中条の末路
短いです
「たかが魔王の分際で調子に乗るなよ!」
下半身裸状態の中条が、全身から眩いばかりの光を放つとその姿が徐々に形を変える。
上半身に申し訳程度に残っていたローブも消え去り完全に裸になる。
「ハハハ、本当に筋金入りの変態だな」
その中条の姿を見て、田中様が大笑いをする。
そばに居たスッピン以下、田中様の配下も爆笑だ。
「だまれ!この姿になったからには、もはや手加減なぞ出来んぞ!俺の服は溢れ出る聖気を抑え込む拘束具に過ぎんからな」
中条の言葉通り、今まで見たことも無いような神気が迸っている。
しかし、田中様にとってはどうでもいい事らしい。
少し詰まら無さそうな表情をすると、片手で闇の魔力を作り出す。
「それなら本当の闇の中に沈めてしまえばいいのか?」
そう言って田中様の手から離れた闇の魔力が中条を包み込む。
「グッ、だがこれはまだ序の口に過ぎん、俺には真の姿がって!おい!ちょっとまて、神気が吸収されてる」
「ハハ、そりゃ闇より深い俺の魔法だからな、全ての聖なる属性は吸収されるに決まってるだろう」
田中様の言葉に対して、ここまでかろうじて余裕を保っていた中条の表情が焦りに変わる。
慌てた様子で神気を放つが、放った先から周囲を包み込んだ黒い球体に吸い取られていく。
「いや、ちょっと待って!全身を神気で包み込んで神衣を作り出して全身を武装するのが、第2形態なんだけど?あと第3、第4もあるんだけど?」
情けない表情で必死で訴える中条に対して、田中様は片眉を上げただけだった。
「待てと言われて待つ奴は居ないし、なんで敵のパワーアップを待たないといけないんだ?終わりだよ!」
田中様が一度掌を広げ、握り込むと中条を包み込んでいた黒い球が一気に収縮を始める。
「馬鹿な!ここは変身と死闘を繰り返すのがお約束!おい!馬鹿!やめろ!いや、やめて!ちょっ、マジで!」
「……」
田中様は無言に無表情という、無慈悲コンボの視線を送ったあとで完全に中条を封じ込める。
そして、後に残ったのは拳大の黒い宝玉だった。
これで世界に平和が訪れる。
全員がそう思った矢先に……
「クソが!この程度の封印でいつまでも封じられると思うなよ!俺は必ず復活する!その時がお前の命日だ!貴様の大事な仲間から殺してやって、ちょっ、何してるの?あれ?狭い!狭い!」
「【重力の墓場】」
田中様の魔法により、拳大だった黒い宝玉が一気に米粒のように小さくなる。
「【闇の箱】」
さらに正方形の闇の魔力を硬質化したもので、その宝玉を包み込む。
「おいっ!これ、シャレにならないから!」
中条の声がかなり小さくなる。
「【重力の墓場】」
それを無視して、さらに重力魔法でその箱を小さくする。
「【闇の牢獄】」
そのうえ、その箱を闇の魔力で作り出した牢獄で包み込むと、またも重力魔法で小さくする。
「………!」
何か聞き取れない声が聞こえるような気がする。
訪れる最後の時。
「宇宙の果てまで飛んでけー!」
田中様はその牢獄を掴むと空高く投げる。
シレっと転移の魔法で成層圏の向こうまで飛ばすと、加速の魔法を掛けて遥か彼方先の銀河の向こうまで飛ばしてしまったらしい。
今度こそ世界に平和が訪れる。
新しい世界では、田中様の元、魔族も人も、ついでに天使も仲良くくらいましたとさ。
――――――
「わー!面白かった」
私の紙芝居を観たチビコちゃんが、拍手を送ってくれる。
その後ろで、中条が苦虫を磨り潰したような顔をしている。
「おいっ!」
「あっ、居たのですか変態」
「居たのですかじゃない!なんだ、この話は!それと無駄にクオリティの高い絵は!」
変態が何やら喚いているが、知った事ではない。
私はいまチビコちゃんの寝かしつけに忙しいのだ。
「というか……」
「ヒッ!」
声のトーンを低く落とし、静かに変態に語り掛ける。
「レディの部屋に忍び込みとか、骨の髄まで変態ですね?とっとと、出てけ!」
「うわっ!」
中条の胸に手を置くと、衝撃波で一気に部屋の外にまで弾き飛ばすと扉をゆっくりと閉める。
「それでは、ごゆっくりお休みください」
「おいっ!念話で城内全てに響き渡るように話しておきながら、ちょっ!開けろ!てか、開けて!その紙芝居!なに」
「はっ?」
外で中条が喚いている。
これでは五月蠅くて、チビコちゃんが寝れないでは無いか。
「いや、右下にちっちゃく作田中って書いてなかったか?」
「さあ?これは、ここの城下町で買ったものですから」
「ちょっ、俺の領地ここ!てか、城下町とか無いから!あってもそんなの売っちゃだめだから!」
本当に騒がしいので、部屋に防音の魔法を掛けて明かりを消す。
「ああ、それよく当たると評判の占い師さんの占いの結果をもとに掛かれた、半ノンフィクションらしいですよ?」
「マジ洒落にならないから。てか、俺そんな弱くないし、裸で戦わないから」
悪いけどこっちの声は届いても、そっちの声はもう届かないから。
ああ、これじゃ部屋に帰れなくなっちゃったから、今日はチビコちゃんと寝よう。
チビコちゃんの布団に潜り込むと、一瞬目を開いたあと嬉しそうに抱き着いてくる。
「今日は一緒に寝てくれるんだ」
「はい、子守歌を歌ってあげますので、もう寝ましょう。良い子は寝る時間ですよ」
「うん!チビコ、スッピンさんの歌大好き!」
「あらあら、ありがとうね」
チビコちゃんの頭を優しく撫でると、私も目を閉じて歌を歌う。
「敵はなかじょ~、すごい鼻息~、五人がかりで~連れてきたが~♪オレ!敵と戦う~、男はどこだ~、お客はどなる~、早く出て来い~♪オレオレオレ!その名たかき魔王たなか~男の中の男だけど~♪魔王たなか~、とてもねぼすけ~、戦いよりも~、料理が好き~♪」
その日、中央世界では聞きなれな中条にとって懐かしい音楽が、城内をこだました。
あまりの美声に中条以外が、聞き入って眠りに落ちるという事態に陥ったが、特に問題無かったようだ。
問題無いとの部下の報告を訝し気に見つつも、酷い歌詞だったと頭を抱える中条。
まだまだ、嫌がらせは続きそうである。
意味の無い閑話的話です。
進行回が、少しずつしか捗らないので思いついたネタを書きたくなっただけです。
悔いは無い。