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【閑話】新魔王マイ爆誕!……予定

閑話です。

 タナカが去って2週間後の城内。


「至急幹部の面々は、マイ様の部屋の前に集まる様に」


 ついに、マイが目覚める兆候を見せたのだ。

 マイを包み込む繭に罅が入り、そこから膨大な量の魔力が漏れる。

 部屋の扉からも外に向かって溢れだす魔力の奔流に、城内の者達に緊張が走る。


「これは……タナカ様の足元にも及ばぬとはいえ……」

「ああ、キタ様を遥かに超えているでゴザル」

「やはり魔王は魔王というわけかモー……」

「ええ、すでに王者に相応しい域に達してますね」


 その魔力量は城内の全ての魔族を凌駕し、先までの新魔王に対する不安を払拭するには十分どころか余りあるものだ。


 ピキリ……


 そして、その時が来る。

 音を立てて繭が二つに割れると、中から一人の少女が現れる。

 繭はそのまま霧散し、少女はベッドの上に横たえるようにそっと運ばれていた。

 歳はおよそ12歳ぐらいだろうか……

 死の直前より若返ったのは新たな魂の構築故の影響か、それとも魔族に変異した影響か。

 またその瞳は右が元々の吸い込まれるような黒色をしており、左目が金色の瞳を持ったオッドアイであった。

 だがその事を気にするものは、この中には居ない。

 何故なら彼女は正当なる魔王であり、また実力も相応しいものであった。

 そして、ほどなくしてマイが目を覚ます。


「あ~あ、良く寝た……あれ? 私どうしたんだっけ?」


 2週間も繭の中で眠っていたのだ。

 死の直前の記憶は薄れ、生前の記憶を呼び覚ますことに神経を集中させる。


「おはようございます、新たなる魔王キタノ様」


 魔王の眠るベッドの脇。

 恭しく跪くエリーが、頭を下げたまま声を掛ける。

 その声に対して、煩わしそうに眉を顰める。


「ああ、エリーさん……ここは?」


 しかし、すぐにそれが慣れ親しんだサキュバスのものだと理解したマイが声を掛ける。


「はっ、魔王キタノ様の寝所にございます」

「魔王?」


 エリーの言葉にマイが首を傾げる。

 そして、その言葉の意味を考えて思い出す。

 そうか……私は死んだはず……ならば、何故生きて魔王などと呼ばれているのだろうか?


「はい、前魔王タナカ様がキタノ様に魔王の座を譲渡致しました。結果死の淵を彷徨っていた貴女様の魂の残滓は再び輝きを取り戻し、新たなる魔王として再誕致したのでございます」


 その言葉を聞き、記憶の全てが一気に蘇る。

 聖教会の神気に充てられて、タナカを殺そうとしたこと。

 大魔王中野の洗脳を受け、魔力と生命力の暴発を起こし身体が弾け飛んだ事を……

 そして、死の恐怖を……


 マイが両手で自分の肩を抱き震え始める。


「キタノ様?」


 エリーの声にも反応せずにガタガタと震え始め、

「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝ーーー」

 と呻き声を漏らす。


「キタノ様! 落ち着いて下さい! もう大丈夫ですから!」

「中野めー! 絶対に許さない! 聖教会も許さない!」


 ん? と今度はエリーが首を傾げる。

 顔を上げたマイの表情は憤怒に染まり、顔が真っ赤に染め上がっている。

 どうやら恐怖にガタガタと震えていたわけでなく、怒りにブルブルと震えていたようだ。

 元々空気を読めないというか鈍い所のある女だったわけだし、周囲の人には理解しがたい感情の起伏があるのだろう。


「それよりエリーさん、お腹空いた! あっ! タナカはどうなったの?」


 お腹空いたのキーワードでタナカを思い出す当たりが、流石は魔王として目覚めてもマイである

 その様子を見て、エリーもほっと肩を撫で下ろす。


「ええ、タナカ様ならすぐに大魔王中野様を倒して大魔王目指すと言って旅立たれました」

「くっそー! 先越された! じゃあ、私のご飯はどうなるのよ!」


 ここに来ても、タナカの心配より自分のご飯が心配とは……

 これから先の魔国の未来に一抹の不安を抱えながら、エリーが答える。


「新しい身体が馴染むまでは、暫くは城内にて静養を取ってもらいます」

「いや、そうじゃなくて、私のご飯!」


 確かにエリーの答えは、質問の答えになっていない。

 しかし、それに対するマイの返しもいかがなものだろうか?


「食事は最初は魔力を満たすものと、柔らかい流動食のようなものから始めましょうか。すぐに料理長に手配致します」

「えー……」


 あからさまに嫌そうな表情を浮かべるマイ。

 そして、ある事を思いつく。


「そういえば、私って今魔王なのよね?」

「はい、魔王様!」


 マイの質問に対して、エリーが満面の笑みで応える。


「ですので、まずは他の幹部の方々に面通しをお願いしたいのですが……」


 その言葉を片手で制して、マイがニヤリと笑うと魔力を集中させる。


「【三分調理(キューピー)】」


 それから嘗てタナカが得意としていた、あの魔法を唱える。

 ……

 ……

 ……

 しかし、何も起こらない。


「あれー? もう一度!【三分調理(キューピー)】」


 今度は鮮明に食べたい物を思い浮かべ、魔力を集めて呪文を唱える。


 ……

 ……

 ……


 しかし、またも何も起こることなく魔力が霧散する。


「エリー? どういう事?」

「さあ? あの魔法はタナカ様の固有魔法ですので……魔王様になったからと使えるものでは無いとしか答えようが……」


 その言葉に、マイの瞳に絶望の色が浮かぶ。

 死の瞬間より、悲痛な表情をしている。


「……ちょっと、体調がすぐれないからもう少し横になる」


 それから、不貞腐れて布団を頭から被ってしまう。


「あの、キタノ様……他の幹部の方も無事な姿を一度拝見致したいと申してますが?」

「いや、もう少し体調が戻ったらにしてもらえる?」


 それだけ言うと、マイは完全に黙り込む。

 まるで、食べたい物が食べられなくて意地になってしまった子供のようなマイに、エリーが溜息を吐く。

 しばらく声を掛けていたが、一向に反応の無いマイの様子に諦めて部屋を後にする。


「今日は大目に見ますが、快調なされたらまずは魔王としての心得を説かせて頂きますので、努々忘れられぬようお願い致します」


 それだけ言い残して、部屋から立ち去っていく。

 最後の言葉に込められた威圧にマイは、一瞬ブルッと身体を身震いさせたあと目を閉じて、ブツブツと何かを呟き続ける。


「【三分調理(キューピー)】」


 ……


「【三分調理(キューピー)】」


 ……


「【三分調理(キューピー)】」


 ……


「【三分調理(キューピー)】」


 ……


 結局、一度も魔法が発動することなく、マイはいつの間にか深い眠りに陥って行った。


 大丈夫か魔国……

 大丈夫か新魔王……

 そんな一抹の不安を抱えながら、エリーはマイの魔王育成カリキュラムの作成に取り掛かるのであった。



暫くはまったり、書きたい事だけ書くので分量がまちまちになると思いますが、ご容赦を。

ブクマ、評価、感想有難うございますm(__)m

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(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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