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魔王に転生したけど人間に嫌われ過ぎて辛い  作者: へたまろ
最終章:最終決戦!神と魔神
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創造主中条

「おいっ! そこの天使共! すぐに勇者及び、他の天使を集めろ!」

「えっ? 嫌なんですけど?」


 目の前の天使に命令するが、あっさりと断られる中条。


「あっ? 遊びは終わりだ……消されたくなかったら、とっとと行け!」

「ひっ! はいっ!」


 だが、その目に宿った覇気に天使の表情が一瞬で強張ると、消えるように目の前から逃げ出す。


「くそがっ! あのガキ……絶対に許さん!」


 中条は、椅子に座ると肘置きを思いっきり殴りつける。

 明らかに、今までの状況は異常だった。

 決して逆らう事の無いようプログラムされた天使達が逆らい。

 自分に対して尊敬と畏怖しか抱かぬよう、洗脳を施した勇者達から軽んじられ。

 それでも、まあ良いかで済ましてしまう自分。


 そう……元々プライドや気位の高いはずの自分が、そんなぞんざいな扱いを受けてまあ良いで済ましてきたのだ。

 そこに違和感を感じることなく。

 

「まさか……この世界の理を司る俺に対して、逆に洗脳を仕掛けてくるとは。本当にふざけた奴だよ!」


 イラついた様子で、壁に目をやる。


「見つけたぞカスどもが……」


 そして、中条がニヤリと笑う。

 その目は、確実に隣の部屋の床の辺りに向けられている。


――――――

 中条城一階大ホール。

 壇上に豪華な椅子を用意し、そこに腰かける中条。

 その凍てつくような視線を向けている先。

 無数の勇者と天使達がざわざわとこれから起こる事を想像し、緊張している。


 彼等もまた、不安になっていた。

 改めて、本気になった中条の威圧に対して自分達が取ってきた行動。

 それが、いかにマズいかという事にここにきてようやく、考えが到ったのだ。

 

 彼等自身も何故、自分がそのような行動を取って来たのかが今となっては分からない。

 その時は楽しかったような気すらする。

 その行動が大いなる何者かの意志によるものなどとは思いもしない。

 

 それほどまでに、精神耐性には自信を持つ連中だ。


「この城が……田中から攻撃を受けていた」


 中条の言葉に、集められた者達のざわめきが大きくなる。


「ありえない」

「天空に浮かぶ城だぞ?」

「どうやって!」


 目に見えた被害があったわけでもない。

 ただただ、中条を疎外するよう働きかけられていただけだ。

 ただ、それだけの事だ。

 だが、そんな事は出来るはずがない。

 

 神の力を借り受ける勇者と、意思を持たぬ天使を操る。

 それも、創造主の目の前で。


 そして、そんな事が出来る田中に対して背筋に凍るような感触を覚える一同。

 中条と一部の者達を除いて。


「戦争だ……北の世界を滅ぼせ! 魔族も人も関係ない! 奴の大事なものを全て奪い去ってしまえ!」

「創造主様! 人もですか?」


 その中条の指示に対して、疑問を投げかけるものが居た。

 そう、テキトウエルだ。


「ああ……北の世界の人間はもはや信用ならん! 全てだ! もはや北の世界など要らん……」

「でも……」


 それでも、食い下がるテキトウエル。

 そして、そのテキトウエルを睨み付ける中条。


「だまれ、ネズミが!」


 そして、放たれる無詠唱での魔法。

 神気を薄く伸ばした三日月状の刃が、テキトウエルの首を切って落とす。


「きゃっ!」

「嘘だろ!」

「うわっ!」


 壇上に転がり落ちる、テキトウエルの首。

 そして、吹きあがる血飛沫に周囲から悲鳴が漏れる。


「貴様ら……俺に歯向かうなら全てタナカの手の者だと考える。すなわち、即座に死を与えてやろう」


 静寂が訪れる。

 その場にいた、勇者達、天使達が緊張した面持ちで中条を見つめる。

 これが創造主……神。


 その湧き出る神気に対して、自然と平伏し膝を付くと頭を垂れる。


「創造主様の御心のままに」


 代表として、一人の勇者がそう口にすると中条が満足そうに頷く。

 そうだ、これこそが創造主。

 俺の真の姿だ。


 ようやく、本来の自分を取り戻した中条が立ち上がり、外に向かって指をさす。


「とっとと行けグズどもが! 北の世界を血に染めろ!」

「はっ!」


 そして、一気に飛び立つ天使達。

 勇者達も、出口に向かって駆け出す……

 と同時に、大きな音がして外に繋がっている扉が全てしまる。

 

 ホールの左右、二階部分、後方に用意された全ての扉がだ。


「フフフ……キャハハハハハ! アハッ! アハハハハハハ!」


 そして、壇上から聞こえてくる笑い声。


「なっ!」

  

 全員が壇上に注目し、口を閉じる。

 中条の足元で、横向きに転がったテキトウエルの首が、ケタケタと笑い始めたのだ。


「くそがっ!」

「ギャハッ!」

 

 すぐに、中条がその頭を踏みつぶす。

 周囲に色々なものが飛び散ったが、すぐに霧散する。


『キャハハハハハハハハハハハハ!』


 そして、テキトウエルの口から漏れていた笑い声は、今度はホールの空間内全体から響くような笑い声へと変わる。


「あー、よく笑ったあ」


 そして、空中で靄が集まると何事も無かったかのように、テキトウエルの身体が再構築される。

 ただ、その髪は金から黒に変色しており、顔つきも大きく変わったように見える。


「貴様! 田中か!」

「正解だけど、外れかなー?」


 そんな事を言いながら、天使の羽を開くとゆっくりと勇者達の中心に舞い降りる。


「ようやく気付いたのか……」


 そして、勇者の中から急に爆発的に魔力が膨れ上がったかと思うと、その魔力だけで周囲の人を吹き飛ばして空間が出来る。

 その中心に立つ、あきらかに日本人と思われる男性。

 心なしか、テキトウエルに似ている。


「トゥナァクァ常務!」


 誰かが困惑の声で、漏らす。


「ああ、すまんな……俺、セオザラって言うんだ」


 そう言って髪をかき上げるセオザラ。

 この日のために、色々と考えたカッコいい正体のバラし方だ。


「くだらんことを……」

「タンナンカン取締役部長!」

「ふんっ」


 さらに地面に影が現れたかと思うと、そこから現れるセオザラとそっくりの男性。

 そう、マスカーレイドだ。


「タンナンカンはもう終わりだ……タナカ様が分身の1人、マスカーレイドだ」

「えっ?」


 元部下の勇者が、ショックを受けた表情をしている。


「俺……タンナンカン部長に一生ついて行くつもりだったのに……」


 どうやら、単純にマスカーレイドの魅力によって、創造主の洗脳が完全に解けただけの勇者のようだ。


「あれは誰だ!」


 そして、突如天井に向かって誰かが指をさす。

 その指の先に向かって、無数のスポットライトが何かを探すかのように動き回り、ついにその影を捉える。


「ある時は木! ある時は木の精霊! そしてまたある時は美しき女性! そしてまたある時はピザ屋のデリバリーの店員! その正体は!」


 突如響き渡る、美しい声色。

 男性陣の心をがっしりと掴み、女性陣すらもうっとりとさせる美声。


 デケデケデケデケデケデ……

 さらにどこからか鳴り響く、太鼓の音。


 デデーン!


「田中様が分身の1人! ヒモロギとは私の事よ! ウッフーン!」


 そう言って、腰を曲げ投げキッスをするひもろぎ。


「あれっ? あいつあんなキャラだっけ?」

「いや、違うと思うけど……」

「案外、彼女だけ田中様からなにか秘密の指令を受けたとか?」


 厳密に言うと、四人とも田中なのだが、こうやって集まると主人格のみを田中とし、他は名乗っている偽名を使っている。

 だから、お互いの性格は熟知している。

 そんな中での突然の、自分の奇行に首を傾げる。

 ヒモロギもまた、彼等と同一人物であるのだから……


 だが、そんな3人の思いとは裏腹に、場内からは……


「「「「ズッキューン!」」」」

 

 という声が聞こえ、勇者や天使達が胸を押さえて蹲る。

 一瞬で、中条の威圧から勇者達を解放するひもろぎ。


「あらーん、私ってばそんなに魅力的かしらーん?」

「はいっ! 女王様!」

「ああ、貴女のためなら、この命差し出しても惜しくない!」

「私を、夢の世界に連れてって―!」


 男女問わずに黄色い声援が上がる。


「うげっ!」

「キモイ……」

「同性として、ありえない……田中としてはもっとありえない」


 元の人格が男であるため、正体を知っているセオザラとマスカーレイドにとってはとてもきつい光景だろう。

 同じく、女性として作られたテキトウエルが引くほどに。


 だが、ヒモロギ……ノリノリである。

 この辺りは……田中だ。


「嘗めるな!」

「嘗めてるのは貴方でしょう?」


 突然の思わぬ事態に、中条が呆けていたがすぐに我を取り戻し、ヒモロギに向かって【神気半月(ニューハーフムーン)】を放つ。

 先ほどとは違い、半円状の斬撃だ。

 

 そして、ヒモロギの前に黒い影が現れたかと思うと、その斬撃を握りつぶす。

 そう、空間を超えて来たマヨヒガの手である。


「正体がバレた時点で、すでにこっちは攻めに転じてるんですよね……遅いわー……大体、なに分かったぞみたいな感じではしゃいじゃってんですか? そこは分かっても、分かってないふりしてこっちを油断させて、水面下で反撃準備するのが定石じゃないんですかあ? 馬鹿なんですかあ?」

「くそっ!」

「お・か・げ・でえ、こっちはバレたのがすぐ分かったから、即時に集合掛けてここを攻める準備万端でーす!」


 そう言って、ヒモロギが指を鳴らすと今度は扉が一斉に開かれて、複数の魔族が飛び込んでくる。

 カイン、荒神、辰子、蛇吉、絶倫の5名だ。

 他にも連れてきているが、城内にはこの5人しか入り込んでいない。

 それだけで、十分だとそれぞれの田中が判断したのだ。


「馬鹿め! ここに来てくれて手間が省けた! 来いお前ら!」


 その場に現れた面々を見て、中条がニヤリと笑うと手を翳して魔法陣を作り出す。


「何を、召喚するのやら……」

「召喚? いや、違うな……俺の真の配下。天使のオリジナルを呼び出すだけだ」

「呼び出すんなら、召喚じゃないのか?」

「それも、俺達が配下を召喚したあとで?」

「完全に後手に回ってんじゃん?」

「その魔法陣、見逃してやってるけど、絶倫の重力魔法で歪める事なんて簡単なんだからな?」

「大体、最初っからずっと見逃してもらってるくせに、こいつ態度でかくね?」

「言えてる。本当なら、いくらでも殺せたんだけどね……私、ずっと必殺の間合いに立ってたし」

「確かに! テキトウエルとか、マジ手を振るだけで殺せる距離にずっと居たわ」

「まあ、隣の部屋の下からでも、3人で本気出せば障害物無視して、塵も残さず消せるんだけどね」

「ウケる」


 俯いてプルプルと震える中条。

 もしかして、泣いてるのか?

 ちょっと、不安になる田中達。

 やり過ぎたかも?


 そんな事を思っていたら、中条が思いっきり顔を上げて手を天に翳す。

 魔法陣に翳すんじゃないのかよ! 

 と4人が思っていると、天上からキラキラとした光が舞い降りてくる。


 これ、あの光の元に全力攻撃かましたらどうなるんだろ?

 4人全員別々に同じことを考えていた。

 流石、田中……仲が良い。

 とはいえ、そんな無粋な真似誰も……


「【重力の墓場(シュバルツシルト)】!」


 居た。

 絶倫がその光の源に向かって、自身の奥義の1つを放っていた。

 流石、田中の信者。

 思ってもやらない田中と違って、突き抜けている。


 直後、全身がボロボロになった天使が4人、天上から降って来てドサッという音とともに地面に倒れ込む。


「……」


 辺りを、気まずい沈黙が流れたのは言うまでもない。

 




 


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新作更新始めました!
(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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