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勢いで魔王やめたった……今日から無職辛い……

第一部完結です。

 部屋が爆発で凄い事になっている。

 だが今はそれどころでは無い、急いでマイの魂の残滓をかき集めるが到底生を紡ぐほどは集まらない。

 このまま強引に復活させたところで、意思なき存在としかなりえないだろう。

 せめて暴発の直前に俺の手で殺しておけば、魂だけでも救う事が出来たのに……


「絶倫!」

「はっ!」


 俺が障壁で爆発の余波をある程度抑えた上に絶倫自身も障壁を張っていたにも関わらず、絶倫は身体中の至る部分に大きな怪我を負っている。


「マイを救いたい……方法を教えよ!」


 俺の言葉に絶倫が一瞬逡巡したのちに、口を開く。


「申し訳ありませんが、存じ上げませぬ……」

「俺を謀るのか?」


 若干の威圧を込めて睨み付ける。

 迷ったということは、無いわけではないということだ。

 にも拘わらず、知らないふりをする絶倫に思わず苛ついた。

 仕方ないだろう。

 迷惑を掛けられていたとはいえ、浅くない付き合いの知人が死んだんだ。

 救えるのなら、救いたいと思うのは当然のことだ。


「いえ、本当に……」

「魔王様!」


 その時、エリーがゆっくりと近付いてくる。

 どうやら先の爆発の衝撃で、意識が戻ったようだ。


「一つだけ方法が……」

「エリー殿!」


 絶倫が焦った様子で、エリーを止めようとするがそれを俺が手で制する。


「よい、言え!」


 俺の言葉に、エリーが唾を飲み込むとゆっくりと語りだす。


「魔王継承を行えば、魂の格が上がり……また、魔核が生み出される事で恐らく復活も可能かと……ただそれを行うと、魔王様は魔王様では無くなります」

「魔王様! それだけはおやめ下さい! 今魔王様がその地位を下りれば、魔国の安定は……それに魔王様自身も魔王としての力が失われます!」


 そこまで聞いて、俺は決心する。

 俺の地位一つで、こいつの命が助かるなら安いものだ。


「で、その方法は?」

「魔王様が、宣言をなされれば良いのです。心の底からマイさんに魔王を継がせたいと念じながら」


 俺の決心を知ってか、絶倫がエリーを睨み付けている。

 あんまり分からなかったが、絶倫も本当に俺を慕ってくれていたみたいだ。

 だが、すまんな……


「俺は魔王を辞める! 次期魔王は、ここにある魂の持ち主! 北野マイだ!」


 俺が力を込めて叫ぶ!

 すると、体の中心が引き裂かれるような衝撃が走る。

 まるで、心臓を二つに割るような、そんな痛みに襲われる。


「エリー! 何故だ!」

「私は、タナカ様の側近……主の一番の望みを叶える為の存在ですから……」


 意識が失われそうになる中、会話を続ける二人に目を向ける。

 絶倫に責められるエリーが、悲しそうな表情で漏らしているのが聞こえた。

 そして俺の身体から瘴気が漏れ出すと、それがマイの魂の残滓を包み込む。

 塵のように細かく砕け散った魂も集まってくる。

 そして、マイが弾けた場所に集まって人の形を作り出す。


「絶倫殿……控えなさい! 新たなる魔王様の誕生ですよ」


 エリーが片膝を付いて、その時を待つ。

 蛇吉もいつの間にか、横に来て同じように跪いている。


「くっ、私は認めぬ! タナカ様だからこそ、我らはここまで強くなれたのだ! あのような小娘に……」


 そういえば、こいつは昔は魔王の座を狙っていたんだっけ。

 俺が魔王になってからは、すっかり諦めたみたいだが……

 それは俺が魔王だからだったな……

 マイに、俺の代わりが務まるかな……

 そんな事を思っていると、魔力がゴッソリと奪わるのを感じる。

 俺の中から、魔王の核が引きずりだされたのだ。


 ……?

 あれっ?こんなもんだっけ?

 確かに大量の魔力を持ってかれたのは分かったが、それでも俺の魔力総量からするとほんの一部だ。

 まあ、それもそうか……

 魔王の核って言っても元々キタのだしな。

 魔王になる前からすでにキタより遥かに多い魔力を秘めていた俺からしたら、そんなに影響は無かったか……

 しかも、俺もあれから1年でそこそこ成長しているみたいだしな。

 魔王の核は漆黒の宝玉のようなものだった。

 それでも、心臓のように脈打っていることから、それが核だろうことは分かる。

 俺達の目の前でその魔王の核がマイの中に吸い込まれると、彼女の身体の周りを繭のようなものが包み込む。


「おい、エリー! あれはなんだ?」

「はい、あれは人間から魔族に変異するための……って、魔王様? なんで普通に喋れるんですか?」


 俺の質問に答えようとしたエリーがこっちを二度見して、口をポカンと開ける。

 見ると、絶倫と蛇吉も呆然としている。


「バカな……普通はあれだけの魔力を急速に吸い取られたら、魔力欠乏症で意識を失うはず……」


 絶倫が、それからどうにか絞り出したかのような声で漏らす。

 魔力欠乏症って……なんか貧血みたいなだ。

 貧魔力? それだと、魔力が乏しい人みたいだし。

 急性魔力中毒とか、魔力って一体何なんだろう……

 マイの肉体が戻り、魂も器に収まったことでようやく俺の心のざわつきも収まった。

 本当に良かった。


「ああ、別に俺の元々の魔力量からしたら、キタの魔力なんて大した事無いからな……」

「4世界最強の魔王の魔力が大した事ない?」


 俺の言葉に絶倫まで口を開けて固まる。


「はっはっはっは! 我が主は、ほんに想像の斜め上を行くお方でゴザル!」


 蛇吉が大声で笑いだしたのをきっかけに二人が動き始める。

 まず、エリーが俺の身体をベタベタと触り始める。


「魔王様! お体に異変はありませんか? 気持ち悪くは無いですか?」

「ん? なんにもないぞ! さっき、一瞬だけちょっと痛かったが今は平気だ! それより、これからはマイが魔王だから俺は……ただのタナカか?」

「一瞬? ちょっと? はっ?」

「特に影響は……無さそうだ」


 俺の言葉にエリーが安堵の溜息を漏らすとクスリと笑う。


「本当に規格外の人ですね……でも、無事で何よりです」


 それから、エリーがそう言って抱き着いてくる。

 まあ、死にはしないまでもそれなりに影響があるのが普通なんだろうな。

 ふと、絶倫に目をやるとプルプルと震えている。


「ふざけないでください! 私はどうしたら良いんですか! 目の前に魔王を遥かに超える存在が居るというのに、こんな矮小な生まれたての新魔王の幹部にならないといけない私の気持ちを考えてください!」


 あっ! 絶倫が切れた……

 てか、丁寧な言葉遣いの紳士ってエリーと被るな……

 声は全然違うけど。


「まあ、気にするな! それより、マイを頼めるか!」

「私は魔王様の忠実なる僕です! もはやただの魔人である貴方の命令に従う義務はありません!」


 ちょっ、絶倫掌返し酷くね?

 さっきまで、仲良くやってたじゃん!


「ですが……魔王様であることなどを抜きにしても尊敬に値するタナカ様の頼みですからね……断れませんし……それに忠実なる(しもべ)が新しい魔王様をサポートするのは当然の務めですしね」


 おっ……こいつもカッコつける事あるんだな。

 もっとお堅い奴だと思ってたが、まあその言葉が聞けただけで安心だ。


「それで、タナカ様はこれからどうなされるので?」


 絶倫に、これからの事を聞かれる。

 そんなの、勿論決まってるだろ?


「ふっ……取りあえず大魔王にでもなるかな?」


 俺の言葉に3人が一斉に噴き出す。


「流石規格外のお方」

「その暁には、是非私も配下に加えてくださいね……魔王の僕から大魔王の僕とは……大出世ですな!」

「ならば、拙者が生涯マイ殿のお守でござるか? タナカ様より大変そうでゴザルな」

「違いない」


 蛇吉の言葉に俺が返すと、辺りを笑い声が包む。

 さて、マイは目覚めるまで時間が掛かりそうだし、北条さんは相変わらず意識を失ったままだしな。

 取りあえず、今後の方針としては俺は中野を倒して大魔王の座に就く。

 そして、こいつらには聖教国を完膚無きまでに叩き潰してもらうか……

 いや、大魔王?

 せっかく、魔王っていう人間の嫌われ役から脱したのに。

 さらに上を目指すの?

 でも、中野だけは絶対に許せないからな。

 取り合えず、あいつを倒してから考えるか。


『聞こえるか! 俺は魔王を辞めた! 最後に元魔王のタナカとして頼む! 新たな魔王北野マイを助けて、聖教会を殲滅せよ!』


 俺の言葉に歓喜の声が上がるが分かる。

 一部からは悲痛な叫びも聞こえてくるが。


 俺の庇護が無くなったこいつらでも、聖教会くらいなんとかなるだろう。

 一応定期的に戻っては、手助けするつもりもあるしな。

 10聖剣というのも気になるが、いくらなんでもコウズさんより強いという事は無いと信じたい。


「取りあえず、中央の世界で暴れてくるかな」

第一章完!

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(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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