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魔王に転生したけど人間に嫌われ過ぎて辛い  作者: へたまろ
最終章:最終決戦!神と魔神
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全てを知る者、運命を変える者

思ってたんと違う。

「賢者様……」

「あっ!バカ!」


 1人の歩兵勇者がキャシーに、報告の為駆け寄る。

 だが、次の瞬間見えない何かに弾き飛ばされる。


「私は賢者勇者、間違えるな無礼者!」


 既に意識が無い歩兵勇者に向けられる周囲からの憐れみの視線。

 そりゃ、ついこないだ農民から大抜擢されて、今回賢者隊初参加の勇者に分かる訳ねーだろ!

 てか、入隊の時にしっかりと説明しとけよ!

 というのが、周囲の勇者達の総意であった。


 そしてすぐにキャシーから放たれる金色の光。

 そう、癒しの光だ。

 壊すも治すも自由自在。

 キャシー、恐ろしい子。


「あれ……いま俺」


 回復させられた歩兵勇者が自分の顔をペタペタと触って不思議そうな表情を浮かべている。

 だが、そんな事お構いなしにとキャシーから声が掛けられる。


「次に賢者と呼び捨てにしたら許さん!報告を許す」


 男を睨み付けながら、キャシーが報告を促すと男が小首を傾げる。


「えっ?だから賢者様と……」


 バカーーーーー!

 周囲の声にならない叫びよりも早く頭が吹き飛ぶ歩兵勇者。

 あまりにもあまりな結末である。


「ちっ!一度で理解出来ぬ愚者など、我が家来には要らぬわ!」


 そして他の勇者達に向き直る。


「他の者、報告を!」

「はっ!先ほどエイン殿が倒されました」

「なっ!」


 先の勇者と一緒に来ていた、他の勇者の報告に周囲から驚きの声が漏れる。


「あの変態が死んだだと?」

「ついに、変態が逝ったか」

「いいやつだったのに……な?」

「あの人、殺しても死なないと思ってた」


 倒されたと言っただけなのに、勝手に死んだ事にされるエイン……どれだけ人徳が無いのか。

 いや、仕方が無い。

 馬鹿で変態だ。


「沈まれ!」


 ざわつく周囲に向けられるキャシーの静かな声。

 だが、周りが静かになるには十分な怒りと圧が込められていた。


「詳細を話せ!」

「はっ!敵の幹部と思われる真黒なナニかと闘い、その真黒なナニかが指を鳴らした直後周囲の勇者達の裏切りに合い、全員からの奥義を喰らいそのまま倒れ伏してしまったようです」

「なっ!」


 この報告に、今度こそキャシーが驚きの声をあげる。

 創造主様直々に洗脳を施した勇者達が裏切っただと?

 ありえぬ!

 となると、その真黒なナニかは創造主様以上の精神感応の術を使うという事ではないか!

 ええい!北の幹部は化け物か!

 

 魔族なのだから、当然人間から見れば化け物である……ビジュアル的に。

 そして、報告が箸折られ過ぎである。

 いや、伝言ゲームのように伝わっていく中で微妙に内容が変化したのかもしれない。

 さすが異世界人……色々とわやわやである。

 

 キャシーは、勇者システムの真なる仕組みを知る数少ない勇者であり、またそれ故に創造主よりほかの勇者とは隔絶された力を与えられている。

 元々は大賢者と呼ばれる魔法使いであり、この世界の事を色々と研究し知ってはならない部分にまで届きそうであったため、創造主が直にスカウトした人間の1人だ。

 そう、元々は賢者であったくせに賢者と呼ばれるとキレる。

 服を着た理不尽としか言いようがヤツだ。 


「くっ!ならば、とっととこの街の居住区を壊滅させて、奴の救援に向かわねば!」


 キャシーが焦った様子で、周囲の勇者達に指示を飛ばす。


「住民達を叩き潰せ!生き残ろうが、逃げようが構わん!住居さえ破壊してしまえば、奴等は安眠を得る事も出来ずに勝手に消費していく!散れ!」


 キャシーの指示に、慌てて町に散っていく勇者達。


「賢者勇者様!」

「なんだ!」


 そして、その場に残った数名の勇者がキャシーに声を掛ける。


「あちらに、やたらと強い人間っぽい3人組と大勢の魔族が守る建物があるのですが」

「ふむ……この街の長の家……、いやもしかすると重要な拠点かもしれぬな。向かおう」


 部下の声に耳を傾け、自分の目で確かめる。

 上司としても、割と優秀なのかもしれない。


 勿論3人とは、カインの仲間の女魔法使い(ビッチウィッチ)女僧侶(エセドジっ娘)女戦士(半端痴女)のビッチ3(スリー)である。

 そして、守っているのはチビ子の家である。


――――――

 キャシーが現場に辿り着いた時には、既に周囲では勇者達と魔族達が戦いを始めていた。

 そして数名の勇者が3人の女性と対峙して困ったような表情を浮かべているところだ。 


「お前ら、人間の癖に創造主様の使徒である勇者に逆らうのか?」


 チビ子の家の前に立ち塞がる3人に対して、睨みを利かせるキャシー。


「ふんっ!勇者の癖に一般人の家を狙うクズが偉そうに!どうせまだまだ下に毛も生えてないネンネなんでしょ?」

「私にとって勇者様はムスカ様、ただ1人!」

「そうですにゅ!あっ、噛んじゃった!テヘッ!」


 ビッチウィッチとエセドジっ娘は相変わらずである。

 だが、周囲の男勇者のうち数人は、エセドジっ娘のお腹の上の二つの凶器と可愛らしい失敗に少し頬を赤らめている。

 まあ、魔族じゃない為、嫌悪感があるわけでもないのないのだから仕方がないともいえる。

 が、男……とりわけこの世界の男は本当に馬鹿である。

 あんなわざとらしく噛む奴が、呪文の詠唱など出来る訳があるまいに。

 

「くっ!無礼者どもが!まあいい、そこをどけ!」

「嫌です!」

「うるさいですよ!ペチャパイさん?」

「ちょっ、魔法使いちゃんそんな事言ったら可哀想ですってキャッ!」


 何故立っているだけでこの女僧侶はこけるのか。

 もしかして、その首の下の凶器の重さを支えきれないのでは?

 だったら僕たちが支えてあげよう!

 両手をワキワキさせながら、近づく機会を伺う馬鹿達。

 そしてその先頭でドンヨリとした表情のキャシー。


「ペチャパイじゃないもん……まだ17歳だもん……これから成長するんだもん……」


 相当聞いている様子。

 だが、実年齢は39歳。

 若返りの秘術で17歳の肉体にまで戻ってはいるが、何年経っても成長することは無い事は知っている。

 知っているが、若さ故というのが彼女の唯一の言い訳であり、心の拠り所でもある。

 周囲の者達も知ってはいるが、知らないふりをしている。

 馬鹿だが優しいのである。

 決して上司が怖い訳では無い……はずだ。


「あっ!ビッチ3(スリー)さん!」


 そこに遅れて駆け付けるチビ子。

 間の悪いことに、たまたま魔王城に登城していたため戻るのに少し時間が掛かったのである。

 まあ、彼女のたまたまはほぼ毎日でもあるが。


「こらっ!小さい子がそんなはしたない事言うもんじゃありません!」


 どの口が言うのか?

 ビッチウィッチがチビ子を注意する。

 本当にどの口が言うのか……


「なんでこんなところに子供が?お嬢ちゃん、危ないから離れてなさい!」


 突如現れた8歳くらいの少女に慌てた様子で声を掛けるキャシー。

 ちゃんと優しい女の子でもあるのだ。


「そうだよお嬢ちゃん!ここは危ないからお兄ちゃんと一緒に逝こうか?」

「危ないのはお前だろ!」

「寄るなクズが!」


 チビ子に対してイヤらしい笑みを浮かべた変質者勇者が、ゆっくりと近づいてくる。

 その勇者を弾き飛ばす半端痴女と、キャシー。

 中々に良いコンビネーションである。

 もうお前ら付き合っちゃえよ!ヒューヒュー!

 

「魔族の街の人間とはいえ、良識はあるのか」

「クズ勇者の一味の割には見どころがある嬢ちゃんだな」


 二人の間にちょっとした友情が芽生えそうである。


「まあ、取りあえず必死で守ろうとしているその建物、よほど重要な建物と見える。どいてくれないか?」

「どいたら、どうするちゅもりですか?あっ、噛んじゃったテヘッ!」


 ウゼーーー!

 キャシーの中に沸々と沸き上がる苛立ち。

 とは対象に鼻の下を伸ばす男共。

 チョロい。

 チョロ過ぎるぞ、現地人!

 この戦いが終わったら、弟子入りしようかしら?

 周囲の勇者たちの表情を見て、キャシーが真剣に悩む。


「どいたら、そりゃ汚物は消毒だよ!魔族にとって重要な建物なんだろ?燃やしてやるぜ!ヒャッハー!」


 そして嬉しそうに、手に火の魔力を集める勇者の1人。


「えっ?」


 その言葉に対して、表情を曇らせるチビ子。


「私のお家燃やしちゃうの?」

「はっ?」


 少女の言葉に、勇者たちが唖然とする。

 まさか、こんなに強い連中と大勢の魔族が守っていた建物がこの少女の家だったとは。


「えっと、お嬢ちゃんはこの国のお偉いさんとか?」

「違うよ?村を追われて困ってたところを助けて貰っただけ。ただの農家の子供だよ?あっ!元魔王様にパパを生き返らせてもらったんだ」


 はっ?

 周囲を取り囲む勇者達の頭にクエッションマークが浮かび上がる。

 パパを生き返らせた?

 村を追われた子を保護した?

 しかも、その家を住民の魔族や他の人間が、自分達の家を省みずに守る?

 何それ?

 どこの聖者?

 困惑する勇者達に投げかけられる冷たくも悲しそうな声。


「で、貴方達は私の家を壊しに来たんだよね?」

「いっ、いや、そういう訳じゃ」


 チビ子の詰問するような声に、思わず慌てて否定するキャシー。

 だが、次の瞬間


「絶対に許さない!燃やさせなんかしないんだから!【ヘルファイアーダンス(極苦処地獄)】!」

『えっ?』


 周囲に突如として降り注ぐ鉄火……慌てふためいてその鉄火を剣で弾く勇者達。

 直後上空に転移させられ、地面に叩き付けられる。

 といっても精々10m程度である。

 この地の勇者にすれば、軽く着地出来る高さではある……空中でも鉄火が降り注いでいなければだが。


「嘘でしょ!【全てを冷ませ!ブレイブヒエピタ!】


 慌てて勇者流冷気魔法を使うキャシー。

 どうにか被害を最小に抑えつつも、まさかこのような子供が第一位地獄級魔法の中でも一番弱い派生魔法とはいえ地獄級魔法を使ったのだ。

 背筋に冷たいものを感じる。

 それもそうだろう……

 いま彼女の背後には鬼が立っている。


「お前ら、何をしてるモー?」


 城下町に着いて、取りあえずチビ子の家に向かうモー太だったが、チビ子家の方から上がる強烈な熱気と赤く燃える物体を見て一瞬で怪獣化して最高速度で駆け付けたのだ。

 あまりに巨体な的ゆえに、鉄火のいくつかが体に当たったが、彼にとっては足の裏にマッチの火を押し付けられるよりも軽いものだ。

 そして、チビ子を取り囲む勇者に対して最大級の咆哮をあげる。

 そう、再度訪れたチビ子邸失火の危機に対して最大級の咆哮である!


 ヤバい振り返ったら殺される。

 振り返らなくても殺される。

 というか、既に立っているのは私だけっぽい。

 一瞬で周囲が静かになるのを感じて、キャシーはガタガタと震え始める。

 そして、目の前の少女はたった今地獄級魔法を放ったばかりだというのう、今度は右手の白い神気、左手に黄金の神気を、そして目には涙を溜めている。

 背後では、目の前の少女に呼応するように空気と大地が激しく震え始めるのを感じる。

 これが前門の神、後門の邪神か…… 

 時間が止まる。

 ゆっくりと、だが時間が経つにつれて確実に強くなっていくすざましいまでの冷気と、汗の匂い……汗?

 

 一刻の静寂の後、先ほどの咆哮よりもそら恐ろしい轟雷を見る。


「だから、怖い事しないでって言ってるのにーーーーーーーー!」

「ごめんモーーーーーーーーーー!」


 チビ子最大の咆哮に、ジャンピング土下座をかます巨大ベヒモス。

 そしてあまりの迫力にゆっくりと崩れ落ちるキャシー。

 ああ……これが、悪戯に世界を滅ぼす神か。

 そうですね……

 子供ですもんね……

 悪戯しますよね……

 でも、それフェンリルじゃなくてベヒモスですよ?

 えっ?似たようなもん。

 そうですか……そうですね……

 

 ちなみに他の魔族と戦っていた勇者達も無力化されていた。

 チビ子の家の様子を見に来た、近所の奥さん魔族達に。

 ちなみに、種族はワニ族、獅子族、虎族、カバ族、熊族、魔族族。

 うん、最後の魔族族はただの魔族でよくないか?

 そんな事を思いながら、意識をそっと手放すキャシーであった。




真面目な話を書くのって難しいですね。

真面目に書こうと思って書き始めたのですが、平常運行でした。

いつか、きちんとした話を書けるように精進致します。

ブクマ、評価、感想頂けると幸せますm(__)m

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新作更新始めました!
(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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