なんか勝手に部下にされた
「ぜーぜー…っていうかさ…ふう…なんで私…はあ…生きてるの?」
どうにか田中を捕まえて問い詰める。
「なんかはあはあ言って迫って来られると怖いんだけど…」
うるさい!ほっとけ!
というか、逆になんであんたは息を切らすどころか、汗すらかいてないのよ!
涼しい顔をしつつも冷ややかな視線を送って来る田中にイラつきつつも、自分の心境の変化に戸惑いを隠せない。
さっきまで殺したいほどムカついていたのに、今はそれほどでもない。
同じ日本人だからかな。
「ふうううう…よしっ!っていうか、貴方日本人でしょ?」
「ええ?何を言ってるのかな?」
「田中なんて名前、こっちの世界にある訳ないでしょ!」
「俺はセオザラだよ?」
くそっ!
こいつ話が通じねー…というか、とぼけかたが地味に腹立つ。
まあ、腹立つ程度だけどね。
「まあ、そんな事よりなんで私は死ななかったの?」
「えっ?それは爆発した瞬間に【時間包装紙】で時間を戻したからだよ?」
ちょっ!まさかの伝説の時空魔法。
あの一瞬で無詠唱でそんな魔法を使えるとか、この元魔王マジ規格外過ぎるでしょ!
なんでこんな奴に挑んでんのよ。
中条ってばっかじゃないの?
「っていうか、なんかした?創造主っていうか、中条の奴にムカついて仕方が無いんだけど!あと、思った程あんたがも悪くない気がしてきたし」
「逆だよ!なんかしてたのは中条の方だ。あいつはお前らに魔族を排除するよう洗脳を片っ端から掛けて、聖気を与えて私兵にしてた…まあ、俺に挑む奴等は死兵に近いけどな」
まあ時空魔法が使えるなら、その妙な自信も分からないでもないが相手は創造主。
そもそもこの世界の理を操る存在…のはず?
なんかやってる事はショボいけど。
「あいつにそんな力は無いんじゃないかな?そもそも中野もだが、所詮は元人間だしな」
まるで俺は違うみたいな言い方だけど、貴方も元人間だからね?…たぶん…田中だし。
大魔王にして魔族の祖とされている中野も大概だったけど、あんたも大概だわ。
中条だけは、良く分からない部分が多いけど。
「大体さ、中野如きにてこずってる奴がこの世界の神を名乗るとか終わってるだろう」
「中野如きって、あんただって中野に捕まってたんじゃないの?そもそもあいつが企画外なのよ!」
そういえば、こいつも中条の隣の部屋に幽閉されてたんだっけ?
自分だって似たようなものだったくせに、大層な事を言うもんだ。
とはいえ、命を助けて貰った恩もあるわけだし、これ以上こいつをどうこうするつもりもないしね。
というか、逆に私はこれからどうすれば良いのやらって感じだけど。
「ああ、捕まってたっていうか束の間の誰にも邪魔されない休暇というか?」
「はっ?なに強がってるの?」
「フフッ、あんなしょぼい部屋なんていつでも出れるし。というかさ?中条は聖気製造機ってだけだと思うぞ?確かにあいつの聖気は無尽蔵に沸いてるような感じだったが…それを言うなら俺も魔力製造機だし」
言い得て妙ね…確かに中条の聖気は底が知れないっていうよりも、中条自身が聖気のようなものだったかも。
「聖気なんてのは属性の1つに過ぎんからな?全属性に対応できる魔力の方がよっぽど優秀だろ?」
「確かに…でも、聖気は魔族に有効な最強の属性じゃない。貴方にとっては弱点のようなものじゃないの?」
「ん?ああ、俺全属性に対して無効化出来るから。当然聖気もね?逆に、闇の魔力は光すら閉ざすからね?あいつの聖気以上の闇の魔力をぶつけてやればいいだけじゃん」
なんとも簡単に言ってくれる。
まあ、それだけの力を持った存在がこいつで良かったとは思うけど。
もし、そんな存在が根っからの魔族だったら人間なんてとっくに滅んでるわ。
「それと、中条の洗脳から解けたらもう聖気も使えないんだろ?」
「まあ、多少は残りカスのようなものがあるけど勇者…とは言えないわね」
「こっちに付いたら、勇者に戻してやるよ?」
ふう…こいつ馬鹿だわ。
魔族を…魔王を倒す存在に元魔王が戻すってどんな考えなのよ。
そもそも聖気を与えられるのなんて、中条か今は行方不明の4女神くらいしか居ないのに。
「4女神なら俺が匿ってるからな。それに聖女も1人元部下にいるし」
「ちょっ!女神や聖女と一緒にいる魔族なんて聞いた事無いし」
「良かったな!じゃあ、俺が初めてって事だ」
「初めても何も、多分貴方しか居ないんじゃない?」
取りあえず田中が転移でどこかに消えたかと思うとすぐに戻って来る。
それからすぐに空中に映像を映し出す。
無駄に魔法が凄くて腹立つ。
私も暗殺者勇者より魔法使い系の方が良かったわ。
「やっほー!あんたがアマネちゃん?うち西条って言うの。西の女神だよ!」
「ちょっと、アマネさんが驚いてますよ!私は北条です。北の女神です」
「どうも初めまして。東条です。東の女神をやらせて頂いておりました」
「私は南条ね。まあ消去法的にも名前的にも南の女神だから」
ちょっ、女神の選定基準!名前かよ!
というか、本当にこいつの知り合いに4女神が居てビックリした。
そして西条さんや南条さんが、全然女神っぽくなくてガッカリもした。
「いま、あからさまに失礼な事考えただろ!」
「分かるよ!西条ちゃん口悪いもんねー!」
「お前も、変わんねーだろ!」
他人事のように言ってるけど、南条さんも含まれてますからね。
「取りあえず4人全員が加護を与えるから、対創造主勇者頑張ってねー」
「えっ?」
「じゃっ!」
ピッ!
……
ピッて何?なんかボタンを押そうとする南条さんが見えたんだけど。
テレビ電話?というよりも、インターホンのモニター的な…
というか、なに対創造主勇者って…
私やるって言ってないんだけど?
「良かったな!これでアマネも勇者に戻れたし」
「いや、良くないから!っていうか、対創造主ってなに?」
「ん?中条がムカつくから人間に総スカンしてもらおうかと思ってさ。人間全員味方に引き込む作戦実施中」
「それは偉くまた壮大な計画ですね」
「そう?まあ、時間は腐る程あるしね…そうだ、いい加減大将役を連れ戻さないとな」
またも田中が消えると、今度は1人の美青年を連れてくる。
かなりのイケメンだな。
まるで外国人俳優のようだ。
「これ、黒騎士のカインね?一応元勇者で、俺の人間的配下1号だから!まあ、厳密にいうと他にも居るけど、実働部隊では初配下」
「あ…あの、田中様…状況が良くわからブヘッ」
ひでー…喋ってる途中でぶん殴りやがった。
これはあれか?許可なくしゃべるなって事か?
「田中って誰?俺はセオザラだから!」
「えっ?セオザラ?いや、どう見ても田中さブハッ!」
いや、もう無理だろ!
私も田中としか思って無かったけど、まだ誤魔化せる気で居た事にびっくりだよ。
(こないだからセオザラって名乗ってるの!タナカもカナタもちょっとはしゃぎすぎて有名になったっぽいし)
(いや、それ聞いてないですし…というか、自分はなんでここに?というか、中野はどうなったんですか?)
(あっ?お前が中条のアホ…創造主に操られて俺の国に牙向いたから、ゴブリンメイジに北の世界に連れて行かせたんだよ!)
(はっ?いやそれも初耳…というか、なんでゴブリン?)
(そんな事はどうでも良いんだよ。一度殺したから洗脳も解けてるはずだし、細かい事は忘れろ忘れろ!)
(結構大事な事のような…)
当人らは小声で話してるつもりだろうが、一応暗殺術を学ぶ過程でどんな小さな物音も聞き逃さない訓練を受けてるから丸聞こえなんですけどね。
「という事でアマネはカインの部下ね!」
「どういう事でだよ!」
「という事でだよ!」
良く分からないが、私に残された道はそれしか無さそうだし…
取りあえず再就職?って事になるのか?
「じゃっ、頑張ってね」
無責任な言葉を残して田中が消えていった場所を、無言で眺める美青年と私…まあ、田中と夕日に染まった街並みをみるよりはロマンチックな気がしないでもない…いや、気のせいか。
こいつアホ面だし。




