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北の赤鬼(前編)

今週は結構無茶な仕事量ですが、頑張ります。

相変わらず目は良くなってませんが、毎日ちょっとずつ書いてますので、エタる事は無いですよ♪

「ふーん、こっちはこんな感じなのか」

「屋根が尖がってる!不思議」


俺はいま、辰子とウララを連れて北の塔の近くの街に来ている。

この村では、殆どの建物の屋根が尖っている。

恐らく冬になれば雪深くなるのだろう。

雪が積もらないようにという工夫なのだろうな。


適当に露天で食べ物を買って、それを食べながら散策をする。

特筆すべき観光資源は無さそうだが、相変わらず魔族が大きな顔をして歩いている。

そういった魔族達が住むであろう建物は、一層独特な形をしており見ていて楽しい。

まず屋根の天辺に、そこに住むであろう魔族の姿を象ったモニュメントが飾ってある。

それが至る処にあるのだから、まるで彫像が町の上に展示されているような不思議な光景だ。


「変な町だね」

「ああ、自己主張の激しい魔族ばっかりなんだろうな」


辰子が上を見上げながら呟く。

激しく同意だ。

まあ、誰がどこに住んでいるか一目で分かるという点では、合理的かもしれない。

初めて来た友人に、家の説明をするのも簡単で良いかもしれない。

俺はごめんだが。


そんな事を思っていると、遠くの方で喧騒が聞こえる。

どうやら揉め事のようだ。

巻き込まれてはかまわないとばかりに、その場から離れようと足早に移動を始めるが、辰子がそっちに興味を持ったらしい。

ヨタヨタと、引き寄せられるように歩いて行く。


「おい、辰子!」

「ちょっと見てくるだけだって」


全く俺の注意を無視した様子でそっちに向かっていく辰子。

俺はやれやれと言った感じでその後を追いかけていく。

その先では、豚型の魔族が一人の青年になにやらいちゃもんを付けているところだった。

周囲にはその取り巻きだろう魔族がニヤニヤしながらと、青年が逃げないようにと取り囲んでいる。


「だから謝ったやん。兄さんも勘弁したってーな」


何やら軽い口調でその青年が応対したいる。

ふーん、人間みたいな見た目しているが、人化した魔族か。

ここにも酔狂な人間が居たもんだな。


「兄さんは関係無いだろう。儂が用があるのはそこの小汚いババアだ。邪魔をするならお前から殺してやろうか?」


取り巻きの魔族が邪魔で見えなかったが、青年の足元には一人の老婆が倒れている。


「儂の服に、そんな汚い汁を付けてただで済むと思うなよ」


どうやら、おばあさんが運んでいた料理の汁か何かが服に掛かったのだろう。

おばあさんの傍には、鍋がひっくり返っていて中身がぶちまけられている。


「そんなん言うたかて、デカい身体でお仲間さんと道に広がって歩いてたんあんさんやろ?おばあさん目も足も悪いみたいんやん。少しは気を遣うたらどうや?」

「ふんっ!わしらが通る時は、道の脇で控えて待つのが当たり前じゃ。そのばばあが、ちんたらしとるのが悪いんじゃよ…それより、貴様生意気じゃな!」

「お兄さん、もう良いんですよ…私の不注意ですので」


おばあさんが、申し訳なさそうに青年を引き留めているが、青年の方は引くつもりは無いようだ。

飄々とした笑みを浮かべながらも、静かに魔力を手に集めている。

どうするのか見ものだな…


「はいはいはーい!そこの豚さん達邪魔ですよー!それとお年寄りには優しくする!これ常識だよー」


おい辰子!

デカい声で辰子が、この集団に割って入る。

豚の魔族も、青年も、取り巻きもおばあさんもビックリした様子で辰子を見ている。


「なんや嬢ちゃん、こっちに来たら危ないで」


青年が慌てて辰子を庇うように、引き寄せる。

そして、豚が不愉快そうに片眉を上げて辰子を睨み付けている。


「おばあちゃん大丈夫?」


しかし、そんな事を気にする様子も無く辰子がおばあさんを助け起こして、服に付いた砂を払ってあげている。

うん、やってる事は正しいんだけどね…いま思いっきり喧嘩売ってたよね?

しかも、たぶんわざとだよね?

はあ、静観決め込むつもりだったけどそうも行かないかな?

そんな事を思っていると、豚がプルプルと震え始める。


「くそっ、今日は生意気な人間が多いな!おいお前ら、もう良い!この3人をかなり痛い目に会わせろ!」


豚が叫ぶと同時に、取り囲んでいた魔族達が剣を抜く。


「全く馬鹿な事をする奴がまだ居たとはな」

「しかも、そこの若い兄ちゃんだけならともかく、こんなガキが魔族に逆らうとは…親はどんな教育をしてんだ?」

「お嬢ちゃんを痛めつけるのは気が引けるが、大将があんなに怒ってるんじゃしょうがねーや」


最後のお前、全然そんな事思ってないよね?

凄く嬉しそうに辰子にロックオンしているのが分かる。


「はあ…人だって魔族が暮らしていく上での貴重な労働力やってのに、分かってへんなー」


青年が面倒くさそうに、魔力を解放しようとするがそれより先に辰子が動く。

取り囲んでいる魔族達に向かって、次々と蹴りを放つ。

目にも止まらない速さで、剣の柄頭を蹴り飛ばしていく。


「あっ…」

「俺の剣…」

「えっ?」


魔族達が間抜けな声をあげながら、蹴り飛ばされた自分の剣を眺めている。

駄目だよよそ見してちゃ…案の定、次は片っ端から鳩尾に拳を叩き込まれて体がくの字に降り曲がる。

それからその場に蹲る。


「おばあちゃん大丈夫?歩けるなら、すぐにここから離れた方が良いよ」


当の本人は、落ち着いてそのままおばあさんに逃げるように促している。


「えっ?いや、お嬢ちゃんこそこんなおばあさんは放っておいて、早く逃げないと」


おばあさんが心配そうに辰子を見ているが、辰子はニッと笑みを浮かべると首を横に振る。


「辰子は平気だよ!こんな弱っちい人達になんか負けないし。それにパパも近くに居るからね!ねえ、そこのおじさん、この人連れて逃げて貰えるかな?」

「お!おじさん?…おじさんかあ…」


おじさんと呼ばれた青年が、少し複雑そうに苦笑いしているが、まあ子供からしたらおじさんになるんだろうな。


「儂を無視するな!」

「五月蠅いよ!」


完全に置いてけぼりを喰らっていた豚の魔族が、ハッと我に返り辰子を怒鳴りつけるが、逆に辰子に怒鳴られビクッとしている。

若干声に威圧のスキルが乗っているので、見た目以上に迫力を感じた事だろう。

いつの間に、威圧なんて身に着けたのだろうか?


「はっはっはっは!面白いな嬢ちゃん!ええわ、ええもん見してもろうたお礼に、わいもお返しにええもん見したるわ。というか嬢ちゃんも魔族なんやろ?わしもや!」


青年がそう言って魔力を解放すると、髪が赤く染まり額から二本の角が生えてくる。

それから全身を赤い鎧が包み込む。

うん、どう見ても赤鬼さんですね。

という事は四天王の1人?


「えっ?シャッキ様?」


豚の魔族が途端に狼狽する。

おばあさんも驚いた様子で、その場で平伏する。


「まさか、四天王様とは露知らず大変失礼を致しました」

「ええんやで?失礼したのはわいの部下の方やからな!こいつらには、常々わいらの為に働いてくれてる人間の人達にも感謝せえ言うとるんやけどな?」


そう言って豚の魔族を睨み付けると、豚がガタガタと震え始める。


「たまには、こうして人に化けて町に出て見んとあかんな?赤鬼だけに?プックック」


何が面白いのかさっぱり分からないが、割と話が出来そうなやつだ。

それに、この見た目…俺の部下にするには十分過ぎるな。


「お前?わいの言う事が守れん言うんやったら、死ぬか出てくかのどっちかしかないのう?」


それから豚にゆっくりと近付いて行く。


「ひっ!すいません!ちょっと揶揄うだけだったんです。そんな、本気で怪我させようなんて思ってませんでしたって」


豚が慌てた様子で、額を地面に擦りつけて謝っている。


「ダッサ!」


辰子が一刀に切り伏せるが、豚がそっちを一瞬憎々し気に見た後、それを睨み付けるように見ているシャッキと目があって慌てて笑って誤魔化す。


「ハハ…あの、すいません。すぐに消えます!」


それから凄い勢いで逃げて行った。

お腹を押さえて、悶絶している部下達を置いて。

その様子を見て、シャッキが溜息を吐くがすぐに気を取り直しておばあさんを引き起こす。


「ごめんなぁ、折角の料理を台無しにしてもうて…家族に届けるつもりやったんやろ?こんなもんじゃ変わりにならんけど、これで変わりのもんでも買うて持っててあげてーな」


それから、懐からお金が入った袋を取り出しておばあさんに手渡す。

しかしそれをおばあさんが慌てて断る。


「いえ!料理はまた作れば良いですから。息子嫁がおめでたでして、少しでも負担を減らそうと思ってお節介焼いてただけで、頼まれた訳でも無いですし」

「うん、それは目出たいな!なら、これはお祝いって事で受け取ってや。もしどうしても受け取れん言うんなら、この地を納める領主として命令するわ。お金を受け取れーってな!」

「プッ!アハハハ!面白いお兄さんだね!おばあさんも、この人の部下に掛けられた迷惑料って事で素直に受け取っても良いと思うよ」


2人のやりとりに、辰子が大笑いをしたあとシャッキからお金の入った袋を奪い取ると、おばあさんの手に握らせる。


「本当に良いんですか?」

「良いって良いって!」

「お嬢ちゃんが言うかね?ほんまに面白い子やね」


辰子の大胆な行動に、シャッキも呆れたような笑みを浮かべているが、嫌な気持ちでは無いようだ。

おばあさんが、何度も2人にお礼を言いながらその場から離れていくのを辰子が笑顔で手を振って見送っている。

横でシャッキも、軽く手をあげている。

うん、中々に好感が持てるじゃないか、赤鬼さん。


「さてと…お嬢ちゃんただもんやないな?さっきお金の入った袋を取られた時、一切反応ができへんかったけど、正体は何者なのかな?」

「フフ、私は辰子!パパの子で、龍人だよ」

「うん…パパって誰やねん!」


辰子の答えに、思わずシャッキが突っ込んでいるが、辰子がちょっと困った表情を浮かべている。

それから、誤魔化すように笑いながらこっちに走って来る。

オイ、こっちくんな!


「これがパパだよ!パパの正体はね、ナイショー!」


全然内緒になってないよ?

取りあえず、パパの本当の正体はともかく、パパが誰かはバレちゃったよね?

まあ、いいけどさ。


「あんたが、お嬢ちゃんのパパさんか?なんや、普通やなー…と言いたいところやけど、とんでもないな。わいのこの赤い目は、変化や隠ぺいを見抜く力があるんやけど、それでもその人化の裏に隠された正体までは見破れんとわな…この嬢ちゃんのパパだけはあるな」


文字通り油断ならない目でこっちを見ているが、魔眼持ちか。

しかも誤魔化しを無効化する能力か…俺じゃなかったら結構厄介な能力だな。


「いえ、なら只の人間って事じゃないかな?」


俺が頭を掻きながらシャッキの方に近付いて行くと、シャッキがまたもや大声で笑い始める。


「フフフ、おもろいなあんさん。この嬢ちゃんのパパさんが、ただの人間なわけあらへんやろ?まあ、わいより強そうなお嬢ちゃんのパパやもんな。ここは仲良くなる方がよさそうやな…ようこそ我が町へ…何さんって呼んだら良い?」

「そうだな…カナタ、カナタとでも呼んでもらった良いかな?」


うん、こういう事もあろうかと一応偽名を用意しておいて良かった。

えっ?ひねりが無い?そんな事ないと思うよ。

多分、魔族って単純だから絶対にバレない気がするし。



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