強襲
「さてと…そろそろ、田中さんの城にも消えてもらいますか」
多数の空の魔族の犠牲のお陰でついに、田中城の場所を突き止めた中野がニヤニヤしながら空に浮いている。
その周囲には1万を超す、飛行型の魔族が集まっている。
空を覆う黒い影…
地上に住む生き物は、その異様な光景をただただ見上げて恐怖するだけだった。
そしてその影の中心には、ぽっかりと何もない空間が開いている。
そこからのみ日の光が差し込んでいて、幻想的にも思えてくる。
酷く悪趣味だが。
「田中さんも、そこで見ててくださいね」
中野が田中の部屋のモニターに映像を飛ばす魔道具に向けて、視線を送る。
「うんうん、頑張れよ」
モニターの向こうでは、田中がゴブリンや触手達とタコ焼きパーティ…通称たこぱ開催中であった。
器用に、タコ焼きをひっくり返す触手達。
ひたすら口に運び続けるゴブリン。
それを横目で見ながら、興味深そうにモニターに目を向ける田中。
自分の配下たちがどうやって、この包囲網を抜けるのか期待しているようだ。
「行け!」
「中野が手を振るうと、周囲の魔族から一斉に魔法が放たれる。
闇属性の攻撃魔法だ。
衝撃波のように一直線に伸びる黒い筋、そしてその効果は対象の魔力を削り取る付与付きだ。
結界が悲鳴を上げる。
そして、迷彩の効果が削り取られて田中城のある大陸が露わになる。
突如として現れた、巨大な天空の大陸に地上から見上げる人間達から声が漏れる。
どこか、遠くの出来事を見ているような、夢では無いかと疑いたくもなるような壮大な光景。
いま、戦いの火蓋が切って落とされたのだ!」
「田中様…」
ついつい、モニターを見ながら実況してしまった田中に白い目を向けるゴブリン。
相変わらず、失礼な部下である。
が、次の瞬間田中城から巨大な閃光が走る。
一直線に伸びたそれは、その通り道にある魔族を一瞬で消滅させる。
隙間なく配置された魔族達に避ける術はなく、一気に閃光の餌食になる。
「す…凄い威力ですね…」
田中城で、ブルータスが頬を引き攣らせている。
この閃光を放ったのは、この城を守護する一本の大木。
そう、ヒモロギだ。
なんでもないといった様子でヒモロギは葉を揺らすと、今度は、無数の枝の先から細い閃光を放つ。
「うわぁ!」
「くっ!どけよ!」
「ぎゃーーー!腕が!腕がー!」
「誰か…俺のお腹どうなってる…教えてくれないか!」
「馬鹿な!うぎゃー!」
阿鼻叫喚である。
頬を引き攣らせているのはブルータスだけではない。
中野も同じだ…
「なっ…馬鹿な…強化された僕の兵隊が、こんなに簡単に…」
すでに、ヒモロギの初発とその後の無差別に放たれる閃光で、魔族の軍団は3分の2にまで削られている。
「おい!俺達も討って出ないと、美味しいとこ全部持ってかれるぞ!」
「うん、そうだね!」
「この戦い、お館様も見てるんでしょ?」
「じゃあ、良い所見せないとね」
「空の敵は…」
「私達、シューティングスターの」
『格好の餌食!』
ジェシカとエルザは相変わらずイタイ子のまんまで安心した。
そして、ジョン達が一斉に討って出る。
どうやって飛んでんだ?って思ったけど、ヒモロギから枝が伸びて、彼らを掴んでいる。
どうやらヒモロギの枝を借りて、そこに意思を流し込む事で、空を自在に飛び回っているようだ。
フランシスカとレベッカが全力で補助魔法を掛けると、ジョンが思い切り剣を振るう。
その一撃で、また数十体の魔族が地に落ちていく。
マイケルはマイケルで、フランシスカを…あっ、投斧の方ね!を投げまくっている。
すげー貫通力を発揮して、次々と魔族を斬り飛ばす光景は圧巻だ。
そして、相変わらずえげつないのが、トミー…
俺の魔力をふんだんにしみ込ませてある、俺の大陸の土を操って土龍を形成して、一気に喰らい尽くしにかかっている。
ジェシカとエルザの矢は、轟音を鳴り響かせ魔族を貫通してキランと空に消えていく。
あれ、宇宙ゴミになってないといいけど。
そんな心配をしていたら、フランシスカの魔力が一気に膨れ上がる。
えっ?これって…
「【破滅を呼ぶ隕石】」
モー太、俺が居ない間に来たのか?いや、チビコ?
誰だ、俺の可愛い教え子に変な魔法教えやがった奴は!
てか、それ地上で使っちゃいけないやつだから!
氷河期くるから!
巨大な隕石群が、魔族を貫いて地面に吸い込まれるように落下する。
アカン…世界が終わる…
そう思った瞬間に、全ての隕石群が木っ端みじんに砕かれる。
荒神か…グッジョブ!
そして…レベッカさん?
「オファニエルさんおいで下さい」
出た、化け物天使!
16の顔に400枚の羽、8764個の目を持つ円形の天使…
神は何を思って、こんな天使を作り出したのだろうか…
8764発の閃光が放たれ、息も絶え絶えの魔族達に追い打ちをかける。
この間、実に8分。
たったの8分で、木と子供達に1万から居た魔族が千に満たない数にまで減らされている。
「くっ!こうなったら、新四天王!あのガキどもを!」
焦った中野が叫ぶと、4匹の龍が現れる。
鬼の次は龍ですか…まあ、確かに鬼よりは強そうだが。
「はっ、中野さ…まっ?」
先頭に居た黒い龍が中野に返事をしようとした瞬間、背後に黒い球体が現れたかと思うと、巨大な手に掴まれて黒い球体に放り込まれる。
「こくりゅうーーーーー!」
あっ、名前はそのまんまなんですね…
「おい、青竜!気を付けろ!何か居るぞ!」
赤い龍が、大声で叫ぶ。
…
しかし、返事は無い。
「あれっ?青竜?」
ああ、青い龍ならとっくに黒い球体に放り込まれましたよ。
「赤龍!助けて!」
「えっ?桃龍?」
うん…ピンクははずせないのかね?中野くん…
ピンク色の龍とか、悪趣味過ぎるぞ!
不意に聞こえた叫び声に、赤龍が振り返るとピンクの龍がむんずと掴まれて、黒い球体に放り込まれるところだった。
「くっそ!桃龍を放せ!あっ」
うんうん…誰も手が一本だなんて言ってないもんね。
赤龍まで一瞬で、吸い込まれてしまった。
その様子を、死んだ魚のような眼で眺める中野。
いいのかな?そんなボーっとしてて…
早く撤退命令出さないと全滅しちゃうよ?
「うがぁぁぁ!」
そんな事を思っていると、俺のすぐそばで叫び声が聞こえる。
何事!
ふと、横を見ると、顔を真っ赤にして喉を掻きむしっているゴブリンが居る。
「ああ、ゴブリンさんが当たりを引いたんですね…まあ、はずれとも言いますが」
「何してるの?」
「いえ、ただのタコ焼きばかりじゃつまらないかと思いまして、ナーガジョロキア粉末を練り込んだ生地、デスソースの6 AM RESERVEに一晩漬けたタコを入れたタコ焼きですよ」
ああ、さいですか…
よかったな、レシニフェラトキシンを混ぜ込まれなくて。
運が悪ければ死ぬレベルの辛さだ。
ちなみに、辛さは痛覚らしいから、痛覚無効を使えばいいのに。
なんてことを思いながら、モニターに目を移すと全てが終わってた。
中野以外の全ての魔族は逃げ出し、そこには7人の子供達に囲まれる中野だけだ。
うんうん、7人の英雄対、大魔王か…良い絵だねー。
「クソガ!お前ら調子に乗るなよ!僕は田中さんの魔力も使えるんだからね!その魔力で作り出した、最強の将軍たちを呼べば、お前らなんて…いや、僕がやれば一瞬で片が付くか」
あっ、中野が冷静になっちゃったか。
確かに、今の中野に勝てる部下は居ないよなー。
だって、創造主に俺の魔力まで奪ってるから、実質地上最強な訳だし?
なんてことを思ってみたが、いつでも邪魔できるしもうちょっと様子見るか。
「それは、あんまりじゃないですか…」
「そうですよ、私達にも出番を下さいにゃん」
なんてことを思っていると、中野の周りの空間が歪んで二人の美女が現れる。
うん、うらやまけしからん奴だな中野は。
いつの間に、こんなベッピンな部下を。
まあ、語尾ににゃんは頂けないが。
「ああ、お前ら来てくれたのか」
「ええ、勿論ですとも!」
「せっかく、我が大魔王様がお造りになってくださったのですから」
ん?
造ったの?
その可愛い子達、造ったの?
それは、ちょっと違うんじゃないかな?
自分で、造った女の子にちやほやされて嬉しいの?
てか、中野くんってそういう子が好みなんだね。
意外と…
「おい!田中!お前、モニターの向こうで変な事考えてるだろ?」
おーこわ!
中野に睨まれたわ…
「大魔王様!そんな小物なんて気にしちゃ駄目ですわ」
「そうですわよ!ナカノ様には、私達がいるにゃん」
ぶわっ…
それも、お前が言わせてるんだよな…
本当に、寂しかったんだな…
うんうん、もし来世で巡り合う事があったら、ちょっとだけ優しくしてやろう。
「なんか…ムカつく気配が」
鋭い奴だな。
こっちの事はどうでも良いから、とっとと、戦えよ!
そろそろお腹いっぱいになってきだんだよ!
田中に冒険者やらせてみたくなって、次の話を書き始めました。
メインは、こっちの人間に嫌われすぎて辛いなので、この作品が終わるまでは、一話辺りを短めにして、ちょいちょい更新しようと思います。
もし宜しければ、見てやってください。
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