…一応序列2位の絶倫は、その幻惑魔法も使えるようになったモー」

「…」

「…」


 モー太の言葉に2人が再度固まる。


「なあ…大魔王ってさ、なんでこの人に喧嘩売ったの?」

「…幹部がすでに魔王級を遥かに超えてるやん?」

「魔王級って、ははは笑わせるな?こいつらなんて元魔王の俺からすれば、まとめて相手しても傷一つ負わずに制圧できるぞ?」

「タナカ様は魔王級とは言わないです!」

「ああ、タナカはんは規格外ですわ。というか、このレベルを纏めて相手出来るとか…嘘でっしゃろ?」


 俺の言葉に二人が大げさに驚いているが、本当に大した事無いんだけどね。

 確かに、ちょっとはチート級っていう自覚はあるが、中央の世界の魔族から見てもそんなにモー太は強いのか…


「うん?無理だモー!元魔王様の魔法障壁を傷つけられるのは、現魔王様か…スッピン殿ならあるいは、でも、障壁を破ったところで完全状態異常無効をどうにかしないと、傷はいれられないモー」

「完全状態…異常無効?」

「そうだモー!外傷も状態異常に含むという認識らしいモー」


 モー太の説明に、2人の顎が外れるんじゃないかというくらいに大口を開けて驚いているのが面白い。

 まあいいや、2人の事はもう放置しておこう。


「じゃあ、モー太久しぶりに旨いもん食わせてやろう。ご苦労だったな」

「いえいえ、久しぶりに戦う事が出来てこっちも楽しかったモー」


 それから2人で大広間に移動して、他の魔族を集めるようテレパシーを飛ばしたところで…


『なんじゃそりゃーーーーー!』


 というブルータスと、シャッキの声が城内を木霊するのが聞こえた。


ブクマ、評価、感想頂けると幸せです。

北の魔族は中央と違って割と自由に振る舞ってくれるので楽ですね、

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(仮)邪神の左手 善神の右手
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