田中ですか?いいえセオザラです!season second
イサムとオシラとマホとカオナシ祖母孫コンビを放置して、俺とクライフォードは商店街に向かって歩き始める。
「何してるんですか?」
「あっ、キヨ!イサムがおかしいんだけど!」
「おかしいのはお前だろ?」
後ろでキヨと呼ばれるもう一人の勇者一行の回復役っぽい女の子が合流するのが見えた。
ついでに【心魂解放】をかけてみる。
「それは絶対にマホがおかしいですって!こんなに可愛いのに」
そちらに目をやると、キヨがミッシェルを抱きしめている。
「お姉ちゃん苦しいよ」
ミッシェルが恥ずかしそうに身をよじらせているが、その光景を眺めるマホがかなりゲンナリしていてちょっと面白かった。
さらにそこに
「皆さん何してるんですか?隊長勇者様がお待ちですよ!」
「おっ、サイドロールいいとこに来た!」
「サイドロールさん、2人がおかしくなっちゃった!こんな気持ち悪い魔族を可愛いとかって」
「えっ?」
「サイドロールさんは可愛いと思いますよね?」
まあ、ミッシェルに関する感想はマホに概ね同意だが、それじゃ面白くないのでサイドロールにも【心魂解放】をかける。
「えっ?いや、可愛くはないかと………でも、気持ち悪い………う~ん、気持ち悪いといえなくも。でも子供ですし、そういった意味では可愛いかも?」
正常に戻っても、感性は普通か。
つくづくサイドロールだな。
面白くないので、ちょっとした幻惑魔法を掛けてみる。
「あれ?よくよく見ると可愛い?いやん、かわいいい!なにこの子!食べちゃいたい!ムチュー」
キヨに抱きしめられた時と違い、本気でミッシェルが抵抗している。
このエロガキが!………いや普通か。
こんなおっさんに抱きしめられて、頬ずりされて、チューまでされた日にはトラウマだな。
マホの目が死んだ魚のような状態になったところで、先ほど出て来た隊長勇者というのが気になるな。
というか、創造主の勇者に対する役割のネーミングが雑すぎる件。
「なんだか良く分からない集団でしたね」
「ああ、そうだな。人間にも色んな奴が居るって事か」
「いやいや、あれは明らかに少数派ですよ」
クライフォードと、どうでも良い話をしながら先ほどの隊長勇者を頭の片隅の奥にある蓋つきのゴミ箱に放り込んで、町の散策を再開する。
「ダーリン!あーん」
「ちょっ、恥ずかしいから!みんな見てるから」
街のど真ん中でアホ二人がイチャついていたので、取り合えず2人にも幻惑魔法を掛けてみる。
シチュエーションとしては、周囲を死んだ魚の目をした集団に囲まれて見つめられるというものだ。
「ヒッ!」
ヨエモンが恐怖に引き攣った表情をしているが、反対にフレイの方は何か様子がおかしい。
「いやん、こんなにたくさんの人に見られちゃったら、興奮しちゃう」
フレイも良く分からない人種だったようだ。
まあ、いいや。
どうでもいいやって意味で、まあ、いいや!
なんてことを思っていたら、遠くの方で喧騒が聞こえてくる。
「フッ………私が誰か分からないのですか?まあ、私の正体を知ったうえで生き延びた人など居ませんけどね」
「何を訳の分からない事言ってんだよ!そこの姉ちゃんちょっと貸してくれつってんだよ」
「そうそう、そんな線の細い優男なんかより、よっぽど良い気持ちにしてあげるからさ」
「我の108ある夜の奥義の前に、堕ちぬ女はおらぬ」
どっかで見た事のある奴が、絡まれてた。
というか、お前の正体知ってるやつなんざ腐る程いるわ!
逆に死んだ奴の方が圧倒的に少ないんじゃないか?
「くっ!苦しい!」
「な………何が!」
「う………うぬは、毒を使うのか」
と思ったら3人が急に首元を押さえて苦しみ始める。
ていうか、約一名同郷者っぽいけど、たぶんたまたまだろうね。
たまたまだよね?
「ふんっ、元暗殺者勇者筆頭の私に近づいてその程度で済んで感謝しなさい!大丈夫、1ヶ月くらいで抜けるから」
1ヶ月って長くないですか?
っていうか、アマネが暗殺者勇者って初めて知った。
やっぱり、俺を暗殺しに来てたのか………辛い。
「えっ?アマネさん?ここ私の見せ………」
「時間の無駄ですよ。とっとと、タケルさんがおっしゃってた美味しいパンのお店に行かないと!限定10食なんですよね?無くなったらどうするんですか?まあ、売り切れてたらこの3人にお亡くなりになってもらうだけですけどね」
カインがアマネに引っ張られて商店街に連れ去られていく。
というか、その情報どこで仕入れた?
というか、何故それを俺に報告しない?
「いたっ!」
ちょっとイラッとしたので、カインの後頭部に石をぶつけておいた。
少しスカッとした。
というか………
「ケヒュー………ケヒュー」
「カハッ!カハッ!」
「ぬう!!お...おれはモブ!モブは決してひざなど地につかぬ~~!!」
最後のモブはどう考えても同郷者にしか思えない。
というか、モブが膝を付こうが、死のうがなんの影響も無いんですけどね。
というか3人が1ヶ月持たずに死にそうなので、取りあえず回復させて先を急ぐ。
なんだろう、もう観光とかどうても良くなってきたわ。
とは言ってはみたものの、取りあえず散策を再開した俺とクライフォードは、結局村の大半の人間の洗脳を解いて1日が終わった。
恐らく、いま洗脳が掛かったままなのは、拠点に居るだろう隊長勇者一味とマホだけだろう。
魔族も結構居たけど、途端に態度が変わった村人たちに訝し気な表情を浮かべてた。
―――――――――
「どうや、ここには勇者が8人居るみたいですね」
「知ってる」
気配探知が留まる事を知らない俺からすれば、村に入った時点で分かる情報をどうも。
「それよりも、限定10食のパンは食べられたか?カイン」
「えっ?なんでそれを?」
俺からしたら、そっちの情報の方がよっぽど重要だよ!
ホウレンソウのなんたるかを1から叩き込む必要がありそうだな。
こんど最大限強化したエリザベートとスッピンに頼むか。
あっ、エリザベートってのは北の幹部のチチカカミズガエル族の魔族な。
「取りあえず、5人を除いてこの村に住む人間は全て解放してあるから」
「し………仕事が早いですね」
俺の言葉に、カインが驚いた表情を浮かべている。
「それよりも、俺の質問に答えてないんだが?」
そして若干の威圧を込めて睨み付けると、カインがビクっとする。
「そのですね………あの、結論から申しますと………大変美味しゅうございました」
そう言ってカインが盛大に土下座をする。
まあ、許さんけどね。
というほど俺は狭量じゃないので、ここは笑顔で応えておく。
そして【三分調理】を使って、様々な種類の某有名ベーカリーのパンを作り出す。
「それは残念だな。今日は皆の普段の頑張りに応えて丁度パンを振る舞おうと思っていたのだが。限定10食の絶品を食べた、これらは霞んでしまうだろう。”カイン”以外の皆で食す良い」
俺の言葉に完成を上げる者達。
絶望の表情を浮かべる男。
「どう考えても、魔王様のパンの方が………「あっ?」
「いえ、なんでもありません」
ガックリと肩を落としたカインを横目に早速アマネが目ざとくとあるパンに手を伸ばす。
「こ………これってラピュタパンですよね?というか、カレーパンとか?この世界にカレーすら殆ど普及してないのに。ていうか、ワタシノグループ秘伝とされてて、そこ以外でカレー存在してない」
「アンパン………、照り焼きサンド、えっ?ていうか明太フランスとか」
アマネとヨエモンが心底驚いているが、フレイとクライフォードには何のことが分かって無い様子だ。
まあ日本を感じられるパンをメインに作り出したからね。
とはいえ、2人も一口ごとに目を大きく見開いて凄い速さで口に運んでた。
気に入って貰えたようで何より。
コンコン
と丁度その時扉をノックされる。
「お食事の用意が整いました」
「おっ、もうそんな時間か。じゃあ、みんなごはんにしよう。パンはまた後で食べればいいから」
俺の言葉に、大量にパンを食べた後の4人がこっちを無表情で見つめてくる。
怖いから。
「えっ?私もう結構お腹が………」
まあ、アマネさんも絶品の限定パン食べてましたよね?
「ええ、いやもう食べられない」
「す………少しくらいなら」
フレイとヨエモンも楽しそうでしたし。
「完全に忘れてた………とうか、セオザラさんはだからパン食べなかったのは?
クライフォードがジトっとした目を向けてくる。
なんだかんだで、意外と真面目でまとものクライフォード君。
クライフォードは完全にとばっちりだけどね。
「私はまだ食べられますよ!」
カインがニヤリを笑ったのがイラついたが、まあパンはまだまだある。
徐々に効いてい来る罰を控えてるんだ。
少しくらい許してやろう。
さてとこの民宿自慢の美味しい、山菜と鹿の鍋を頂きますか。
結局、カインと俺以外はあまり箸が進んで無かった様子。
隊長勇者以外の全員の洗脳が解けた村。
明日の朝が楽しみだ。