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鮮烈デビュー!メシアタナカ颯爽登場!(タナカが強すぎて辛い~カイザル(誰?)の場合~)

進行チート回です。

 さてと……宿の部屋でゆっくりと寛ぐ。

 宿の名前は「私の宿屋」というらしい。

 ちなみに、村唯一の食事処は「私の飯屋」という……

 なんでも中央世界では「私の」グループが細々と、魔族の統治が行われていない村や街にフランチャイズを持ち掛け、グループに組み込んでいるらしい。

 年に一度売り上げの1割を上納する代わりに、魔物や魔族の襲撃で被害を被った場合、他のお店からお見舞金が貰えるらしい。

 ちなみにお見舞金は年の売り上げの5分ということだが、それでも世界各国から集められるとそれなりの金額になる。

 さらに農家と直属契約を結び、自社で物流や倉庫の統一を行う事で生産コスト、流通コストを大幅に下げているとか……これ? 地球人の仕業だよね?

 まあいいや、ウララは早々とベッドに潜り込んで寝息を立てているし……どうやら転移でよっぽど疲れたんだろうな。


 そして、村の外に探知を向けると森の入り口から少し入った所に大きな魔力を持った魔族と、凡そ1000体近い魔物が集まっているのを感じる。

 その魔物達からは禍々しい殺気が放たれ、その全てが村に向けられ刺すような空気の流れを作り出している。

 たかだか200人弱の人口しかいない村に放つ戦力としては過剰過ぎるだろう。

 と言ってしまえば、この1000体と1人に対する俺の戦力も過剰だろうが。

 その時、宿の扉をノックする音が聞こえる。

 この気配はヒューイか……


「ヒューイか? 入って来て良いぞ」


 俺が扉を開けずに声を掛けると、遠慮がちに扉が開かれる。

 それから、武装した爽やかな青年が頭を下げる。


「すいません、お休みの所を。それにしても扉も開けずに誰が来たか分かるなんて、ジュリアの話の通り凄腕の拳闘士さんみたいですね」


 拳闘士? うーん……どっちかっていうと魔法使いよりかな?


「常に気配探知を使っていたら、そのうち慣れて常時気配が分かるようになるさ……いろいろと便利だぜ?それよりも、急な用があったんだろ? ババ様の所にでも行った方が良いか」


 俺の言葉にヒューイが目を大きく見開いて驚きを露わにするが、すぐに何かを諦めたかのようにフッと柔和な表情に変わる。


「貴方も感じているのでしょうね……いや、先の気配探知の話を聞いたら当然の事ですね。ババ様が外にとんでもない量の悪しき者達が集まっていると言われて、貴方をすぐに連れてくるようにとの事でした」

「ああ、分かっている……時間が惜しいな。おいヒューイ、掴まれ」


 俺が手を差し出すと、ヒューイが少し首を傾げて考えるフリをするがすぐにその手を握る。

 俺の行動に意味が無い事などないと理解しているのだろう。

 本当に部下に欲しいくらいに頭が回る奴だ。

 すぐに転移でババ様の家の前に移動する。

 流石に家の中にまで転移するほど、無作法じゃないからな。

 予想以上の行動に、ヒューイが口をあんぐりと開けている。


「転移ですか……しかもこんなに簡単に無詠唱で……」

「フッ、俺は拳闘士というよりは魔法使いに近いからな。ほれ、この髪と目だし」

「確かにそうですね……私もジュリアの話で少し疑問に思っていたので、魔法使いなら納得です」


 ヒューイがそう言って、屋敷の扉を3度ノックしてから開けて中に入る。


「早いですね」

「ああ、急いで来ましたからね……用件は分かってますよ。森に集まってる客の話ですね」


 俺の言葉に、ババ様が目を閉じて頷く。


「率直に申しましょう、流石にこの数の魔物の暴威に立ち向かえるのは貴方様でも無理かと……ましてや指揮するのは魔族、それこそ勇者や英雄といった方々でも難しいでしょう。ですので、貴方が守れると判断した人数だけ避難させて貰えませんか?優先順位は若い順です」

「ほう……この村を守れ! とは言われないのですね」


 中々に謙虚な心掛けだ。


「フフ、今日会ったばかりの人に死ねとは言えませんよ……まあ、村の者を連れて逃げるというのも大分無理を言うようで心苦しいのですけどね。人が居れば村の記憶も残りますし、死ぬのは老い先短い老骨だけで十分ですわい」

「死ぬのですか?」

「全力で時間を稼げば……半刻……いや1刻は持たせて見せましょう。取り寄りの中には元兵士や冒険者もいますしの……年寄の意地を見せてやりますわい。代わりに村の者を1人でも良いからお願い出来ませんか?」


 そう言ってホッホと笑う老婆を見て頼もしくて立派な長老だと、また転生して初めて人間に本心から感心した。

 だからこそ、なおさらこの村を……この老婆の生きた証を消すわけにも……そしてこんなに立派な長を失わせる訳にもいかないな。

 その気概、是非とも後世に引き継ぐまでは生きて貰わないと。


「なるほど……ちなみに、貴女を含めて全員を避難させることも、そして森の魔物、魔族全てを屠る事もどちらでも出来ると言ったら?」


 俺の言葉に、老婆が眉をピクリと上げる。


「確かにタナカ様の御髪と瞳、そしてピリピリと肌を刺すような感覚から並々ならぬ魔力を内包しているのは分かります。ですが、全員を逃がすというのはともかく、魔物を殲滅するというのは……」

「タナカさんは北の世界から来られたのですよね? 中央の世界は他の世界の魔物や魔族とは桁が違いますよ!」


 ババ様の言葉に、ヒューイも同意する。

 確かに、この世界では魔物も魔族も俺が居た処よりは遥かに強いな。

 だが、俺の直轄の魔物の方がそれよりも強い……俺からしたら等しく雑魚だ。

 チワワかドーベルマンかくらいの差だ。

 ん? 結構違うな……


「というか、全員を逃がすとか……」

「俺が転移魔法を使えると言っても?」

「てっ! 確かにそれなら逃げる事は可能ですね……」

「まあ、結界くらいは張っておくから、いつも通りゆっくりしていると良いですよ。流石に助けられるだけの力があるのに、見捨てたとなると寝ざめも悪いですし」


 俺はそう言って立ち上がると、家の外に向かって歩きだす。

 その後を慌ててヒューイが追いかけてくる。


「馬鹿な……転移魔法が使えて逃げる事も容易だというのに、何故わざわざ危険な方に」


 ババ様が何やら呟いているが、期待されていない方が結果を出した時に効果も絶大だからな。

 これで良いだろう。


「ほ……本当に大丈夫なんですか? いや、タナカさんの事を疑ってる訳じゃないですけど……」


 いや、疑ってるよね?

 魔族に苦汁を飲ませ続けられたこの世界の人からしてみれば、弱気になるのも仕方が無いと言えば仕方が無いか。

 でも、俺にしてみれば英雄街道(シャイニングロード)が、イージーモード過ぎて笑いが込み上げてくるのだが。


「ああ、そんなに心配ならヒューイも見に来るか?」

「えっ……ええ、まあそうですね。タナカさん一人にお任せするのも、村の一員として情けないですしね。少しは自分も戦えますし」

「ふっ、おれは見に来るか? と言ったんだ。戦う必要なんかないから、弁当と酒でも持って眺めてたらいいさ」


 俺はそう言うと、村の外に向かって歩き始める。

 外では村から森に向かって風が吹き始めている。

 微かに魔力を感じる事から、魔族があえて森を風下にすることで匂いや気配を薄くしているのか。

 意外とこの世界の奴等、頭使ってやがるな……無駄だけど。


「タナカさーん!」


 そこにジュリアまで走って来る。


「ジュッ! ジュリア!」


 ヒューイがビックリした顔をしている。

 こいつこのタイミングで何しに来たんだ?


「だってババ様の所に行ったら、タナカさんとヒューイとババ様が何やら話し込んでるの聞いちゃってさ……」

「って、盗み聞きしてたのかよ! ならさっさと逃げる準備しろよ!」


 ヒューイが顔を真っ赤にして怒鳴りつけている。

 ヒューイの口から飛ばされた唾を拭いながら、ジュリアが腰のショートソードに手を添えてニッと笑う。


「フフン! 私の剣は人を助けるためにあるのだ!」


 俺は大げさにため息を付く。


「あのさぁ、千体の魔物が居るって聞いて来るか普通? 逃げるだろ? 1人でも多くの人連れて逃げろよ! ここで食い止められるとか本気で思ってんのか? バカなのか?いや大馬鹿野郎だな!」

「そ……そこまで言わなくても~」

「いや、今のはタナカさんの方が圧倒的に正しい!お前1人増えたところで、なんにも状況変わらないよ」

「ヒューイまで……」


 泣きそうな顔でジュリアが俯く。


「無駄死には、文字通り無駄死にだぞ?お前が立ち向かった事で他の人の寿命が数秒伸びるくらいか?逆にすぐにでも逃げ出せば救う可能性が生まれる……戦う事も逃げる事も手段、目的は守る事だろ?目的と手段を履き違えるなよ!」

「でも、タナカさんだって、1000体の魔物に挑むなんてバカげた事をしようとしてるじゃない!」


 おお、逆切れか?

 俺が強いの見せただろ?

 30体の魔物を瞬殺できるのに、1000体もそうそう変わらないだろ。

 1体に殺されかけたお前が言うな!


「それに、じゃあヒューイはなんで付いて行ってるんですか?」

「ん? こいつはギャラリーだ! やっぱり、観客が居た方が俺も盛り上がるしな」


 俺がそう言ってフフンと笑うとジュリアが、顔を真っ赤にして何か言いかけて押し黙る。


「ヒューイはそれで良いの?」

「ああ、もし万が一タナカさんがダメそうだったら、真っ先に村に伝えに行く役もいるだろうしな」

「ああ、その時は村全体に転移の魔法を発動してやるよ!」


 俺がそう言うと、ヒューイが肩を竦める。

 もうおれの大言壮語に対して、一切の疑念を持っていないようだ。

 いや、これは逆に腹をくくったのか……失礼な奴だな。


「じゃあ、私も見る!」

「えー」


 ジュリアの提案に、俺があからさまに嫌そうな顔をすると頬っぺたを膨らませる。

 この図々しさといいアホさ加減といい、あいつにソックリだな。

 思わず頬が緩んでしまう。

 確実に問題ないと分かっているが、今度は必ず救わないとな。


「おい、そろそろ見えてくるぞ」


 俺がそう言うと、二人が森に目を向ける。

 森の前に一人の人影が見える。

 あいつが、この魔物の頭領か……

 虎の獣人? にしては小柄だな。


「フン! 勘の良い奴も居たのですね。いや、それともたまたま森に入ろうとした所ですかね? どっちにしろ、最初の獲物は決まったですね」


 腕を組んだまま、虎の獣人が何か言う。

 ていうか、こいつ顔以外ただの人だな……

 タイガーマスク?


「おい……奴らを殺すのです! 村は支配下に置きますからね! 殺していいのは3割までですね……なるべく子供と女には手を出さない事ですね!」


 ふーん、中々に良心的な侵攻だな。

 それなら、1000体も魔物いらなくね? 圧倒的な力の差を見せつけて徹底的に心を折って回ってるってとこか。


「ヒューイ、ジュリア下がってお茶でも飲んでろ」


 俺はそう言うと二人の周りに魔法障壁を張る。

 それから、一歩前に歩き出す。

 目の前には虎の魔族、そして後ろには獅子や虎や熊、蛇といった猛獣から鷹や鷲の鳥類、さらには兎にネズミ、リス等と様々なの魔物が……無理やり数揃えるから、癒し担当の魔物まで集まっちゃってるじゃん。


「ちょっ、タナカさん! やっぱり俺も戦いますって!」

「そうだよ、獅子や熊もいるのに1人じゃ無謀ですって!」


 その無謀な事をするのは、お前の専売特許だろ。

 熊一頭処理できないジュリアに言われるとイラッとするわ!

 まあいいや、


「お前名前は?」


 俺が虎の魔族に指を差しながら聞くと、やれやれといった様子で首を横に振る。

 こいつもムカつくな。


「私の事を知らないのですね……まあ、知った所で死ぬだけですからね名乗るだけ無駄ですね。下等な人間風情がこの高貴なる百人衆の1人カイザル様に話しかける事ですら不快ですね」


 結局、名乗るんかい! というお約束をどうも。

 にしても、こいつの喋り方腹立つなー。

 しかもまた、百人衆……取りあえずもういっそ100人まとめて来てくんないかな?


「名乗らないんだ……じゃあ虎仮面ね!」

「虎仮面? 私はカイザルですね! 知らないみたいですが、100人衆の1人ですね!」


 知ってるし、さっき思いっきり名乗ってたじゃん?

 やっぱり、馬鹿だったっか……


「はいはい、じゃあお猿さん早くかかってらっしゃい」

「キー! このクズを殺してしまうのですね! 容赦はいらないのですよ! 早く、やるのですね!」


 キー! って本当に猿みたいだな……顔も真っ赤だし。

 カイザルが指示を出すと、その後ろに控えていた魔物が一斉に飛び掛かって来る。

 つっても様子見なのか嘗めてるのか、リスや兎ばっかりだけど。


「タナカさん!」

「ちょっ、キャー!」


 うるさいなー! いっちょ、英雄様の実力を見せて黙らせてやろうか。

 俺は上空に光の玉を作り出してギャラリーから良く見えるように周囲を明るくすると、左手に電撃を纏い次々と飛びかかって来る魔物を弾き飛ばしていく。

 当然雷属性付きの攻撃だから、片っ端から麻痺を発動しているが。

 それ以前に、俺の軽めの一撃で意識も命も刈り取られているから意味ないか。


「す……凄い」

「おお! 流石タナカさん!」


 2人が驚きに声も出ない……事は無く、ワーキャー言い出す。

 どっちにしろうるさいなこいつら。

 でも早速盛り上がってきました。

 この素直な反応やる気出るわー!


「クソなのですね! お前ら何やってるのですか?」


 カイザルがプルプルと震えている。

 それから冷めたような低い声で怒りを露わにすると、周囲の魔物達に緊張が走る。

 先発の獣の魔物に続いて、今度は他の猛獣達が死に物狂いで突っ込んでくる。

 そいつらにチラリと視線を送ると、俺は顎に指を当てて考える。

 どうしたのが一番カッコいいかな……やり過ぎるとまずいし、かといって苦戦するのも違うしな……

 そうだな、これを使うか。

 俺は手に魔力を集め、マイから奪った魔剣アロンダイトを呼び出す。


 その剣をしっかりと握って正面の魔物に目を向けていると、上空から意表を突くつもりで一気に滑空してくる鷹の気配を感じ、即座に左手で衝撃波を放って消し去る。


(剣使わないんですね……)


 そんな無言の視線を人間2人と魔族1人から向けられながら、いや結構距離が遠かったからね……

 まあ、純粋に剣技だけで切り伏せていった方が分かりやすいしカッコいいかな?

 魔法で殲滅でも良いけど、やっぱりお子ちゃまには分かりやすい強さの方が良いよね?


 俺は気を取り直して先頭を走る狼の魔物に対して、あえて見える程度の速度で近付くと反応すら許さずに首を斬り飛ばす。

 さらに、その場で一回転すると周囲を取り囲む他の狼の魔物達が、一気に切り伏せられ横たわる。

 一撃で数十匹の狼の首と胴体が別々になり、しばらく痙攣をした後動かなくなった。

 その様子を眺めていると少し間を置いて上空からゴリラの魔物が次々と降ってくるが、俺は後方に飛んでそれを躱す。

 それから着地を終えたゴリラの群れに近づき、体制も整えていない彼らに片っ端から斬撃を浴びせる。

 次々と切り刻まれ、物言わぬ肉の塊になっていく魔物達。

 なかなかに、かっこいい立ち回りだと自画自賛。


「す……凄すぎる」

「目で追うのがやっとです」


 よしよし、これなら俺の凄さが伝わっているみたいだな。

 なら、大技を使うならこのタイミングだろうな。


「【雷神の鉄槌(ゲンコツ)】!」


 俺の持つ剣が光り輝くと、一振り事に天から数発の稲妻が落ちる。

 次々と周囲を取り囲む魔物達が断末魔の雄たけびを上げて絶命していく。

 周囲が真黒な炭の彫像だらけになるまで、そう時間は掛からなかった。


 しかし、雷に耐性のある魔物も居るらしく、まだまだ結構な数の魔物が生き残っている。

 といっても斬撃の余波や雷撃に対して完全に無効化が出来たわけではなく、その目には怯えの色が見え隠れする。


「【氷の微笑(ベツニ)】」


 俺はゆっくりと横薙ぎに剣を払うと魔物達がビクッとするが、ダイヤモンドダストを伴う冷気のリングが広がって行き、なすすべも無く生き残った魔物達を凍らす。


「まあ、こんなもんかな?」


 俺が指を鳴らすと、凍った魔物達が砕け散る。

 何気にこのアクション気に入ってるよな俺……でも、圧倒的な力を持つとこういう気取った事もやってみたくなるのだよ、フフッ。

 辺りを氷の欠片が舞い、俺の作り出した光と月の光を反射してキラキラと輝きを放ち幻想的だ。

 きっと、2人の目には輝く英雄として映っているに違いない。

 魔力チートサイコー!


「バ……バカなですね! たかが人間にこんな事が出来る訳……ヒイッ!」


 カイザルが目の前の惨劇に震えながら、後ずさりを始めるがすぐ背後に転移した俺にぶつかる。

 それからこっちにゆっくりと視線を向けた後、小さく悲鳴を上げて飛び退ろうとする。

 だがそんな事は、許さないけどね。


「どこに行くのかな? お猿さん?」


 逃げられないようにカイザルの肩に手を置いて、思いっきり力を込めるとその場に立っていることもできずにカイザルが膝を付く。

 俺がそれを見下ろしながら睨み付けると、必死で抵抗して地面を這うように逃げ出す。


「くっ、魔物と魔族を一緒にしない事ですね! ちょっと驚きましたが、たかが人間に私を倒せるわけないですね!」


 カイザルが頭を振って落ち着きを取り戻すと、クックックと笑みをこぼす。

 取りあえず、イラッとしたので腹に思いっきり蹴りをぶち込む。


「グホッ……馬鹿な見えかったですね! そんな人間居ないですね!」


 だー、こいつムカつくな! その喋り方やめろっつーの!

 イラっときたので、腹に突き刺さったままのつま先を思いっきり蹴り上げると、凄い勢いでカイザルが上空に弾き飛ばされる。

 おおー、すげー飛んでったなー!


「うひょーーーーーーー! これは……でも私には翼があるのですね! 平気です……ですの……ね?あれ? いないのですね?」


 カイザルが凄い勢いで夜空のお星さまになりかけたが、咄嗟に背中に翼を生やしてブレーキをかけてその場に留まる。

 だけどね、悪いけどさ転移で先回りさせて貰ったから。

 俺はカイザルの上に位置取ると、チョンチョンと肩をつつく。


「誰なのですね? って、うわぁぁぁぁぁぁ!」


 こっちに振り返ったカイザルが、耳が痛くなりそうなほどの大きな悲鳴を上げると、今度は羽を畳んで凄い勢いで地上に向かって滑空を始める。


「くっそなのですね……でも、森に入ればこちらのものなのですね!」


 そうか、森に入るつもりなのか……木々の間に隠れるつもりなんだろうね。

 教えてくれて有難うね……でも逃がすかよ!

 俺は森全体に魔法障壁を張る。


「ブヘッ!」


 可哀想に、凄い勢いでカイザルが魔法障壁にぶつかってエリザベート……違う、ヘシャゲた蛙みたいになってる。

 やべー、ちょっと笑えるわ……是非ともこれは障壁の中から見たいな。

 俺が転移で森の中に移動して見上げると、カイザルがサランラップに顔突っ込んだ人みたいになって結構面白い。

 しかも鼻水やらなんやら一杯出てて、テレビ的には取れ高の高そうな絵になっている。


 障壁の内側ギリギリまで飛んでいくと、カイザルの目の前の障壁をコンコンとノックする。

 意識を取り戻した瞬間のカイザルの顔と言ったら、鼻水やら、涙やら、涎やらいろんなものを飛ばしてるのに絶望的な表情をしてて、そのミスマッチっぷりに大爆笑してしまった。


「てことで、さよーならー!」


 俺はカイザルに向けて転移を発動させ、村のど真ん中の広場に突き刺す。

 首だけ出たカイザルの周りの土を、魔法を使ってアダマンタイトに変質させると、さらに魔力を吸収する性質を付加させておく。


 置いてけぼりのヒューイと、ジュリアの所に戻ると二人が口をパクパクさせている。

 あれ? やり過ぎたか?


「ちょっ、飛んでた! タナカさん飛んでた!」

「……えっ? 剣も使えたんですか? 剣技? あれが?……なに? タナカさんってなに?」


 しかも村の方もザワザワしてるね……

 ああ、上空でも暴れてたし……光の玉なんか作り出したから目立ちまくっちゃったわけね。

 救世主の第一歩としては、やりすぎちゃったかな?


次回で、中央世界導入進行回は終わるつもりです。

また、ほのぼの日常回と閑話を挟んでゆっくり進行していきます。

ブクマ、評価、感想お待ちしております。

過分な評価を頂き恐縮しておりますが、それ以上に喜んでおります。

有難うございますm(__)m

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(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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