カインとスッピンそれぞれの辛い……
短めだったので2話目です。
そして、完全な閑話です。
「ほらっ、足元がお留守よ」
「えっ?」
次の瞬間顔に木の剣がぶち当たる。
「馬鹿じゃないの? 足元がお留守と言われて足を見る馬鹿がどこに居るの?」
ごもっともです。
私はカイン、目下スッピンさんに修行を付けて貰っているのですが、まったく足元にも及ばない。
まず、流れるような剣術を前に盾でどうにか防げてはいるのですが、剣を交えるまでには至っていない。
剣で受けようとすると、目の前で軌道を変えて容赦なく叩きつけてくる。
「目で追おうとするから間に合わないのですよ! 相手の気を感じ、流れを感じ、予測し対応するのです!」
「はいっ!」
目で見てから行動したのでは遅いのか。
なるほど、スッピンさんの気を感じて、流れを予測して攻撃を読めばいいのですね。
俺はそっと目を閉じる。
「目を閉じたら何も見えないでしょう! 馬鹿ですか? 死ぬのですか?」
そう言って容赦なく木剣を頭に叩き付けられる。
はいごもっともです。
それにしても容赦ないなー。
「まずは相手の動きを良く見る事から始めなさい!」
目で追うな、目を使え、相手の動きを良く見ろ、感じろ……さっぱり分かんねーわ。
その時、スッピンさんの右肩が少し下がるのが見えた。
これかっ! この動きから予測できる攻撃は、横薙ぎ系の攻撃だな。
もしくは下からの打ち上げか?
次の瞬間、また脳天に木剣が叩つけられる。
えっ?
良く見ると、左手一本で剣を持っていた。
フェイントですか……
「目で追ってたら、どこを見てるか一目瞭然でしょ! 視界全体で捉えなさい! この未熟者!」
おっしゃる事は分かるのですが、レベルが高すぎやしませんか?
結局、2時間の打ち合いで300回は当てられた。
全然勝てる気がしない……辛い。
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最近、カインさんがやったらと一緒に行動をしたがる。
最少は、剣術の指導だけだったはずなのに、気が付けば傍にいる。
「師匠と寝食を共にしてこそ、弟子ですから」
確かに一理あるが、男女でこれはどうなのだろう。
寝食を共にする男女と言えば、親子や、姉弟、夫婦ぐらいじゃないだろうか?
そこまで想像して、首を振る。
まあ、所詮私は木乃伊だ……やはり師弟という関係がしっくりくるな。
とはいえ……
「今日は、チビコ殿と花を摘みに行く故、待っていればいい」
「いえ、もしかしたら、花を摘む動作にも何かしらのヒントがあるかもしれません。着いていきます。私の事は気にされずに」
……正直鬱陶しい。
たまに魔王様に連れられて、単独行動になる時が最近は唯一の安息と思えるようになってきた。
魔王様にお伝えしたら、それってストーカーだよなとおっしゃられてましたが、ストーカーと言えば獲物に気付かれずに忍び寄り命を奪う者だから、暗殺者に近い存在の事ですよね?
私狙われているのかしら……
とは言ってはみたものの、こんな生活でも3ヶ月も続くとそれなりに慣れてくる。
今じゃ、仕事が無ければどこに行くのも付いてくるカインが、懐いた子犬のようで可愛くも見えてくるから不思議だ。
それに、筋は悪くない……馬鹿だが……
喋り方や、考え方は賢そうなのに、ことこちらの指導に関する理解力は悪すぎてどうしようもない。
感覚的な説明では、絶対に理解を示さないのでいかに理論的に説明するかに苦心させられている。
昨日はビッチ3と言われている人達と、久しぶりに会うという事でこちらとしても久しぶりに一人の時間を過ごせた。
待ち望んだ一人の時間だというのに、少し物足りない気がした。
そして、ビッチ3と一緒に居る所を想像して少しモヤっとした……何故だろう。
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スッピンさんと特訓を始め、常に一緒に居るようにして1ヶ月、それは突然に訪れた。
スッピンさんの事をジッと観察していると、不意にスッピンさんが若い女性のように見えた。
まあ、ミイラになる前はそうだったのだろうが、すぐにミイラのカサカサした生気の無い顔に戻ったが。
それから、さらに観察を続けるうちに、スッピンさんの魂というか気を感じ取れるようになった。
すると、それまでたまに見えたり、ぼやけていたスッピンさんの生前の姿と思われるものが常時見えるようになった。
そして、衝撃が走った。
美しい……今まで見たどんな女性よりも……
そして、立ち上る神気は借り物の神気ではなく、本物の神気だという事が分かった。
タナカさんに聞いたら、即身仏なるものがあってスッピンはそれになったんじゃないかと。
人造の神様のようなものらしい。
勇者のように、自身の魔力を糧に女神様の力で神気を作り出すのではなく、スッピンは自ら神気を作り出しているのでは無いかとの事だ。
あの域に達するには私にもミイラになれって事か?
さらに最近になってヒルド様が列聖されたと聞いた。
何やら魔国にて人道外れた事を行った筋肉勇者とその従者を戒め、地獄を見せた後に従者に恩情を与え復活させて諭されたそうだ。
それが、死後の2度目の奇跡として認定され、名実ともに聖教会の聖女として名を連ねたらしい。
まあ、当の本人は魔王軍幹部として健在だからいくらでも奇跡は起こせるだろうが。
「どうしたカイン? 組手の最中に他所事を考えるとは余裕だな!」
一瞬の隙どころじゃなく、大きな隙を見せてしまい思い切り脳天を打たれる。
その動作すらも美しく感じる。
正直、真の姿が見えるようになってからどうしても女性として意識してしまい、訓練に身が入らない。
だが、この思いを伝えるためには少なくともスッピンさんよりも強くならなければ……
ハードルが高すぎて辛い……
ずっとカイン×スッピンが書きたかったのですが、奴等真面目過ぎて面白い話が書けないっす。
なので、短めの投稿の今日がチャンスと思い書き上げました。
また間で挟む予定…は未定です♪