カナタタケル街
幕間的暗躍回です。
定期的に書きたくなるやまなし、落ち無し、意味無し回とも言います。
ここは東の大陸にある、以前アリアが統治をしていた町だ。
一通り西の町を見て回って、大分手の者も増やしたので打ち上げがてら結界の様子を見に来たのだが…
特に問題はないようだ。
アリアとはアラクネの魔族で、すざましい分裂速度とその能力で勇者達を苦しめていた…主にバルゴとカノンだけだが。
バルゴとカノンとは、この大陸に居た勘違い系勇者の代表であり、先の戦いでカイン扮するタケルに心酔し弟子入りした勇者達だ。
カナタ一行はいまこの街でも、最も大きな屋敷に招かれている。
新町長のタウロンの屋敷だ。
ちなみに、この街には魔族も居て割と人間と仲良く過ごしている。
ヨエモンとフレイは物珍しい町の光景に早速二人だけで手を繋いでどこかに行ってしまった。
田中の部下とはなんなのか…
ちなみにエレインは一生懸命結界の解析に勤しんでいる。
こっちも田中の言う事など聞いてもいない…
そして所在無さげなクライフォードと、田中の二人がタウロンの屋敷に案内されたのだ。
田中は老人形態になっている。
当然、いつかの恩をかさに美味しい物と、良い宿にありつこうという算段である。
「お久しぶりでございますカナタ様」
「うむ…」
「カナタ?」
横でクライフォードが首を傾げているのに対して、田中が腿をつねる。
それから軽く睨み付ける。
余計な事を言うなという風に釘をさしたのだが…
「イテッ!いや、こちらに居るのはセオザラ殿ですが?」
実は見たまんま脳筋のクライフォードには伝わらなかった。
横で田中が溜息を吐く。
「はははっ、やはり貴方様程の方となるとお名前も色々とあるのでしょうな」
一方タウロンの方は、頭が回るらしくクライフォードの疑問に対して特に怪しむ様子もなく侍女にお茶の用意をさせている。
「それで、街に異常はないか?大分魔族が流れ込んできているようじゃが」
「ええ、創造主様が復活なされて、あちらこちらで勇者様に住処を追われているようで、こちらも対応に追われてます」
「良くぞ、そのような状況で魔族を受け入れる気になったのう」
田中が顎鬚を撫でながら感心したように漏らすと、タウロンが神妙な面持ちで頷く。
「貴方様の結界は敵意あるものの侵入を防ぐ効果があると聞いておりますし、その後の様々な事態でもそれは疑う処はありません」
「ふむっ…それと、魔族の受け入れとどうつながるのかのう?創造主といえば、お主らにとっては父のような存在では無いのか?」
タウロンの言葉に対して田中が首を傾げると、タウロンが笑みをこぼす。
「最初に光の筋が四方に弾けた時、その筋のことごとくは結界に弾かれておりました。神の放つ神気をも防ぐ結界に驚きつつも…結界が発動したという事はそういう事なのでしょう?」
そして逆に疑問をぶつけられる。
その事に考えが到ったタウロンの知性に上方修正を加えつつ、田中が大仰に頷く。
「ふふっ、そこまで信用してもらておるとなると少しこそばゆいのう。じゃが、お主の言う通りじゃ。奴は創造主とは名ばかりの元はただの人間じゃ。故に魔族に排他的な考えをもっておる」
「であれば、人間にとっては良きものということですか?」
「それも違う…奴にすれば、人間などただの道具に過ぎぬ。現にあの光を受けた者達は精神を操られ、魔族を滅ぼす為だけの操り人形にされてしまう。そこに犠牲があっても奴はなんとも思わぬ。人が何人死のうが
最後に人間が生き残り魔族が滅びればよいと考えておる…そしてその逆が大魔王ナカノじゃな。奴は人間が滅びれば良いと考えておったようじゃが」
田中の答えを聞いてタウロンが考える。
確かに魔族が居なくなれば、この世界はもっと良くなるのではないかとも思わなくはない。
しかし、結界に弾かれた以上創造主の考えというのは、この街にとって良くはないものだという確証もある。
「その事に何か問題が?」
「なに、人間が滅びれば魔族同士が争うようになる。また逆もしかり、魔族が滅びれば人間同士が争うようになる」
「そのような…」
「人間とは欲深い者じゃ。まずは魔族が統治しておった土地の争奪で争うであろうな?そして人間同士で殺し合う」
とはいえ人間同士で争うのも、魔族と争うのも大差が無いようにも思える。
「創造主が欲しておるのは人の魂じゃ。故に奴は人を多く殺す…現に魔族の統治にあった国や町を奴が救った事があったか?」
田中の詭弁である。
だがタウロンに考えさせるには十分過ぎる内容だ。
タウロンの中に創造主に対する疑心がより強いものに変わる。
「大魔王が倒れたとたんにしゃしゃり出て、人間をけしかけ死地に向かわせ、魔族が滅びた後は人間同士での殺し合いを画策しておるのじゃろう」
「な…ならば、私達はどうすれば!」
「簡単な事じゃ!魔族と手を組んで、創造主を倒してしまえばよい」
いとも簡単に大それた事を言ってのける田中に対して、タウロンが目を大きく見開く。
その顔色は青白く、聞いてはいけない事を聞いてしまったという表情だ。
「お主も魔族を受け入れて分かったであろう?魔族も人も根底は一緒じゃ。良いものもおれば、悪い者もおる…種族が違うから、魔族の行った悪行を許せぬ事もあるじゃろうが、人間だって似たような事を人間に対しても、魔族に対しても行うではないのか?」
「あ…貴方は一体…」
タウロンがどうにかといった感じで、田中に質問を投げかけると田中がニヤリと笑う。
「ふふっ、神を滅ぼす存在…とでも言っておくかのう?人の敵であり、魔族の敵であり、人の味方であり、魔族の味方でもある。じゃが、わしの保護下に居るものには、平和と安寧を約束しよう」
大言もここまでくると、本当に偉大な存在なのでは無いかとの錯覚を招く。
だが良く考えて欲しい…いまの田中の説明に田中の正体を匂わせる言葉は何1つ無い。
それっぽいことを、それらしく言っただけである。
だが、目の前のタウロンは偉大な者でも見るかのような尊敬の眼差しを向けている。
これも実力に裏打ちされたものだろう。
そしてここまでクライフォードが完全に空気である。
というよりも、あまりに難しい内容に脳みそがパンクして、途中からこのじじい何言ってんだといった表情に変わっている。
「カナタタケル街は、貴方様に絶対の忠誠を誓います」
かくして、タウロンは適当な言葉で誤魔化されている事など露ほどにも思わずに忠誠を誓うのであった。
そして、活動拠点の1つとしてカナタタケル街をまんまと手に入れた田中がイヤらしい笑みを浮かべていたのはクライフォード以外知らない。
――――――
「いやあ、セオザラ殿はそんな凄い方だったんだな」
クライフォードが何か言ってるが、お前は俺が魔人だって事知ってるだろ?
こいつも案外ちょろい…というか、勇者って意外と馬鹿が多いよな。
「なんだ、今頃知ったのか?」
「ふふん!そんな凄い方の配下に加われて、俺も将来安泰だ」
裏表の無い男である。
そこが好ましくも…なんて事は全然無いな、うん。
むしろ、色々と心配だ。
簡単に騙されて寝返りそうなくらいに馬鹿だこいつは。
「それよりも、飯を食い損ねたな…」
「そういえば、あそこで御馳走になるつもりだったんじゃ?」
話が終わったあと、タウロンは住民に対するこの街のスタンスを説明するための演説を行わないととか言い出して、すぐに原稿作りに入ってしまった。
まさかの誤算である。
思ったよりも、熱を込め過ぎたらしい。
「ふふっ…カナタ様について行けば、この街はきっともっと素晴らしいものになる。人と魔族の垣根を越えて混在する街だ。もし創造主が滅びれば、この街は人魔共存の先駆け的存在として、一躍有名になるはず…もしかしたら、国に成長することだって考えられる」
などと呟きながら自室にこもっていきやがった。
しかもちゃっかり
「申し訳ありませんが、結界の範囲を広げる事は可能でしょうか?現在魔族や人が多数流れ込んできていて、結界内だけの土地ではとてもじゃないですが足りて無くて…これから、カナタ様の為にもこの街をより良く大きなものにもしたいですし」
などと抜かしやがった。
まあ、大した労力じゃないのと、せっかくのやる気に水を差すのも憚られたので、取りあえず半径を1.5倍ほど広げておいたが。
という事で、適当に街をぶらつきながら飯を食べる事にする。
むさくるしい騎士姿の野郎と二人っきりってのが辛いが。
「はい、ダーリン!あーん!」
「ちょっと、恥ずかしいですよ」
知った声が聞こえてきたが、無視だ。
くそっ、リア充爆ぜろ…いや、冗談じゃなく爆破することが今の俺なら簡単に出来るな。
やらないけどね…でも、一度はバカップルを爆ぜさせてみたいと思ってしまった。
うん、いずれ誰かでやってみよう。
どうせ生き返らせれば問題無いだろう。
「どうしたんですか?一人でニヤニヤして」
クライフォードに心配された。
余計なお世話だ!
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ちょっと、ネタ作りに専念することになりそうですが、やめる事はありません。