田中城はえらいこっちゃやで
シャッキ回です。
「こ…これは!」
わいは早速案内されたお風呂のあまりの広さに卒倒しそうになった。
まず、湯船がでかい!
にも拘わらず一つじゃないとかどういう事や?
聞けば、風呂によって効能が違うらしくそのどれもが素晴らしいものとしか表現のしようがない。
自分のボキャ貧に呆れつつも、湯船を変える度にこりゃええのうと呟いていた。
一緒に入った荒神はんいう、これまたとんでもない魔族もまんざらじゃない感じやったけど、このお風呂にケチ付けられる奴なんかおらへんやろ?
それからサウナっちゅうやつと、水風呂のコンボは素晴らしいな。
体ん中の悪いもんが全部汗になって出とるんちゃうか?ってくらいに大量の汗を流して、水風呂でキュッと身を引き締める。
まあ、でもサウナは原始的な仕組みやからまだ理解できたけど、他の温泉はどうやってあの変な金属の管からお湯が出とるんかさっぱり分からんかった。
分からんかったといえばシャワーいうやっちゃな。
蛇口言うもんを回すとお湯が出てくるんやが、温度をものすごう細かく調整出来て自分の好みの温度に出来るっちゅうんは素晴らしいかったわ。
あと石鹸言うたら、固い石みたいな塊でなかなか泡立たんイメージやったけど、ずんぐりした容器の頭を押したら出てくる液体?これ凄いな。
ちょっと手で擦ったらものっすっごい泡だってびっくりしたわ。
しかも、頭洗う用、髪の手入れ用、体洗う用、顔洗う用ってどんだけあるねんっちゅう話やわ。
全部試してみたけど、中々気持ちええもんやったわ。
他には顔の消しゴムってなんやねん!そもそも消しゴムってなんやねん!
取りあえず使ってみたら、顔からボロボロ粉みたいなんがこぼれ出して顔が削れとんかと思ったわ!
どうやら、肌を綺麗にするもんらしくて、毛の生えてくる穴の中に溜まった角質いうんを取ってくれるみたいやけど、そんなん気にしたことないわ!
「しかしまあ、このジェットバス言うんは気持ちええのう…」
「はい、田中様が苦心して作られただけあって、私も気に入ってますよ」
横で頭にタオルを乗っけて目を細めてる荒神はんが同意してくれる。
ここに住んどる連中はこんな素晴らしいお風呂に、毎日浸かっとるんか。
そりゃ、ここから離れられんことなるのもよう分かるわ。
それから露天いう、外のお風呂に行ってみたらどっかで見た事ある熊が、鼻歌歌いよったわ!
おい大佐!お前こんなとこおったんか!
まあ、こないだの戦争で殺されんとったから良かったわ。
「おお、これは若ではないか!貴殿もこちらに参ったのですか?」
「ああ、ええ!ええ!わいとお前の仲や、今じゃ四天王でもなんでもないただのタナカはんのお友達っちゅうやつやから、普通に喋ったらええ」
「そうか?ならそうさせてもらおう。それにしても、ここのお風呂は格別じゃろう?」
「そうやな…こんなところに浸かっとたら、大魔王に従って人間襲っとたんがアホらしゅうなってくるわ」
「ハハハ!そうだろう?とはいえ、貴殿は人間にもちゃんと権利を与えて、住み分けも考えておったからのう…もともと、侵略には反対じゃったのじゃろう?」
「かなんなー!でもあんたんとこのオカンのせいやけーの?あの人の話聞いとったら、人間とも仲ようせんとあかん気がしてくるでな」
わいの言葉に、グレズリーが嬉しそうに豪快に笑って背中を叩いてくる。
「いやあ、やはりお主はええのう。流石、わしの上司じゃった男じゃ!まあ、じゃから付いて行ったっていうのもあるけどのう」
「ワイも、グレズリーみたいな部下がおってくれたお陰で孤立せんですんだしのう。とはいえ、その点じゃタナカはんは安心やな。わいらと同じ考えの持ち主みたいで良かったわ」
「ああ、そうじゃの。それでいて、あの底の見えない強さ…もしかしたらもしかするかものう」
もしかしたら…大魔王を倒すかもしれない…
いや、もしかしたらやあらへん、あれはどう見ても大魔王より役者が上や。
現に、無理やり連れてこられたかもしれへん大魔王軍の配下達もここじゃ伸び伸びすごしているしの。
カリスマっちゅうもんが溢れ出とるわ。
それから暫く北の塔ではなかなか難しかった旧友との会話を楽しむと、お風呂から上がって自分の部屋に戻る。
この畳っちゅうのはええなあ。
なんとなく温かい気がするし、匂いがええ。
自然に包まれとる感じがして、落ち着くわ。
―――――――――
「シャッキ様、夕飯の準備が出来ました」
元部下のバニーがわいを呼びにくる。
気が付いたら寝てもうたみたいやな。
割と目覚めが良い…それもここが自然に包まれているという事も関係しとるんかな?
何より空気が濃い…
「そうか?ああ、様はつけんでええ…というか、そんな畏まらんでもええで?もう上司やあ…ら…へんし…?」
「どうかされましたか?」
タナカはん!あんたなんてもんを作るんや!
わいは目の前に飛び込んで来た、薄い綺麗な布を前で合わせただけのバニーに目のやり場に困った。
とはいえ、下にも白い布を着込んではいるようだが、そのたわわな胸が零れ落ちそうな谷間とか、裾からチラッと見えた太ももとか…見えそうで見ない微妙なライン。
さらに、バニーに良く似合った色と模様の布…
そのすべてがストライクや!
「ああこれ?タナカ様が用意してくださった浴衣っていうものらしいですよ!綺麗でしょう?」
「ああ、綺麗や…」
袖を持って目の前でクルリと一周してみせたバニーに目が釘付けや。
思わず見惚れてしもうたが、バニーのクスっという笑いでどうにか我に返ると、自分もその浴衣いうのに着替えて食堂に向かった。
どうも下がスースーするが、肌触りも良く着心地も悪くない。
そして、何より楽だ。
この寝間着だけでも、相当な稼ぎになりそうやななんてことを思っていたら、食堂というか大広間に案内された。
―――――――――
「まあほとんどの人が知ってると思うが、新しい仲間のシャッキ君だ!俺の友達になってくれたから、今日はその歓迎会を開こうと思ってな。長々しいのは無しだ、これから飯を突っつきながら話して親交を深めよう!乾杯!」
タナカはんの音頭で全員で乾杯をすると、それから食事が始まる。
今回はここでは珍しいコース形式らしい。
というのも、思い付きでタナカはんが作りだした藁で出来た自動で動く人形に料理を運ばせることを思いついたらしく、これなら懐石っぽい事が出来るななんて言い出したらしい、
お陰でタナカはんはちょいちょい座敷から出て行って料理を作ってるようやけど、これまた異常や。
部屋を出て一分もせんうちに、藁人形が料理を運んでくる。
しかも温かいのから冷たいのまで、どうやったら一分で調理出来るんか驚愕したわ。
しかも、この藁人形の纏った魔力も、そこそこの魔族に匹敵するものやから、そんなもんをゴーレム代わりに作れるタナカはんに戦慄すら覚えたわ。
「最初は食前酒に果実酒と、あとは豆腐を使った料理だ!まあ、小難しい事を言ってもわからんだろうから、味わってもらえたらそれでいいよ」
なんともまあ、大雑把な説明なのに料理はほんまもんや。
しっかりと味わって食べると、いろんな複雑な味がするけどもそれぞれが上手く調和が取れていて薄いようでいながらも、しっかりとした味を出している。
こんなん反則やろ?
この最初の料理を、大皿一杯にして出して貰いたいほどの美味さや。
次に汁物…味噌汁言うてたけど、上品な味やったわ。
野菜が申し訳程度と、太い骨にこれまた申し訳程度の身が付いた魚が入ってたけどこんな美味しいスープは飲んだことあらへん。
次に運ばれてきたのは、生の魚やったけど醤油?いうん黒い液体に付けて食べたけど、これまたヤバイわ!
意識が飛んでくかと思ったわ。
魚を生で食べるいうんも吃驚やけど、それ以上にその甘みや歯ごたえに驚かされた。
あと、この醤油いうんがええ味だしとる。
魚の味を邪魔しないうえに、アクセントとしてしっかり主張してくる。
山葵いう、緑のディップもええなあ。
ピリッとして、ツーンとして、でも後引く爽やかさ。
しかも慣れてくると、微かな甘みもあって全てを合わせて絶品としか言いようが無い。
量が少ないのが欠点やな。
それから川魚を焼いたものに、いろんな山菜やら木の実が添えられて、小さな蓋つきの器には魚の卵がなんかようわからんもんに乗せられてたりと、見た目も華やかで綺麗なワンプレートが出て来た。
器も不格好ながらも、そこになんというんか自然を感じるというか…料理、部屋、景色に溶け込む控えめなデザインがええな。
ちょっとずつ、色んなものを食べるシステムなんやろうけど、そのどれも大皿一杯に食べたいと思わせるもんばっかりやったわ。
ここの入り口にあったイチョウいう木の実は素材そのままやったけど、中々に趣深い味やったな。
というか、素材本来の味を楽しめる料理ばっかりやな。
かといって手抜きやあらへん。
その素材の味を引き出すために、どれだけの技術が使われているかわからんような調味料がたくさんの種類用意されてて、とんでもない技術の高さが伺い知れる。
そもそも、この調味料だってこっちの世界で誰かが作ったなら、たぶん腕を見せつけるために調味料をもっとふんだんに使って素材を殺してでも技術を見せつけようとする料理人ばかりやろうな。
なのに、タナカはんはそれを控えめにすることで素材本来の味を最大限に引き出す事に力を入れてるみたいや。
勿体ないとは思わへん…ただただ、その博識に驚かされるばかりや。
この人は魔王じゃなくて、一流のシェフじゃなかろうか?
その後にはテンプラ言うフリッターみたいなもんやら、透けて見えそうな薄い肉を甘辛く焼いたものなど色々出て来たけど、その全てが量以外は非の打ちどころがない。
しかもその量すらも、時間と品数のコントロールで全てが出そろう頃には心地よい満腹感に満たされる事になってたわ。
最後の水菓子いうんもこれまたようわからんけど、絶品やった…
なんや、先付けやら、お凌ぎやら、中皿とか聞きなれん言葉ばっかりやったけど、結局10品以上食べた気がするわ。
そのどれもが、こっちの世界じゃメインになってもおかしくないクオリティーやったけどな。
―――――――――
それから何日か過ぎたけど、本当にええところやな…
人間の子供達も、なんも恐れる事なく本殿に遊び来て荒神はんや、中央の魔族とも仲ようしとる。
まだまだ人数は少ないけど、わいの理想とした国がここにある。
ただ、荒神はんには色々と驚かされたけどな。
まず、蛇の魔族のくせして人間の子供や辰子はんに一番懐かれとるというのが解せん。
それに、シュウ言う男の子に対して武術を教えとるみたいやけど、その教え方が上手いんやろうな…とてもじゃないが、子供の振るう槍じゃないでありゃ。
あんな調子で訓練しとったら、5年後には人間の中で最強になるんやないかな?
その荒神はんも、たまにタナカはんに稽古つけてもろうとったみたいやけど、もう次元が違い過ぎてなん言えんわ。
荒神はんの持つ鉾言う槍みたいな魔道具、あれヤバいわ。
ただでさえ、目で追うのがやっとの速度で突きが放たれるのに、時折形を蛇に変えて不規則な動きを見せてみたり、雷を纏って閃光を飛ばしてみたりと、反則やろ?
もはや神器の域に達しとるであれ?
しかも荒神はん自身も、大蛇になった途端に内包魔力が一気に膨れ上がるとか出鱈目すぎるやろ?
人化状態ですら、既に四天王を遥かに凌駕した魔力を持っとったいうんに、大蛇の質量に合わせて魔力まで増えるとか反則やわ。
十分に将軍に対抗できるだけの実力は持っとる。
いや、それ以上かも知れへん。
でもな…一番反則なんわタナカはんやわ。
その突きを全て指一本で軌道を変えて捌くとか、もはや神業やわ。
しかも鉾が蛇に変化して確実にその腕を捉えたと思うたのに、次の瞬間には逆にその蛇を掴んで荒神はんを引き寄せてデコピンで吹き飛ばすとか…なんやそれ?
大蛇になった荒神はんの全力の雷すらも、天に翳した指で受け止めてそのまま地に流すとか…お陰で近くで見てたわいが感電してもうたわ。
そのタナカはんに障壁を使わせて攻撃を受けさせる辰子はんも大概やけどな。
技術では荒神はんの方がまだまだ上かもしれんが、単純な攻撃力だけなら辰子はんの方が上で間違いないやろ。
しかも、聞けば彼女龍化するらしいやんな…
これ、大魔王はん絶対勝てんやろ?
このまま辰子はんが成長していったら、タナカはんやなくて辰子はんが大魔王倒す勢いやで?
しかも、その辰子はんに足元すら見せへんタナカはんが控えとるとか、終わったわ。
大魔王軍壊滅は時間の問題や…
まあ、タナカはんがノホホンとしとるんだけが救いやな。
明日は深夜帰宅、早朝出勤のため執筆不可です。
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