魔神首脳会談
「ここ……」
「ああ、テキトウエルの部屋の地下に俺の分身が作らせた部屋な」
3人で改めて話をするために、場所を変えたのだが。
丁度いい部屋があると、中野と中条を案内した。
ここなら、中の声が漏れることもないし。
周囲の状況も丸わかりだし。
「モニターが、てかどうやって」
壁一面に大量のモニターが埋めてあって、城内のあちこちの様子を映し出している。
「んなもん、魔法の力に決まってるだろう」
「いや、魔法ってこんな万能なものじゃ……」
「なんでも出来るから魔法っていうんだろ? 魔法のある世界に転生か転移してなおまだ地球の常識に捉われてのか?」
「いや、田中ほどスパッと気持ちを切り替えって痛い! なんで叩くのさ!」
「いや、どう見ても年下のガキに呼び捨てされてちょっとイラッときたから」
「僕、年齢でいったら何万歳ってレベルなんだけど?」
「田中さん、中野、いまはそんなことどうでもいいでしょう?」
「いや、日本人らしく会話するには重要ですよ」
中条の前世がどういったものか分からないが、割と常識的だった気がする。
ここにきて色々とネジがぶっ飛んでしまったのは、元々そういう事に憧れていただけなのか、はたまた第三者の力が働いたのか。
「分かりました中条豊です、享年というべきかここに来たのは50手前の頃です。たぶん心臓発作だったんでしょうね……最後の記憶は職場の床でしたから」
「こっちに来てずいぶんと拗らせてましたね」
「はは、年甲斐もなくお恥ずかしい」
「私は田中ひとし、享年は30歳です。ようやく就職してこれからってときに、神社の階段から突き落とされて」
「……」
「……」
シャレのつもりで、死因を暴露したら2人とも俯いて黙り込んでしまった。
「お気になさらずに。こっちで楽しんでおりますから」
「そ……それなら良かったです」
「僕は……中野良助です。16の時に地震にあって、地割れに飲み込まれました」
「なんだガキか」
「そんな地割れが起きるような地震って、ありましたっけ?」
中野の言葉に、中条さんが首を傾げている。
もしかしたら、こいつは俺達と違う時代から来たのかな?
「かなり大きかったと思う。確か、2013年の2月頃だったかな?」
「2013年? その年に大きな地震ってあったか?」
「ソロモン諸島沖地震の年ですね……時期もそのころだったかと」
「ああ!」
俺の疑問に中野さんが答えてくれる。
なんとなくうっすらと記憶にある。
なんだ金持ちか。
海外旅行の最中にでも、被害にあったか?
「日本だよ? そんなはず」
「あれ? 日本にまで影響を及ぼすような地震じゃなかったが?」
「まあ、どうでも良いか」
「えっ?」
「そうですね」
「ええっ?」
「なんだ?」
「なんか、重要なヒントとか隠されてそうじゃない?」
「別に?」
「えぇ……」
中野が何やら喚いているが、そんな事はどうでも良い。
大事なのはこれからだ。
「さてとここに期せずして、常識人と大魔王と創造主が集まった訳だけど」
「常識人?」
「私ですかな? となると、創造主が誰のことだか」
「いや、立場でこじらせて好き勝手やってた、恥ずかしいセリフはく方が常識人とかありえないし」
「ほう、大魔王とかってのを名乗って、ごっこ遊び的に人を害する子供に常識があるとも」
そして2人の視線が自然と田中に向かう。
その視線に力強く頷く。
「非常識の塊ならいるけど」
「いったいどういう経緯を辿れば、大魔王や創造主というありえない力を持った私達を、片手間に封じられるのやら……この世界でも、地球でも常識の対極の存在ですね」
仲良いね君たち。
さっきまで、世界を割ってまで喧嘩してた人達とは、思えんぞ。
「いや、まあそれは置いといて、折角ここに魔族のトップと人間のトップが居るわけだから、手を組んで頑張ればこの世界を地球のそれに近いものに出来るんじゃないか?」
「まあ、そうですね。ただ、いまはなんとも思わないですが、何故か魔族の方を滅ぼさねばという思いがありまして」
「僕も……魔族に害する人間共を、のさばらせる訳にはいかないという使命感みたいなのが、あったかな?」
こいつらも、精神支配を受けてたっぽいな。
それが、この世界を作ったやつの思惑っぽい。
なんの意図があって、そんなことを……
「誰かしらに、なんらかの精神支配を受けてたのかもな? その辺り記憶にないか? まあ、ある訳無いか」
「いや、それさっき……」
「田中さんが、鍋に突っ込んでたような……」
ん?
そういえば、なんか変な奴が食事会に突っ込んできたっけ?
アシュラ男爵っぽい奴だったくらいにしか、記憶にない。
「あのアシュラ男爵っぽいやつか?」
「アシュラ男爵……」
「誰それ?」
「えっ? 知らないの?」
中野がアシュラ男爵を知らなかったことに、ジェネレーションギャップを感じる。
まあおかんの話は置いておこう。
「まあ、やってしまたものは仕方ない。今更青狸に出てくる生身で飛び込んだら漂流するようなタイムマシーンな空間に放り投げたから、回収するのも面倒くさいし」
「そ……そうですね」
「い……良いのかな?」
「分かった、お前らの脅威は去った! これででーじょーぶだ! 具体的に話を進めるにあたって、まずは人間の精神支配を解いて貰えますか?」
「一度殺された時点で、大分効果も薄くなって消えかかってますからそれこそでーじょーぶです」
「中条さんノリ良いですね」
中条が創造主やってたころからとは、同一人物とは思えないほどに高いコミュニケーション能力を見せてくれる。
それに引き換え……
「なんでそんなに呑気なのさ……」
中野は不満そうだが。
「良助も、いつまで不貞腐れてないでちゃんと会話に参加しろって」
「なんで急に名前呼び? ちょっ、頭撫でんな! 急に慣れ慣れしすぎだろ!」
つまらん奴め。
「そうですよ良助君。16歳といえば、大人といっても良い歳なんですからね? いつまでも子供みたいに意地を張るんじゃないですよ」
「ちょっ、中条変! おまっ、そんな奴じゃって痛い!」
「大人に失礼なことを言うんじゃない! 良助!」
「ちょっ、田中……さん。というか子供扱いするな! 頭を撫でるな! そんな優しい目で僕を見んな!」
……調子に乗り過ぎた。
部屋の中を荒れ狂う爆風を、転移魔法で外に送り込む。
面倒臭かったから、大魔王城の中野の私室に転送したけど。
「お前さあ……こんな狭い場所で密着した状態で、戦略級の魔法をぶっ放すなよ。中条さんも、良助も頭がアフロみたいになってるぞ?」
「なんで田中は平気なんだ」
「ははは、私は完全にとばっちりだ。それにしても、凄い部屋ですね。あれだけの爆発に巻き込まれてモニターに罅すら入って無いとは。日本だったらバカ売れしますよ」
中条は確かに変わり過ぎだと思う。
が、これはあれだ。
中条が散々やってきた、精神支配から解放された現地人に近い変わり方だな。
本当にアシュラ男爵っぽいやつが、何かやらかしてたんだろう。
ってことはあいつが黒幕か……
探すの面倒くさいなー……
「なんだウララ?」
突然ウララが俺の肩によじ登って来る。
「痛い!」
「イタイジャナイ!」
耳を思いっきり噛み付かれたうえに、怒られ……はっ?
喋った?
「その狐、ただの狐じゃ無かったのか?」
「ああ、私にも懐いてくれていた可愛い狐」
中野がウララを見て首を傾げると、中条さんがウララに手を伸ばしてきて後ろ足で蹴られる。
「あいつ! 日本から人を攫う悪い神だから! 自分の作った世界に放り込んで争わせたり、逆に力を与えて誠実であるか、悪に傾くかを見て楽しむだけの性質の悪い奴!」
「ふーん……なんでそんな事してんの?」
「いや……日本の神が勧めた転生チート系の小説読におおはまりしちゃって、後半は投稿系の無料小説サイトにはまったかと思うと、リアルじゃないとかって言い出して……」
「それで、こじらせちゃったの?」
ウララが自然に喋り出した事をスルーしつつ、アシュラ男爵の正体が意外なところから分かった事で、胸のつっかえが取れた。
ようは小説読んでみて、色々な感情がムクムクと沸き上がって来たと。
で、自分がリアル神であることに思い至って、自分が神として登場してリアルな転生物語を映像作品で見たかったのかな?
超迷惑な脚本から、演出、舞台やセットの作成に、キャスティングまでこなしてる映画監督みたいだな。
そう思うと、アシュラ男爵も割と悪い奴じゃない気が。
趣味の為に人の命をなんとも思わない。
けども、代わりの人生あげるから許してね。
チートもつけちゃうよ!
みたいな感じなのかね?
「で、ウララはなんでそんな事を知ってるの」
「ウカノミタマ様って知らない?」
「知らない」
「そ……そう」
「すいません、私も知りません」
「……そう」
俺が即答で応えると、ウララが何か期待した目で中条を見たが、中条も申し訳なさそうに首を横に振っていた。
「まあ、稲荷様の使徒の1人として、田中さんが殺された神社に居たんだけど、よその神の介入があったからってそこのウカノミタマ様が助けなさいって言い出して……」
「言い出して?」
「階段を一気に落下する貴方を掴み損ねて……一緒に転移しちゃった。テヘッ」
ようは助け損ねて、こっちに来ちゃったと。
「ついでに言うと、あのアホ神に神通力も封じられてたから、あいつが封印されてようやくこうやって、流暢に喋れるようになったわけだわさ!」
「急にキャラ付けするような語尾になったな?」
「本物のお稲荷様?」
「あっ、違うよ? 狐はお稲荷神の使いで、お稲荷様はちゃんとした神様だから」
「そうなんだ。てっきり、狐がお稲荷様だと思ってた」
ふーん……俺も知らなかったけど。
中野も純粋に興味を惹かれたらしく、普通に会話してるし。
「で、何しに来たの?」
「いや、神通力が使えるようになったことをお知らせしに」
「じゃあ、俺達日本に帰れるのか?」
「無理……ただの神の使いの下っ端にそんな能力あるわけないだわさって痛い」
そう言ってケタケタ笑うウララのほっぺを、両方に引っ張る。
「まあ、うちとしては中野も中条も日本人だし、一応ウカノミタマ様の庇護下に入るべきと思って。それとこの地の日本人全員の地位と立場の獲得にはあんたら3人の力が必要なのだわさ」
「なんで狐の言う事なんか」
「ウララさんがおっしゃるのでしたら」
「別に居ても良いけど、あんま会話の邪魔するなよ」
「ちょっ! ウチ神の使い! それもマジもんの! クソ神に力を与えられたそこの創造主もどきとは格が違うほんもんだから! もっと、敬意をはらイタイイタイ」
何やら急に偉そうに俺の頭の上で、ウララがのたまい始めたので両側からほっぺを押しつぶす。
「プッ……」
「可愛いですね」
そのウララを見て、2人が思わず笑っている。
というか、こいつのせいで話が進まん。
まあ、神通力とやらが使えるらしいから、少しは役に立つか?
「何が出来るんだ?」
「遠くを見たり、神託を伝えたり? あとは、ちょっとした加護の力や、運気をやや上昇させたり。軽い天罰くらいなら出来るだわさ」
「おお……魔法の世界にあって、なかなかにショボい」
「ショボいとか言うなだわさ!」
思いっきりほっぺを噛まれた。
地味に痛い。
「神の使いなんだから、あんたらの痛覚無効とかってふざけたもんくら貫通できるだわってイタイイタイ」
「逆もまた可だな」
まあ、見た目が可愛いから良いか。
「それと、変身も出来るだわさ」
そしてポンッと、可愛らしい着物姿の女の子が現れる。
耳と尻尾が生えているが。
「分かったから、狐に戻ってよし」
「反応が冷たいのだわさ……」
しょんぼりしてしまったが、ウララは狐の姿でいい。
チビコに見られたら厄介な気配しかしない。
徐々に物語の核心に……遠ざかっている気もしなくもwww