大魔王中野の大魔王たる所以
取りあえず、ケビンにケンチキとカツカレーを振る舞った後でテルモトとヨシツネとテュークを転移でルカと一緒に城に戻す事にした。
この街を見ても分かるが、人が見るに堪えない扱いをこの街の人間は受けている。
そして、恐らくルカにとってもそれは同じことだろう。
街の中央にてケビンに別れを告げたあとで、3人に向き直る。
「じゃあ、向こうに行ったら荒神に指示を仰げ…あっ、ちなみにそこにいる辰子と荒神と、屋敷と大樹には逆らうなよ?消し炭にされるぞ?」
俺の言葉にテルモトとヨシツネがムッとした表情を浮かべるが、シャッキに説明を受けて渋々ながら納得したようだ。
まあ、疑わしかったら一度くらい痛い目見て貰っても良いか。
そんな事を思いながら、4人に向けて転移を発動させようとしたとき、周囲の景色が歪む。
直後に全身をとてつもない重力が襲い掛かって来る。
「なっ!」
すぐに立っていられることもできずに、地面に磔にされる。
どうにか顔だけ上げて辺りを見渡すが、すべてが黒い。
いま倒れている場所も、壁も天井もだ。
「お久しぶりですね…田中さん」
その黒の中から、フワリと光が浮かんだかと思うと中野が現れる。
「ブハッ!」
間髪いれずに、倒れたままの状況で指先から石を飛ばす。
「すまん、久しぶりに顔を見たら色々と感慨深いものがあってね。つい」
そういうと、テヘッと舌を出してはにかんで見せる。
だが、返って来たのは射殺すような視線だ。
しかし、すぐにその表情も穏やかになる。
「相変わらず出鱈目な方ですね…でも、これでも余裕を保っていられますかね?」
「鼻血流しながら気取られてもな…」
こいつは、鼻血を流しながら何をカッコつけてるんだ?
相変わらず、様にならない男だ。
慌てて鼻の下を袖で擦るもんだから、袖が真っ赤じゃないか。
子供か!
「くそっ!だから、なんで物理無効なのに鼻血が!…まあいいでしょうってうわっ!」
鼻を拭き終わってこっちを向いたタイミングで、もう一発石をお見舞いする。
ていうか、マジで凄いなこの地場…全然起き上がれそうにねーわ。
どうしたもんだか…
「もう!少しは真面目にビビッてくださいよ!どうせ動けないんでしょ?」
「うん!動けないねー」
呑気に答えてやると、中野が溜息を吐く。
話すだけ無駄だと言わんばかりに、無言で床に手を翳すと黒い柱が中野の腰の辺りまでせり上がって来る。
「バルスか?」
「…」
ひでーな!完全に無視したよコイツ!
ノリ悪いにも程があるだろう。
そんな事を思っていたら、その黒い柱の上部に怪しく光る文字が現れる。
「やっぱりバルスじゃん」
「クッ…」
いま、笑いを堪えてるっぽいな。
もうひと押しか?
「ロナカノ・パロ・ウル・ラピュタ?」
「ブハッ!目がぁ!とか言わないから!っていうか、少し黙れ!」
自分だって笑ったくせに。
「創造主すら封じたこの部屋で、その余裕…本当にムカつきましたよ!でもこれで終わりです」
中野がそう言って、魔力を掌に込めた瞬間部屋全体に光の文字が浮かび上がる。
そして、俺の両腕と両足に光る蔦が巻き付き宙吊りにされる。
うわー、これアカンやつっぽいな。
凄い勢いで、魔力を吸い取られてるっぽいわ。
「凄いですね…創造主すらこれほどの力は持ってませんでしたよ?あなたが逃がした4人の女神の分を差し引いてもお釣りがきますね」
どうやら吸い取られた魔力がそのまま中野に供給されているようだ。
っていうか、ヤバくね?
とっとと逃げ出さないと。
そう思い、転移の魔法を使おうとするが魔力を込めた瞬間にすぐに蔦に吸い取られる。
「フフフ…無駄ですよ。抵抗しようとすればそのまま僕の力になりますから。そして僕の力になるということはそのまま、この部屋の拘束力が上がるという事です」
うん、こんな技を隠し持ってたなんてやるじゃないか。
少し見直したぞ中野。
さすが大魔王!
「まだ、呑気に変な事を考えている顔ですね?でも、もうおしまいです。以前の僕なら、ここに連れてくることも出来なかったでしょうが、創造主を吸収したいま、どうにかあなたをここに連れてくることだけはできました。そして、この部屋の装置が作動したいま、貴方は僕には絶対に逆らえない!」
うわぁ…めっちゃドヤ顔されたわ。
「田中さんは良く頑張ったと思いますよ…でも、ちょっとタイミングが遅かったですねってくっ!」
全力で唾を顔に飛ばしてやったのに、避けやがった。
まあでも、頬に傷を負わせる事は出来たし、まあいいだろう。
すげービックリした顔してる。
よし、ドンドン唾を飛ばしてやろう!
おお、避ける避ける!
すげーなコイツ!
あっ、障壁張りやがった…根性の無い奴め。
「もういいです。ここに居たら、何をされるか分かったもんじゃありませんね…そこで、僕のこれからすることを見ててください。手始めに貴方の城と、北の世界を落とさせてもらいましょうか?」
中野がそういうと、俺の前に巨大な映像が現れる。
直接空間に投影か…しかも200インチくらいありそうだな。
是非、映画を見させてもらいたいかも。
もしくは、この画面でゲームとかしたら楽しそうだな。
「何をワクワクしてるんですか貴方は…」
大体、この部屋の仕組みは理解した。
自然に魔力を吸い取られるのは勿論、魔法を発動させようとするとそのまま吸収されると。
うん、詰んだ?
まあ、なんとかなるだろう。
「手始めに、そこのお嬢さんを殺しますかね?」
イラッ!
なんで、人間だったくせに真っ先に人間殺しにかかるかねー?
まあ、俺も似たようなもんだけどさ。
中野が目の前から消える…そしてモニターには、ルカと、シャッキ、オウガに、あと3匹の付録が映し出される。
―――――――――
「な…なかの様!」
「くっ、ここで大魔王のお出ましか…タナカはんをどこにやった?」
「五月蠅い裏切り者どもが!」
ヨシツネとシャッキが中野を見て震えている。
あー、失敗した…せめて荒神か辰子を連れてくればよかった。
まあ、良いけどね。
「田中さんなら、僕の美味しい餌になってもらいましたよ。手始めに、その力を是非貴方達に見せてあげましょう」
中野がそう言っててに魔力を込める。
うん、俺の魔力だいぶもってかれてるっぽいね。
凄いは…ここにいるルカ達だけじゃなく町が吹っ飛ぶんじゃね?
「えっ…なにこれ」
「う…そだろ?」
「馬鹿な!」
「これが、ナカノ様の本当の力…」
「マジっすか?」
「ルカ…守」
全員が口々に驚きを表しているなか、テュークだけがルカの前に立って手を広げている。
うんうん、逃げる事が出来たらお前は幹部確定だな。
ルカの護衛隊長にしてやろう。
そんな事を考えていたら、中野が手に集めた魔力を収縮させる。
ここに居る奴ら、骨も残らねーんじゃねーか?
次の瞬間、中野の掌が光ったかと思うと中野の腕が弾け飛ぶ。
「くっ!なっ!」
その腕を見て、中野が驚愕の表情を浮かべる。
「ん?」
「ん?」
「ん?」
「っす?」
「疑?」
「はっ?」
凄く間抜けな顔をしたあと、誰かが来てくれたのかと期待を込めて周囲を見渡す6人。
俺も何が起こったのか分からない。
もしかしてケビン?
「フフフ…フハハ…フハハハハハ!凄い!凄すぎる!」
唐突に笑いの3段活用を放つ中野。
壊れた?
「まさか、この僕でも御しきれない魔力を持っていたとは…これは、これならアイツにも勝てる!しかし、まずは使いこなすことが先決か…」
ああ、単純に扱い切れずに暴発しただけか。
流石俺の魔力…凄いことになってんなー。
「なんか知らんけど助かった?」
「そうですね…ここは見逃しましょう。というより、そうせざるを得ないでしょうね。迂闊に戦えば、僕の全身が弾け飛ぶかもしれませんし」
中野がそう言って、口元に手を当てて笑う。
「お前らはもう要らない…タナカの部下でも家来でも好きにしろ!暫くは僕も動けないしね…でも配下の魔族くらいは作れるだろうし、そうだ!タナカさんの部下や家来たちと、僕の軍団のみで戦争をすれば良い。恐らくこの力を完全に操れるようになるまで、半年から1年は掛かるでしょうからね。それまでに僕の城まで来られたら、僕の負け…僕を倒せばタナカさんも僕の|無限回廊《インフィニティプリズン 》から抜け出せるでしょう」
そっか、そんなスキルだったのか。
それとも、作り出した部屋かな?
「辿り着けたら勝ちってどういう事っすか?」
「ふふ、今の僕が魔法を使えば暴発するのは目に見えてますからね…それに、北の世界には物理特化の魔族もいるみたいでし、肉弾戦も不利という事ですよ…」
嘘だな…まあ、扱いきれないのは本当だとしても、辿り着いたところでどうにかするだけの力は持ってるだろうしな。
まあ、いいだろう。
しばらく、様子見だ。
「まずは、1週間考える時間をあげますよ…どうしても部下に戻りたいなら連絡してください。下っ端の子分にくらいならしてあげますから」
そう言って中野は転移魔法を発動させた。
―――――――――
「大魔王様…何をされてるのですか?」
転移の気配を感じたイエヤスが、大魔王城の玉座に向かうと、腰から下を床から生やした中野が居た。
「いや…ちょっと…」
(スケキヨか?)
「ブッ…五月蠅い、黙れ!」
|無限回廊《インフィニティプリズン 》から話しかけたら、怒鳴られた。
洒落の通じない奴め。
ようやく、話が大きく動き出しました。
しばらく、田中はお休みです。
他面々が主体になっていきます。
田中復活みたいなタイトルを載せたら、田中に戻ります。




