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人間が汚くて辛い

「魔王様! やっぱり罠でした」


 俺はいまエリーと一緒に300人の冒険者と500人の騎士達に囲まれている。

 全員が射殺さんばかりの視線で睨み付けてくる。

 その手には様々な武器が握られており、魔法付与されたものまで用意されていた。

 さらにその周囲を500人の魔法使いからなる方術部隊が取り囲む。


 どんだけ俺のこと殺してーんだよ!


 なんでこんな事になったかって?

 それは、ほれ! あれだよ! こまけーこたーいいんだよ!


「だから言ったじゃないですか! てか、満場一致で皆罠だって言ってたじゃないですか!」


***

 遡ること一週間前。


「魔王様! セントレア王国から使者の方がお越しです」


 エリーが俺の部屋をノックしながらそう告げる。

 セントレア? ああ、こないだの連合軍の将軍がいたとこか……


「なんの用だ一体。まあ良い、会おう」


 俺はそう答えると、マントを羽織って老化の魔法を使ってから謁見の間に向かう。


『客人が来ておるから、勇者どもにはお引き取り願え』


 俺は部下全員にテレパシーを飛ばす。


 なんだこいつら! 急に強く!

 バカな! 攻撃が全て弾かれただと! おいっ、戦士しっかりしろ!

 なにー! こいつミノタウロスじゃねー! ベッ……ベヒモスだとー!あばばば!

 ムリムリムリ! いやー! おかーさーん!

 あっ! お花畑……ばあちゃん?

 あっ! チョウチョだ! アハハ……

 黒騎士様! たすけてー!

 今日こそ黒騎士様と結ばれるはずだったのにー!


 場内のあちこちが阿鼻叫喚に包まれる……

 てか、お前ら何人居んだよ!

 ここ俺ん家! 俺住んでんの!

 一日にこんなに沢山強盗(ゆうしゃ)に襲われる家も珍しいぜ普通。


『カイン、スッピンと一緒に後始末よろー』

『はいはーい……あっ、姐さん!』


 …………


『御意に! 慎んでお受けいたします』


 一瞬の間が空いて丁寧な返事が返ってきた。

 多分スッピンに殴られたな。

 スッピンが片っ端から回復させて、カインにそれを強制送還(おくりかえ)させる。


 さて、玉座に移動するとエリーに使者を案内させる。


「なんで俺がこんな役を……魔王とかマジ面倒クセー」


 応接室で机に足投げ出して、ブツクサ言ってるこいつが使者か……

 50代後半で、そこそこ身分は高そうだな。

 てかこの世界にもアフロってあったんだ。

 金髪アフロの使者とか……

 確かこいつ、前回の祭り来てたな。

 エリーがノックすると、即座に姿勢をただす。


「お待たせ致しました、魔王様がお会いになられるそうです」

「うむ、かたじけない」


 さっきの姿が無ければ、割と真面目で好印象な壮年の武人だが。

 てかアフロが気になってそれどころじゃない。

 ちょっと、心の中を覗いてみるか。


(ちっ! 何がお会いになるだ偉そうに! つかこの悪魔キレーだなー、あーあの切れ上がったお尻たまんねーわ! くー! ずっと眺めててー)


 おい国王! こんな奴が使者でいいのか?


『おいエリー! そいつお前の尻ばっか見てるぞ』


 俺がそう伝えると、エリーがサッと振り返る。

 鼻の下が伸びきっただらしない面が一瞬でキリッとした表情に切り替わる。

 そのあまりの早業にエリーが全く気付けず小首を傾げる。

 こいつ地味にスゲーな! アフロだけど……


「何か?」


 使者がはて? といった表情で微かに微笑みかける。

 何か? は、エリーの言葉だろ?

 さっきまで尻を凝視してた奴が言うか!


(くっそー! 魔王のくせにこんなマビー女はべらかせて生意気な! よしっ殺した! ボッコボコにしたった!)


 こいつ頭ん中で俺のこと殺しやがった。

 妄想で【全てを斬り裂け! ブレイブスラッシュ!】されたわ……お前勇者じゃねーだろ?

 てかアフロだし……

 本当に人間には碌なやついねーな!


「失礼します魔王様」

「うむ、入れ!」


 俺がそう言うと使者を連れたエリーが入ってくる。


「初めまして……セントレア国王タイショーより遣わされたデンショ・ピジョンと申します。この度はお会い頂き有り難く存じ上げます」

「ふむっ……お主は覚えておらぬか? 前回の祭りでタイショーとやらの前方20歩のとこにおった騎士であろう?」


 プックック! メッチャ顔が蒼くなってる。

 てか、ヘルム被ってたから分からなかったけど、アフロの騎士か……

 なんかカッコいいな……響きだけ……


「いえ……まさかあの群衆の中に居て見分けられるとわ……恐れ入ります」


 なんとか取り繕ったか……

 ならこれはどうだ?


「ちなみにじゃが……わしに勇者の必殺技は効かぬぞ? それ以前にお主は勇者ではなかろう?」


 すげーキョトンとしてる。

 そりゃ、まさか頭ん中読まれてるは思えないよな?


「な?なんの事でしょう? おっしゃってる意味が分かりませぬが……」

「クックック……何やら、ここに来るまでに楽し気な妄想をしておったじゃないか?」


(やべー! なんでそれ知ってんの? いいじゃん心ん中でくらい何思っても……てかプライバシーとかねーの? 魔王ムカつくわー)


「ふっ、敵国の使者に魔国でプライバシーなどあるわけなかろうが、痴れ者め!」


 俺がそう言って睨むと、デンショ……いやアフロのが分かりやすいか……アフロがガタガタと震え始める。


「ハハ……なんの事でしょうか? ……いや、それよりも本国より貴方に対する言葉を伝えましょうか……ちなみに私の言葉は我が国、セントレア国王タイショーの言葉と思って心して聞くように」

「ふむ……国王の言葉か……それは心して聞かせてもらおう……」


(ふむ、魔族とはいえ最低限の礼儀は知っているとみえる……魔王の癖に生意気な……)


「アフロ殿と言ったか? お主の言葉は国の意向という事じゃからな? 下らぬ事を伝えに来たのなら日が落ちるまでにセントレアは焦土と化すと思って心して話すように」


 若干威圧を込めて、魔力も少し開放して脅しをかける。


(……桁違いだ……なんでこんな魔族が今まで魔王にもならず潜んでいたんだ?……てかもう帰りたい……魔王死ね!)


「はっ、はい! では僭越ながらデンショが伝えさせていただきます!」

「んっ? お主はアフロ殿では無かったか?」


(アフロってなんだよ? なんかの略語か? てか名前も覚えられないのか……ちょっとアフロって名前かっこいいな……魔王の癖にやるじゃねーか……)


「いえ、私はデンショ・ピジョ「んっ? アフロ・ナイトだったよな?」


(こえー……ムカつくわ! 殺す! 無理かもしれねーが殺す)


 ……


「はいっ、それでは魔王様! 私、アフロが国王の野郎の言葉を貴方様に伝えます!」


(なんで俺はこんなに素晴らしい魔族を恨んでいたんだろう……なんか頭がスッキリしてきた……この仕事が終わったら隠居して田舎に帰ろう……)


「よい、お主の記憶を読んだ。その酒宴是非参加させてもらおう」


 デンショが何故かいきなり斬りかかって来たので、【大罰組(デスノート)】使って殺してみた。

 このスキル便利だよねー……だって部屋汚れないし……

 まぁ、発動条件が名前の他に相手が視界の中にいることって条件があるけどね。

 しかも、初級即死魔法だから簡単にレジストできるけど……魔族なら。


 復活させたら、やっぱりスッキリした顔して従順になった。

 これ……人間みんな精神汚染されてるよね?

 ほぼ確定的だわ……

 殺して開放されるのか、復活で開放されるのかは分からないけどね。

 落ち着いたら、こないだ祭りで殺した約3万人も生き返らせてみるか。


 つーか! どうやらセントレアは歩み寄りに入ったみたいだな。

 魔王城開放した時に、相当やらかしたしね。

 敵対するよりも、適度な距離感ってやつか?

 でも、もしかしたらここから始まる魔人交流に魔人貿易!人魔交流とかって言われてるけど俺魔族だからね!

 魔が先に来るのは当たり前田のクラッカーさ!

 えっ? 当たり前田のクラッカー知らない?そうなの?

 でも知ってる人も居ると信じてるよ?


 ――――――――――――

 その事を幹部の全員に話したら、全員から罠だと言われた。

 皆心が狭いなー。

 いちいち疑ってたら、いつまで経っても魔人交流は進まないじゃん!


「うるさーい! 黙れ! 黙れ! 行くったら行くの!」


 って事で魔王の力で全員黙らせた。


 そして、身内を一人連れて来ても良いって事でエリーを連れてった。


「わざわざ、ご足労痛み入る。今日は心ばかりの料理を楽しんでくれ」


 そう言ってタイショーが荒野に用意された宴会場で、歓迎の挨拶をしてくれる。

 なかなかに良い雰囲気だ……場所があれだけど。


 メンバーはセントレア国王タイショーと、騎士団長、大臣、法術隊長、さらに貴族が4名程参加していた。

 対するこちらは、俺とエリーだけ……


「うむ、招待頂き感謝する。今まで色々あったが、これからは歴史を変えてより良い関係を築き上げよう」


 一応、それらしく返答できたと思う。

 なんか、人間側全員が顔を赤くしてプルプルしてる。

 そりゃあれだけ一方的に侵略して来てたからね。

 恥ずかしくなったんだろう。


「そうだ、つまらぬものだが一応手土産も用意してある」


 そう言って【三分調理(キューピー)】で作り出した日本酒を差し出す。

 えっ? それ料理じゃない ?いやいや、料理だよ? 魔王が言うんだから料理だよ?


「これはこれは、透明のお酒ですか?珍しいですな。有り難く頂戴致す」


 そう言って横に立つ侍女に手渡している。

 ボソリと毒鑑定しとけよと言ったのが聞こえた……辛い


 出て来た料理にはことごとく毒が入ってた……辛い

 でも俺もエリーも毒無効の状態異常無効が付いてるからね。

 俺の状態異常無効は、完全状態異常無効っていう最上位スキルだしね。


 人間側全員が苦虫を噛み潰したような表情をしてた……

 そんなに俺を殺したいのか……


「そろそろお開きにしようかと思う……最後にわしらからも贈り物をさせてもらおう!しばし準備に時間がかかるゆえ、少し待って頂けるか?」


 そう言って人間たちが席を外しはじめる。

 もう嫌な予感しかしないけどね。


 直後宴会場の下に巨大な魔法陣が現れる。


「ふはははは! たった二人でのこのこ来おってから愚か者め!」


 遠くからタイショーの笑い声が聞こえる。

 これは……魔力封じか……

 まぁ、あんまり意味ないけどね……


「どうやら上手く奴らの魔力を封じたようじゃの! 今じゃ!」


 タイショーが合図を送る!

 そして冒頭のシーン……


「だから言ったじゃないですか! てか、満場一致で皆罠だって言ってたじゃないですか!」


 そうじゃないかなーって思ってたよ?9割くらい……

 でもその1割を信じてみたかったのに……


「ちなみに王都に居るCランク以上の冒険者と、指折りの精鋭を集めたからの! さらにここに勇者を3人程用意しておる! 安心して死ぬがよい!」


 タイショーが何か言うと、横に3人の青年が現れる。

 なかなかに質の良さそうな雑魚だ……

 うちに来たときのカインと同等くらいか?

 俺が黙っていると、馬鹿がまた大笑いを始める。

 完全に勝った気でいるな。


「そうじゃのお、最後にちゃんとした贈り物としてこれをやろう!」


 そう言ってタイショーの傍に居た騎士団長が何かを投げてくる。


 アフロ……


 俺の目の前に転がったそれはアフロの首だった。

 馬鹿だなー……どうせ国王の前で俺の事話して交友を図るべきだとか進言したんだろうな……


「たった数日でわしの忠実な部下を洗脳した事は褒めてやろう! 何やら貴様の事を褒めたたえておったが、ただの愚か者だったようじゃの……」


 まぁ、これを俺にくれるっつーことはこいつは俺への生贄って事だよな?

 どこかを彷徨っていたアフロの魂が俺の中に入ってくる。


「たしかに受け取った……お返しに良いものを見せてやろう」


 俺は地面を思いっきり踏みつける。

 すると地面に描かれた魔法陣が木っ端みじんに消し飛ぶ。


「魔法陣……壊れたな?」


 俺がそう言うとタイショーが後ずさる。


「バ……バカな……」

「来いアフロ!」


 俺はアフロの身体を再生させて魂を元に戻す。

 ちょっと身体に細工はさせてもらったが……

 使者の死者を復活……


「あれっ? ここは? あっ! 魔王様!それにエリー殿! 来てはいけませぬ! これは罠です!」


 知ってる……てかもう来てる。


「くっ……奴は本当に魔王か? 死者を生き返らせるとか……神の所存ではないか!」


 焦ってるな……

 さてと、人間一人ゲットしたし……ここにはもう用は無いな……

 どうしよっかな……

 取りあえずタイショーの前に転移する。


「くっ……来るな! 誰か! 誰かわしを守れ!」


 そいつは無理だな……

 全員すでにエリーのチャームに掛かってるからな……


「陛下! 下がってください!」


 おお、流石勇者……チャームが聞かないか……


「下がるのはお前らだ!」


 つっても俺が覇気を飛ばしただけで吹っ飛んでいく矮小な存在だが……


「くっ! 勇者が……騎士団長!」

「無駄だ! ……さて、今日は楽しめた! いつでも俺はお前を殺せるからな? 忘れるなよ?」


 俺はそう言って老化の魔法を解いて魔力を全力開放する。


「ひいいいいい! 魔王!」


 魔王だよ?

 知ってて呼んだんじゃないの?

 まあ面白いもん見れたしな……


「おいっ! 絶倫見てるんだろ? 適当に遊んで差し上げろ! 誰も殺すなよ?」


 俺はそう言うとエリーとアフロを連れて魔王城に転移で戻る。


「ただいま紹介に預かりました魔王軍序列2位の絶倫と申します。今日一日死ねない苦痛をお楽しみください」


 絶倫が眷属を召喚し、全員に幻惑の魔法を掛ける。


「ひっ! アンデッドか?」

「うわっ、お前その体! まさか魔族か?」

「馬鹿な! 俺以外全員が魔族だったのか? なんだここは……」

「く! なんでいきなり斬りつけて? くっ! 狂ったか!」


 絶倫の軍団の幻惑魔法を受けた辺りの兵士達が同士討ちを始める。

 しかし、どんなに傷を与えても死ぬことはなく永遠と思える時を過ごさせたらしい。

 まあ、実際には全員がボーっと立ってるだけなんだけどね。

 なかなかに残酷な幻惑だ。


***

「だから言ったじゃないですか!」


 エリーが激おこだ!

 幹部全員も呆れている。


「別に人間如きが何をしたところで、暇潰しにしかならないし……」


 しかし……まぁ、収穫はあったしね?

 俺はそう考えてアフロを見る。

 面白い頭だよなー……


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(仮)邪神の左手 善神の右手
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