マイに付きまとわれて辛い
「魔王様! 勇者です!」
「今日は眠いからパス! どうせカイン倒しに来たんだろ?」
布団を頭まで被って、手だけ出してヒラヒラさせる。
「何馬鹿な事言ってるんですか! 魔王様と戦いたいとおっしゃってますよ!」
えー……俺と戦いたい奴まだ居たんだ……
んーどうしよっかなー
「ちなみにどんな奴?」
「喜んでください! 女ですよ!」
「パース!」
「なんでですか!」
エリーがなんか喚いてる。
どうせ俺と戦いたい女勇者なんて一人しか居ないし……
城内の気配を探知するとやっぱり居た。
「そいつ、ノースフィールドって奴じゃね?」
「はい、そうですが……何故ご存知で?」
「何回か絡まれたから」
俺がそれだけ言うと、エリーが考え込む。
「もしかして、胸を触られた勇者というのは?」
うぉっ! 一気に室温が下がったぞ。
すげー迫力のある声で、エリーに問い詰められる。
「馬鹿! 前も言ったが、あれは事故だ事故!」
「本当ですか?」
エリーのジト目頂きました!
って、そんな事はどうでも良い。
というか、良くここまで辿り着けたな。
「それで、そいつどんな様子だ?」
「酷くガリガリに痩せておられて、目も虚ろで只ならぬ殺気に城内の者達が怯えております」
また、食料が足りなくなったのか……
はあ、やれやれだが同郷だし見捨てられないよな。
「分かった分かった、ちょっと行ってくるわ」
「逃げる気ですか?」
「ちげーよ! 厄介事をとっとと片付けてくるだけだって。じゃあな!」
俺はそれだけ言うと玉座の間に転移する。
ちなみにカインと戦いたい奴は、城の訓練場に集めるようにしてある。
とうとう女性陣が500人を超えた為、玉座の間では収まりきらなくなったからだ。
玉座の間に移動すると、目の前に少女が倒れている。
「おい、マイ! 来てやったぞ!」
「き……きたな、ごはん……」
来たなって、来たのはお前だ!
それと俺は某戦闘民族の祖父がわりでも無ければ、サラブレッド長男でも無いぞ?
ちなみに何故か着いてきたウララは俺の肩で寝ている。
何しに来た?
「ごはんて……お前今回は何日食べて無いんだ?」
「……10日」
えっ? お前城下町の入り口からここまで30分もかからんぞ?
何があった?
「道に迷って……昨日町に着いた……ごはん……」
ダメだこいつ……絶対いつか死ぬ。
魔族も魔物も関係なく死ぬ……
「ほら、飯だぞ! 食え」
俺はそう言って【三分調理】でおかゆを作り出す。
流石にこんだけ衰弱してたら、消化のいいものじゃないと無理だろ?
「……なんだ、おかゆか? 手抜きだな!」
コラ!
お前、俺魔王だっつてんだろ?
食い物出して貰えるだけ有り難いと思えよ。
なんとなく、嫌々ながら一口食べる。
あっ、止まった。
と思ったら凄い勢いで食べ始めた。
「ふわぁぁぁ、生き返る。ああ、生きてて良かった……ただのおかゆがこんなに美味しいなんて」
さっきのセリフはなんだったんだおい!
それからマイが食べ終わるの待つ。
「ああ食った食った、じゃぁ殺されろ」
もはやマイが勇者じゃなくて、ただの悪党な件。
「無駄だ!」
「無理だ!」
お決まりの流れの後、俺が送り返そうとするとマイが止める。
「なんだ、もう金を使ったのか?」
「いや、違う! どこか二人になれる場所は無い?」
えっ? もしかして……いやコイツの場合それは無いな。
とうとう美人局か援交でも始めたか?
「別にここでも良いだろう?」
「いや、大事な話だ……」
マイが普段と様子が違ったので仕方なく魔族領の一部の丘に転移する。
「外か……落ち着かないな」
わがままだなオイ!
しょうがないから魔法で小屋を作り出す。
「本当になんでもありだな」
「まあ魔王だからな、一応結界も張って誰も近づけなくしてある」
俺がそう言ってマイを部屋の中に入れると、椅子を作り出す。
「固いな……」
「そりゃ木だからね」
こいついちいちうるせーな。
「固い……」
「なんだ? 痔か?」
ドガッ!
思いっきり殴られた。
ブレイブスラッシュより遥かに威力が高かったのは気のせいだろうか。
というかこのガキャマジで立場分からせてやろうか。
「固いよー……魔王の出す椅子固いよー……」
うぜー!
しょうがないからフカフカのソファを作り出す。
「田中って魔王の癖に優しいよな」
「そりゃ、元日本人だからな」
まあ大事な話と言ったらそれ絡みしかねーか。
「田中って優しいよな? 本当に優しいよな? 乳揉むけど優しいよな? あー喉乾いたー……三つ鉄砲のサイダー飲みたーい」
もうヤダこの子……
つっても大した手間でも無いし、サイダーくらい出してやるけどさ……
「本当に田中さんの魔法って凄いですよね? 魔王だから使えるんですか?」
「おっつ、いきなり普通っぽい喋り方だな。まあ魔王だからって言うより、俺だからだな」
急にマイが普通の女の子らしい喋り方になる。
「はあ……ズルいですね。私も魔力はかなり高いって言われましたが、使い方良くわからなくて。魔法なんてあっちじゃ使った事ないから」
「俺も無いよ、てか言われたって誰に言われたんだ? というかお前どうやってここに来た?」
俺の問いかけにマイが少し困ったような表情を浮かべる。
「えっと、神社にお参り行ったら男の人の悲鳴が聞こえて、そこに向かおうとしたら光に包まれてこっちに来てました」
……神社? 悲鳴?
「最初は森の中に居たんですけど、たまたま通りがかったおじいさんとおばあさんが助けてくれて、色々と教えてくれました」
「運が良かったな。下手したら山賊や魔物に襲われていたところだったろ?」
「二人にもそう言われました。おじいさんが魔法使いらしくて、魔法も習ったんですけど基本魔法以外さっぱり覚えられなかったです」
そう言ってマイがショボンとする。
「そんな奴がなんで勇者やってんの?」
こいつにそっからここまでの経緯を話させたら何日かかるか分からないからな。
「暫くは3人で静かに過ごしてたんですけど、ある日村に聖教会を名乗る人が来て、なんか勇者の素質があるとか言われて街に連れていかれました」
やっぱり聖教会絡みか……
本当にきな臭い集団だな。
「そこで勇者になるための訓練とか言うのを受けらされて、魔法はからっきしでしたが魔力の高さをかわれて勇者の儀を受けて勇者になりました」
「勇者の儀ってのは?」
「女神様の使いを名乗る人に手に女神の祝福という刻印を押されて、そこから魔力を神力に変えて打ち出せるようになるとか」
そう言えば大分薄くなってたけどカインの手にも刻印があったな。
新しい刻印入れるのに邪魔臭かったから完全に消したけど。
「そっから無意識に魔王を倒さなきゃってなったけど、ほら、私魔力だけは異常に高いから」
「あー、逆に刻印の力を抑え込んじゃったのね」
勇者の儀で魔王を倒せっていう風に一種の洗脳に似た祝福というか呪いを掛けられるのね。
ってなると、日本人召喚者は持ち前の魔力でその影響を最小限に抑え込められるのか。
問題は、俺が巻き込まれたのか、マイが巻き込まれたのかって事だが、両方がたまたまって事もあるしな。
「それ、消してやろうか?」
「えっ? いや、これ消されると私無職になっちゃうし……」
……勇者やっててもお前しょっちゅう金欠じゃねーか!
それからマイと話して色々と分かったが、やはり魔王を敵対視してるのは聖教会の教義だということ。
さらに、教会が色々な手を使ってこの地に住む人々を洗脳していること。
そのバックに居るのは教皇か、はたまた女神か……そこは謎だが。
「いや、色々教えて貰って助かった。俺はこっち来た時から魔族だったから」
「そうなんですね……お気の毒ですけど、頑張ってください!」
マイが俺の手を握り締めて応援してくれる。
「それで、お前は俺を討伐するの?」
「いや、定期的に活動しないと勇者クビになるんで、一応は倒しに行きますが無理な事は分かってますんで」
そうだよね……
道理でいつも諦めるのが早いと思ってた。
多分二回目以降は飯が目的っぽいところもあったし。
「ところで……ここ良い家ですよね?」
「ん?」
「こっから魔王城までどのくらいですか?」
……なんか嫌な予感がする。
「えっと、徒歩だと2時間半くらいかな?」
「結構遠いんですね……でも希望の町よりは近いですよね? もうこの家使わないですよね?」
ん? んん?
こいつここに住もうとしてないか?
「勿体ないですよね?」
「あー、魔法で作ったからな。簡単に消せるから大丈夫」
「折角作ったのに勿体ないですよね?」
あー、あかん……こいつ絶対にここに住む気だ。
「えっと、しょうがないんで私が管理してあげます!」
「話聞いてた? 魔法で作ったから簡単に消せるって」
「うぅ……私家もお金も無くて、宿泊費も馬鹿にならないんです」
何か言い出した……
「勇者って金貰えないの?」
「討伐した魔物等に応じて貰えますが……そのあんまり魔物倒した事無くって……」
なんか可哀想な気がするというか、同郷だから同情はするけど、あつかましすぎるだろ!
「胸……誰にも触られたこと無かったのに……」
グサッ!
そ……それを言われると辛い……
「あー、しゃあないから、お前にやるけど……このままじゃ住めんだろ?ちょっと待ってろ」
俺はそういうとさらに魔法を使って家を改造する。
まず家の横に櫓を作って、そこにバカでかいタンクを設置する。
地下水……は魔国領だからちょっと怖いから、魔法で作った水でタンクを満たして……蛇口を捻れば水が出るようにするか。
トイレは……水で流してその先に菌糸族の魔物に住まわせて分解吸収させるか。
後は火は……こいつに火を使わせるのは怖いな……
サラマンダー1匹と、なんかあった時の消火用にケルピーを1匹派遣するか。
サラマンダーは小さいからペットとして気を紛らわせるし、ケルピーは移動にも使えるしな。
それと時間停止型の異空間収納に、食料大量に突っ込んでと。
明かりは……面倒臭いな……魔力を蓄積して衝撃を与えると光る石を天井に設置して……
まあ、魔力が切れるまで光続けるから、魔力量を間違えるとずっと消せないから……魔力を吸収する石を横に置いて。
こっちはキーワードで発動するようにするか。
キーワードは消灯で良いだろう。
それから作り出した家をマイに説明する。
マイがメッチャ目を輝かせて説明を聞いている。
「有難うございます! これで暫くは生きて行けそうです。蜥蜴はちょっと苦手ですけど……」
サラマンダーを見てマイが苦笑いしている。
「おいおい、そいつが居ないと風呂にも入れなければ、お湯も沸かせないぞ?」
「はあ……凄いですね……この世界の人達も争いじゃなくて、共存を選べば良いのに」
マイがそう言って呆れているが、俺はお前の行動全てに呆れているぞ?
それから一通りマイの要望を聞いて、家具を設置していく……
はっ! 俺はなんでこんな事をしているんだ?
いつの間にかこいつに良いように使われてる。
馬鹿に使われるとか……
一気に疲れが出たので、後の事は適当に済ませてマイに別れを告げる。
「まあ、たまに遊びに来るくらいならいいが、余り目立つと教会や他の勇者に目を付けられるからな? 気をつけろよ」
「分かりました! これで胸の件はチャラにしましょう!」
初めて触られた割には軽いな……
まあ、いいけど……
それから転移で城に戻る。
「魔王様? 結構時間が掛かっておりましたが?」
目の前にエリーが居た。
何か疑われているような目つきだ。
「なに、ちょっと暫く来られないように話を付けて来ただけだ」
「なら良いのですが……大丈夫ですよね?」
エリーに念押しされて、高速で頷く。
***
「魔王! 来たぞ! 飯食わせてから、私に殺されろ!」
……
「魔王様? 昨日話を付けたのでは?」
……
「やれやれ……仕方の無い奴だ! 二度と逆らえないようにして来よう!」
そう言って俺は転移で玉座の間に移動する。
「魔王様! 逃がしませんよ!」
そう言ってエリーが俺の肩を掴んで一緒に転移した。
結局エリーの追及に耐え切れず、マイに家を与えた事を漏らしてしまった。
しこたま怒られた……辛い
「魔王! 早く飯!」
お前の家に大量に置いてきた飯はどうした?……俺に懐くアホがまた一人増えた……辛い