今度こそ中野無双
這う這うの体で中野が戦場に戻って来る。
うん、転移でバシュッと移動してるから、この表現が当てはまるかは別と知ってみた感じは、そんなところだ。
モニターの向こうに中野が現れたのを確認して、俺は軽く微笑む。
「いよいよですねギャギャ」
触手3号が嬉しそうにしている。
口しかないけど、口だけでも割と表情が読めるものだ。
こいつらともお別れか…
いや、別にあとで俺の大陸に植え替えてもいいんだけどね。
―――――――――
「中野様どちらに行かれてたのですか?あまりに遅いので、もう終わってしまいましたよ…」
「ん、そうか」
エルザベートの言葉に、中野が視線を送る。
「えっ?」
そして、中野の口からなんとも気の抜けた言葉が漏れる。
その視線の先では、エルザベートが両手両足を縛られてヒモロギの枝の1つに括られている。
周りを見ると、イエヤスもノブナガも捕まっていた。
ちなみに、マヨヒガの異空間では今も辰子がカサンドラを追いかけまわしている。
「くるにゃー!っていうか、出口どこにゃー!」
半べそでカサンドラが走り回っているが、ほぼ無限に広がる空間だからね。
出口どころか壁もないから…そこ。
「待てー!にげるにゃー!」
「真似するにゃー!」
辰子が面白がってカサンドラの口調を真似しているも、それどころじゃないらしくカサンドラはその足を止める事は無い。
ちなみに黒龍、赤龍、青竜、桃龍は異空間で子供達と戦わせられていた。
(あんまり不甲斐ないから、貴方達は補習です)
といわんばかりにマヨヒガがピシッ、ピシッと家鳴りを起こしている。
その度に、中野新四天王がビクッとなるのがちょっと面白い。
「ちょ、マヨヒガさんもう勘弁してくださいよ!」
マイケルが赤龍のファイアーブレスを必死に避けながら懇願しているが、聞こえてくるのはピシッという音だけだ。
エルザとジェシカは…こっちはとっくに青竜を地面に磔にして、ご褒美のドーナツを貰っていた。
これは、ルカが作ったのか?成長したなあ…
ちなみに桃龍は一生懸命トムを追いかけまわしている。
「可愛いー、ちょっと逃げないでお姉さんと良い事しようよ!」
「ちょっ、いや、龍とか無いから…ていうか、怖い怖い怖い怖い」
トムが心の底から怯えた様子で逃げ回っている。
辰子とカサンドラの逆だな。
そして、黒龍はジョンとレベッカとフランシスカが相手している。
といっても、限界まで強化されたジョンに終始翻弄されているようだ。
結局、中野新四天王も大した事無いな。
「貴様ら…ふざけるなよ!」
あっ、中野が切れた。
少年っぽい見た目だったのが、一気に成長して髪も伸びて、角も生えてる。
背中には巨大な翼まで生えてるわ。
魔人形態ってことは、いよいよ中野も本気ってわけか。
「この姿にさせた事を後悔させてやる…」
そういうと、中野が軽く手を振るう。
伸びた爪の先から発せられた真空波がヒモロギの枝を切り裂いてエルザベート、ノブナガ、イエヤスを解放する。
さらに、ヨシツネとテルモトもその余波で弾き飛ばされている。
荒神は…うん、普通に避けてた。
「貴方達は…」
荒神が情けないとでも言いたげな表情で二人を見る。
「いや、大魔王の攻撃だし…」
「避けれるわけねーだろ!」
「私は、普通に見て避けましたけど?」
ブーたれるヨシツネとテルモトに対して身も蓋もない言い方をする荒神。
まあ、実際にそれをやっているわけだし、それを言う権利はあるな。
「ふんっ、骨のある奴が居るみたいだけど、僕たち4人を相手どっていつまでその余裕を保ってられるかな?」
中野の言葉に、ノブナガ、イエヤス、エルザベートがえっという表情を浮かべている。
うんうん、分かるよ。
普通、ここは一人で行く場面だよね?
油断ないと言えばいいけど、荒神相手に4対1とか普通逆じゃね?
中野達が勇者パーティー、荒神が魔王みたくなってるけどそれでいいの中野くん?
その時唐突にその場に似つかわしくない声が鳴り響く。
「あっ、渡野です!田中さんから聞いてると思いますが、そちらに出店したくてちょっと現調しに来ました」
OH…何もこのタイミングで来なくても。
確かに場所は教えてたし、転移で行けるように方法も伝えてたけどさ。
出店の現調の前に、状況の現調しとこうか…
「お…お前は渡野!」
「げっ、中野!」
2人は顔見知りですか…そうですか。
というか、渡野がしまったという顔をしてるけど、もう手遅れだからね。
逃げられないと思った方が良いよ。
「ていうか、この国に出店ってどういうことだよ!僕の誘いは断った癖に!」
「当たり前じゃ!なんだよ魔族には基本半額で出せとかふざんけんな!しかもその分を人間サイドの料金に上乗せしたらいいじゃん!って俺人間だから!てか、人の国メインで仕事してるから!馬鹿じゃねーの」
おお、仲の宜しい事で。
「うっ…でもだからってよりによって田中の所に出すなんてズルい!」
ズルいの意味が分からないし。
「まだ、出すって決まって無いし。先に現調してから採算が取れるか確認しないと。いきなり店だして、はい分かりましたなんてアホな事しないから」
渡野が話は終わりとばかりに荒神に話しかける。
「あ!すいません、貴方が現責任者の荒神さんですね。中に入っても?」
「ええ、構いませんよ。ちょっと騒がしくてすいません」
最終決戦中に何してるのこいつら。
まあ、良いんだけどさ。
ちょっと、中野の事ちゃんと相手してあげようか?
めっちゃプルプルしてるよ彼。
「現調なんて無駄だよ!どうせ、この一撃でその大陸は沈むんだからね!」
中野が両手を広げて、最大出力っぽい衝撃波を放つ。
大人げないなこいつ…と思っていたら渡野がそれを後ろを振り向いたまま弾く。
衝撃波は直撃をそれ、上空へと吸い込まれていった。
「馬鹿な!」
「馬鹿なって、一応俺も転生者だし。直撃したら確実に死ぬけど、全力で圧縮した魔力なら軌道を反らすのなんて簡単だよ。威力重視の遅くて直線的な攻撃なんてね」
うんうん、範囲攻撃とか追尾攻撃とかだったら対処不能だったんだけど、直線的な攻撃だったら頑張ればあの程度の魔力でも反らせるだろう。
中野が驚いている隙に、マヨヒガが渡野さんを掴んでポイッと城の中に放り込んでた。
まあ、城内は安全っぽいし、取りあえずはナイス判断としておこう。
「くそ共が!皆殺しだよ!田中の部下も渡野も全員殺してやる!この僕の最終形態でね」
ふーん、そっからさらに変身するんだ。
というか、何故最初からそれをしない。
中野の皮膚がひび割れたかと思うと、全身を黒い鱗が包み込んでいる。
顔にも変な模様が現れて、犬歯が長く伸びている。
そして特徴的なのは、角が増えて3本角になったってとこか。
こうなってしまったら前ほど優しくないぞとか言い出しそうだな。
「気をつけろよ...こうなってしまったら 前ほど優しくはないぞ」
はいキター!お決まりのセリフ頂きました。
だから、変身系って嫌なんだよね。
日本人が変身したら、このセリフ絶対言ってみたくなるもんね。
俺は鋼の意思で、それを抑え込む事が出来るが、中野には無理だったようだ。
「死ね」
そしてフリー…中野の指先からレーザーが発射される。
そのレーザーは寸分違わず荒神の心臓を貫く。
「ふんっ…雑魚が」
中野はそういうと、今度は城に視線を移す。
それから、横でポカンとしている3人の部下に声を掛ける。
「何をしている薄ノロども!とっとと、奴等を皆殺しにしろ!」
『はいっ!』
イエヤスとエルザベートが慌てて返事をするなか、ノブナガが背後から中野に斬りつける。
「本当に何をしているのだ貴様は!」
「うわ…これ無理や!さっきまでだったら隙を突けば行けそうだったけど、これ無理な奴だ…はあ、中野様を殺して大魔王になるのは後回しにしよう」
中野の頬がピクピクと痙攣しているが、大きく溜息を吐く。
まあ、そんな性格にしたのは中野だしね。
仕方が無い。
「早く行けよ!」
「はいはい」
中野の言葉に慌てた様子で…って事は無いな…
普通に城に向かって飛び立つノブナガ。
そして一瞬で弾き飛ばされる。
見ると、同じようにイエヤスとエルザベートも弾き飛ばされている。
「ふうっ…死ぬかと思いました」
うん、死んだかと思った。
荒神が胸をパンパンと払うと、その手に蛇鉾を顕現させる。
むしろなんで生きてるんだろう?
「これが無ければ死んでいたでしょうね」
そう言って荒神が胸元から取り出したのは、一つのロケットだ。
丁寧にヒヒイロカネで作られたロケットには金貨が1枚入れられていた。
っていうか、なんでそんなもん胸元に入れているんだよ!
「田中様が町でくれた金貨…実質の初任給ですからね。大事に取っておいて良かったです」
うん、それ初任給じゃなくてお小遣いだからね?
っていうか、それで美味いもん食って暇潰して来てって渡したやつだよね?
そんなものを大事にされると心苦しいんだけど。
今度もっと良い物あげるから、それは使ってええんやで。
「ふざけるな!マジでふざけるな!」
そう言って中野が指からレーザーを乱射する。
空気が震え、陽炎が見える程の熱量を持ったレーザーだ。
周囲の水分が一瞬で蒸発するのを感じる
スゲーな…荒神。
そのレーザーを全て避け切ったよ。
でも、ちゃんと後ろ見ようね?
結界が大分ひび割れちゃってるよ?
「お…おのれ…」
おいそれ以上続きを言うなよ?
それ負けフラグだからな?
言うなよ?絶対言うなよ?
「あ…あたりさえすれば、き…きさまなんか」
言いやがった!
こいつ、言っちゃいけないセリフを言いやがった!
「当たる訳無いでしょ?ていうか、当てるように攻撃するのが普通ですよ?そんなむやみやたらに乱射してもこの距離なら避けるのなんて簡単ですし」
荒神酷いな…
確かにごもっともなんだけどさ…
っていうか、中野弱くね?
何てことを思っていたら、誰かが中野のすぐ傍に転移してくる気配を感じる。
「【全てを斬り裂け!ブレイブスラッシュ!】」
うわっ!現れたと思ったら0距離から勇者の必殺かました奴がいる。
「グッ!くそ!誰だ!」
「あーあ、あんまりダメージ入って無いか…」
中野の視線の先に居たのはアロンダイトを構えるカインだ。
しかし、戦闘中に転移で乱入していきなり攻撃とか、酷い勇者も居たもんだ。
「流石カイン様…普通はこうやって当たるように考えて攻撃するものなのですけどね」
そう言って中野にジト目を向ける荒神。
「クッ…」
もうヤメテ!中野のライフは0よ!
「流石カイン様ですわ!あっ、なんかゴミが3匹転がってたので、適当に痛めつけてマヨヒガさんに回収して貰ったのですがよろしくて?」
さらにピンキーも転移と同時にイエヤス、ノブナガ、エルザベートに攻撃を仕掛けた上に、マヨヒガの異空間に放り投げていたようだ。
ていうか、ヨシツネとテルモト仕事しろ!
「形成…逆転ですね?」
うんうん…色々とおかしいけどこれが正しい図かな?
いや違うよね?
確かに4対1だけどさ…
勇者カインはまだいい…でも他の面子がさ?
蛇人の荒神、ショッキングピンクの鬼人のピンキー…そして館…
特に最後のおかしいだろ!
人型ですらないし!
勇者対魔王の正しい図式だけどさ…違う…これは絶対違う!
タイトル詐欺第二弾w
難しいですね…中野に無双させるの。
というか、ここまで田中の出番無し…毎度のことながら田中無双っていっつも部下に取られる。
もし暇だけど、特にすることの無い方いらっしゃいましたら、暇潰しにこちらもどうぞ。
【異世界転生からの異世界召喚~苦労人系魔王の新人冒険者観察~】
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