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魔王に転生したけど人間に嫌われ過ぎて辛い  作者: へたまろ
最終章:最終決戦!神と魔神
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魔帝センター・オブ・ザ・ライスフィールド 中編

ヨルミという女の子に案内?されて連れてこられた部屋は、普通の部屋だった。

まあ、民宿だしね。

ベッドが1つと、机と椅子…あとは箪笥くらいのものだけれども泊まるだけだし、これで十分だろう。


「ん?どうした?」


部屋の前に立ち尽くしている、小さい兎耳の女の子に声を掛けるとすぐに扉に隠れてしまった。

何か用だろうか?

にしても、人見知り過ぎるだろう。

言葉くらい発してくれても…

と思っていると、扉から手だけが出てくる。


「チップ…」


しっかりしてるなおい!

親の顔が見てみたいわ!って、ついさっき見たばっかりだけどさ。

仕方が無いから、袋から銀貨を一枚作り出して(・・・・・)ヨルミの手にそっと握らせる。

その銀貨をマジマジと見つめて、小首を傾げる。

これは…多かったのか?まさか少なかったのか?


「これなに?」

「いや、お金だけど?」


俺がそう答えると、ヨルミがよく分からないといった表情をしている。

いや、チップを要求してきたのそっちだろ?

なんで、そんな表情してるんだよ。


「飴じゃないの?」


飴?

飴?

ああ、そうか…これはおっさんの方が悪かったな…いまは蛙だから年齢不詳だけど。


「いっつも止まってる行商人のおじさんは、部屋まで案内するとチップだよって飴くれるよ?」


ああ、そうですね。

子供だもんね…行商人の人はここの常連で、この子を可愛がっているんでしょうね。

でも、おじさん初めてだからね?

そんな事情しらなかったんだよ?

しょうがないよね?


「ああ、えっと飴より良いものだよ?」

「美味しいの?」

「いや、食べられないかな…」

「じゃあ、要らない」


うん…無邪気という言葉の神髄を見た気がする。

別にお金が欲しいとか、ものが欲しいといった訳ではなく、単純にお手伝いしたご褒美の飴ちゃんが欲しかったんだね。

っていうか、行商人のおっちゃんも余計な事をしてくれるわ。


「いやいやいや、それをお店に持っていくと飴ちゃんが買えるからさ!」

「この村…飴売って無い…いらない」


どんだけ飴欲しいんだよ。

しょうがない…俺は溜息を吐くと銀貨を受け取り、魔法でペロペロキャンディを作り出して代わりに手渡す。


「これなに?」


これなにって、飴に見えないかな?

もしかして、ペロペロキャンディ知らないのかな?


「飴だよ」

「これが?」


ヨルミが不思議そうに棒が刺さった飴を眺めている。

うん、知らないみたいだね。


「そうだよ、嘗めてごらん?」

「うん…甘い!すごーい!これ飴だぁ!こんな大きい飴初めてみた」


途端にパアッと表情が明るくなる。

お…おう、可愛いな。

さっきまでの人見知りはどこへやら、勝手に部屋に入り込んできて周りをピョンピョン跳ねまわっている。

兎だけに。

俺もピョンピョン跳ねた方がいいか?

蛙だけに?

そんな事を思っていたら、お母さんの方が部屋を覗いてきた。


「ヨルミどうしたのそんなにはしゃいで、ドンドンうるさいわよ」

「ママ!これ見て!」


おかみさんが怒っているのに、怒られている当の本人は満面の笑みを浮かべて飴を見せびらかしている。

おかみさんも、ヨルミが手に持っている飴を見て驚いている。

そんなに珍しいのか?


「こっ!こんな大きな飴!ただでさえ、飴ってお高いのに…貰っても宜しいんですか?」


お高いって…深夜のテレビショッピングみたいだとか思ったのは秘密だ。

俺は、返事の代わりに大きく頷いて答える。


「すいません…有難うございます。今日の夕飯は期待してくださいね!腕によりを掛けますので」


おお、おかみさんの方の心もガッシリ掴んだみたいだな。

そう言われると、ちょっと期待しちゃうわ。

でも、まあそういうつもりじゃなかったし。


「いや、お気になさらずに。旅人という性質上、色々と珍しい物が手に入るんで。その飴も旅の途中で偶然もらったものなのですが、俺は飴を食べないから」

「ええ!こんなに美味しいのに!おじちゃんも食べてみてよ!」


そう言ってヨルミが涎でベタベタになった飴を差し出してくる。

これは、人によってはご褒美なんだろうが、生憎と俺はそんな属性持ちじゃないからな。


「ははっ、気持ちだけ受け取っとくよ」

「ヨルミ、はしたないから止めなさい!すいません、お客さん…娘が」

「子供らしくて良いじゃないですか。こんな時だから、余計に救われますね」


俺の答えに、おかみさんもほっとした様子で頭を下げると、ヨルミを連れて部屋から出て行った。

うんうん、なんか久しぶりに異世界を満喫してるって感じだよな。

その後、しばらく部屋でくつろぐと、町を散策に出かける。


うん、見事に何もない。

家と畑ばっかりの村で、特に面白い物もなく


「遅いぞ!突いたらすぐに引く!」

「はい、お槍様!」

「我はグングニルだ!」

「はい!グングニル様!」

「よし、じゃあ、次は薙ぎ払いを100回!」

「はいっ!」


うん、特に面白いものも何もなく…


「あっ!旅のお方!良い槍を有難うございます」

「チッ!」

「えっ?」

「ああ、兵隊さん、訓練ですか?せいが出ますね」


見つかったか。

ウルフが嬉しそうにこっちに駆けよって来た。

尻尾がビュンビュンと振られているが、別にお前と話をする気なんて無かったんだけどな。

というか、本当に良い槍と思っているのか?大分しごかれているみたいだが。


「今まで、正式に槍を学んだ事が無かったので、凄く勉強になります」

「そ…それは良かったですね。俺はこの辺りをしばらく散策しようと思いますので…」

「宜しければ案内しましょうか?」

「結構です!」

「えっ?」


即答は不味かったか。ウルフの耳がペタンと倒れて、心なしか尻尾もしょんぼりしてしまった。

面倒臭い奴め。


「いや、槍の鍛錬が忙しそうですし、特に目的がある訳でも無いので…」

「あ、そうですか?そんな気を遣われなくても」

「ほら、槍が待ってますよ?」


俺が槍の方に向くように促すと、視線の先で槍が地面をペシンと叩いていた。

偉そうだなお前?偽物の癖に。

ちょっとイラッとしつつも、ウルフがああ、すいませんと言いながらそっちに走って行ったので、その隙に逃げ出す事に成功した。

さてと…とっと次に行こうか。

といっても、本当に何も無かった。

途中で鰐族のおばちゃんに庭になってる果物を貰った。

ブッシュカン…別名仏の手と呼ばれる珍しい柑橘系の果物だ。

日本でも鹿児島で生産してたような…っていうか、本当にこの鰐族不思議果実グループは親戚かなにかじゃなかろうかと思える程、行動がよく似ているな。

そんな事を考えつつも、畑で農家のおじさんにトマトを貰ったりとおかみさんに夕飯を楽しみにしててと言われたのに、わりと食べてしまった。


それから陽が傾きかけて来たので、取りあえず一度民宿に戻る。

すでにおかみさんが夕飯の支度に取りかかっていて、良い匂いがする。

ただ、なんの匂いかさっぱり分からないけどな。

美味しそうな匂いだが、日本では嗅いだ事の無い香りだ。

それと魚を焼いているような匂いもするし、まあ期待はできそうだ。


「あら、お帰りなさい。もうすぐ、お夕飯ですよ」


俺に気付いたおかみさんが、エプロンで手を拭きながら出迎えてくれる。


「ああ、良い匂いですね。楽しみです」

「あらあら、それはプレッシャーね。でも良い魚が手に入ったから、少しは期待してもらって大丈夫よ!」


おかみさんが力こぶを作るような仕草をしながら、笑いかけてくる。

うんうん、なんか明るくて、とってもフレンドリーで嬉しくなってくるな。

最近、こういうコミュニケーションを取ってなかったから、新鮮なような懐かしいような…


「じゃあ、部屋で楽しみに待たせてもらいますか。」

「ええ、出来上がったら部屋までお持ちしますから」


最後にそうやり取りをかわすと、俺はゆっくりと二階へと上がっていく。

そして、部屋に入ると取りあえずベッドに倒れ込む。

固い…でも、まあ普通はこうなんだろうな。

固いけど、床よりはましか。

そんな事を考えながら、少し目を瞑る。

そう言えば、蛙族って粘液とか出ないのかな?

俺は変化してるだけだから出ないけど、あまり布団で寝て欲しくないよな…なんてくだらない事を考えつつ、柔らかな太陽の香りという名のダニの火葬された匂いを放つ布団に包まれて、仮眠をとることにした。


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新作更新始めました!
(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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