まさかの裏切り……(あっ、ちなみに裏切り者は比嘉です!)
フフフ……
「主様は、いつから隠れておられたのでいらっしゃいますか?」
「ん?最初からだが?」
取りあえず、北田を無力化した後で目を覚ましたムカ娘にジトっとした目で問い詰められる。
といっても、その全身からは隠し切れない喜色が隠しきれていない。
大事な事だから二度言わせてもらった。
何故かって?全身から黄色い瘴気が立ち上っているからだよ!
「いけずなお方ですわね」
「知ってるだろ?」
「ええ、妾は誰よりも主様の事を存じております」
そして、大粒の涙を零しながら再度抱き着いてくるムカ娘。
あっ、ちなみにムカ娘の方が体高あるし、六本の腕で抱きしめられて俺めっちゃ浮いてるからね。
まあ、でもこう当たる感触は人のそれと変わらないからね……うん、悪くない……
俺も、ムカ娘に身を任せて目を閉じる……
……
……カチ……
カチ?
カチカチ……
カチカチカチ……カチカチ……
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ!
あかーん!
慌ててムカ娘の腕の中から転移で離れる。
「んもう!あと少しでしたのに」
うん、あと少しで俺の頭が真っ二つだわ!
本当に油断のならない奴だ。
「ふふっ、相変わらずなようだな……」
取りあえず、安全な距離からムカ娘に生暖かい視線を送っておく。
その時、複数の強力な力を持った連中が転移してくるのを感じる。
「田中さん!」
ふと、転移してきた存在に目を向けると、体中に傷を負ったトウゴさんと、アズマさんが居た。
「どうしたんですか?」
慌ててトウゴさんに近づくと、胸に大きな穴が開いている。
これは酷い……
おそらく、長くは持たないだろう。
血液と、魔力の流出が半端ない。
核も無いところを見ると、人間の方の心臓でどうにか持たせているというところか。
「時間が無いので手短に……ヒガが……ヒガが裏切りました!」
「ふーん」
「えっ?」
「いや、で?」
「あの、ヒガが裏切ったんですよ?」
「はい、それは分かりました。で?」
トウゴさんが必至になって持ってきた情報だけど、そこまで重要か?
もともと窓際族だし。
あっ、それが不満で裏切ったとか?
「ああ、田中さん、トウゴのやつそれを伝えるために最後の魔力を使って、転移までしてきたのですが?」
「ええ?そんな……ヒガなんかの為に最後の魔力使うとかもったいないですよ!えいっ!」
取りあえずトウゴさんの為に、新しい核を作り出して傷も塞いでおく。
ついでに、アズマさんの怪我も治しておいた。
さらに、トウゴさんには失ったと思われる魔力の10倍程度は補充しておく。
「あれっ?傷が……」
トウゴさんが自分の胸に手を当てて、驚愕の表情を浮かべている。
その様子を見ているアズマさんも、目が落ちそうになっている。
「それとケビンは?」
「ああ、ケビンなら、いまヒガを押さえてます。一応中野の直下に入った際に大幅な強化が施されていたので、自分よりはまだ戦えるので……」
ケビンが一人で押さえているって事は、そこまで強くないって事かな?
その程度の力しか持たないのに、なんで裏切ったんだろ?
「あの、ヒガさんって?」
そんな事を思っていたら、ムカ娘が不思議そうにトウゴさんに尋ねている。
ブワッ……
東の元魔王で、結構無作法な振る舞いをこの地でして、あげくに窓際配属とはいえ一緒に働いていたのに忘れられてるとか……
「えっと、自分の前に魔王してた人?」
「ああ、あのクソみたいなクソでございますね」
おいおい、レディが汚い言葉を使うなよ。
というか、クソみたいなクソってなんだよ。
それ、ただのクソじゃん。
そんな微笑ましい光景を眺めて居たら、背後からドサッという音が聞こえる。
「来たみたいですね」
「まさか、もうケビンが!」
「おいっ!ケビン!大丈夫か!」
音の方に目を向けると、ケビンじゃなくてヒガが倒れて白目を剥いてピクピクとしていた。
その横には、めっちゃ無傷のケビンがちょっとしかめっ面してこっちを見てる。
「タナカ!オレの核ニ、細工したダロ!ヒガニ核潰された後、メッチャパワーアップして復活したゾ!そんな事するのお前しかイナイ!」
「えっ?バレた?」
こんな事もあろうかと、ケビンに【再野人】を掛けておいたのだ。
なんとなくそれっぽいし。
元のケビンで時間が稼げる程度って事は、復活したケビン相手には手も足も出なかったんだろうな。
ヒガって本当に可哀想な奴だよな……
「えっ?ヒガさん?」
と思ったら、北田がめっちゃビックリした表情でヒガを見ている。
ん?知ってるのかな?
「知り合い?」
「え?えっと、一応真四天王の東の一角です……一応四天王の中で最弱ですが。というか、魔族って上位の人は皆さんこんなに強いんですか?」
「ん?いや、ヒガが弱すぎるだけだろ?」
「えーーー、一応聖剣もらってるんで、強いと思うんですけど……」
「お前より弱いんだろ?じゃあ、虫以下じゃん」
「えっ?」
俺の突っ込みに対して、北田がどんよりとした雰囲気を醸し出している。
というか、中条は何がしたいんだろうな?
こんな雑魚ばっかり寄越して。
と思ったら、もう二人程お客さんが来たみたいだ。
「おいおい、どういう事だよ?」
「ああ、まさかヒガだけじゃなくて、北田までやられてるとか……本当、使えない連中だよ」
「ふと声をした方に目をやると、どっかで見た事あるような無いような特徴の無い二人が……」
「声!声!声に出てるから!」
「酷い!」
なんか喚いてるけど、知り合いだろうか?
「なあ、なんかあそこで鳴いてるの知り合い?」
『えっ?』
俺の呟きに対して、トウゴさんとアズマさんがえっ?て顔をする。
あっ、えっ?って声に出てたわ。
「あの、西野と南野ですよ?」
「ああ、そういえばそんな奴等も居たなあ。絡んだこと無いからあんま覚えてないわ」
「そんな事よりタナカ!ケビン頑張ったダロ?褒美の食い物ナイカ?」
「ああ、そうだな。ケビンは良くやったからケンチキやろう」
「ワーイ!」
ケビンがおねだりしてきたので、取りあえず【三分調理】でケンチキを作り上げる。
それを手にしたケビンが大はしゃぎで、周りを走り回る。
おいおい、こけてもしらねーぞ。
「こりゃ駄目だな」
「ああ、だいぶ増長してるみたいだわ」
そんな様子を、おいてけぼりを喰らった状態で見ていた西野と南野がイラついた様子で見ている。
「取りあえず、大人しくしてろやこの猿が!」
そして、走り回るケビンに向けられて放たれる、西野による無詠唱のブレイブスラッシュ。
ケビンの足元に着弾し、ケビンが盛大にズッコケる。
うんうん、はしゃぎすぎるから……
と思ってたら、北田がケビンの前に回り込むと二人に向かって剣を構える。
「田中さん!あの二人は魔王の核を持つ真の勇者です!僕たちよりも遥かに強いと思ってください!」
そんな北田の様子を訝しげそうに見つめる、えっと元魔王勇者?魔王勇者?二人。
「なんだ?ただの勇者の分際で、俺達に喧嘩売るってのか?」
「おいおい、喧嘩売らなくてもこいつら全員ここで始末するんだろ?」
北田の前には神剣天羽々斬を構える西野と、神剣小狐丸を構える南野。
おお、いいなああの日本刀。
そして、目の前の二人がブレたかと思うと……そのまま地面に倒れ込んだ。
――――――
「すいませんでしたぁ!」
「マジ無理っす!」
目の前で土下座している、西野と南野。
そして西野の頭を踏み付けるケビン。
顔が真っ赤で、とんでもなく怒っているのが見て分かる。
というか、頭から湯気出てるし。
えっ?何が起こったかって?
西野の攻撃でずっこけたケビンが、持っていたケンチキを地面に取り落としてぶち切れただけですが?
一瞬で二人の後ろに移動して、足払いかまして浮いたところを片手に一人ずつ顔面鷲掴みにして、地面に叩き付けるわ、お互いにぶつけ合うわ、北田にぶつけるわ、自分の頭にぶつけるわ、あげくに投げ飛ばしては掴んで、地面に叩き付けたうえに、今度は振り回した先に土の壁を作り出してボッコンボッコンぶつけてた。
まるで癇癪を起こしたガキだわ。
やられる側にはなりたくないけど。
結果ボコボコにされた2人が今に至ると。
「ケンチキ!ケンチキ!ケンチキー!ケンチキッ!」
「ひっ!」
西野の頭がどんどん地面にめり込んでいく。
その様子を見て、真っ青になる南野。
「うんうん……ケビン、もうやめたげて。ケンチキあげるから」
「フー!フー!お前らタナカニ感謝シロ!ケンチキをおろそかにする奴ハ、ケビンが殺ス!今回は、特別に許してヤルケド、次はナイからナ!」
うーん……たぶん、西野には聞こえてないだろうな。
というか、本当に中条は何がしたいんだろう。
ちなみに、トウゴさんとアズマさんはあまりのケビンの強化っぷりにポカーンとしてたわ。
北田?なんか頭が潰れたトマトになってたから、面倒くさいけど生き返らせといたわ。
「魔族って怖い……」
いや、みんな元人間だからね?
というか、同じ地球人だからね?
中条四天王、真四天王が初めましてさようなら状態でワロタ。
いや、実質3人は顔見知りだったけど。
ヒガ、起きねーかな?
本当は比嘉に……
「なんや北田はんやられてもうたんか、真の勇者いうても大した事あらへんな」
とか、
「すんまへんな、アニキ。わい、元からこっちやってん」
とか、
「北の魔族言うたかて、魔王の核を持つ真の勇者、魔王勇者の前には敵やあらへん」
とか、(あっ、ヒガシノトウゴの魔王の核を奪うって設定でした)
「くはっ、やっぱアニキは出鱈目や!つっても、わいもまだまだ本気ちゃうけどな!」
とかってやらせるつもりが……
出たらやられてた……ケビンェ
まあ、ヒガにとってはいつもの事ですけどね……フフフ。