現状把握
いよいよ、田中陣営の本格的な中条攻略が始まります。
「大分、中条への嫌がらせも充実してきたな」
「そうだな、そろそろ本格的にお灸を据えてやってもいいかもしれない」
「あいつのせいで、色々と面倒臭いことやらされたしね」
中条の城の一室で、3人の男女が何やら会議のようなものを行っている。
セオザラ、マスカーレイド、ヒモロギの3人だ。
それぞれが、田中の分身であり独自の思考を持った並列存在である。
ちなみに、ヒモロギだけ女性形態である。
自分で、自分の女性形態を皆がら、どう見ても完成度の高いニューハーフとしか思えず、セオザラとマスカーレイドの内心は穏やかではない。
ただ、それぞれに違った性格をしているのも面白い。
セオザラは、大魔王中野が消えた後の中央世界で新たな戦力強化という名の、嫌がらせを行っていた。
主に、中野に付いていた魔族の残党と、中条の配下の勇者一行の引き抜きである。
魔族には力で、勇者一行には強制洗脳解除という手段を用いての引き抜きだ。
その後の、胃袋ガッチリ作戦により、現状セオザラへの忠誠心が振り切られた配下が多い。
ヒモロギとマスカーレイドは、中野統治時代の魔族を受け持っており、現在はヒモロギがその時集めた魔族や人間を指揮するよう話を進めている。
この、女装変態田中バージョンの姿で指示すれば、彼等は従ってくれるだろう。
割と、ビジュアルが強化され、女性としても魅力的ではあるが。
他の田中から見たら、やはり気持ち悪い存在だ。
なぜ本体は、こんなキワモノを造ったのだろうか?
二人は、自分のことながら理解出来ない。
こともなかった。
どうせ、面白がって作ってみたものの、完成度が高すぎて思ってたんと違ったんだろう。
マスカーレイドは中野没後に、田中新配下と北の世界の魔族との橋渡し役となっていたのだが。
田中新配下はヒモロギに任せて、自分は北の世界の現魔王であるマイの参謀を務める予定だったりする。
これも、エリー以下元配下の魔族はすんなりと受け入れてもらう事が出来るだろう。
それほどまでに、田中の人望は心を掴んで決して離さないだけの力を持っている。
現状、マイですら田中に本心から逆らう事はありえないくらいに。
「差し入れです!」
「ああ、有難う」
「それにしても……そんな気付かないものかね?」
「まあ、中条ですし……」
そこに、テキトウエルがお茶菓子と紅茶を持って入って来る。
もう一度言っておこう。
3人が会議をしているのは、中条の城の中に勝手に創り出した部屋である。
厳密に言うと、中条が居る玉座の間のすぐ隣、テキトウエルの部屋の地下だったりする。
玉座の間は3階にあり、会議室は3階と2階の間を空間魔法で広げた場所に造っていたり。
ちなみに、外観からは分からないレベルの偽装が施されている。
さらに、この部屋の中の気配は決して外から分かるものではない。
ただ、この部屋から出たらすぐにバレるはずだった。
が……魔力を適当に神気っぽく偽装してたら、意外と自由に城内を歩き回る事が出来た。
すれ違う天使や、勇者も気軽に声を掛けてくれる。
「おっ、新人3人衆! 揃ってどこに行くんだ?」
「また、迷子になるぞ?」
「まだ、食事の時間じゃないから食堂に行っても、何もないぞ」
こんな感じで割とフレンドリーだったりする。
ヒモロギはまだ、魔族というよりは神木に近いから分からないでもない。
ただ、セオザラとマスカーレイドは完全に魔族であるにも関わらず神気っぽい魔力でコーティングを施しただけで、勇者からは特に嫌悪感を抱かれる事は無くなった。
「最初からこうしておけば、北の世界でも割と自由に動けたのでは?」
「いや、冗談で作った魔法だったけど、ここまで効果が覿面だとは思わないし」
「てか、本当にこの世界の人間チョロいよな」
この世界の人間がチョロいのは、今に始まったことじゃない。
ちなみに3人が迷子になったことはない。
困った時は、転移をすればいいだけだし。
食堂でワイワイと他の勇者とご飯を食べたり、中条にどこまで近づけるかチキンレースをやったりとしてみたが、一切バレなかったため逆に不安になったのは良い思い出だ。
そして、テキトウエルに至っては、ヒモロギとセオザラが作り出した天使だし。
自分の配下の天使すら覚えていないのか。
中条の頭が心配になってくる。
そもそも、中野と違って中条に対してはそこまで明確な恨みがある訳でも無い。
魔族と敵対するから、いじめちゃおっか程度の気分なので、のんびりとしているのだ。
セオザラの配下のトップはカインで、一応最新の配下達の取りまとめを頼んだまま放置してる。
カインは気付いていないが、その仕事を放棄してちょいちょいすっぴんに会いに来てるのはバレバレだ。
なんせ、隣の部屋の下でモニタリングしているのだから。
カインの行動は全て映像として記録しているので、セオザラはこれをネタに苛めてやろうと思ってたりもする。
ヒモロギの方は、大将に辰子、総指揮に荒神、フィクサーがマヨヒガだ。
その下に、北の新配下勢がついているが、実力上位は殆ど白蛇と青大将が占めている。
マスカーレイドの方は言うまでもない。
マイはともかく、モー太、絶倫、蛇吉、ウロ子、ムカ娘の災厄級がひしめいているうえに、一般魔族ですら上位勇者を凌駕するレベルだったりする。
これらの総戦力をもってすれば、中条城が10分持つかも怪しい。
それほどまでに、現状この戦争における戦力差は酷い。
まさに弱い者いじめ。
魔王時代の田中の仕返しとばかりに、魔族や配下の英雄級の孤児を送りつけてきたが思った程楽しくなかったのか、3人は新たな遊びを考えている。
どういった遊びが良いだろうか。
一度、中条が人類皆勇者化計画を発動しようとしたが、それも本体がしゃしゃり出て潰してしまった。
まあ、ここに居る3人ならそれぞれが同じことも出来た訳だが。
というわけで、中条の神気がマックスになるまでそれも不可能になった。
もし、そうなれば全員を解放して、全人類と全魔族対中条一人という面白い構図も作れたかもしれなかったが。
いかんせん、面倒くさい。
全人類を殺す事は、容易い。
が、それを全部生き返らせることが、ことのほか面倒なのだ。
魂と器を間違えると、えらいこっちゃになるわけだし。
「はいっ!」
「なんだ、セオザラ君!」
「あえての放置プレイというのはどうでしょう?」
「このまま、中条を放っておくというのか?」
「いえ、中条城の勇者や天使を一人ずつ解放していって、解放済みの勇者天使には中条に危害を加えるどころか、完全無視。居ないものとして扱ってもらうのはどうでしょうか?」
「採用!」
「いやあ、良かった良かった!」
「でも、ここ400人くらい勇者と天使居るよね?」
「じゃあ、3人でやっていけば130日くらいか」
「長くね?」
「どうせ、途中で音を上げるに決まってるから!」
「どっちが?」
「俺達が飽きるのが先か、中条が折れるのが先かってこと?」
「そうなると、分からないかも……」
そう、田中は飽きっぽいのである。
そして、この3人も例に漏らさず飽きっぽいのである。
先行き不安だが、取りあえず方針は決まった。
中条配下を、少しずつ味方に引き込んでいって中条完全ボッチ作戦の決行である。
とはいえ、最近の中条の変態行為のせいで、一部の女性陣から既に無視されていたりするが。
「取りあえず、テキトウエルはしばらく中条を甘やかして、優しくしてあげて?」
「何故ですか? 反吐が出そうなのですが」
「えっ? 心の拠り所になってもらいたいんだけど?」
「そんでもって、最後の最後にあっさりと裏切って、無視する陣営に入ると」
「その時の中条の表情を思い浮かべると、オラ、わくわくしてきたぞ!」
「なるほど! 分かりました!」
かなり悪質ないじめだなと、若干引きつつも是非もなく了承するテキトウエル。
彼女も、造り主に似てきたようだ。




