魔帝センター・オブ・ザ・ライスフィールド 後編の後編
パリーンという音がして、騎士の男が2階の窓から降って来るのを上空から見下ろす。
折角直したのに、音速で壊されたよ…
やだよ…
「フハハハハ!我が槍筋の前にはいかな勇者とて無力!鎧を貫けぬなら吹き飛ばしてしまえばいい!」
「流石です!グングニル様!」
お前らか!
「おうちがまた…」
任せとけ!すぐに治してやるから!
取り急ぎ【時間包装紙】で窓を直すと、2人をその場に留めたまま俺だけ下に降り立つ。
ついでにグングニルとウルフに衝撃波をぶつけとく。
力加減間違えて2人そろって目を回して気絶しちゃったが知るか。
というか、槍に目とかあるのか?
「カ…カエル?」
急に女の声がしたので、そちらに目を向ける。
見ると、何故かビキニアーマーの女勇者が震えている。
「油断するな!カエルとはいえ魔族…というか、こやつぶっ殺したくなる面でござるな」
うっせーよ!
長髪でその口調、その武器、さっきの決め台詞!お前絶対異世界人だろう!というか、地球人だろう!
「か…」
か?
「可愛いいいいいいいいい!」
な…なにいいいいいい!
女勇者が斧を放り投げて俺に抱き着いてくる。
こ…こいつ、人間の癖に俺の事が嫌いじゃないのか?
ていうか…胸が金属プレートで覆われてて固いのが凄く残念です…はい。
「このカエル持って帰って良い?」
「駄目に決まってござろう!魔族は皆殺し!これが主神様の意思でござる!」
「【心魂解放】!」
「ヨエモン!大丈夫か?」
取りあえず【心魂解放】をかましておいた。
「あれっ?俺何してたんだろう…あれっ?なんかこのカエルさっきより愛らしいかも…」
「だろ?だから連れて帰っても良い?」
「イテテ…おい、お前ら何を遊んでるんだ!さっさとそこのクソむかつく魔族を殺せ!」
目が覚めたらしいヨエモンと言われた男が頭を振りながら、俺の方をマジマジと見てくる。
野郎に愛らしいとか言われても嬉しかないぜ!…エヘヘ。
てなことを思っていたら、二階から降って来た騎士風の男がケツを押さえながら立ち上がる。
なんだ、ケツを強打したのか。
だせーなおい。
「うっせー!お前は黙ってろ!」
そんな騎士風の男を蹴り飛ばす女勇者。
ん?この娘…洗脳解けてね?
「お前、魔族が憎くないのか?」
「しゃべったあ!この子超可愛いんですけど!欲しいんですけど!」
「いや、フレイさん落ち着いてください。魔族を創造主様のところになんて連れて行ったら、何言われるか分かったもんじゃないですよ?というか確実に殺されますって」
「というか、あんた喋り方全然変わってるけど大丈夫?」
「ええ、なんか頭が妙にスッキリとしているというか、なんであんな事言ってたんでしょうね」
どうやらヨエモンという男はキャラ設定ごと洗脳されていたようだ。
【心魂解放】によって、創造主の呪縛から逃れた今が本当の姿のようだ。
「というか、この髪の毛邪魔ですね」
そう言って手に持った刀で、髪の毛をバッサリと斬り落としてしまった。
それから頭を振って、髪の毛を振り落とす。
髪がさっぱりした男の顔は、かなりイケメンだ。
というか、一連の行動すらイケメンだ…死ねば良いのに。
「お前ら真面目にやれよ…」
「ああ、クライフォードまだ居たの?あんた帰って良いよ?」
ワナワナと震えている騎士風の男に対して、ビキニアーマー改めフレイが冷たく言い放つ。
勇者ってのも一枚岩じゃないんだな。
にしても、この街に押し入った人間は殆ど拘束されて残っているのはこの3人だけなんだけどね。
取りあえず上空から、しれっとこの村の魔族に超強化を施したからね。
といっても一時的なものだが。
さてと…どうやってこいつらを追い出すべきか。
と思ったらクライフォードの横の空間が歪んだかと思うと、黒い装束に身を包んだ男が現れる。
「フフフ、まさか創造主様の洗脳が解けているとは…しかも2人も。念のために見張っていてよかった」
男が無機質な声でそう言うと、俺の方を睨み付ける。
「アナタが2人の洗脳を解いたので?」
「あっ?私は最初から洗脳なんかされちゃいないよ?私ってばほら、精神攻撃無効持ちだから…」
「お…お前勇者じゃなかったのか?」
「えっ?いえ、フレイさんは僕の彼女ですよ?ただの旅の仲間の戦士ですから」
くそおおおお!イケメン滅びろ!
リア充爆ぜろ!
人間と魔族の禁断の恋を期待した、俺の淡い希望を返しやがれ!
「えっ?俺…フレイの事勇者だと思ってたんだけど」
「わ…私もですが?」
クライフォードと黒装束の男が驚愕に目を見開いている。
というか、彼女は勇者でも無いのになんで聖気を纏っているんだろう…
「ほらっ…勇者ヨエモンの事を妄信しまくってたら、なんか勇者の加護とかいうのがついて、聖気が使えるようになったんだよね」
「ああ、いっつも一緒にいたからね。僕の聖気が移っちゃったのかとか思っちゃったりしてたんですよね」
あのー、もう俺帰って良いっすか?
正直、ここに居たくないんですけど。
「くそ…まあ良い、そっちの男は勇者なんだろう?だったら我らを手伝え!」
「嫌だけど?こんな可愛らしいカエルさんをいじめるなんて、出来ないよ」
「流石ダーリン!私と趣味も一緒なんだよねー?」
「ねー!」
ねーじゃねーよ!クソどもが!
やっぱ、人間滅びるべきだよな?
「チッ!じゃあ邪魔だけはするなよ!というか、そこのカエルもいい加減正体を現せ!」
黒装束の男がこっちに向かって光のようなものを放つと、俺の変化が…解ける訳無いじゃん?
各種耐性マックスの俺にレジスト出来ない攻撃なんて無いっつーの!
HAHAHAHAHA!
「なっ!お前の正体はカエルの魔族だったのか?」
黒装束の男が驚いているが、横の2人は笑うのを堪えるのに必死な様子だ。
「ププッ!そこのカエル正体を現せっつといて、正体がカエルとかマジウケるんですけど」
「笑っちゃ可哀想だよププッ…かっこつけて、なんにも起きてないとかププッ」
うん、君も笑ってるけどさっきの事忘れちゃった?
またつまらぬ物を斬ってしまったとか言ってたよね?
「あのー…エレインさん?そろそろこいつ殺しませんか?」
「あっ…そ…そうだな。クライフォード!ちょっと時間を稼いでください。私が持てる最強の魔法で滅ぼしますから」
「あ…はい、分かりました」
なんか2人の関係まで微妙に気まずいものになってしまったぽいけど、俺のせいじゃないからな!
多分…
というかさ…もし、このタイミングで…
「【心魂解放】」
クライフォードを解放したらどうなるのかな?
「あ…」
「どうしました?」
「いや、なんか思った程、こいつ悪い奴じゃない気がしてきました」
「ちょっ!なんで、このタイミングで洗脳が解けちゃうんですか!」
こうなるよね?
めっちゃエレインが焦って笑えてきた。
というか、このエレインって奴は何者なんだろうね?
「くそっ…魔法使い勇者筆頭の私にかかれば、魔族の1人くらいどうにでも出来ますから、貴方達はそこで見ていてください!」
「実は俺の正体は魔人でした!」
さらにこのタイミングで正体をバラしちゃったりします。
というか、魔法使い勇者って魔法使いなんだか勇者なんだかはっきりしろよ!
なんか、微妙過ぎるわ!
「えっ?あっ!ほらっ!見て見て!やっぱり、カエルの魔族じゃなかったでしょ!ほら、私が正しかったんじゃないですか!いやあ、変化を無効化する魔法を使ったのに何にも変化が無いから焦っちゃったじゃないですか!本当に、貴方も意地が悪い人ですね!」
めっちゃはしゃいでる。
というか、すげー喋るなこの人。
よっぽど、さっき恥ずかしかったんだろうな。
「えっ…ああ、そうですね。ちょっとイケメンかも…」
「えっ?フレイさん?」
「フフッ、でもヨエモンの方が100万倍カッコいい!」
ああさいですか…
もうお前ら帰ったら?
「じゃあ、私の最強の魔法をお見舞いしてあげますね!創造主様より授かりし、天上魔法が1つをお見せしましょう…【我を守りし炎の聖霊よ!周囲を遍く包み込み、その燃え盛る炎にて我が敵を燃やし尽くさん!そして顕現せし天の聖なる炎により、魔を滅し世界を明るく照らしたまえ!汝に捧げるは彼の者の魂!いまここに在れ…聖炎】!」
おい魔法名!なんだよオリンピックって!
マジ創造主も大概だな!
というか、詠唱長すぎだろ!
そりゃ、クライフォードに時間稼ぎを頼む事になるわな!
エレインの手から金色に輝く炎が顕現し、俺に向かって飛んでくる。
「【エレメンタルブレイク】」
その魔法に対して、属性破壊の魔法をぶつける。
ジュッという音がして、光だけがその場に残される。
熱は奪われ、炎としての役割は全く果たさなくなってしまったそれは、俺にぶつかると強い光を放って弾けた。
「はっ?」
「ふう…よえー」
エレインが信じられないようなものを見るような目をしているが、他の3人は凄く気まずそうな目をしている。
「流石にちょっと可哀想だよね…プッ」
「仰々しい詠唱して、聖なる炎とか言っといて、ジュッって…」
「あの…聞こえますから…プッ」
3人ともひでーな。
エレインがプルプルしてるじゃねーか。
まあいいか…
「じゃあ、今度はこっちの番だな?本当の魔法詠唱ってのを見せてやろう」
初めて詠唱を使ってみるが、上手くいくだろうか?
確か詠唱破棄より、威力も精度も上がるんだったよね?
取りあえず詠唱してみるか…
「【服だけ燃やせ火球】」
「なんなのですか、そのふざけた詠唱と魔法名ってなんて威力!くっ!【マジックシールド】!って、はっ?」
俺の放った魔法は、器用にエレインの魔法の盾を避けるように彼の周りを飛び回り、詠唱通りに服だけを燃やしていく。
エレインはその実力差に絶望を隠し切れない様子だったが、取りあえず【心魂解放】を放っといたら、偉くスッキリした顔で白目を剥いて気絶した。
詠唱って凄いって思いました。
すいません…大分空きました。
もう1つの方をキリの良いとこまでと思いながら進めてたら、結構日にちが経ってました。
気を付けますm(__)m