青騎士に会ってみた(中編2)
すいません、ちょっと所用が出来たので途中ですが投稿します。
明日後編を書き上げて青騎士編完結です。
「美味しかったね」
「ああ、そうだな」
「キュー」
結局私のステーキハウスでたらふく食べた俺達は、ダラダラと町を散歩する事にした。
結構魔族と人間で生活レベルに差があるのは分かるが、それは仕方が無いか。
北の世界では人間同士で、貧富の差を目の当たりにしてきたが、この世界ではほぼ富裕層は魔族のみか。
そんな事を思いながら歩いていると、誰かが俺の裾を引っ張る。
辰子が何か欲しいものでもあったのかなと思って視線を下げると、知らない子がこっちを見上げている。
10歳くらいの男の子だが、着ているものは麻の袋を腰の辺りで紐で縛っただけの服だ。
それでも、異常な程にやせ細っているのは分かる。
「おじさん……これ買ってよ」
そう言って何かを差し出してくる。
良く見ると、小さな木の実のようだが……
「1個、銅貨1枚(1円)で良いよ……食べ物と交換でも良いけど……」
そう言ってこっちを見上げてくるが、ふとその後ろを見ると小さな女の子と男の子が壁に隠れてこっちを見ている。
うーん、THEストレートチルドレンって奴かな?
きっとこの子に施しを与えたら、次から次へとやってくるんだろうな……
そんな事を思っていたら、男の子が下を向く。
「やっぱり要らないよね……」
なんだろう、普通に訳の分からない木の実を売りつけて来て買うのを渋っただけなのに、この罪悪感。
「パパ、買ってあげようよ」
辰子がこっちを見上げてくるが、きっとこの子だけじゃない……色んな子供がここでは腹を空かせているに違いない。
1人を助ける事は出来ても……その全員をとなると。
まあ、簡単な事なんだけどね。
「君、ご両親は?」
「なんだよ! 衛兵に突き出すつもりか?」
俺が家族について尋ねようとすると、男の子が急に敵意をむき出しにした表情をする。
それから、木の実を隠すようにして逃げ出そうとする。
慌てて男の子の首根っこを掴むと、優しく問いかける。
「ああ、そういう意味じゃないよ。そこに隠れているのは弟さんと妹さんかい?」
「違うよ! あいつらは関係ない!」
壁際に居る子供達に視線を送ってから、男の子に聞くと慌てて否定する。
だが、不安そうにこっちを見ている子供達を見ると無関係とは思えないだろう。
「ふん! あいつらは本当に俺とは関係ないんだよ! というか、あいつらも俺も親は居ない! 魔族に殺された」
男の子が忌々し気にこっちを睨み付けてから、吐き捨てるように言うと俺の手から逃げ出す。
ふう、やっぱりストレートチルドレンか。
まあ、この街の人間の大人達に無関係な子供達を養えるような余裕は無いだろうし……
いったい、どれだけのああいった子供達がこの街に居るんだろうな。
「はあ……まあ、話を聞きなって。お前ら本当に両親は居ないんだな?」
魔法で転移して先回りすると、男の子が目を白黒させる。
「なっ! いつの間に」
「なあ、この街にお前らみたいな子供はどれくらい居るんだ?」
俺の質問に男の子が観念したのか、ぽつりぽつりと話し始める。
「知らないよ……あいつらだって、今にも飢えて死にそうだったからこの実を食わせてやったら、それからずっと付いてくるからさ。俺だって何度も捨てようと思ったけど、一度助けちゃうと見捨てるのも後味わりーじゃん」
やけに成熟した話し方だな。
どう見ても10歳くらいにしか見えないのだが……
「ちなみに君はいくつなんだい?」
「ん? 知らねーよ! 12歳過ぎた辺りから、もう日の感覚も無くなってきてるからな! 14~15歳くらいじゃねーか?」
この見た目で14~15歳?
そんなに背も高くないし、それにしては頬もこけているしとても幼いように見える。
「大体毎年、俺達みたいなのが沢山生まれて、同じだけ死んでいってるからな。死んだら、魔族が拾って魔物の餌にしてるらしいが、俺はあんな奴らの腹に収まるのはごめんだね! 泥を啜ってでも生きてやる」
中々に逞しいな。
その時足に小さな衝撃を受ける。
「こらっ! パパに何するの!」
辰子が俺の足を蹴っただろう小さな男の子をつまみ上げる。
「うわぁ! 放せよ! お姉ちゃんから離れろよー!」
お姉ちゃん?
ふと目の前の少年に目をやる。
14~15歳の少女にしては起伏も無いし、何より髪も短くて全体的に薄汚れてて男の子にしか見えないんだが。
「こらっ! たく。ジロジロ見んなよ! 女だってバレると色々と厄介なんだよ! それと、そこの嬢ちゃん、そいつを放してやってくんないか?」
「お兄ちゃんを返して!」
遅れて小さな女の子が駆け寄ってきて、辰子をポカポカと殴り始める。
「ちょっと、痛くないけど痛い! 分かった! 分かったから!」
「ふぎゃっ!」
そう言って辰子が男の子を急に手放したから、男の子が尻もちを着いて小さな悲鳴を上げる。
取りあえずこの娘は、見ず知らずの幼い兄妹を養ってるのか。
自分の事だけで精一杯だろうに、しかも成長が全然追いついてないから自分の分もこの子達に分け与えているんだろうな……
「はあ……まあ知るつもりは無かったけど、大事な秘密を知っちゃったからな……俺の秘密も教えてあげるよ。俺は魔族だ」
「なっ! 放せ! くそっ! 放せよー!」
途端に少女が暴れ始める。
つっても、碌に食事も取れていない子供の力でどうこうなるもんでも無いが。
「まあ落ち着けって。俺は北の世界の魔族だ! そして大魔王を倒す者だ」
俺の言葉に少女がポカーンとなる。
それから、ハッとしたかと思うとまた暴れ出す。
「だから何だよ! お前が大魔王にでもなるってのか? 無理だから諦めろって! あいつは化け物なんだからさ!」
「俺は人間との共存を目指している。俺が大魔王になったら、もうお前らみたいな子供が生まれないと誓ってやるからさ、ちょっと力を貸してくれないかな?」
「誰が魔族の言う事なんか信じるかってんだよ!」
少女が大声で叫ぶと、俺の手に噛みついてくる。
ちょっ、声がデカいって。
「お姉ちゃんを放して下さい! お願いします」
「おじちゃん、お姉ちゃんは本当は良い人なんだよ! お願いだよー!」
2人の子供も懇願してくる。
まあ、魔族に親を殺されたとなると、魔族の俺を信用しろってのも無理な話だろうな。
だが、救える力があるなら気まぐれで、親を失った子供達を全員救うのも悪くないだろう。
「もう、貴方達いい加減にしなよ! パパがその気なら、すぐにでも助けてくれるんだから!」
辰子が意味の分からない事を言い出す。
普通そこは、すぐに殺せるとかじゃないのか?
「パパは世界で一番優しいんだからね!」
それからエッヘンとふんぞり返って、訳の分からない自慢を始める。
まあ、そんなつもりは無いが子供を助ける事は吝かじゃないしな。
まあ、ここは辰子に乗っかるか。
「取りあえずさ、お前ら含めて身寄りの無い子供達ならいくらでも腹いっぱい食わせてく事くらい出来るけどな」
そう言って魔法で美味しそうなパンを作り出す。
少女はともかく、小さな子供達は目を輝かせてそのパンを見つめている。
そのパンを2人にそっと手渡す。
「いいの?」
「くれるの?」
2人がこっちを伺うように見てくるので、大仰に頷くとニコッと微笑んで見せる。
それから、2人が少女の方を見つめる。
少女がチッと舌打ちすると、暴れるのを止めたのでそっと下におろす。
「変な魔族だなあんた」
そう言って2人の子供がパンを食べる姿を優しそうに見つめる。
さてと、俺が何言っても信用してもらえないだろうしな。
その時肩の上からウララが急に唸り声を上げる。
あまり人どおりの無い道だと思っていたが、青い鎧を着た魔族っぽい男が歩いて近付いてくるのが見える。
「巧妙に人化してるみたいだが、魔族だろあんた? あんま迂闊な事しない方が良いぞ?」
見た所、額から角が二本生えているのを見ると、どうやら鬼系の魔族のようだが隠す気の無い魔力がただ者じゃない事を表している。
「お! お前は!」
その後ろから遅れて来た、見覚えのある豚が俺を指さして叫ぶ。
ああ、辰子に吹き飛ばされた豚か……
「こいつです青騎士様! この男の娘が私を虚仮にしたんですよ!」
それから唾を飛ばしながら青騎士と呼ばれた男に訴えかける。
「あ! あおき……し?」
「お姉ちゃん!」
少女が怯えた様子で、青騎士を見上げると2人の子供達がその陰に隠れる。
「なるほど、あんただったのか……俺の部下がお世話になったのは。それにその子供……龍だろ?」
中々に実力があるみたいだな。
流石百人衆相手に一人で立ち回ると言わせしめるだけの事はある。
といっても、俺からしたら大した奴とは言えないが。
「ふーん、そういう貴方は四天王の1人、青騎士さんですかね?」
「まあ、こんな鎧着てたらね。確かに四天王が一人、青騎士のブルータスだ。しかし、スチュアート……おまえこんな奴に喧嘩売ったのか?」
軽く自己紹介をすると、豚の方に向かって呆れたように話しかける。
豚が軽く狼狽した様子で青騎士から顔を背ける。
「この辺じゃ見かけない顔だな……初めましてタナカさん? ってところか」
「ふっ、どうでしょうね……」
流石四天王だけあるな。
すぐに俺の正体を見破るとは。
「タナカ? 青騎士様は、この男をご存知で?」
豚が青騎士に伺うように尋ねると、青騎士が眉間を指で押さえて首を振る。
「お前も百人衆なら少しは情報を持つようにしろ! ああ、この男が中野様を付き狙う北の元魔王タナカ……だよなっ!」
そう言って、青騎士が槍を作り出して俺に向かって鋭い突きを放ってくる。
その切っ先を人差し指で止めると、ニヤリと笑う。
「まあ、誤魔化せそうもないみたいなので……そうですよ、私がタナカです」
そう言って少し魔力を込めると、槍が切っ先から粉々に砕け散っていく。
「ちっ! なんで俺のところに来るかねー……おいスチュアート! この仇討ちは相当な謝礼を用意しとけよ! お前じゃ一生掛けても割に合わねーかもな」
そう言って今度は腰から下げた剣を抜く。
ふーん、やる気なんだ……
それにしても鬼か……欲しいなこいつ。
やっぱ、日本といったら鬼だろう……うん、こいつを是非とも配下に加えて―な。
「なあ、ブルータスと言ったっけ? 一つ掛けをしないか?」
「掛けだと?」
唐突にこいつは何を言い出すんだと言った表情をしているが、俺は至って真面目だ。
「もし俺に掠り傷でも負わせる事が出来たらお前の部下になってやろう……だが、傷一つ付けられなかった時はお前が俺の部下になれ」
「嘗めやがって……だが、悪くないな。元魔王が部下ともなれば、俺の出世も期待できるなっ!」
そう言って不意打ち気味に斬りつけてくるが、あまりの遅さに欠伸が出そうになる。
そもそも……
ガキッ!
俺の魔法障壁がただの斬撃で破れる訳が無い。
次から次へと繰り出される斬撃を、全て障壁で防いでいく。
「おいおい、これは洒落にならんぞ!」
「あ……青騎士様!」
豚が不安そうに声を掛ける。
ブクマ、評価、感想有難うございます。