中野無双
短めです。
あとタイトル詐欺です。
「はあ…」
俺は溜息を吐いて目の前で、タコ焼きを口いっぱいに詰められて暴れている中野を見る。
触手達が、最初は一個ずつアーンと言いながら口に入れていたのだが、徐々にペースを上げていき、今では中野が答える間もなく強引に口をこじ開けてタコ焼きを突っ込んでいる。
限界まで口を広げられ、涙目になりながらも一生懸命飲み込もうとするその姿はまるでひな鳥だな…
本人は必死だろうが。
当然両手両足は、触手12号~20号の八体に絡み取られ抵抗すら許して貰えない。
しかも、中野が作った魔力を吸収する蔦だ…おいおい
思わず、呆れてしまう。
「おいお前ら、あんまりやり過ぎるな…見てて可哀想だ」
「あら、タナカ様はお優しいのですね。」
うーん…こいつは何号だっけ?
たしか、メスっぽい喋りは18号と19号がいたが。
3号みたいに語尾にギャギャとか付けてくれたら、個性が出て分かりやすいのに。
タコ焼き無限地獄からようやく脱出できた中野が肩で息をする。
「いや、お前らが僕のことどんなに好きか分かったけど…一つずつ順番にくれないかな?」
それからなんとか呼吸を整えると、満面の笑みで嬉しそうに言い放つ。
はっ?
今のどう見ても嫌がらせだろ?
えっ?
なにこいつ、天然?
「いやあ、僕の部下って照れ屋なのが多いからさ…あんまりコミュニケーションとってくれないっていうか?四天王以下は目も合わせてくれないし」
そりゃあ、まあ一兵卒が王様と目を合わせて喋るなんて無礼極まりないが。
「ノブナガなんて命狙ってくるし…イエヤスは究極のイエスマンだけど、表情が無いから何考えてるか分かんないし…ヨシツネ自己中でナルシストだし…テルモトはオラオラ系で暑苦しいし、自分が正しいと思ったら平気で歯向かってくるし…大体、みんな僕を簡単に裏切ってタナカさんについて行くし…お前らだけだよ…」
そういって触手3号に抱き着いている。
あれ…なんでだろう…涙が…
いや、そんな事はどうでも良い、いや良くもないが。
「そろそろ戦場に戻ったら?」
俺がタコ焼きを口に放りながら、中野に話しかけると思いっきり嫌そうな顔をしている。
なんなのお前?
世界を征服するか滅ぼすんじゃなかったの?
いま、実質最終決戦中なんだけど?
「お前さ…俺の事嘗めてるだろ?」
若干の威圧を込めて、中野に話しかけると中野がニヤリと笑う。
「ふふ、田中さんの方こそ、僕の事を嘗めすぎてますよ?一応大魔王ですよ?たかが魔王如きが、ちょっと…ほんのちょっと魔力の扱いを覚えて…ほんのちょっと、僕より人望厚いからって調子に乗るなよ!大体攻撃手段全て封じられてるくせに、どうするんだい?」
そう言って勝ち誇ったかのように見下してくる。
うん、こいつやっぱりバカだ…
ここで触手にやらせるのも悪くないが…なんか、さっきの見てたら、いま触手に裏切らせたらなんか心を抉る光景を見ることになりそうで、諸刃の剣のような気がする。
ゴブリンは…あっ!あいつ腹いっぱいになって寝てやがる。
取りあえず触手8号に頼んで叩き起こしてもらう。
「うげっ!」
触手8号には、絶対貫通を付与させたハンマーを渡しておいたので、相当堪えたみたいだ。
腹を押さえて転げ回っている。
「はっ!夢ですか?ていうことは、物理無効無効を手に入れたのも夢?えっ?いつから夢?」
思いっきり寝ぼけてやがるな…
ちょっと使い物にならないし、俺がやるしかないか。
「ププッ!この場に居る田中さんの唯一の配下のゴブリンは、まったく役に立たなさそうだね」
まあ、可哀想だから黙ってやるけど、触手全部俺の配下になってるからな?
「その余裕が舐めすぎなんだよ。ほれ、周りを見てみろよ?」
「えっ?あれっ?」
中野が周囲を見渡す。
それから首を傾げる。
「魔法障壁?僕が中に居る状態で使っても意味ないでしょう…」
中野が呆れたように漏らしているが、こいつ本当に何にも分かって無いな。
「おいおい…その魔法障壁内側に向けて作ってあるからな?魔力を一切通さないから、お前もう出られないんだよ?転移も外と繋がらないからな?魔力が外に出ないってそういうことだから…」
そこまで言われてハッとした表情になる。
「フフン!そのくらい気付いてたさ!でも、田中さんさえ殺してしまうか、気絶させてしまえ…ば?」
中野が周りの魔法障壁を見渡したあとに、こっちに目を向けた時には俺の準備はすでに完了している。
「魔法障壁?」
「今度はちゃんと外側に向かって作ってあるから」
俺の行動が良く分かっていないようだ。
だから何?と言いたそうな表情だが、それを言ったらまた俺に呆れられるのが分かったんだろうな。
無言で訝し気にするだけにとどまっていた。
どっちにしろ、あんまり頭が回ってないな。
「この魔法障壁を広げてくと?」
そう言って一気に中野ところまで魔法障壁を広げると、中野が弾き飛ばされて外側の魔法障壁にぶつかる。
俺の周りの魔法障壁と外の魔法障壁の隙間は2mあるかないかだ。
そこまでやって初めて気づいたらしい。
中野が冷や汗を流し始める。
「うん…気付いた?」
そこから外側の魔法障壁をを少し狭める。
後ろから背中を押された中野が、前のめりになって俺の周りの魔法障壁にぶつかる。
そのおかげで転ばずに済んだのだが、より鮮明に未来が想像できたようだ。
うんうん、理解してくれて良かった。
「えっと…田中さん?流石にそれはちょっと日本人同士でやるのにはえげつなくないですか?」
「えっ?そう?じゃあ、中野も魔法障壁張って対抗したら良いんじゃないかな?」
「はっ!」
その手があったかみたいな顔するんじゃない!
ラスボスが馬鹿過ぎて辛い…
すぐに中野も魔法障壁を張るが、俺の魔法障壁に挟まれて一瞬で砕け散る。
厳密に言うと俺の魔法障壁と相殺されて消し飛んだだけだ。
当然俺の魔法障壁も消えたが、そこはほらっ…内側外側に二重にして作ってたからね。
「はあ…分かったんならもういいや…外側だけ消すから、とっとと戦場に帰れ!」
俺はそういうと、外側の魔法障壁を消して、内側の魔法障壁で一気に吹き飛ばしてやった。
中野はすぐに起き上がると、慌てて転移して消えてった。
「覚えてろよー!お前の仲間皆殺しにしてやるんだから!」
はあ…
「なんか、中野気持ち悪かったね」
「そうだな」
「あれが勘助ですのね…」
触手18号と8号と19号がそんなやり取りをしてたのは内緒だ。