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急に暇になったらやることが無くて辛い

日常回です?


「暇だな」

「ええ、暇ですね」


 俺はいま、玉座の間にてエリーと二人っきりだ。

 先の事件以来、勇者の襲撃はほぼ無くなり人間共の動きも鳴りを潜めている。

 人間の世界では、7つの災厄として語られているらしいが……

 まあ、あれだけの被害を受けたんだ……すぐには持ち直せないだろう。


 ちなみに魔国の城下町の復興は、大方終わり今は細々としたものを住民たちや職人達が行っている。

 自主的に参加を希望した者達によるボランティアのような活動だが。

 我が国でも一部の幹部達が参加しており、それなりに楽しくやっているようだ。


「暇だな」

「ええ、暇ですね」


 朝から何度このやり取りをしただろう。

 待ち望んだ平穏な一日だが、退屈だ。

 かといって今は町に出る気にもならない。

 暇潰しがてら、聖教会にちょっかいでもかけてみるかなどと考えていたら、玉座の間の扉が勢いよく開かれる。


「魔王! お前を倒しに来た!」

「すいません、今日もお願いします」

「取りあえず、今日は見学してます」

「私も、もういいかなって」

「チビコも居るよ!」


 いつもの5人だ。

 こいつらだけは、毎日毎日飽きもせずここにやってくる。

 まあ、主に目的は俺の作り出す料理だが。


「ファイア~ボ~ル」

「なんだその気の抜けた魔法はって、きゃぁ!」

「うわっ!」

「わぁ! 魔王様凄いです!」


 ボーっとしながらも、最大限手加減した火球を放ったら2人が吹っ飛んだ。

 チビコが手を叩いて喜ぶ。


「あっ、すまん……一応最弱で撃ったんだが、強かったか?」

「あれで最弱?」


 俺の発言にエリーがジト目を向けてくる。

 すまんな……あれで最弱なんだ……

 これ以下になると、もう生活魔法とかっていう戦闘の役に立たない魔法しかないのだが……


「もう! 少しは手加減してよ!」

「あちち……うわぁ、鎧が真黒だよ」

「良かった、見学で」

「私も……」

「ファイア~ボ~ル!」


 チビコが見よう見まねで俺の魔法を使う。

 ヒョロヒョロとゆっくりした火球が飛び出して俺に当たる。


「あっ!」


 チビコが声を漏らす。

 大丈夫だ、俺に魔法は効かないから。


「うむ、なかなかチビコは筋が良いな」

「えへへ」


 俺がそう言ってチビコの頭を撫でると、嬉しそうにはにかむ。


「という事で飯だ! あとサイダー!」


 何がとういう事なのか分からないが、マイが早速食事を要求してくる。

 ちなみに比嘉はなんかトウゴさんに呼び出されて東の世界に行っている。

 どうもこっちの世界で急激に膨れ上がった魔力を感じて、詳細を確認しているらしい。


「はあ……お前はいつも呑気で良いな」


 俺はそう言ってラーメンを作り出す。

 今日は一嵐堂のラーメンだ。


「ラーメンか……カロリー高そう」

「カロリーですか?」

「私はラーメン好きだよー!」


 マイがポツリと呟くと、エリーが不思議そうに質問する。


「そうカロリー! これを作り出す原因ね」


 そう言ってマイが自分のお腹をつまむ。

 なるほど、意外とあるな。


「えっ?」


 エリーが驚いた表情を浮かべ、自分のお腹を見る。

 それからラーメンをジッと見つめる。


「…………くっ! 魔王様、今日の昼食は私辞退しようかと……」


 なにやら長い沈黙の後、恨みがましそうにラーメンを睨み付け溜息を吐く。

 それからそう言って、部屋から出ていく。

 背中が凄く寂しそうだった。


「じゃあエリーさんの分は私が貰うね」


 マイがそう言って目の前にどんぶりを二つ並べる。

 さっきまでカロリーがとか言ってたやつの行動じゃねーな!

 はっ! もしかしてこいつ! 策士か!


「チビコはラーメン好きだよー!」


 エリーとは対照的にチビコはニコニコしている。


『頂きまーす』


 エリーには申し訳ないが、全員でラーメンを啜る。

 ちなみにウララにはチャーシューと葉野菜を出してやる

 部屋の外からはなにやら溜息が聞こえるが、未練がましい奴め。

 食べたら食べただけ動けばいいのだ。


「そうそう、田中さんって家族の方とかは? 自分らほら、下校中にこっちに来たから心配してるだろうなって」


 タカシがラーメンを啜りながら質問してくる。


「こらっ! タカシ」


 ユウがすぐに注意する。

 本当にタカシは無神経というか、何も考えていないというか。

 俺はお前らと違って転生だからな、ちょっと事情が違うし。

 俺の家族は心配どころか諦めてるだろうしな。

 ちゃんと遺体は向こうにあるはずだし。


「構わんよ、それに俺は親父と二人だったから」


 そもそも、俺が2歳の頃にお袋は出てったままだ。

 なんでも元々恋多き乙女だったとかで、親父からして結婚のときは修羅場だったって聞いた。

 俺が出来た時に誰の子供か分からなかったらしく、血液型から親父ともう一人候補が居たらしいが、もう一人の方は逃げたらしい。

 良くそんな女と結婚したわな。

 そして、自分の子供かも分からない俺を押し付けられてよく育ててくれたわ。

 今更ながら、親父の偉大さを感じる。


「あっ……」

「タカシがすいません」


 何故かショウとユウに謝られる。

 タカシは俺何かしたかって顔してるが。


「魔王様……お父さんいるの?」


 チビコが聞いてくるが、そう言えばこの子には俺の詳しい話は聞かせてなかったな。

 といっても子供が理解出来るか分からないけど。


「うーん、魔族になる前の話だよ。俺だってちゃんとお父さんとお母さんから生まれて来たんだよ」

「ふーん、今は会えないの?」


 分かっているのか、分かっていないのかまあ子供だししょうがないか。


「今はもう会えなくなっちゃったね」

「魔王様、可哀想だね……チビコはずっと一緒だよ」


 ええ子やー。

 人間嫌いになりつつあるけど、こういう無邪気な子供とか相手にするともう少し頑張ろうと思える。


「で、お母さんは?」


 マイが容赦なく突っ込んでくる。

 こいつはタカシを越えるキングオブK・Yだからな。

 しょうがない奴だ。

 と言っても、俺自身踏ん切りが付いてるし、家族は親父だけで充分だって思ってたからそんなに気にしてはいない。


「俺が小さいときに、他に男作って出てったよ? 俺が20の時に妹が出来たってのは聞いたけどな……」


 辺りを沈黙が包み込む。

 まあ、こんな暗い話を聞かされたら気分も重くなるってもんだよな。

 飯が不味くなるし話題をって、変わらずにズルズル麺を啜る音が聞こえる。

 見たらマイとタカシが普通にラーメン食ってた。

 本当にこいつらと来たら……有り難いけどな。


「妹とは会った事ないの?」


 こいつズカズカ来るな!

 タカシですら、聞こうとして躊躇したってのに。

 なんで分かるかって? マイが俺に聞いた瞬間に顔を上げて頷いてたからだ。

 人の不幸に興味津々か。

 ショウとユウも聞いちゃまずいと思いつつも、耳ダンボだしな。

 分かるけど。


「俺が21の時から年に一度は会ってたよ? あれでも年に1回はお袋と会ってたし。一回だけ27の時に一日預かっといてつって置いてどっか行ったけど。その翌年からはお袋にも妹にも会ってないんだよね……新しい男でも出来たんだろ」

「なんていうか、聞いたような話というか、現実にそんな人達周りに居なかったすわ」


 正直な感想有難うタカシ君。

 だけど、こんな家庭多くは無いが、割とあると思うが。


「どんな娘だったの?」


 マイが目を輝かせて聞いてくる。

 少しは自重しようか?

 おっと、チビコとウララがおねむのようだ。

 おいおい、凄いな……ちびこの服にラーメンの汁が飛び散ってベチョベチョになっている。

 俺は玉座の間にベッドを作り出すと、チビコの服を魔法で綺麗にしてウララと一緒に寝かせる。


「タナカって本当にマメだよな? で妹は?」


 マイ……

 てか、ユウちゃんもこういうのは女の子の仕事じゃないのかな?

 まあ、今時女だからってのは流行らないか。


「うーん、まあ俺には懐いてくれてたと思うけど、一日中俺に引っ付いてて、トイレとかで少しでも離れると不安がって泣きそうになってたかな……まあ、あんなお袋だから家でどんな扱いされてたんだか心配にはなったよ?」


 またマイとタカシ以外がどんよりとした雰囲気になる。

 人の不幸話に興味持っても碌なもんじゃないからな。

 逆に胸糞悪くなる話聞かされて、モヤっとしたりする事の方が多いだろ?

 しかも恵まれた奴に限って、俺ならこうするのに……とかなんでこうしないの?みたいな事言ってくるが、こっちはそれが当たり前なんだからどうこうする気も起きないし。


「その……妹さんを引き取ったりとかってのは……」


 来たよ……ユウちゃんから、恵まれた人間の意見が。

 この年になって、そんな事言われてムキになるような事は無いが、これが多感な時期だったらすぐにカッとなって喧嘩になってたな。


「う~ん、親父には関係ないしな……ただでさえお袋の事嫌いになろうとして、ようやく踏ん切り付いた時にそんな話するのも気が引けたし、俺はフリーターで自分の生活で精一杯だったからな」


 俺の言葉を聞いてユウが何か言いかけて止める。

 懸命な判断だ。

 終わった事を今更ぶり返してもしょうがない。

 ここは異世界だし、俺は死んでる。

 元の世界に居れば、俺も就職してたし妹の一人くらい養えたかもしれないが。


「タナカは妹の事どう思ってたんだ? あと替え玉一つ! バリカタで」


 おいいい!

 こんな雰囲気の中でよく替え玉要求出来たなお前!

 しかもバリカタでとか。

 凄いわ! 本当に尊敬するわ!

 と思いつつも、替え玉を作り出す俺……


「ほい、替え玉お待ち! って、まあいいけどさ。妹って言われても年に1回しか会わないし、実感無いよな。ただ俺に会えるのを楽しみにしてたのは分かったから嬉しかったわ……」

「ふーん……やっぱり、ラーメンはバリカタよね?」


 ……ダメだこいつ。

 俺の話がトッピングにでもなってるのか?

 普通の人のメシウマ話じゃねーぞ?

 なんならトッピングで不幸話100円でも取ってやろうか?


「マイさん……」


 流石にこれにはショウも呆れている様子だ。

 ユウに至っては、若干怒りがこもっている。


「それよりも、マイお前んとこはどうなんだ? というかそもそもお前何歳なんだ?」

「私んところは良いよ、普通のサラリーマンと専業主婦の家庭だったし。それにレディに歳の話はタブーなんだぜ?」


 えっ? 俺のターン無し?

 マイの話もう終わり?

 普通の家庭って……しかもレディーって年齢分かんねーからなんとも言えねーわ。


「意外と歳食ってるとか……」


 バキッ

 思いっきり殴られた。

 しまった、思ってた事がつい口に出てしまってたようだ。


「失礼な事言った罰として替え玉、バリカタな!」


 まだ食うのかよ!

 と思ってたら、他の3人が笑い始めた。


「なんか、重たい話聞かされて暗くなったけど、マイさんが居るとそれだけで明るくなるね」


 おいっ、タカシ! 聞かされてってなんだよ!

 聞いたのはお前だろ!

 こいつ自分の事を棚に上げて。


「という事で、自分も替え玉貰って良いっすか? 普通で」


 という事でじゃねーよ!

 どういう事でなんだよ!

 とか思いながらも替え玉を作る俺……俺日本人に甘すぎやしませんか?


「申し訳ありません、自分も貰っていいでしょうか? 生でお願いします」


 ショウ……お前もか……

 つーか生ってあっちだよな? 粉落としの方だよな? まさか生麺じゃねーよな?


「粉落としで良いか?」

「あっ、はい! すいませんそれです」

「ん?何それ?」


 マイが何か言っているが、無視して湯通しに近い麺を出す。


「えっ? 麺の硬さを表す言葉ですが?」

「えっ? バリカタが一番硬いんじゃないの?」


 ショウの言葉にマイがビックリして聞き返す。

 バリカタが一番上だと思ってたのか、モグリめ!


「プッ! ラーメンはバリカタよねとか言ってて、そんなのも知らねーのかよ」


 俺が馬鹿にしように笑うと、箸で目を突き刺された。

 まあ、効かないけどさ……魔王だからってやり過ぎじゃないですか?


「えっと、一応私達が良く行く所では、バリカタの上にハリガネと粉落としとがあるんですよ」

「最近だと、全国的にガネと粉落としはやってるとこ多いよ」

「俺地元で生頼んだら、ガチ生麺出て来たわ……」


 ユウが補足で説明するが、大学の時に帰省した際に地元のラーメン屋でつい替え玉生って言ったら、聞き返されて粉落としですって言い直したら、粉を振るい落しただけの麺出されたわ。

 まあ、食べたけど……なんとも言えない食感だったわ。

 それ以降、ハリガネまでしか頼まない事にした。


「さて、皆食ったみたいだし送ってこうか?」


 俺がそう言うと、4人が顔を見合わせてにんまりする。


「えっとですね……いっつも御馳走になってるんで、今日はお礼があります!」


 マイが急に敬語で話し出す。

 おお、やっぱこいつは素の方が可愛いな。


「実は、エリーさんから田中さんが魔族になってそろそろ1年が経過するとお聞きしたんで」


 そうなのか?

 そう言えば毎日を生きるのに精一杯で日にちの事なんであまり気にしてなかったわ。


「まずは俺達からですが……これです!」


 そう言ってショウが大きな包みを渡してくる。

 中を開けると、カッコいい指環が入っている。

 中身ちっちゃ!

 包みの中身殆ど綿だったわ。

 その中に小さな箱が入ってて、そこに指輪が入ってた。


「ほらっ、大きな包み貰えると嬉しくないですか?」


 タカシ! お前の考えか!

 確かに、ちょっと嬉しかってけどさ……中身もなかなか凝った作りの指輪だからいいけど、これで美味しい棒一本とかだったら泣くぜ?


「何にしようか悩んだのですが、何を上げても役に立たなさそうだったのでステ上げ系の指輪にしました。魔力が3%上昇するみたいですよ」


 ユウちゃんが指環の効果を説明してくれる。

 俺が左手の人差し指に指輪を嵌めると、サイズが自動で調整される。

 シルバーのシンプルなリングだが、複雑な文様が彫り込まれていて中々にカッコいい。


「似合いますね」

「ほら、やっぱりこういうのは女の子に任せてよかったろ?」


 ユウちゃんが選んでくれたのか。

 よしっ! 大事にしよう。

 ちなみに、ほぼ尽きる事の無い魔力を持っているからあまり効果は無いが、逆にいえば俺の魔力量の3%と言えば最上級地獄級魔法1000発分くらいと考えると中々に恐ろしい効果だ。


「有難う、嬉しいよ! でも誕生日がいつかは、絶倫に聞かないと分からないけどな」

「そうですね、私達ももうすぐとしかお伺いしてなかったので」


 まあ、気持ちは本当に嬉しかった。

 そういえば、誕生プレゼントとかいつ以来だろうな……


「次は私ね! 私からはこれ!」


 そう言ってシルバーのバンクルを取り出す。

 これって……先日武器屋で暴れてたミスリルの……

 って、おい! お前誕生日プレゼント値切って買おうとしてたのかよ!


「これは」

「うん、凄くタナカに似合う気がしたから、どうしても欲しかったの」


 まあ、値切っても全財産はたくくらいの金額だったからな……

 そのくらいの気持ちだと思えば、嬉しいかな。


 ……ん? 待てよ? こいつに俺の渡したバイト代って金貨12枚。

 これの値段金貨12枚……あれっ? こいつ一銭も出してなくね?

 はあ、でもまあそのために一生懸命働いて……働いて? 結構サボろうとしてなかったか?

 まあいいわ、気持ちはこもっていると信じよう。


「ああ、有難うな! 本当に嬉しいよ」

「あっ! タナカ泣いてる!」

「泣いてねーよ!」


 本当に泣いてないからな。

 多分、こいつが言いたかっただけなんだろうけど。


「なんだつまらん」

「ちょっ、マイさん」


 なんだ、泣かす気だったのか。

 つっても、そういえばこないだコイツの前でワンワン泣いたんだったっけ?

 今思い出しても恥ずかしーわ。


 こうして、サプライズもありつつ久しぶりの暇な一日が終わっていった。





最後まで読んで頂き有難うございます。

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