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魔王に転生したけど人間に嫌われ過ぎて辛い  作者: へたまろ
最終章:最終決戦!神と魔神
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北の世界の中心で愛を叫んだゲテモノ~前編~

「これ割とシャレになってないよ……」


 北田が物言わぬ躯と化した魔族達の上に座って、一人ごちる。

 そしてその北田の足元では、僅か10名程度の勇者達が跪いている。

 10名の勇者達の中に傷を負った者は居ない。

 それもそうだ。

 この10名は中条直下の勇者達であり、完全洗脳を終えたエインヘリヤルという立場を与えられていた。

 この地に派遣された勇者達の中でも、精鋭であるのだろう。

 エインとキャシーが倒されたのを、遠視のスキルで見ていた北田は即座に動いた。

 これ以上増援が来る前に、少しでも数を減らさないとこの奇襲は失敗に終わると。

 そして、彼は10人のエインヘリヤルを創造主中条から借りて、町の一角を殲滅し終えたところだった。

 丁度その時だ。

 西田が倒れたのを知ったのは。

 四天王の中で、自分と同じ転生勇者であり、神気武装を与えられた7人の勇者の1人。

 その一角が倒されたのだ。

 まさか、西田までが倒されると思っていなかった北田にとっては誤算であった。


「ここはあれか?とはいえ、奴は七勇者の中で最弱とでもぼやくべきか?」


 そんな事を思いながらも、じっと前を見据える。

 表の四天王が北田、西田、エイン、キャシーであったが、中条が用意した真の四天王でもあったのが北田だ。


「ったく、使えねー連中だわ」


 北田は頭をガシガシと掻くと、おもむろに立ち上がって前方に斬撃を放つ。

 そう、無詠唱でのブレイブスラッシュである。


「あらあら、ご挨拶でありんすなあ?」

 

 何も無いと思われた空間が歪んだかと思うと、手に持った扇でその斬撃を防ぐ一つの異形の影。

 北田に追従する、エインヘリヤル達が思わず顔を顰める。

 自分達が感知出来なかった事もだが、想像すら難しい程の実力を持った北田のブレイブスラッシュを防ぐ存在という事に、若干の動揺が走ったのだ。

 とはいえ、そこは精鋭である。

 すぐに表情を取り繕って、何も無かったかのように振る舞う。


「ココハ……ワタクシメガ」

「やめとけ、無駄死にだ」

 

 一人のエインヘリヤルが前に出ようとするのを、北田が手で止める。


「あらっ?そのまま黙ってくれば良かったのに。どうせ無駄じゃからのう」


 徐々に姿を露わにしたムカ娘が、口元を扇で隠す。

 おそらく、その口元は歪に、そしていやらしく歪んでいるに違いない。

 その目は、遥か上空から見下すかのような侮蔑の色が現れている。

 そしてその口調も格下の存在に向ける、尊大な物言いになっている。

 挑発されたエインヘリヤルが、思わず剣に手を掛ける。


「グッ!魔族ノ分際デ!」

「バカ野郎!」


 そして一足飛びでムカ娘に襲い掛かり、その距離の半ばで糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。

 少し遅れて、その場に残された首が落ちる音がする。


「バカナ……」


 そして、落ちた首が信じられない物を見るかのように目を大きく見開き、一言だけ漏らすとその目から光が消える。


 エインヘリヤルが北田に声を掛けた時には、すでにムカ娘は目の前の男の首に細い糸を掛けていたのだ。

 そのことに気付いた北田が止める間もなく、飛び出したエインヘリヤルは憐れ首と胴体が生き別れとなったのだ。

 一瞬であったが……


 今度こそ残された9人に隠し切れない動揺の色が現れる。

 こいつはヤバい。

 同時に掛からねば。

 9人がお互いに目をやりあい、一瞬で意思の疎通を図り終え飛び掛かる。


「遅いのう……」


 ムカ娘がそう呟いた瞬間。

 9人が空中でピタリと止まる。


「雑魚が……」


 そしてムカ娘が六本ある腕の右上の腕の人差し指をクイッと曲げると、9人の身体が細切れにされる。

 一瞬である。

 一瞬で、魔族の住人相手に無傷で殲滅した者達が細切れにされたのだ。


「アチャ~……これ、絶対中条さんに怒られるわ。10人の成功品を借りたのに、全滅とかマジ笑えねー」


 北田が眉間を押さえて、首を横に振る。

 10人のエインヘリヤル。

 それは失敗作のエインと違い、中条の命令に絶対に従う意思を持たぬ兵器の一つの完成系であった。

 エインは感情を大きく残してしまったため、感情の振れ幅による力の増減があったのだが、この10人は感情を持たぬ故に常に最高水準の力を引き出せた。

 一瞬の感情の揺らぎによる能力の上昇血はエインの方が上であったが、総合的に見てもこの10人の方が強いのだ。

 そして、感情を無くしたはずの完成品が恐怖したのだ。

 そのことに対して北田は若干の驚きを覚えつつも、それ以上に中条の大事なおもちゃを10体も無駄死にさせたことの言い訳を考えるのに頭を痛める。

 

「お主は来ぬのか?」

「あら~?俺も格下認定されちゃった?」


 先の10人に向けるようなムカ娘の物言いに、若干北田が落ち込む。

 とはいえ、北田の中で思ったのはその程度か……という感想だ。

 勿論、自身の評価の事ではない。

 いや、厳密には全く関係が無い訳では無い。

 この10人と自分の違いを、そこまで認識できていないのかというムカ娘に対する失望であった。


「ならばとっとと立ち去るが良い」


 動こうとしない北田に対して、ムカ娘が大きく胸を反らし口元を扇で隠しつつ、思いっきり見下して指さす。


「我らに挑むなんぞ100年早いわ!」


 そしてそのまま口元を隠していた扇を振るうと、北田を暴風が襲い掛かる。

 思わず、目を細める北田。


「おいおい、口に砂が入ったじゃねーか」

「ほうっ、我が嵐風に耐えるのか。思うた以上にやるようじゃのう」


 今の一撃を耐えた事で、ムカ娘は北田の能力を少しだけ上方修正する。

 並みの勇者どころか、北の魔族ですら耐えるのは難しいと考えていたからだ。


「それでじゃのう……お主の下にあるのは、我が街の住人と思うのじゃが?」

「ああ、そうだよ?いう事聞いてくれないからさ……つい?」


 刺すようなムカ娘の視線に対して、なんでもないように答えを返す北田。

 ムカ娘は一瞬怒りに飲み込まれそうになるのをグッと堪える。

 こやつ……実力だけはありそうじゃのう……でなければおおうつけか。

 先ほどまでの油断を全て消し去り、真剣に相手の戦力分析に掛かる。


「そっちこそ、遅いんじゃない?」


 だが、次の瞬間北田が消える。


「そうかのう?間に合うのじゃから、遅くはなかろう?」


 何もない空間に、左中椀を振るうムカ娘。

 その腕に衝撃を感じる。

 ゆっくりと姿を露わにする北田。


「ありゃ?止められちゃった」

「ふむふむ……一応、我が軍の兵程度には早いのか」


 防ぐだけで、反撃に転じられなかった事を驚きつつもさらに北田の能力を上方修正する。


「これ無理だわ……」

「ならば、諦めたらいいじゃろう?」

「……全力じゃないとなっ!」


 一瞬顔を歪めた北田に対して、ムカ娘が馬鹿にしたように漏らした瞬間ムカ娘の腕が弾かれる。


「なっ!」

「その腕、貰いっ!」


 そして、即座に腕の付け根に放たれる一撃。


「ぐっ!」


 そして襲い掛かる喪失感。

 ムカ娘が北田の方に目をやると、自分の腕を持った北田が光輝いている。


「これが、神気武装ね?そしてこっちが神剣エクスカリバー」


 徐々に光が弱くなった北田が肩を竦めると、真っ白な甲冑に身を包まれていた。

 そして、右手には白く輝く一振りの剣が握られている。

 先ほどまでの鈍い鉄色の剣では無く、神剣と呼ぶに相応しい輝きを放っている。

 輝きだけではない。

 その剣から発せられる神気は、ムカ娘が今まで感じた事の無い程の強い光だ。


「思うた以上にやるみたいじゃの?じゃが、妾もまだ本気じゃないからのう」


 ムカ娘がそう言うや否や、その下半身が完全な百足へと変わる。


「あー、知ってる。でも、それでも役者不足だよ」


 ムカ娘の変身を待ったうえで、北田が斬りかかる。


「この姿であれば、遅れは……はっ?」

 

 確かにムカ娘は装甲を上げた百足の足で、北田の一撃を弾いたつもりだった。

 だが、実際には弾かれたのは自分の足の方。

 北田の一撃で大きく後退させられてしまう。


「馬鹿な!ただの人間の膂力では無いぞ!」

「ただの人間?ああ、俺勇者だし」


 勇者?

 そんな事は知っている。

 だが、勇者と言っても人間に毛が生えた程度。

 魔族としては規格外の北の魔族であり、その最高幹部の1人にしてその中でも上位に入る程の力自慢のムカ娘を押し返すなど、ただの人間が出来る事ではない。

 初めて人間に対して、驚きを露わにするムカ娘。

 いや、よくよく考えてみたら一般市民とはいえ、北の世界の魔族を屠る事自体がありえないのだ。

 ムカ娘はここに来て、大きな思い違いをしていたことに気付く。


「ああ、分からないって顔だな?そうそう、お前らさ、こんなに勇者が居る事を不思議に思った事無いか?」


 唐突になんでもないような事を言い出す北田に対して、ムカ娘が軽くイラつく。


「そんな事は知らぬ。勇者なんぞいくらでも沸いて出る少し強い人間じゃろ?」


 北田はムカ娘の怒気を孕んだ言葉に、少し肩を諫める。


「あー、まあいいや。お前らが勇者と思ってる連中な。あれ勇者じゃねーから」

「はっ?」


 突如として発せられる北田の言葉に、ムカ娘が思わず素っ頓狂な声をあげる。


「だから、あれ偽物……ていうか、偽造品?一応魔王ってさ、神気が弱点じゃん?」

「ふん!続けよ!」

「あれっ?劣勢なのに偉そうね。まあ、それもいいや。元々さ、魔王に対抗できる勇者ってさ、一人しか生まれない訳。で神気が扱える勇者のみが魔王を倒せると」

「ふむ。じゃから、北の世界以外では、勇者が魔王を倒しておるじゃないか」

「そこ!でも違う。勇者じゃなくても神気が仕えたら魔王倒せるの」

「お主、何が言いたいのじゃ?」


 北田の回りくどい言い回しに、ムカ娘が苛立ちを隠せずに突っかかる。


「まあまあ、こっからが大事!魔王倒すとさ、魔王の力継承されちゃうんだよね。本当厄介な機能を中野は付けたもんだよ」

「それで?」

「勇者ってメチャクチャ強い訳。で、勇者が魔王になると次の勇者はもっと強くないといけない。でもその能力ってランダムだからさ……必ずしも次に現れた勇者が前の勇者より強いとは限らない。ただでさえ、魔王の核の力で勇者は強化されるしね」


北田が心底面倒くさそうに漏らす。

続けろとムカ娘が顎をしゃくる。


「それで、中条さんは一般人でも才能のある人に神気を与えるようにしたと」

「ふむ、それならば一般人でも魔王に対抗しうる力を得られると」

「そうそう、でさ。まあ4人掛かりでとか、集団戦で魔王を倒せる連中はチラホラと出て来たわけさ。結果前の勇者より遥かに弱い勇者もどきが魔王を倒す事で、魔王の力は弱体化していくと。だって馬鹿正直に本物の勇者が魔王を倒し続けると、もう手に負えなくなっちゃうからね」

「……」


 ようやく話の意図が掴めてきたムカ娘が口を閉ざす。


「勇者の神気ってさ……中条さんに授けられる訳じゃないんだよね?元から持ってるもんなんだよ……中条さんも元は勇者として生まれてるから。というか初代勇者。規格外の神気持って生まれてるよ?ただあの人の時は大魔王の中野さん相手だったけどさ、結局あの2人の決戦では決着はつかず世界は割れて、常に4人の勇者が生まれるようになったんだけどさ。中野死んだから……魔王の呪いも消えちゃったわけ。」

「であれば……」

「そう、本物の勇者が魔王倒しても問題ナッシング!そして、俺、北の勇者だから宜しくね!」


 ムカ娘がここに来て、本当の意味で初めて真剣になる。

 油断は捨てた、だが全力でなくともという思いはあった。

 だが、目の前のこの男は危険だ。

 話し終えた後に、全ての神気を解放した北田に対してムカ娘の本能が全力で警鐘を鳴らす。


「じゃあ、2回戦いってみよ「話は全て聞かせて貰った!」


 北田が剣を構えた瞬間に、田中の好きそうなセリフを吐く、良く通る爽やかな声が鳴り響く。

 こんなことをするのはカインしか居ない。

 普通であれば、みなそう思う。

 だが、そこに現れたのは武者鎧に身を包んだ一人の鬼。

 そうブルータスである。


「ムカ娘様、この男は危険ですから微力ながら手伝わせてもらいます」


 そう言って、田中に新たに与えられた日本刀を抜く。

 氷龍丸と名付けられたその刀は、ただの氷属性付きの刀である。

 とはいえ、元は信長左文字を模して造られている。

 国宝級の一振りだ。


「ああ、食い気味に邪魔すんなよ!」


 セリフを食われた北田が、苛立ち紛れに突きを放った。

 最短最速で放たれる神剣による突き。

 その一撃は音……いや、光すら置き去りブルータスを貫くかと思われた。

 だが、それよりも早く衝撃がブルータスに襲い掛かる。

 遅れて聞こえてくるドンっという音。

 そして、ズグシュという何かを突き刺す音。


「無事かえ?」


 思わず地面に弾き飛ばされたブルータスだったが、すぐに声のした方に視線を向けると背中から腹にかけて神々しい輝きを放つ剣を生やした一人の異形の美女が目に入る。

 

「なっ!」

「えっ?」


 その声の主に思わず声をあげるブルータスと、北田。

 まさか、北田もムカ娘がこんな行動を……というか、反応出来るとは思っていなかった。

 それほどまでに鋭い一撃だった。

 ブルータスを確実に殺すつもりで放った、そして死角の無い完璧な一撃。

 その速度は、神速といっても過言で無いものだった。

 まさか、それに反応するとは……

 その事に驚愕する。

 

 ブルータスも信じられなかった。

 さして、会話を交わした訳でも無く、顔見知り程度の田中の元直属の部下にして幹部。

 そのような、雲上人に近い人が自分を庇うなどとは。


「うわああああああああ!」


 目の前で思いを寄せる人の絶対絶命の状況に、ブルータスが信じられない物を見るかのように叫ぶ。

 いや、信じたくないのだろう。

 ブルータスの表情が恐ろしく歪められている。


「ふふっ……妾は元幹部、お主は現幹部……いま、田中様を支えておられる者を、むざむざ殺すわけにはいかぬのう……とはいえ、この程度の突きも防げぬとは……時代が変わるということか?」


 ブルータスの無事を見て安心したムカ娘が、弱弱しく言葉を吐く。

 腹の傷からは止めどなく青黒い液体が流れ落ち、その液体が地面に触れる度に蒸気をあげる。

 それと同時に、可視出来る程の魔力の流出も始まっている。


「ムカ娘様!」

「グフッ……流石神剣か……傷も塞がらぬし、魔力が零れ落ちてゆくのを感じるわ……それに、核も傷付いておるのう……これは、助からぬか……」


 そのままムカ娘がその場に崩れ落ちるのを見て、ブルータスが慌てて駆け寄ろうとする。


「来るな!」


 だが、有無を言わさぬ覇気でそれを制止するムカ娘。

 鬼気迫る迫力に対して、思わずブルータスが動きを止める。


「せめて、この剣だけでも道ずれに……」


 ムカ娘の体液にさらされた剣の表面から煙が上がるている。

 ムカ娘がその状態で、腹部の傷口に魔力を集中させる。


「フンッ!」


 そして、表面を徐々に溶かしたエクスカリバーに対して集めた魔力を暴発させる。

 次の瞬間、ボンッという破裂音がしたかと思うとムカ娘の上半身が千切れ飛ぶ。

 と同時に、パキリという音がしてエクスカリバーが折れる。


「ムカ娘様……何故!私は……私は貴方の事が……」


 今度こそムカ娘の元に駆け寄ったブルータスが、ムカ娘を抱きかかえる。

 自分の思いを最後に告げようと、口を開こうとするが唇に右中腕の人差し指を当てられる。


「ふふっ……どうせなら、我が君の腕の中が良かったでありんすねえ……勇者共に言われはるお言葉……わっちにも……」

 

 そしてムカ娘の腕から徐々に力が抜けていき、ダランと垂れ下がる。


「タナカ様、最後に一目だけで……も……心……から、愛しておりました……ご武運……を……」


 次の瞬間、ムカ娘の目から光が失われ、魔力が完全に感じられなくなる。


「うわあああああああ!誰か!誰か助けてください!」


 ブルータスの悲痛な叫びが、町の一角で木霊した。



ブクマ、感想、評価を頂けると執筆意欲が沸きますm(__)m

今回の話には深く触れません。

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(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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