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北の赤鬼(後編)

ちょっと短めの進行回が続きましたが、次回から日常回に突入します。

「じゃんじゃん食ってーなー!」


 そう言いながらシャッキがあれやこれやと注文する。

 いま来ている場所は「わたしの居酒屋」と呼ばれる大衆居酒屋だ。

 魔族統治下の町としては珍しく、人の姿もチラホラと見える。


「おばちゃーん!串盛り合わせ追加で!」

「あいよー!」

「生まだー?」

「ちょっと待っとくれ!」


 こんなやり取りがあちらこちらから聞こえる。

 見せの入り口では、店内での一切の差別を禁ず…赤鬼と書かれた紙が貼られており、その言葉の通り魔族だからと店員がへりくだる様子も無い。

 とはいえ、魔族席、人間席とそれぞれが座る場所は区切られている。

 そして、俺たちは3人とも人化して人間席側に座って居る。


「わいはな、いつかはこの壁を取っ払いたいと思っとるんや」


 シャッキがそう言いながら、この世界では珍しい濡れおしぼりで顔を拭く。

 なかなか日本人臭い仕草に思わず笑いそうになるのを堪える。


「つっても、あなたは四天王の1人でしょうに。そんな事言って良いんですか?」

「敬語はやめてんか?わいより強い奴にそう畏まられると、恐縮してまうわ」


 俺の肩をバシバシ叩きながら、軽く微笑んで見せるこの目の前の赤鬼に好感を覚えつつも、俺も肩の力を抜く。


「そうか?そうだな…まあ、こうして同じ机で飯を食うんだ。お友達って事で。それにしてもお前も変わってるな」

「ん?良く言われるけどな…けど、わいの事を可愛がってくれてたおばちゃんが良く言ってたんや、人も魔族も仲良いしたらええのに…そしたら世界はさらに広がるのになーってな。確かにわいら魔族だけやと、出来へん事も多い。現にこんな風に色んな食べ物や酒を造るんはみんな人間や!それに確かに旨いしな!」


 そう言いながら、突き出しの切り干し大根を食べながら先に運ばれてきたビールを口につける。

 まあ、この世界の文化水準で作られたビールだから、雑味が多くてお世辞にも旨いとは言えないが、それでも魔法でキンキンに冷やしてあるだけ有り難い。

 ちゃんとジョッキも冷やしてあり、同郷の者のおもてなしの心を感じ取る事が出来る。


「まあ、俺もどっちかっていうと魔族だからとか、人間だからってのは良い事だとは思ってないけどな。こんな事を声を大にして言える場所はそうそうないが」

「やろ?そもそも魔族は魔力や魔法に頼り過ぎてる部分が大きいからな。その点人間は非力やけども、その知恵で生活を豊かにし、魔族とも渡り合えるような武器を開発しとる。これはえらいこっちゃやで?魔族には到底無理な話や」


 ちょっとその言葉は耳が痛い。

 基本的に、俺は魔力でなんでもする魔族の最たるものだと思う。

 確かに、この世界の人間達は未発達ながらも、様々なものを作り出し、魔族の妨害を受けながらも徐々に文化を築き上げていってる。

 それは戦争の無い日本では、考えられないほどの労力だろう。

 力を付けすぎた国は魔族に狙われて、早々に潰されてしまう。

 それでも、生き延びた人たちが技術を伝承し続けていった結果が今だろう。

 わたしのグループは…おそらく異世界の知識を使って急激に成長しているわけだから、これには当てはまらないだろうし、上手い事魔族とも取引をしている辺り抜け目がない。

 そもそも同郷のものならば、戦闘に関する能力も侮れないはずだ。

 いつかは、私のグループの運営側の人間とも会ってみたいな。


「私もこの世界の初めての友達は人間だったよー!」


 辰子が運ばれてきたポテトフライを摘みながらシャッキに言うと、シャッキが頬を綻ばせる。


「ああ、素晴らしい事やでそれは!そのおばちゃんも言ってたわ、子供に種族の貴賤無しってな。その友達は大事にせなあかんで?これからの世界は人間と共存するべきやとわいは思うてる。けどなー…知っての通り大魔王様も、その配下の魔族も人間を見下しすぎなんよ…いつ足元を掬われかもわからんほど、人間は進歩しとる言うのに…相変わらずの力に物を言わせた対応しかしとらん」

「ああ、そうだな…近いうちに中野は倒されるだろう。その時に頭を失った魔族が果たして人間にどう対応するか…」


 俺の言葉にシャッキが一瞬驚いた表情を浮かべた後、何かに納得したように頷く。

 それから真剣な表情でこっちを見てくる。


「カナタはん…あんた、タナカやろ?」


 いきなりバレた!

 って、まあ幹部も幹部、大幹部なら俺の情報は持ってて当然か。

 それに加えて、捻りの無い偽名…そこまで隠す気も無いから良いけどさ。


「ん?バレた?」

「バレた?やあらへんで!これこそえらいこっちゃや!ナカノ様に牙を剥く元北の魔王なのに、何呑気に四天王のわいと酒飲んどんのや」


 笑いながら言われてもあまり説得力は無いけどな。

 俺がタナカだという事に対して、そこまで悪い感情は持っていないようで少し安心する。

 というか、こいつは魔族の中でも異端なのだろうな…ようやく話が出来る同族に会えたというような感情が、笑みとなって零れている事に本人は気付いていないのだろう。


「それはお互い様だろう?俺の事をどの程度知っているかは分からないが、お前の考えには概ね同意だ」

「でしょうね…魔王というと、わいら四天王の上に並ぶ四人や、元とは言え上司に馴れ馴れしくて失礼やったですか?」

「気にするな…先に礼を不要といったのはお前の方だろう?それに、いまは同じ飯を食う友達だろ?」


 俺の言葉にシャッキが大笑いする。

 そして、ひとしきり笑った後に手を差し出してくる。


「そうやな…友達か…あんさんとならええ友達になれそうやわ。それにしても噂通りの御仁やな。人に対して寛容で、配下に人間を加え、城下に人間を住まわせる魔族の変わり者の先駆けや。一度お会いしとう思うとったんや。よろしくやで」

「ああ、噂されるほどでも無いし、変わり者というのは心外だがお前となら楽しい食事が出来そうだ」


 そう言ってその手を取ると、お互いに笑い合う。


「変なのー!でもパパにも友達が出来て良かったね」


 その様子を、今度は唐揚げもどきを食べながら辰子が笑いながら見ている。

 どうやら、唐揚げ粉の完全再現まではいかなかったらしい。

 流石に片栗粉の作り方までは分からなかったのだろう。

 一般に知られている知識ではないからな。

 こっちの世界でカタバナやカタクリは見た事は無いが、じゃがいもがあるわけだから、ちょっと知っている人が転移か転生してくればすぐに広まるだろうな。

 という事は、この世界で片栗粉を作れば一財産が築けるかもしれないな…


「そうやでー!パパとわいは友達、そして辰子も友達やでー」


 シャッキがそう言って手を差し出して笑いかけると、辰子が嬉しそうに握手をする。

 うんうん、こいつなら俺の城に来てくれるかもしれないな。


「じゃあ、友達のシャッキ君…きみ、うちに来る気は無いか?それも破格の友達枠としてだが」


 その言葉にシャッキが嬉しそうに微笑んだ後で、少し難しそうに顔を歪める。

 まあ、大体の理由は分かるけどな。


「ああ、その誘いは嬉しいんやけどな…ほれ、わいの心臓には楔が打ってあるねん。大魔王様を裏切れないように呪いが掛けられとるんよ」

「その呪い…俺なら簡単に解けるぞ?」


 俺の言葉にシャッキが思わず目を見開く。

 まあ、ブルータスもまさか大魔王の呪いを解けるものが居るなどとは、露ほどにも思って無かったくらいだからな、当然の反応だろう。


「ほれっ!」


 俺はそう言うとシャッキの胸の辺りに手を突っ込み、魔核を一度破壊したあと、再度綺麗な状態で再生させる。


「これでどうだ?」


 自分の胸の辺りを触って、大きく溜息を吐く。

 それから、諦めたようにまた笑いかけてくる。

 良く笑う奴だ…裏の無い良い笑顔、それだけで信用に値するだろう。

 そもそも、俺を謀ろうなんてことは無理な話だしな。


「かなわんなー、楔が無くなった時点で大魔王様には、わいが解放されたことは伝わるからな。この時点でわいは大魔王様の不審を買った訳や。タナカはんについていくしか、あらへんやろ?」


 うんうん、そうだよね…そうなの?

 ということは、ブルータスもすでに中野の元には戻れない状態だったのか。

 それは良い事を聞いた。

 というか、四天王のうち二人を奪われて中野はいまどんな気持ちなんだろうな?


「そもそも北の塔の守護者かて、北の女神はんはタナカはんが保護してるせいで不在やしな。元々そこまで大した仕事も持ってへんから、別にええっちゃええねんけど…本来ならわいと戦ってもろうて、屈服させてもらうんが筋やけど、それも辰子はんの実力を知った今となっちゃやるだけ無駄やん?」

「うーん、まあシャッキがどのくらい強いかはざっくりとしか分らんけど、少なくとも友達に強さは求めてないし…必要なら強化する方法はいくらでもあるしな」

「やんな?普通の魔族やったら、わいら四天王の強さに対してざっくりなんて言葉じゃ言い表さんで?その時点で規格外すぎるやろ?」

「んー、まあ実際青騎士とは戦ったし、大体は把握してるつもりなんだけどなー…あっ、そうだ青騎士も俺んとこに居るから」


 この言葉に流石に参ったのだろう、両手を上げて降参のポーズをした後に、ビールを一気に飲み干してジョッキをドンとテーブルに置く。


「元四天王、赤騎士のシャッキ!潔くタナカ殿の軍門に降ろう」

「大げさな、お前の心意気は俺の目指す世界に必要なものだからな、俺からしたら同士みたいなもんだ。この世界で初めての同じ志を持つ仲間に出会えたんだ、軍門に降るなんて言うな。友達を手伝うくらいの感覚でいいんだ」


 こうしてシャッキはあっさりと俺の仲間になることを選んでくれた。

 初めての、配下ではなく同志を得た事に喜びを露わにしつつ、シャッキを俺の城に案内する。


 ―――――――――

「あら、お早い…お帰り…ね?」

「えっ?シャッキ様?」


 俺を出迎えた犬男とネネの表情が固まる。


「なんや、お前らもタナカはんの友達になったんか?わいも今日から仲間入りやから、よろしくな」


 そう言って屈託の無い笑顔を向けるシャッキに苦笑いしつつ、説明を求む!と必至に目でこっちに訴えかけてくる二人を無視して城の入り口に進む。


「なんや凄い城やな!こんな綺麗な城見た事あらへん。ここどこに作ったんや?」

「ん?南の大陸の砂漠のど真ん中だが?」


 俺の言葉にシャッキが固まる。


「えっ?ここ砂漠なん?」

「そうだよー!パパが魔法でサササッと作ったんだよ!」

「えっ?魔法で?サササッと?」


 辰子の言葉を受けて、シャッキがギギギギとゆっくりとこっちに顔を向ける。


「とんでも無い方と友達になったもんやな…」


 それから呟くように漏らすシャッキに対して、辰子が手を引っ張って城の中に連れていく。

 どうやら、友達と言って貰えたことが存外嬉しかったようだ。

 はしゃぎながら城を案内する辰子と、城の設備の一つ一つに対して予想通りの反応を示してくれるシャッキの様子を見ながら、今日も宴かな?と思い食事の献立を考える。

 すまんなカイン…今回もお前は不参加だ。


色々と仲間が増えて、日常回が捗りそうです。

個人的には、シャッキの驚愕とグレズリー回と、北の世界の魔族回を書いて東か西に進もうかと。

その前にカイン回も挟むので、進行回まで空く予定です。

自分的には日常回の方が好きなのでネタが豊富になって嬉しいのですが。


ブクマ、評価、感想頂けると凄く嬉しいです。

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(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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