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中野堕つ

「くそ共が!僕を本気で怒らせてしまったようだな」


モニターの向こうで本日何度目かの激おこだろう中野が震えている。

確かキレて魔人化して、さらにキレて最終形態になって、次は100%中の100%とかって言い出すのかな?えっ?古いって?まあいいじゃないか。

そんな事より、中野だ。


「おいゴブリン!そろそろ用意しとけよ!そうだ、お前にはこいつも付けておいてやろう」


横でゴロゴロしていたゴブリンを蹴り起こすと、一体のフードを被ったゴブリンメイジを作り出す。


「ゴブリンを頼んだぞ、マスカーレイド!」


俺が声を掛けると、マスカーレイドと呼ばれたゴブリンメイジが大仰に頷く。

その様子をゴブリンが白い目で見ている。


「生意気っす…自分より後から作り出されたのに、自分の上位種族のうえに名前まで…妬ましい…」


何やら、目から血のようなものを流しているが特に気にすることもないだろう。

所詮はただのゴブリンだ。

俺はゴブリンよりも、中野の傍にいる蠅の方が気になるけどな。

最終形態になった途端に、魔力の出力の上昇とともに現れた一体のゴースト…

巧みに気配を消しているようだが、残念…中野の作った超高性能なモニターにはしっかりとその姿が映っている。

さらに残念なのは、中野がその存在に気付いてないだろう事だが。


「田中様が声を掛けてらっしゃるんだ!返事くらいしろよ新人!」


俺がそっちに集中していると、その背後で無言で佇んでいるマスカーレイドに、八つ当たり気味にゴブリンが怒鳴り散らして拳骨を落とそうとするが、頭を傾げて拳を躱しつつ迎え撃つかっこうで、腕を絡ませるとそのまま足を払って後ろに叩き付ける。

そして、すぐに倒れたゴブリンに跨ると、その顔の前に手を翳す。


「黙れ…殺すぞ?」


掌に収縮される魔力の奔流に、ゴブリンが高速で首を縦に振る。

いきなり仲間割れとかやめてくれよ…

マスカーレイドに解放されたゴブリンが何やらブツブツ独り言を言っている。


「ええっ…魔法使いのくせに自分より体術が上とか…ちょっ、田中様ヒドス…自分の存在意義が…」


知るか!


「ところで、どうやってあそこまで行けばいいんですか?」

「ああ、こいつの中を通って行ってもらうから良いよ」


俺はそういうと、2匹を魔力に戻し触手2号の口に放り込む。


「えっ?ちょっ!いやーーーーーー」

「…」


ゴブリンの悲痛な叫びも虚しく、触手2号の口からゴックンという音が聞こえた。


「大変美味でございました」


こうして、魔力に戻された2匹は中野の元まで運ばれていくだろう。

まあ、壁が対応しきれないほどの出力でぶっ壊すってのも一つの手だが、疲れるしね。

そして、もう一つ魔力の塊を触手2号の口に放り込む。


「それじゃあ、俺は少しモニターに集中するからな…適当に魔力を送っといてくれ」

「イエスマスター」


触手2号の返事を聞いて、ソファにどっかりと座ってモニターに集中する。

うんうん、ここからが面白くなってくるはずだもんな。


―――――――――

「くらえ雑魚どもが!【デザスターオブサタン(魔王の災厄)】」


中野が両手に最大出力を集めて、田中の大陸ごと全てを破壊しにかかる。


「こ…これは!」

「不味いだろ!」

「カイン様、私怖い!」


荒神とカインが慌てて魔法障壁を最大級の出力で張る。

マヨヒガも、自身の異空間転移の黒い球を最大限まで大きくする。

あれが吸い込まれたら、中に居る奴等は災難だな…

そして眩い光が放たれ、その手から大魔王の持てる最大級の魔力の奔流が大陸に向かっていくかに思えた…がそうはならないんだな。


その光の中から現れたのは場違いなゴブリン2体。


「呼ばれて飛び出てジャジャジャーン!」


ゴブリンが空中で一回転して中野の方に向き合う。

その横で、静かにマスカーレイドがジョジョ立ちをしている。


『誰?』


中野、荒神、カイン、ピンキーが同時にそう漏らして首を傾げる。


「えっ?ゴブリンっすよ!でこっちの無口なのがマスカーレイドって奴っす」


ゴブリンがキラリと光る、歯並びの悪い白い歯を見せながらニヤリと笑う。


「さて、中野!覚悟するのです!私が来たからには、田中様の大切な家族には指一本触れさせませんよ!」

「黙れ、ゴブリン風情が!田中も悪あがきしやがって…ゴブリン2体送り込むのが精一杯のくせに」


中野はそう言って、手に魔剣を作り出してゴブリンに斬りかかる。

だが、対するゴブリンはそれを素手で軽く受け止める。


「その程度か?」

「なっ!バカな!物理無効無効という、たかが子鬼には勿体ない魔剣グラムをゴブリン風情が止めただと」


説明調のセリフ乙と言いたくなるような言葉を吐いて、中野が驚愕に顔を歪めている。

さてと、こっからゴブリンがどんな戦いを見せてくれるのやら。

これでも、今回はかなり頑張ったからな。


「田中様の…私達も手伝いましょう」

「そうだな、流石にゴブリン一匹じゃ荷が重いだろうし」


荒神とカインがそう言ってゴブリンに助太刀しようとするが、ゴブリンが二人に向かってチッチッチと指を振っている。


「この程度の雑魚、自分一人で十分ですよ」


本当に強い奴が言えば様になるが、そこそこ強い奴だと完全に負けフラグなんだけどね。

大丈夫かな?


「子鬼が調子に乗るな!」


案の定、次はちゃんと発動した【デザスターオブサタン(魔王の災厄)】がゴブリンに襲い掛かる。


「ちょっ!いきなりシャレになんないっすー!」


ゴブリンが頭を抱えて蹲っているが、おいおい…敵の最強の攻撃を前に目を背けるとか、とんでもない愚かな行為だぞ?

かなり心配になってきたな…


「フッ…」


と思ったがマスカーレイドが二人の間に入って、片手で【デザスターオブサタン(魔王の災厄)】を止めていた。


「あ…あれ?ああ、マスカーレイドさん助かったっす」


ゴブリンがなかなか来ない攻撃に対して、疑問に思ったのか顔を覆った指の間からチラッと見て現状を理解する。


「フフン!たかがゴブリンメイジ如きに防がれるなんて、大魔王の攻撃も大した事無いんすね!」


それから、勝ち誇った笑みで中野に言い放っているが、すぐにマスカーレイドに睨まれてたじろぐ。

本当に誰だよ…こんな奴作ったの。


「くそ…ゴブリンとゴブリンメイジを作ったのはわざとだって事か!ただの嫌がらせか…最弱級の魔物に大魔王を倒させて笑ってやろうって魂胆か…田中め」


中野が吐き捨てるように言うと、身に纏う魔力の全てを身体強化に使い始める。

まあ、そうだろうな…最大級の攻撃を防がれたんだ、あとは自分の身体を使って戦うしかないか。


「おらっ!覚悟するっすよ!」


ゴブリンが手に金棒を持って中野に殴りかかるが、中野はそれを右手にもった魔剣グラムで受けきる。

しかし、そのまま勢いに任せてゴブリンが押し切るがゴブリンが慌ててさらに上空に飛び上がる。

そもそも、空を飛んでるゴブリンってのがおかしいんだけどね。

その様子に中野は何か嫌な予感がしたのか、すぐに慌てて後ろに飛ぶ。

直後、一筋の光が走り中野の頬を霞めた。


「いま…」


ゴブリンが何やら死んだ魚のような眼で、マスカーレイドを見ているが彼は特に気にした様子もなく、舌打ちをする。


「たかがゴブリンどもがこの僕に傷を負わせるとか、本当に笑えない冗談だよ…」

「いや…あの…マスカーレイドさん、いま自分ごと…」


ゴブリンが何か言いかけたがマスカーレイドに睨まれてしまった為、それ以上言葉を続けることは出来なかった。

むしろ、どちらかというとマスカーレイドの方が不機嫌だ。

お前さえ避けなければ、もっとちゃんと当てられたのにとでも言いたげな表情を浮かべている。


「す…凄い」

「ああ、これはイケるかも」

「でも、顔が好みじゃありませんわ」

「パキッ!」


この1合で、荒神たちはゴブリンの実力を大幅に上方修正する。

本当に、万が一がありえるのでは無いかと感じる程、実力は均衡している。

ゴブリンが肉薄し、それを中野が防ぐとすぐさまマスカーレイドによる魔法攻撃が放たれる。

一瞬でも気を抜いたら中野はすぐに傷を負っていくことになる。

現にゴブリンが無傷なのに対して、中野の前身は細かい切り傷が多数出来ている。

それもすぐに回復しているのだが、徐々にその回復が追い付かなくなっている。


そしてついにその時が来た…

中野の傍にいたゴーストは、中野が傷付く度にその傷から魔力を吸い取っていた。

そして、とうとう望む量に達したのだろう。

ゴーストは一気に肉体を作り出すと、背後から中野の胸を貫いたのだ。


「だ…誰だ…」


自分の腹から突き出ている手の持ち主を確認しようと、中野が後ろを振り返る。

そこに立っていたのは、白いローブを纏い、腰まである流れるような黒髪を携えた仮面を被った男だ。

全身から神々しいまでの神気を放っている。


「ま…まさか…どうやって…」


中野が苦痛に表情を歪める。

そして、仮面を被った男は一気にその手を引き抜く。

その掌には中野の魔核が握られている。


「なかじょぉぉぉぉぉぉぉ!」


中野が鬼の形相でナカジョウと呼ばれた男に斬りかかろうとするが、それより早く魔核が握りつぶされる。

そして神気で弾き飛ばされる中野。


「ふんっ…手間を掛けさせてくれた」


袖に付いた血を魔法で浄化すると、落ちていく中野を仮面の下から冷たい目で見下ろす。

マスカーレイドが一気に下降して、中野に追いつくが一瞬早く中野の身体が靄のようなものになって消え去る。

そしてその場に残されたのは、一つの光の玉だった。

それをマスカーレイドは掴みそのまま吸収すると、男を睨み付ける。


「たかが子鬼が…」


男はマスカーレイドに向かって手を翳すが、その手をすぐに引っ込める。

ゴブリンが、一瞬で間合いを詰めてその手を金棒て殴りつけようとしたためだ。


「邪魔だ…」


男がただ一言、そうたった一言そう発しただけで、ゴブリンが弾き飛ばされる。


「あ…ヤバい!この人、ヤバい…」


ゴブリンが吹き飛ばされながらどうにか体制を整えるが、すぐに男の方から追撃が来る。

一筋の光が、ゴブリンの身体をさらに弾き飛ばす。


「頑丈だな…私の【聖光撃】を受けて、弾け飛ばないとは…」


うん…誰だ?

私の【聖光撃】って言われても、貴方は誰ですか?


「くっ、ゴブリンさん、大丈夫ですか?」


荒神が先回りして、ゴブリンを受け止める。


「助かったっす…」


今にも気を失いそうなゴブリンが、荒神に礼を言ってどうにか一人で姿勢を整えると男の方を睨み付ける。

その隙にカインが背後から斬りかかるが、男はそれを首で受け止める。

魔剣アロンダイトが、光の膜1枚で止められている。


「あんた…誰だよ?」


カインがすぐに間合いを取って男に問いかけると、男が両手を広げる。


「初めまして我が子供よ…我が名は中条…この世界の創造主だよ…」


男がそう名乗る…

そうか、こいつが全ての根源か。


「カイン…いや、ムスカか?全ての生物の父である我が前に、頭が高くないか?」


中条がそう発した途端、まるで凄い重圧に押しつぶされるかのようにカインが頭を垂れる。

その姿に満足げに頷くと、中条がゆっくりと前に進む。


「さてと…大魔王は滅びた…世界の勇者達よ!魔族を滅ぼす時が来た!」


中条の身体から見た事もないような神気が放たれると、それは枝分かれして世界中に散らばっていく…

そしてその神気はカインにも向かっていく。

抵抗しようとしていたカインの中に、その神気が吸い込まれた瞬間カインの動きが止まる。

そして直後…


「【全てを斬り裂け!ブレイブスラッシュ!】」


荒神達に向かって、カインによる勇者の必殺技が放たれた…

今までのものとは、桁違いに早く、大きく、強く輝く光の斬撃が…

結局…中野は咬ませ犬…

これにて第二章終幕です。

次が最終章になる予定です。

これからもよろしくお願いいたしますm(__)m


ブクマ、評価、感想、頂けるとモチベ上がります♪

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新作更新始めました!
(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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