魔王業が忙しすぎて……辛い
復興中の魔王様の一日です。
ほんわか日常回?です。
「魔王様、スライム達が汚物が流れてこないと言ってきておりますが? それと、同じ地区で獣人たちが最近臭いとの苦情を言って来ております」
「分かった、すぐに原因を追究して対応しよう」
エリーが俺の元に、国民からの嘆願書や依頼書を持ってくる。
「こ……これか」
現地に向かうと、恐らくサイクロプスの物と思われる汚物が排水を詰まらせている。
あー、そう言えばこっちの区画に建設作業の為に一時的にサイクロプスとゴーレムを転居させたんだったな。
ゴーレムは魔力があれば動けるが、サイクロプスは食事もとるし排泄もするんだった。
ちょっと、夢魔族や獣人族の基準で考えていたら排水路が狭かったか。
俺は魔法を使って、排水路を拡張しさらに水魔法で一気に詰まった汚物を流す。
「汚ねっ!」
一部汚物が飛び散ってこっちに向かってきたので、思わず魔法障壁ではじき返す。
「魔王様?」
あっ……エリーが思いっきりひっかぶってた。
すぐに浄化魔法を使って、エリーを綺麗にする。
「もう! 少しは魔力を抑えてください!」
エリーに怒られる。
だが、これって俺の仕事なのか?
他にも魔法を使える魔族いるだろう?
「このような細かい作業は魔王様にしかできませんわ!」
「そうなの?」
その割には魔力がとか、やり過ぎだとかちょいちょい叱られてるが。
「まあ、これでスライム共と住民の悩みは解決したな」
基本的に住民が食事をし、吸収しきれずに排泄されたものをスライムが処理をしてこの街を綺麗に保っているが、魔物が居ない人間の町だと道にばら撒かれたり、農家に売ったりしてるらしい。
流石に大都市となると下水があるという事だが、最終地点は大きな穴らしくいっぱいになると埋めて新しい穴を掘るとか。
大変な事で。
「魔王様! あっちで人間とドライアドが揉めてます!」
部下のリザードマンが走って報告に来る。
そのくらいお前らでなんとかしろよ!
「分かった!」
俺はすぐに転移して現場に向かう。
「どうした?」
「いえ、町の復興の為の木材を集めるのにこいつらが、やれそれはまだ若木だの、その木は代々魔王城下町を見守って来た木だの難癖付けて切らせてくれないっすよ」
「だからー! 森に行ったら木なんて沢山あるんだから、城下町の付近で伐採をするなと言ってるだけでしょ!」
はあ、頭が痛くなる。
どうも人間というのは、多少不精なところがあるらしく面倒くさがりだ。
すぐ傍で手短に資材を調達したのだろう。
「馬鹿たれ! 城下町から資材を調達するな! 面倒くさがらずに森に行け! 森に!」
「えー……だって遠いし、怖いし……」
「同じ国民に襲い掛かってくる魔物なんかおらんわ! とっとと言って来い!」
俺はそう言って人間共を森のど真ん中に転移させる。
所在地が印で浮かび上がる地図もついでに放り投げる。
さらに、魔牛と台車もセットで送る。
「ったく、こんな単純な仕事も出来ないのか……」
「有難うございます魔王様」
そう言ってドライアドが頭を下げてくる。
「いやすまんな、変な奴等まで移住させて」
「まあ、町に活気が増えるのは良い事ですが……ちょっと教育が大変そうですね」
そう言って苦笑いする。
中々に笑うと可愛いし、良く見ると美人だ。
肌が木目調だが……惜しい!
「魔王様! 人間の町と城下町を結ぶ道がまだ途中ですが、このままだと馬車が使えません。そちらを先行して頂いても宜しいですか?」
絶倫が目の前に転移して何かほざく。
俺って魔王だよな?
なんか最近魔王の仕事が良く分からなくなってきた。
「だー、面倒くせーな! オラー!」
俺は土魔法を使って一気に道を均すと、正方形の石材を大量に用意する。
「人間共にこれを敷き詰めらせて、間を泥で固めさせとけ」
そう言って、これまた魔牛と荷車を用意する。
「はっ、ですが人間共は中々に愚鈍でして、彼らに任せるといつ終わるか……」
「クッソ! マジ人間役立たねー! 俺の直轄の5000人から100人連れてけ! あいつらの力なら一日で終わるだろ!」
約5km程度の工程だ、俺なら5分で出来るけどなんでそこまでやらねーといけねーんだよ。
『魔王様! マイ様達がお越しで』
「もう昼かよ!」
エリーのテレパシーを受けて、転移で玉座の間に戻る。
「今日はチビコも一緒だよ!」
転移した瞬間に、チビコが扉を開けて入ってくる。
最近スッピンに剣術と聖属性魔法、モー太に無属性魔法を習っているらしく、たまにマイと一緒に挑んでくる。
「よし魔王! 今日こそ……って何か疲れてないか?」
「誰のせいだ! 誰の! お前ら人間共が好き勝手暴れて町を壊すわ、この国に移住するわで忙しいんだよ!」
良く考えたらこいつらも人間サイドだ!
少しは感謝しやがれ!
「そうか。では食事の前の運動と行こう」
聞け―!
てか、聞いただけかよ!
少しは労われよ!
「分かった、今日はカインと戦わせてやる」
「えー、私あの人苦手なんですけど」
「黒騎士さんかー、ちゃんとやってくれるのかな?」
「俺は別に食事が頂ければ、戦わなくてもいいのですけどね」
「私もー」
口々に散々な事を言う。
カインが申し訳なさそうに部屋に入ってくる。
「すいません……カインですいません……ちゃんとやるんでお相手してくださいませんか?」
「あっ……すぐそこに居たんですね。だ……大丈夫ですよ」
めっちゃマイの目が泳いでる。
お前嘘下手か!
「わーい、今日はカインお兄ちゃんが遊んでくれるんだ」
唯一チビコだけが素直に喜んでくれる。
「チビコ殿……うっうっ」
そのくらいで泣くな女々しい!
「あれっ、そう言えば今日比嘉は?」
「ああ、昨日ユウちゃんのお風呂覗こうとしてたから木に縛り付けてトカちゃんに火で炙って貰ってる」
元東の魔王の威厳の欠片も残ってねーな。
それとそんなつもりで、サラマンダー渡したわけじゃねーぞ。
そのうち、縛り付けてる木に引火して大惨事になりそうだけど。
「よしっ、じゃあ適当に……あっ」
いまマイお前、適当にって言った?
めっちゃカインが落ち込んでるんだけど?
結構楽しみにしてたんだけど。
「あの人メンタル弱すぎだろ?」
「ちょっ、タカシ声がデカい!お前の小声は小声じゃないんだよ」
あーあ、完全にカインがスネちゃってる。
隣でチビコが良い子良い子してるけど、良い大人が情けない。
「おい! カイン! ちょっとお前の真の実力見せてやれ! 右手の刻印の発動を許可しよう」
「宜しいのですか?」
俺がそう言うとカインの目が一気に輝く。
それから、バババっと右手で何か印を結ぶような仕草をしたかと思うと、右手を天高く翳す。
「我が名はカイン! 魔王様の剣にして最強の騎士! 我が呼び掛けに応えよ! 今こそ力を示せ我が印よ!」
そして右手が眩い程の光を放つと、Kの刻印が浮かび上がり魔力が一気に跳ね上がる。
恥ずかしいよ……見て聞いてるこっちが赤面しちゃうよ。
良い感じにこじらせてるけど、この世界の人間って本当にアホやなー。
「なっ! これがカインさんの実力?」
「うわー、なんだかんだ言って黒騎士だけあるわ」
「あのポーズはちょっとダサいけど」
おいタカシ! ボソッと言っても、聞こえてるからな。
うわー、黒騎士がよりダークになってる。
めっちゃどんよりしちゃったじゃねーか!
あいつが、どれだけ鏡の前でこのポーズとセリフ練習したか知らねーだろ!
とは言え、カインを見てるとこっちも地味にダメージ負うから逃げるか。
というか、イタすぎて見てらんねーって奴だな。
「俺はこの戦いあんまり興味無いから、一仕事済ませてくるわ」
俺はそう言って転移して他の場所に移動する。
転移する瞬間に黒騎士の「えっ? マジで」って聞こえてきそうな表情と目が合ったけど知るか!
勝手にやってろ馬鹿ども! 魔王様は忙しいのじゃ。
「あっ、魔王様待ってたモー! ここの城壁を補修する為の石材が足りないんだモー」
そんくらい、自分らで岩山から切り出して持ってこいや下僕共が!
と言っても、城壁は守りの要だしな。
妥協は出来ないし、ちょっと固めの鉱石で補修するか。
「こ、これはアダマンタイト! 流石魔王様だモー! 助かるモー! でも固すぎて加工が出来ないモー」
モーモーうっせーわ!
なんの為のその怪力だ、馬鹿野郎!
なんで馬鹿って漢字に牛や人が入ってないんだよ!
この世界じゃ、馬鹿の代名詞は牛と人だろ!
まあ、いいわ。
俺は魔法でアダマンタイトを崩れた場所にはまるように煉瓦状に切り分けるとそれを大量に置いていく。
「後の作業はお前らでやれ、この牛人が!」
「わしは牛人だモー」
キョトンとされたわ!
皮肉だよバカヤロー! 皮肉が分かる程賢く無かったわ!
次に転移したのは、昨日新しく子供が生まれたサハギンの家だ。
人間に攻め込まれて、結構辛い状況にあった中での初めてのめでたい出来事だ。
お祝いのついでに、名前を授けたら国民にとって明るいニュースになるというエリーの提案だ。
……子供多くね?
サハギンの家に行くと、そこには可愛い……とは言い難い半魚人の赤んぼが10匹居た。
子だくさんなんですね……
てか殆ど足が生えただけの魚じゃねーか!
まあいいわ!
サハ太郎、サハ次郎、魚太郎、魚次郎、エリック、サハ子、サハ美、魚子、魚美、アンジェル!
よし決定!
ちなみにエリックと、アンジェルは特殊個体らしく透き通るような白い肌の半魚人だった。
しかも、割と綺麗な顔をしてたから特別扱いだ。
「エリック、アンジェラだけ名前が……見た目がこれなのに名前まで……」
えっ?ダメだったの?
若干他の8匹に罪悪感抱いてたのに。
そうだったー! こいつらのセンスは人間と掛け離れてるの忘れてたわ!
エリック、アンジェル……すまん。
それから映像記憶装置で、10匹の半魚人を抱いた俺の写真を撮られる。
かなり頑張った。
ヌメヌメして、顔も間抜けで口をパクパクさせて気持ち悪かったが、どうにか素敵な微笑みを携えてたはずだ!……多分
それから転移して、玉座の間に戻る。
「足元がお留守ですよ!」
だから、カインお前本当に日本人じゃないんだよな?
カインがそう言った瞬間に、ショウが足元を気にする。
「そう言われて足元を見るとか、馬鹿ですか?」
そこをカインが顔を木剣で殴打する。
お前は鬼か!
「いってー、そうだよなー! ちゃんと足元にまで気を配ってたのに」
「黒騎士こっすい! 黒騎士マジこっすい!」
マイが部屋の隅に座ってゼーゼー言いながら、ヤジを飛ばす。
「カインさん油断したでしょ? 【小規模鉄隕石】」
うぉぉい! モー太! お前何教えてんの?
確かに10cm程度の小さな石の礫だけど、すでに隕石魔法使えるとか無茶しすぎだろ!
大したダメージは無いが、カインの頭に直撃する。
「ウワー! ヤラレター!」
下手くそか!
いや、子供相手に分かりやすさが大事なのは分かるけどさ!
もっとあったろ!
普段くだらない事に、全力の演技ぶつけてるくせに。
「やったー! カインさんやっつけたー」
「すごーい、流石チビコちゃん! ここでは先輩だもんね」
「おい、今のわざと」
「だから、タカシお前少しは空気読めやー!」
「この歳でこの魔法! チビコちゃんは将来有望な大魔導士様になれそうね」
ユウナイスフォロー!
それから、タカシは少し空気読もうか?
「あっ魔王様!」
「……お前、足元に注意向けさせるのこないだスッピンにやられてたやつだろ?」
そう言えば、前にスッピンとカインの訓練見た時にこの光景見たわ。
どうりで既視感があるはずだわ。
「ちょっ、それは内緒に」
「あっ、タナカさん帰って来たー! もうお腹ぺっこぺこだよ」
「カインさんったら、全然手加減してくれなくて」
「マジ大人げないっつーかなんつーか」
「私、この人やっぱり苦手です」
「でも、私が一番強いです」
散々だなおいっ!
名誉の為に言っておこう
「えっ? これでもカインの奴かなり手加減してるからな? もう一段回変身あるからな?」
「うそっ?」
「あれで?」
「そんなっ!」
「マジで?」
実際には手の刻印にはまだまだ秘密設定組み込んでるから、厳密には2段階以上だけど。
「ああ、実は私は翼も生えるんですよ」
そう言ってカインが龍の力を開放する。
「えっ? あえて今見せるの?」
「そういうところが目立ちたがりって言うか、大人げないって言うか」
「もうお腹いっぱいです」
「なんなのこの世界! 全然召喚勇者感が無いんですけど」
「カインのバカー」
あっ、カインが凄い勢いで飛び出してった。
泣きながら……まあ、いいや。
放っとこう。
「じゃあ、飯にするか?」
「やったー!」
『待ってました!』
俺の一言で、全員がすぐにカインから興味を失う。
「オッ? 飯カ? ケビンハケンチキ食ベタイ」
最近このタイミングでケビンが来るのだが、こいつどっかにカメラでも仕込んでるんじゃないのか?
それから全員でケンチキのチキンや、和風カツサンドにビスケットを美味しく頂き、俺が家まで【強制送還】す。
「ごちそうさまー」
「有難うございました」
「また、明日も宜しくお願いします」
「いつもすいません」
明日も来るんだ……
てか、お前ら自分の仕事しろよ!
してるか……一応。
毎日俺と戦ってるわけだし。
えっ? 魔王と勇者ってこんなんだったっけ?
「魔王様、午後からは幹部会議の後、城下町の学校にて子供達に道徳の授業をしてから、次に人間の町の視察。ついでに、城下町の道に光る魔石で街灯を作って下さい。日が短くなってきて、外で仕事をする方が戻って来る頃には暗くて見えないそうです」
「う……うん」
エリーが容赦なくこの後のスケジュールを申し付けてくる。
魔王……休憩欲しいな……
それから、俺は町に転移して子供達にムカ娘の考えたマオウマンという勧善懲悪の物語を聞かせる。
「そこまでだポイ捨テン! 町を汚す怪人め! このマオウマンが清掃させてくれる!」
「何を馬鹿な事を! 面倒くさいから道に捨てといたら良いんだよ! スライムのカスどもが掃除してくれっしよー」
「スライムだって生きてるんだ! 仕事として廃棄物を処理してるだけで、俺達と同じものを食べてるんだ! 道に捨てられたゴミは彼等が自発的に街を綺麗にするためにしょうがなく食べてるだけなんだよ」
「道のゴミ食べたら、お腹がいっぱいで家に帰って美味しいご飯が食べられない……」
「いっつも、お袋の飯を残すのが心苦しい」
「彼女のご飯美味しく食べたいよー」
「そうだったのかー!! マオウマン! 俺が間違ってたよ! 俺今日からゴミのポイ捨て止める! スライムの皆さんすみませんでした」
「分かってくれて良かったよ! それじゃあ、皆で街を綺麗にしよう」
『うん!』
……ナンダコレ?
それから人間の町の視察……ちょいちょいサボってる奴等を見つけては注意する。
えっ? これって俺の仕事?
なんか掃除時間に巡回してる教師の気分なんだけど。
「やべっ! 魔王様だ! タバコ消せ消せ」
「あー、重たいなー! でもこれ運ばないと皆の家が」
「今日も良い汗かいてるなー」
「5分前から見てるわぼけー!」
『魔王様スイマセーン!』
***
それから町に戻ると、日が暮れて確かに道が分かりにくい。
俺は的確なポイントを計算しながら、魔法で支柱を作り出してそこに魔石を配置していく。
これって……俺の仕事なのか?
こうして一日が終わって城に戻る。
「魔王様! 覚悟!」
「今日こそお姉さまを解放してもらいます!」
「行くぞ童貞!」
俺の私室の前で3人娘が待ち構えてた……
「貴方達?」
タイミング良くエリーが通り掛かって回収してくれる。
やっとゆっくり出来るわ。
その時誰かが扉をノックする。
「誰だ?」
「魔王様……妾です……部下達がご迷惑をお掛けしたお詫びに、今宵は私の腕枕でカチカチカチカチカチ」
ちょっ! やる前から興奮しすぎだろ!
絶対頭が真っ二つや。
「ああ、気持ちは有り難いが、今日は一人で寝させてもらおう。また今度頼むな」
俺は扉を開けずに断ると、そのままベッドに飛び込んだ。
ウララも肩から降りて、俺の布団に潜り込む。
今日も長い一日が終わった。
眠りについて一時間後、エリーが慌てて部屋に飛び込んでくる。
「魔王様! ケンタウロス族の子供が行方不明です! 探知魔法で捜索お願い出来ませんか?」
おーい! 町の警備兵ども仕事しろやー!
魔王業がブラック過ぎて辛い……
最後まで読んで頂き有難うございます。
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