真魔王に転生したけど人間に嫌われすぎて辛い
さてと、これからどうしようか…
俺は取りあえず中野が倒れた時点で、俺は触手に手伝ってもらって監禁部屋から脱出した。
今の俺はとある事情で、魔力も身体能力も元の10分の1程度しかないがそれでもこの世界では、ダントツで強いはずだ。
取りあえずどこかの村にでも行くか。
ということで転移を発動させて最寄りの村へと移動する。
いきなり村の中は不味いと思ったので、取りあえず村の付近に移動したが…
何やら様子がおかしい。
煙の匂い、喧騒の声、剣戟の音…
争いか?
まあ、ちょっと覗いてみて危なそうだったら離れるか。
そう考え村の入り口まで行くが、見張りの人間…もしくは魔族が居ない。
どういうことだ?
その時、村の中から声が聞こえてくる。
「もうやめてください!私達が何をしたというのですか?」
「うるせえ!薄汚ねえ魔族が!喋ってんじゃねーぞ!」
「きゃっ!」
「ママッ!ママッ!」
どうやら人間が反乱を起こしてるみたいだな。
まあ、魔族も中野の統治時代は好き勝手やってたし、自業自得か…
とはいえ、子供の前で親が殺されるのを黙ってみているわけにもいかないか。
俺は溜息を吐いて、村の中へと歩みを進める。
酷いありさまだ。
あちこちに魔族の死体が打ち捨てられている。
村の中心に向かうにつれて段々と血の匂いが酷くなってくる。
「子供だけは!子供だけは!」
「ふふーん?そんなに子供が大事?」
魔族の死体が積み重ねられた山の上に座った女に向かって、女性が懇願している。
女性の姿はここからじゃはっきりとは見えないが、女は神気を纏っているところを見ると神の手先か…
「はい…この子さえ無事なら、私は何をされたって構いません!」
「ママ!もう良いの!私も一緒に死ぬから!」
「駄目よ!貴女だけでも生きて!」
母親が必至で子供の命乞いをしているのに対し、子供は母親と一緒に逝く事を選んだようだ。
その覚悟潔し!
「そっか…子供の方が自分より大事だもんね?」
「はい!ですから…」
勇者が優しく語り掛けるように、母親に問いかけると母親がその足に縋りつく。
その手を勇者は優しく掴むと…そのまま弾き飛ばす。
「じゃあ子供から殺しちゃおっと!キャハ!」
そう言うと、勇者は座ったままで剣を振るう。
「【全てを斬り裂け、ブレイブスラッシュ!】」
光の斬撃が子供に向かって放たれる!
クズが…
バキンという音とともに、勇者の放った斬撃が砕け散る。
「はっ?誰だ!」
勇者が周囲を見渡し、ゆっくりと近付いて行く俺に気付いてそこで視線が止まる。
「かーっ、これまた一段とムカつく魔力を持った魔族だな!近くに居るだけで吐き気がするぜ!」
酷い言われようだ。
よく見ると、わりと可愛い顔をした清純そうな女の子のように見えるが、言葉遣いもやる事も酷すぎる。
「とっとと消えろよゴミクズがっ!【全てを斬り裂け、ブレイブスラッシュ!】」
その技名長いんだよねー。
てか全部言わないと発動しないのかな?
もしかして魔法だったりして。
そんな事を思いながら、無視して親子に近づく。
勿論、斬撃は俺に触れる前に砕け散るが。
「ふっ…学習しろよ!さっき防いだばっかだろ?」
俺は小ばかにしたように鼻で笑うと、母親に手を差し伸べる。
母親がちょっと驚いた顔をしていたが、すぐに険しい表情へと変わる。
うんキモイ…
凄く綺麗な声だったから、美形な魔族を期待したのだが久々ゲテモノ系の魔族だったよ…
鼻と口以外の全てのスペースに目がある百目族だ…
ウォータウッド先生のデビルくんに出てくる百目は可愛いんだけどね…
リアルに人型の百目って、マジドン引きするレベルでキモイんだよね。
しかも、その目が一瞬見開いた後に、全部が睨み付けてくるんだぜ?
いや、睨まれてる訳じゃないけどさ…
「どこのどなたか存じませぬが、この子を連れて逃げてくれませんか?」
「ママッ?」
母親の言葉に、子供が母親をジッと見る。
うん…ゴメンね…子供でもキモイもんはキモイわ。
円らな100の瞳でも、ちょっとね…
「あんたは?」
「私は…全力で時間を稼ぎます。貴方様の実力なら子供を連れて逃げるくらい…うっ!」
「ママァァァァァァァァァ!」
喋っている途中で母親が声を上げる。
そして、子供が顔を覆って悲鳴を上げる。
そう、背後から喋っている途中の母親を勇者が斬りつけたのだ。
「はい時間切れ!てか、全然時間稼げなかったねー?キャハッ」
勇者はそう言って剣に付いた血を嘗めとるような仕草をする。
うんうん、よくそういう事する悪役いるけどさ?それ魔族の血だよ?
しかも、気持ち悪い見た目した百目族の血だよ?
お前、実は言う程魔族嫌いじゃねーだろ?
でも残念…
勇者も剣を嘗めてみて違和感を感じたのだろう。
首を傾げている。
「あれっ?血が付いてない…」
ダッセ!まじダセぇわこいつ!
だって、斬ったと思ってかっこつけたんだよね?
しかも時間切れとか言って、まだ始まってもねぇっつーの!
「いや、色々と遅すぎるだろ?」
俺が呆れたようにつぶやくと、沢山の潤んだ目に見つめられててびっくりした
一瞬早く母親を引き寄せた俺は、彼女を抱きしめる形になっている訳で…
そんな彼女は俺の方を見上げて、目が無い肌の部分を赤く染めている訳で…
思いっきり突き飛ばしたくなる訳で…
でも、我慢した俺って凄い!
紳士の鑑だわ!
ちなみに、意外と胸があって…生意気にも良い匂いもして、柔らかくて…普通の魔族ならムラッとするところなのだろうが、俺は一周回ってイラっとした。
まあ、元は人間だから人外過ぎるのはちょっとね。
「お前マジムカつくわ…いや、何もしなくても殺したいほどムカつくのに、今は殺したいほどムカついてるわ」
うん、それってなんも変わってないからね?
つまり、出会った瞬間から最上級にムカつかれてたってことね俺…流石に泣くよ?
「勇者様!隠れていた魔族を見つけて来ました!」
そこに村人が、何人かの魔族を連れてくる。
「ふふん!ここにも一人命知らずの馬鹿が居たからさ、ついでにまとめて殺しちゃおっと!私の最強の技で」
だから出会ったら、真っ先にそういうの使っとけよ!
ただでさえ、初撃防がれてんだから、2発目は強力なの持ってたらそっち使うだろ普通。
「【全てを斬り伏せろ!ブレイブスラッシュ2!】」
創造主、技の名前考えるの面倒臭くなっただろ?
導入変えて強力になったのアピールしてるっぽいけど、名前が酷いわ!
「【死の行進】」
「うわっ!」
俺が新たに創り出した魔法を発動させると、バランスを崩した勇者が技の途中で山から転がり落ちてくる。
ププッ!だせー。
こいつ、出会ってから今まで本当にかっこつかない奴だよな…
「うう…重いい…」
「早くどいてくれ!」
「あれっ?俺死んだんじゃ?」
「ん?どうなってる?」
「ここは?」
「うぉぉぉぉぉ!」
勇者の尻の下にあった死体の山が蠢き始める。
はい、全員漏れなく復活させました。
殺されたばっかりで、魂もまだ召されてなかったしね。
ついでに全員に強化を施してます。
「えっ?」
「はっ?」
百目の親子が突然動き出した死体の山に目を大きく見開いている。
それから、こっちをジッと見つめてくる。
「もしかして死霊使い様?」
はい、違います。
ちゃんと生き返らしてますから。
アンデッドちゃいますからね?
そこからは酷いもんだった。
復活した強化魔族達にボコボコに仕返しをされる女勇者。
あっ、俺の監視下で18禁的な仕返しなんて起こらないからね。
…嘘です。
いや、そっちの嘘じゃないですよ?
ほらっ。
「あんた、いまどさくさに紛れて勇者の乳揉んだでしょ!」
「ちげーよ!かーちゃん!もんでねーよ!当たっただけだよ!」
「何勇者の服が破れたのをいやらしい目で見てんのよ!」
「何言ってるんだい?僕の目には君しか映ってないよ?」
「ちょっ、そんなもん膨らましてないで真面目にやりな!」
「ちょっ、何言ってんだよ母ちゃん!恥ずかしーって」
嫁や、恋人や、お袋さんが見てる中でそんな事出来る訳無いよね?
当然、半殺しで村の人間も全て捕縛して俺の前に並べられている。
「どこのどなたか存じませぬが、この度はありがとうございました」
村の元代表のウニ族の男が跪いて頭を下げている…のか分からない。
だって丸いし…とげとげだし…目も、鼻も、口も無いし。
っていうか、魔族自由過ぎるだろ!
どんだけ節操無く進化してんだよ。
「いや…取りあえずこいつら一回殺しとくから、それでチャラにしといて」
俺はそういうと、村の人間と勇者を殺して復活させる。
「えっ?一回殺してくってそういう意味で?生き返らせちゃうの?」
ウニ族の男が驚いているが、これで実質おあいこだろ?
魔族統治時代はどうせお前らも同じような事してたんだろ?
「はっ!俺は…あっ、リチャード様!私は一体何を!」
目を覚ました、60代くらいの人間の男性がウニ族の男に向かって問いかけている。
っていうか、このウニリチャードって言うのかよ!
相変わらず、魔族のネーミングセンスはどうかと思うぞ?
「正気に戻ったか…いや、そこの勇者が現れた途端に突然人間の皆が襲い掛かって来て驚きましたよ」
丁寧だなおいっ!
もしかして、リチャード良い奴か?
「申し訳ありません…街で魔族の方に迫害されていた私達を住まわして頂いて仕事を頂いたのに、恩を仇で返すような真似を…このような素晴らしく聡明なお方を害してしまうとは、我が事ながら情けない…」
そうなの?
こいつ本当に良い奴だったの?
でも、全然表情とか読めないんだけど。
「おいおい…リチャードさん殺されたってのに、なんか照れて無いか?」
「うんうん、耳まで真っ赤だぜ!」
という他の魔族の声が聞こえる。
はっ?照れてる?
耳?どこ?
真っ赤?いや、真黒だけど?
なに、魔族にはどう見えてるのコイツ…
「勇者が現れた途端に、頭の中に魔族を殺せという声が…」
「そこからは私が説明いたします」
人間の男の声を引き継ぐように、女勇者が話始める。
「声の主は、この地を統べる主神と呼ばれる創造主様です…かの方が復活されました…」
うん知ってる。
「それにより、全ての勇者が覚醒することになり…ただ、魔族を殺す事こそ使命だという事しか考えられなくなってしまいました…そちらの母子の方にも酷い事をしてしまい申し訳ありません」
そう言って深く頭を下げる。
っていうか、変わり過ぎじゃね?
話の展開早すぎてついてけねーんだけど。
いや、まあ、状況なんてすぐに理解出来てたけどさ。
「つきましては、村人は全員操られていた訳ですし…私一人の命でというのはおこがましいかもしれませんが…この方達を今まで通りに…」
そこまで言いかけて、言葉を止める女勇者。
見ると、ウニが数あるとげの1つをまるで喋るなというかのように、勇者の唇にそっと当てている。
「はて?私は、どこも怪我なんてしてませんが?」
そう言って斜めに少し転がる。
うん、たぶん首を傾げているのと同じ動作なのだろうな。
それから、横に回転する。
うん、たぶん周囲を見回しているんだろうな。
そして、縦に回転する。
うん、たぶん頷いているんだろうな…って、分かりにくいわ!
「誰か怪我したものはおるか?」
リチャードのそのセリフに対して、あちらこちらから
「いや、なんともないが?」
「誰か怪我したの?」
「いやいや、誰も怪我してないし」
という声が上がる。
その声に、満足そうに縦に転がるリチャード。
「この村では何も起きなかった…違うかな、そこの可愛いお嬢さん?」
「ポッ」
ポッって口で言っちゃったよ。
っていうか、そいつウニだから…
何を照れてるんだお前は…
取りあえず付き合い切れそうに無かったので、俺はそっと村から転移で消える事にした。
原点回帰。
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