田中ですか?いいえセオザラです!season third
どうしてこうなったorz
翌朝の相当に早い時間だが、村の中から悲鳴や怒号が鳴り響いている。
まだ眠い目を擦りながら、俺は民宿から外に出る。
「勇者は出てけー!」
『勇者は出てけー!』
「勇者の横暴を許すなー!」
『勇者の横暴を許すなー!』
声のする方に向かっていくと、一つの建物に大勢の村人が押しかけていた。
どうやら、みんなこの村の住人らしく絶賛デモ活動実施中といったところだろう。
どうやら、昨日俺が撒いた種が芽を出したらしい。
「これは何事ですか?」
遅れてやってきたカインが俺に声を掛けてくる。
「まあ、黙って見て居ろ。面白いものが見られると思うぞ」
カインは俺の言葉に、頷いて事の成り行きを見守る事にしたようだ。
俺の横に立って、黙って民衆を眺めている。
「皆さん、こんな朝早くにどうしたというのですか」
それから、建物の扉が開かれて一人の男が現れる。
「ブッ!」
恐らく勇者なのだろうが、その風体に思わず吹き出してしまった。
あれはどう見ても、召喚勇者だろうな。
転生者という事は無いだろう。
「加藤さん!村人たちが急に集まって来て、私達に出てけと詰め寄って来てて」
建物の前で民衆と対峙していた一人の女性が、男の言葉に困った表情で応えている。
加藤………有難うございます。
どう見ても日本人ですね。
その見た目はどう見ても馴染み深い日本人のものだ。
見事に禿げ上がった頭を横から髪を流して隠している。
いわゆる、バーコードとよばれるものだ。
「これはこれは、魔族と人間の方が一緒になってどうしたというのですか」
「お前が、こいつらのリーダーか!とっとと出てけ!」
『出て毛ー!』
「あっ?」
『ひいっ!』
何か言葉のイントネーションに悪意を感じたのだろう。
加藤と呼ばれた男が凄むと、村人たちに動揺が走る。
いや、それ以前に勇者がハゲとかどうなのだろうか?
まだスキンヘッドなら百歩譲って認めてやろう。
だが、バーコードで勇者とかどんなシャレだ。
勇者として、新しすぎる。
「わ!私達は何も魔族全てを悪だとは思ってませんでした」
「聞けば、創造主様による洗脳が行われたと」
「そこまでされて動くのは、もはや意思なき人形じゃないですか!」
しかしそんな威圧………威圧?
圧あるか?
ただのバーコードリーマンっぽいおっさんが凄んだだけだし。
「くっ!誰がそんな事を!」
村人達の言葉に、加藤が動揺している。
そこで笑顔で、「そんな事はありませんよ。偉大な創造主様がわざわざ手間をかけてまで全ての人に洗脳を施すなんて」とでもいえば可愛げがあるものを。
「俺達だよ!」
そしてその村人の前に出て来たのはイサムとキヨ、それからサイドロールだ。
堂々としたイサムとキヨに対して、サイドロールはオドオドしているのが見ていて面白い。
「あっ!貴方達!何故、貴方達が?」
まさかの身内の登場に、加藤が大量の汗を掻き始める。
ポンコツか!
その様子が、すでに3人の言葉を肯定している事に気付かないのだろうか。
「創造主様に仕える事で、その力を得たというのに裏切るというのですか?」
むしろ全く取り繕おうとしないところに、帰って清々しいものを感じる。
バーコードだけど。
「そ………それに勇者中央世界本社極東支部西地区東村部署魔族討伐推進課課長代理の私に平の勇者である貴方達が逆らって、この先我が社でやっていけると思っているのですか?」
なんだよ課長代理って!
っていうか、肩書長すぎるから!
しかも勇者って企業なの?
課長代理勇者なの?
創造主って馬鹿なの?
相変わらずなこの世界の日本人のクオリティに若干の頭痛を感じながら、事の行く末を見守る。
「前から思ってたけど、課長に会った事無いんだけど?」
「課長なんて居るわけないでしょ!全ての課にそんなに人を裂ける訳ないじゃないですか!」
「だったら、加藤さんが課長になれば良いじゃん」
おいっ!キヨ!それは言ったらダメな奴だ!
企業としても、やむかたなく課長を任せられる人が居ないが故の苦肉の策ってのがあるんだ。
居ない人間の代理や、補佐なんてのを肩書にするくらい人材に困ってる事だってあるんだぞ!
大手じゃまずありえないが、中小の小の方とかさ………
「くっ………私だって、本当は課長になりたいんですよ!でも実績が!そもそも貴方達がちゃんとしてないから!部下の評価が上司の評価につながるんですよ!」
あっ、加藤が切れた。
一瞬下を向いて唇を嚙みしめてたかと思うと、顔を真っ赤にして唾を飛ばしながらイサムに喚き散らしている。
「どうしたんですかあ?加藤課長代理?」
さらに建物から一人のネグリジェ姿の女性が出てくる。
何故かちょっと肌着がはだけてて、寝起きアピールをしているが化粧はバッチリだ。
クネクネと身をよじらせながら加藤の傍まで近づいてくる。
「あっ、大丈夫だよエイコちゃん!エイコちゃんは何も、心配しなくても良いんだからね」
「えー、ただでさえ課長代理のせいで寝不足なのに、こんな早くから騒がれたら迷惑なんですけど?」
「ごめんねエイコちゃん!すぐに大人しくさせるからね。だからすねないで」
「だってー、肌とか荒れたらあ、課長代理に見られるの恥ずかしいしい」
「もう、僕がそのくらいの事気にするわけないじゃん」
「でもお、課長代理に見られるなら綺麗な私を見て欲しいしい」
「可愛いなあ、エイコちゃんは………今夜は寝かさないよ!」
「今夜もでしょう?やだあ!課長代理のえっちい!」
なんだこれ………
あっ、住民の皆さんと勇者の三人、最初に住人に対応してた女勇者が死んだ魚のような眼をしてる。
というか、こいつが課長補佐止まりの理由を垣間見た。
いや、垣間どころの騒ぎじゃねーわ。
というか人選!
「ん?ゴホン!………まあ、創造主様に逆らうというのなら魔族含めお前ら住人とそこの3人にも少し痛い目を見て貰わないといけないな」
そう言って神気を解放する加藤。
いや、誤魔化せねーから!
相当な気を解放しているはずなのに、未だ死んだ目をしたままの住人を前に加藤が思わず後ずさっている。
それとキヨの目がかなり汚いものを見る目になっている。
「あっ、なんか良い」
そのキヨの表情に気付いた加藤がちょっと嬉しそうにしててイラッとする。
「ヨウちゃん?」
「はっ!ゴメンゴメン!僕にはエイコちゃんだけだよ」
一瞬不機嫌になったエイコという女性に対して、加藤が慌てて笑顔で取り繕いながら抱き寄せておでこにキスをする。
オエッ………
ていうかさ、取り繕う相手間違えてね?
「もう!なら、いつ奥さんと別れてくれるの?」
「えっと、離婚届は準備出来てるから、あとは印鑑を押してもらうだけなんだけど。ここに来て急にあいつがごねててさ」
アウトー!
こいつ、勇者としても、課長代理としても、日本人としても全てにおいてアウトだわ!
不倫かよ!
不倫は文化とは言わせねーよ?
貴方の事はどれほどだよ!
てか、バーコードだよ?
おっさんだよ?
取りあえずここまで来ておいてなんだが、この村の勇者はなんとなく大丈夫なような気がしてきた。
そこまで狂気を感じる事もないし。
ヨエモンや、クライフォードに比べたらよっぽどマシか。
「もう良いか………後は住人達がなんとかしてくれるだろう」
「そうですよね?」
俺の呟きにカインが反応する。
どことなく何故かワクワクしているような雰囲気を感じるのは気のせいだろ。
「貴方田中さんですよね?」
と思ったら不意に加藤に声を掛けられる。
「いいえ、セオザラです。人違いです」
後ろを向いたまま答えてその場を立ち去ろうとしたら、急に悪寒を感じる。
今まで感じた事の無い感覚だ。
この身体になって危機的状況に陥った事は無い。
故に、悪寒や恐怖と言ったものを感じる余裕は無かったのだが、ここに来て加藤の方から鬼気を感じる。
まさか、意外と実力だけは本物なのだろうか?
そんな事を考えていると、その鬼気が怒気に変わり膨れ上がったかと思うと、爆発する。
思わず身をかがめてしまう程の圧だ。
「あんたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ん?
加藤のものとは思えぬほどの甲高い叫び声………いや雄たけびか?
「お………お前?」
と思ったら、加藤の動揺するような声が聞こえる。
ふと見ると加藤と俺の間の住人から一人の女性が加藤の方に歩み寄っていくのを感じる。
「久しぶりに会いに来たのに、その女はなんだい!」
「えっと………ほらっ、あれだ!部下のエイコちゃんだ」
「なんで部下が下の名前で、ちゃん付なのよ!」
「いや、あの、コミュニケーションの円滑化を「ヨウちゃん?あれ奥さん?」
「ひっ!」
もう一つ同じレベルの怒気を放つ存在が顕現する。
いや、先程の女性勇者が放っているのか。
「あっ、ちょっと待って!いま、そこに創造主様の宿敵の田中さん「あっ、自分セオザラなんで。人違いなんで。すいません失礼します」
加藤の言葉を遮って俺が手刀を切って雑踏の中に紛れ込んでいく。
「あっ、タナカ様「コラ!タケル!俺はセオザラだ!」
「あっ、はい!セオザラ様待って」
慌ててカインが俺の後を追いかけてくる。
「あんたぁっ!」
「ヨウちゃん!」
「ひいっ!」
2人の女性に挟まれてガタガタと震えている加藤。
いや、まあ自業自得でしょう。
あれ?また悪寒が。
背筋が凍るレベルなんですけど………
新たに現れた強烈な覇気を放つ存在の方に目を向けると、これまた若くて綺麗な女性が立っている。
「パパ、サイテー」
あっ………娘さん居たんですね。
そうですか………
ご愁傷様です。
というか何故にバーコードの分際に綺麗な奥さんと、綺麗な娘さんが居て、綺麗な部下と不倫出来るのでしょうか?
やっぱり課長代理だからでしょうか?
俺なんて王様なのに………
その日、イーストウェストイースト村の勇者支部が壊滅したらしいという噂を後になって聞いた。
また、創造主の下に部下に対する労務管理の詳細な説明を求める文章が、加藤洋一と菅田英子に関する内容証明と共にとある女性から弁護士勇者を代理に送られてきたとの事だ。
久々の復帰見切り発車の結果、自分でも予期せぬ終わり方でした。
後書きが長くなりそうなので、活動報告に後書き的なものと今後の展望を書きます。
それと報告ですが、初めてレビューを頂きました。
本当に有難うございますm(__)m
過分な褒め言葉に身を捩らせてしまいましたが、とても嬉しい事です。
そしてその日PVが1万を越えました。
レビューって凄い((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
コンセプト的に幼稚な内容や、おかしな内容の回もありますが、見捨てずにこれからもよろしくお願いしますm(__)m