創造神として転生したけど、皆にハブられて辛い
中条回です
俺は、中条 司。
この世界で、創造神をやっている。
もう数千年になるだろうか。
といっても、世界を造った訳じゃない。
中野という大魔王が作り出した闇の世界を、浄化して普通の生物が住めるようにしただけだ。
その中野との戦いも、ついに先日決着が着いた。
長かったような、短かったような。
危ない所だったが、同じく日本人の転生者である田中という魔王のお陰だ。
最近田中の姿を全く見ない。
いや、チラリと似たような人物が現れたのは聞いて居るが。
ゴブリンだったり、木だったり……
一人だけ、ちゃんとした魔族が居たな。
なんだか、中央世界でプラプラしてたが。
その3人の消息がパタリと途絶えたのだ。
先日の、北の世界への総攻撃を境に。
総攻撃の結果?
フッ……つまらぬ事を聞くな。
この我が率いた軍勢だぞ?
……惨敗だ。
この上ないくらいの。
せっかくの手駒が大分奪われた。
代わりに、こちらが手にいれたのは木乃伊と、幼女を卒業したばっかりというような少女だ。
……おあいことは言えない。
言えない……が、良い拾い物だった。
木乃伊……アンデッド……なのに聖女。
おかしい。
何かがおかしい。
しかも、俺の聖気とは全く異質の神々しいオーラ。
まあ、俺のも最高レベルで神々しいがな。
そして、少女の成長に関しては伸びしろにそら恐ろしいものを感じる。
このまま、数十年と木乃伊に鍛えられたら俺を凌ぐ力を得る可能性が。
俺の神気と、木乃伊の聖気、さらに何故か4女神の加護までついている。
うーん……勇者より、勇者だ。
ただ、チビコという名前はどうなのだ? 田中よ。
お前の子供じゃないのか?
ここまで、異常だとそうとしか思えん。
もう少し、名前というものはだな、ちゃんと考えてやらんと。
生まれてから、死ぬまで付いて回るものだぞ?
親や、伴侶、子供よりも長く付き合う存在なのだぞ?
その名前をチビコとは……
名を残すような功績を上げたら、終世語り継がれることになるというのに。
まあ、そんな事はどうで良い。
いま、最も問題なのは……
最近、配下の天使や勇者達の様子がおかしいのだ。
先日、廊下を歩いていたときの事だ。
前方から4人組の天使達が歩いてきた。
流石、俺の好みに合わせて造っただけあって美しい。
数人の勇者には否定されたが、あいつらの好みが特殊なのだろうと信じたい。
脱線した。
その天使4人とすれ違う時の事だ。
「創造主様、おはようございます」
「おはようございます」
「……」
「……チッ!」
二人は、笑顔で頭を下げて道を譲ってくれた。
だが、残る二人は無視だ。
壁に寄って、避けてくれてはいる。
が、顔はそっぽを向いている。
そして、すれ違い様にそのうちの一人に舌打ちまでされた。
「なんだ? 何かあったのか?」
聞かなきゃよかった。
でも、気になったら悶々とした日々を送ることになる。
こう見えて、俺は周りの評価を凄く気にするタイプなのだ。
知らず知らずのうちに、彼女に対して何かしてしまったのかもしれない。
「えっ……それを聞かれるんですか? 私の口から言えと? 酷い! ウッ……」
そして、質問された天使はというと……
そう言って、顔を覆って泣き崩れてしまった。
「うう……」
「大丈夫? 中条サイテー! 女性が不機嫌な理由なんてそんなにあるもんじゃないのに! 知ってて聞いたんだろ!」
「ええ? そうなんですか?」
「本人の口から、それを言わせようとするなんてやっぱり変態なのですか?」
「これは事案だ!」
「私、もうここで働けない!」
ちょっと待て。
お前はここで働くために俺が造った、人造生命体だぞ?
ここで働かないで、どこで働くんだ?
「ちょっと総務に行こう!」
「立派なセクハラだから!」
「いくら、経営者が相手だからって泣き寝入りすることなんてないのよ!」
「きっと、トゥナァクァ総務部長が上手に対応してくれるから」
「そうね! トゥナァクァ様なら、中条なんかにひるまないって!」
ちょっと待て!
誰だ、そのトゥナァクァ総務部長というのは?
というか、総務課なんてあったか?
――――――
三日後
総務部を名乗るところから、やったら強い天使と勇者が送り込まれた。
反省文と、慰謝料をふんだくられた。
ついでに、居合わせた天使4人に傷心旅行と称した1週間の休暇と旅費まで出させられた。
まあ、神器を売れば簡単に払える額だったが。
それを売ろうとしたら、会社の資産として登録してあるので個人の利用での売買は認められないとか……
造ったの俺なのに。
仕方が無いから、こっそり簡単な神薬を作り出して教会に売り飛ばした。
かなり怪しまれて、査定にくっそ時間かかった上に。
安く買いたたかれた。
なにかおかしい。
俺、お前らが信仰してる対象だぞ?
えっ?
女神派?
女神信仰系だったの?
というか、創造主信仰ってオワコン?
いまのトレンドは、セント・ヒルデガンドを崇める会?
なにそれ?
知らない。
真名は口にしてはいけない?
ならばと、記憶を読み取ってみる。
(スッピン様……時代遅れの創造主を名乗る神からお守りくださ)
スッピンって……
うちに居る木乃伊だよね?
てか、酷くね?
俺からお守りくださいって……
俺、なんだと思われてるの?
と思って、スッピンの上司であることを伝えたら敵対視された。
なんでも、ヒルデガンド解放運動なるものが全世界で一斉発起したとか。
――――――
それから数日後。
久しぶりに、部下達と昼ご飯を食べるのも悪く無いかなと食堂に向かう。
最近は自室で一人飯が多かったから。
いままでは、お世話担当の天使や勇者が傍に控えて居たり、同席してたのだが。
「なんで、飯食う時間まで部下が必要なんですか? ご飯くらい一人で食べられますよね? アーンしてもらわないと食べられないとかですか? きもっ!」
総務部からクレームが入った。
いや、有事の際の連絡や、急な報告に対する対応のクッション的な役割が……
「自分で直接聞いた方が早いですよね? そんな王様みたいな。 何様ですか?」
酷い言われようだ。
創造主なのだが?
「そんな無駄な時間に人件費なんて出せる訳ないでしょ! 貴方達は、中条さんの食事時間の待機時には給与の支払いは発生しませんけど、それでもやりますか?」
「ええ? じゃあ、別に」
「というか、人が飯食うの見るのってくっそつまらんし」
「しかも、私達その後にお昼だから、お腹が減って見てるの辛いんです」
「えっ? お腹を空かせた状態で中条さんが食事するのを見てるんですか?」
「はいっ! しかも、その時に何かあったら、食事がさらに先延ばしになってしまって」
「あと、空腹時にわざわざ報告に来た天使の言葉を、創造主の耳元に囁きに行く意味が分からない。目の前に良い匂いの料理が並んでて、本気できつい」
「なるほど……」
何がなるほどなんだ?
トゥナァクァに言われて来たと言っていた、天使がメモを取っている。
「これは、事案ですね」
「事案?」
「はいっ! 立派なパワハラです! これは、トゥナァクァ部長と要相談のうえで、中条さんになんらかの処分を加えないといけないですね」
結果、食事待機を一度でもしたことのあるメンバーをつれて、私の超高級フレンチレストランの一番高いコースを奢らされた。
隅っこで、見たことのない男性が首を傾げながら料理を食べてはコックに何か言っていた。
コックも、感心したような表情をして、メモを取ってる。
あれがトゥナァクァらしい。
なんで、お前が居る?
トゥナァクァに一言文句を言いに行こうと、席を立とうとしたら隣の天使が酌をしてくれた。
それを飲んで、さあ行こうとしたら今度は他の席からわざわざ酌をしにきてくれる天使達。
凄く気持ちいい。
なんだかんだで、皆俺のことちゃんと上司だって分かってんじゃん。
うん、ご機嫌だから今日はトゥナァクァに絡むのはやめとこう。
酌に来る天使もピタリと止まった……
まあ、結構飲んだしね。
「お客さん、これ支払い!」
いつの間にか眠っていたらしい。
一、十、百、千、万、億……
高くね?
てか、そんな額持って無いし。
「もしかして、お金無いのにこんなに飲み食いしたのか?」
奥から、怖い人が出て来た。
まあ、創造主の俺からしたら雑魚だが……
全面的にこっちが悪い。
「困るねー……ちょっと、裏に来てもらわないと! お姉さん方もだよ!」
遠巻きに見てた天使達がビクッとする。
というか、さらに汚物を見るような眼で見られてる。
お金無いのに、こんなとこに連れて来たのかというような。
しょうがない。
だって、クレジットカードとか無い世界だし。
あっても、億とか……
「はあ……分割で、給与から天引きですからね」
そう言って、トゥナァクァが財布からカードを取り出すと、お店の店員に渡す。
「こ…これは、ヒヒイロカネ級の冒険者カード! つけ払いですか? ヒヒイロカネ級なら全然問題ないですが」
「いや、未受け取りの依頼報酬が腐る程あるから、そのまま決済で」
「えっ? はいっ!」
店員が慌ててカードを持っていく。
「本当に支払えた……」
なんか、物凄く驚いた感じの呟きが聞こえたけど。
「この度は、当店のご利用まことにありがとうございます! トゥナァクァ様! お味の方はいかがでしたか?」
「うん、とっても美味しかったよ! ただ、もうちょっと遊び幅のありそうな料理があったから、その辺りはシェフとも話してみて、今度試作品を作ってもらえるみたい」
「ああ、先ほどうちの料理長がおっしゃてたのは貴方様ですか! オーナーの方がこちらでは再現が難しいと言っていた調味料をいくつか分けて頂いたみたいで。 でしたら、御試食の際にはまたそちらの男性以外の方でいらしてください! サービス致しますから」
「うん、そうさせてもらおう! 言ったからには、見届ける義務もあるだろうしね! じゃあ、御馳走様! ありがとう」
「またの、ご利用お待ちしております!」
あったんだ、クレジットカードっぽいの……
「きゃー、トゥナァクァ部長金持ち!」
「昔、冒険者時代に稼いだお金が使い切れないくらいあってね」
「ヒヒイロカネ級なんて、凄すぎ―!」
「それに比べて……」
皆の視線が痛い……
なんか、辛い思い出が……
まあ良い。
食堂に……
俺が食堂に入った瞬間に視線が集中する。
何人かは、視線を戻して話に戻るが明らかに数グループ、舌打ちをして一気に飯を掻き込み始めると、すぐに空になった皿を下げて食堂から出ていく。
なんだ、あいつら感じ悪いな。
そんな事を思いながら、適当な席に座ると両横に居たグループが、すぐに食事を終えてどっかいってしまった。
なんだろう……
自分の城なのに、凄い疎外感……
寂しい……
辛い。
「キャー! そうなんですか?」
「流石、トゥナァクァ部長! 凄いですー!」
「凄いなんて言われると、自慢話をしたみたいじゃないか」
「ですよね。トゥナァクァ部長には当たり前のことでしたね」
なんか、騒がしい連中が入って来る。
「あっ、トゥナァクァ部長、おはようございます! 自分ら、もう終わるんで良かったらここ使ってください!」
「俺、台拭き取ってくる!」
「あっ、私達が拭くわよ!」
「いや、俺達が汚したんだから、俺達が……」
なんだ、この差は。
「トゥナァクァ部長、先日は御馳走様でした! 相談に乗ってもらった上に、御馳走にまでなってしまって」
「セルゲイ君か。どうやらうまくいったみたいだね」
「はいっ! 部長に教えて貰ったお店に連れて行って、それから部長のオススメの夜景の見える私のラウンジで告白したら、見事オッケー貰いました! というか……ラウンジのマスターに、シャンパン手配されてたのトゥナァクァさんでしょ?」
「えっ? なんのことかな?」
「いや、告白にオッケー貰ったら、マスターが「セルゲイさんの恋が実って、本当に安心したよ。いつも贔屓にしてくれて有難うね」って言って凄い高そうなシャンパンを奢ってくれたんですけど?」
「それは、良いマスターだったね」
「部長に連れてってもらったのと合わせて、その時がまだ二回目なんですけど?」
「そんな、大事な場面に使って貰ったなら、そのお店にとっては贔屓にされたってことだろ? マスターの心意気だ。素直に受け取れば良い」
「全く、部長には敵わないなー」
くっ……リア充な会話が。
いや、俺もリア充だったはずなのに。
くそっ!
トゥナァクァ!
爆発しろ!
「部長って、本当にスマートよね」
「うん、憧れるわー」
創造主って……
創造主って……
辛い。
トゥナァクァとは、いったい……
新たな、謎の人物……
波乱の予感ですw