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魔王に転生したけど人間に嫌われ過ぎて辛い  作者: へたまろ
最終章:最終決戦!神と魔神
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立て! 立つんだナカジョーーーーー!

「ば……馬鹿な……、我が天使軍最強の戦力が……」


 地面に落ちてピクピクと痙攣をする、4人の天使だった何かに目を向ける中条。

 その視線の先では、重力の坩堝に巻き込まれグズグズになった白と赤のぐちゃぐちゃな何か。


「な……なんかすまん……」


 北の魔王軍担当の、マスカーレイドが目を背けながら頭を下げる。

 その背けた視線の先で、絶倫が両腕を組んでゆっくりと頷いている。

 してやったりって顔だ。


 確かにしてやったのだが。

 どちらかというとしでかしたに近い。

 最終局面。

 

 田中軍対、中条の最終決戦において奥の手の1つを発動前に潰すという鬼の所業。

 田中たちにとっては、当たり前の行動の1つだ。

 であるが、田中たちはまだ空気が読めるのだ。


 忘れてはいけない。

 田中が率いていた北の魔王軍に空気を読める魔族が居なかったことを。


 本来なら4人の天使と田中たち4人の激戦が繰り広げられたかもしれない。

 そして、勇者天使軍対、カイン、辰子、荒神、蛇吉、絶倫の乱戦が場を盛り上げるBGMになったかもしれない。

 そんなヘタマロの思惑すらも、笑いながら握りつぶす絶倫の悪の所業。

 白けた空気が辺り一面を支配する。


「はっ! 【エターナルダークブレイブエンドオブストライク】!」

「【竜皇の崩御デマイズオブバハムート】」

「【雷神乱舞サウザントライトニング】」

「【真竜咆哮(ドラゴニックロア)】!」

「グアアアアアッ!」


 直後、何かを思い出したかのようにカイン、蛇吉、荒神、辰子が自身の持つ最も自信のある一撃を、中条に向けて放つ。

 手柄を……

 一番槍を……

 美味しいところを絶倫に奪われて、焦ってしまったのだろう。


 カインの放った眩い黄金の光に包まれた、黒い巨大な斬撃に上空高く吹き飛ばされる中条。

 天井に張り付いた瞬間に、そこに向けて屍の竜を象った邪悪な斬撃が襲い掛かり、身に着けた法衣を吹き飛ばす。

 さらに、天井を突き破って降り注ぐ無数の青白い雷に、地面に叩きつけらる。

 とどめとばかりに、波○拳の恰好から放たれる、真龍のブレス。

 背後には、辰子の母親とおぼしき竜の残影が現れて、その一撃を強化する。

 

 黒焦げになり、プスプスと煙を上げる中条。


「「「「ニコッ」」」」


 4人が褒めてくれとばかりに、田中たちに視線を向ける。

 そして、セオザラ達が一斉に視線を逸らす。


 容赦がない。

 北の人達、マジで容赦がない。


 ホール内にその場に居合わせた勇者達の、歯が噛み合わないかのようなガチガチという音が鳴り響く。

 感情を持たないはずの天使達も青白い表情を浮かべて、へたりこむ。

 

 セオザラと、マスカーレイドの頬をツーッと汗が流れる。


 頼む、中条立ち上がってくれ。

 そして、第二形態とかになって傷が全部癒えてくれ。


 祈るように中条をジッと見つめる。

 だが、中条が動く気配はない。

 

 いや、分かっていた。

 

 テキトウエルも、ヒモロギも冷めた視線を送るだけ。

 そう、中条の命の灯火が消えかけていることを知っていたのだ。


 鋭すぎる気配探知が、中条の余命を4人に分からせてしまった。


 だが、それとは別に、もう一人焦っているものも居た。

 いや、厳密に言えば二人だが、ここに居る人で言えば一人だけ。

 そう、田中だ。


 姿を消した田中が、完全に登場する機会を逃してしまったのだ。

 このままでは……


 主役不在のまま、ハッピーエンドになってしまう。


 こんな事は……


 ここは、魔力で強化して、中条を復活させるべきか?

 いや、それは本末転倒だ。

 バレた時が怖い。

 

 中条が第二形態……いや、第五形態まで隠しているのは知っている。

 だが、変身するには神気が足りなさすぎる。

 体を覆う繭の役割をするほどの神気が、捻出できない。

 カインの黒い斬撃のせいだ。

 

 あれで、内包する神気が殆ど体外に吹き飛ばされてしまった。

 そこにぶつけられた、蛇吉の一撃が神気を霧散し。

 地面に叩き付けられたことで、周囲の神気を回収しそこねた。

 さらに、地面に倒れ込んだ中条に向かった僅かばかりの神気も、辰子の一撃で完全に遥か彼方に吹き飛ばされたのだ。


「こ……こんな終わり方……」


 認められない。

 中条もそう思っているのだろう。


 でも、これで終わりだな。

 逆に一周回って、どうどうと登場して、中条の残骸を消し飛ばした方がまだマシか?


「どうするんだよ」

「いや、どうするって言っても」

「これ、田中様出て来られなくない?」

「うーん……困ったわ」


 四人の分身たちもザワザワしている。


 遅れてホール内にもざわつきが。

 ようやく落ち着きを取り戻した勇者達が、彼我の圧倒的な実力差を知ったのだ。

 そして、頼るべき中条は虫の息。

 

 神気の供給も、一気に少なくなっている。


「これ……」

「どうなるの?」

「殺される……」

「ひいっ」


 しかし、出口はテキトウエルによって全て塞がれている。

 逃げ出す事も出来ない。


「いやだー!」

「助けてくれ!」

「出して! 出してよ!」

「あっ、すいませんちょっとトイレ」


 全員がホールの扉をガンガンと叩いて、泣き喚く。

 だが、扉はびくともしない。

 一カ所を除いて。

 

 トイレと言った勇者の扉だけが開いた。

 そして、その勇者が外に出た瞬間に、凄い勢いで閉まったのだ。


「お……俺もトイレだ!」

「おまっ、すでに漏らしてんじゃねーか! 俺こそトイレだ!」

「いや、私もトイレ!」


 皆が中条そっちのけで、扉の前でトイレを連呼する。

 だが、実際に催している者以外の扉が開く事は無い。

 扉に殺到する勇者達からの、トイレコール。

 もはや、ここがどこかすら分からない。


 そして的確に、トイレに行きたい者の扉だけが開く仕様。

 無駄にハイスペック。

 もし、便乗して一緒に出ようものなら……


「な……なんで?」


 部屋の中央に戻される。

 扉に殺到する勇者の最後尾に並び直さなければならない。


 中央で中条の指がピクリと動いた事に、誰も反応をしない。

 何故なら、皆扉に集中しているからだ。

 田中たちも目を閉じて、思案顔。


 荒神たちは、誰が一番手柄かを話し合うのに忙しい。


 田中たちの希望を受けて、中条が立ち……上がれない。

 力なく、その指が地面に落ちると共に、中条の身体から最後の神気が抜け落ちた……



どうしよう……

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新作更新始めました!
(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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