タナカが…ちゃんと無双する
「くそっ、もう一回同じことをすればいいだけだろう!」
テルモトがそう言って俺に再度、魔力を固定する波動を放とうとする。
だが、それより先に俺の転移が発動する。
今度は3人で荒野に移動だ。
「また転移か!」
「これも幻じゃっ?」
テルモトとヨシツネが焦ったようにz周囲を見回す。
普通に2回目もあっさり、引っかかってくれて笑える。
まあ、いいや…お仕置きの時間だ。
「いや、これはリアルだ!そして、ここなら思う存分暴れられる」
俺は魔人化を解除して、青年形態に戻る。
その様子を訝し気に見てくるテルモトだったが、すぐに気を取り直して距離を詰めてくる。
「ふんっ、今度は影に隠れてた奴等も連れて来てやったんだ…上手に戦えよ?」
俺はそういうと、テルモトを蹴り飛ばす。
ノーモーションからの前蹴りだったが、即座に反応したテルモトが両手を交差させて受ける。
「くっ…なんて蹴りだ…だが!」
テルモトと俺を繋ぐ、俺の足の影を伝って何かが背後に移動するのを感じる。
そして、背後に移動した何者かのお腹の辺りから飛び出してきた縄で全身をぐるぐる巻きにされる。
不思議な縄だ…締め付けられている部分から魔力と力が抜けていくのを感じる。
「よくやったテュール!いかにお前とて、グレイプニルからは逃れられまい!【マジックフィクシング】!」
一瞬そっちに気を取られた隙に、正面のテルモトにまた魔力を固定される。
さらに、同時にヨシツネに能力を喰らうもので斬りつけられる。
またも、能力を喰らうものは根元からポッキリと折れるが、ヨシツネも織り込み済みだったようですぐに天之尾羽張を手元に召喚する。
うん、さっきと同じ展開…いや、さっきよりも状況は悪いな。
でも…
「芸の無い奴等だなっ…と!」
俺は全身に力を込めて縄を引きちぎる。
「えっ?」
「はっ?」
「んっ?」
3人がキョトンとした表情を浮かべている。
それもそうだろう…縛られて、魔力も固定されて、完全状態異常無効化も奪われた状態で、一瞬で魔人化したら驚くだろうね。
「ん?別に魔人化するのに魔力は必要無いだろう?でも凄いな…魔人化しても魔力量は固定されたままか」
魔人化によって魔力は増えなかったが、それでも全身の身体能力は大幅に上がっている。
ちなみに今回は出し惜しみするつもりはない。
すぐにマジッグバッグから、剣を取り出す。
「掛かって来いよ!」
「くっ、いくらお前でも俺達3人を相手に、魔力無しで戦えるわけがないだろう!」
そう言って、俺に向かってミスティルテインを手元に召喚したテルモトが斬りかかってくる。
その剣が届くか否かといった瞬間、テルモトが何かに気付いて、後ろに飛び距離を取る。
「なんだ…気付いたのか?」
目の前のテルモトが、額から汗を流し始める。
直後、ドサッという音が俺の背後から発せられる。
そう、すでにテュールは剣を作り出した同時に、【心魂解放】を放ったのだ。別に聖教会にマインドコントロールされてなくても、普通に攻撃魔法としては優秀だからな。
ついでに、回復はさせてない。
純粋に体内で小爆発を起こし、脳と心臓を破壊したわけだ。
そして、無警戒で近付いてきたテルモトにもこれを突っ込む予定だった訳だが…
「何故魔法が使える!」
「フフッ、この剣に予備の魔力を纏わせているからな。体内の魔力が使えなければ外の魔力を使えばいいじゃん?」
「くっ、とはいえこっちはまだ2人…行くぞ!」
「えっ?うん!」
テルモトとヨシツネが、先の闘い同様自身の最高速度をもって俺を殺しにくるが。
ヨシツネの刺突を左手で弾きつつ、首を狙って薙ぎ払われたテルモトの剣を、右手に持った剣で叩き落とす。
「馬鹿な!俺の剣が弾かれた…だと?」
「神速の僕の突きを止められるなんて…」
2人が驚愕に目を見開いている。
さっきから、目を見開きっぱなしだが、ドライアイにならないのかな?
そんなどうでも良い事を考えていたら、自然と笑みがこぼれる。
「くっ!何を笑ってやがる!」
テルモトが激昂して、手に持った大剣で連撃を浴びせてくるが、そのすべてを片手で持った剣ではたき落とす。
なかなか早いけど…まあ、この程度なら目を瞑っても対応できるな。
俺は目をつぶって振るわれる剣に意識を集中する。
魔力を纏った神剣だ、その軌道を読み取るのは簡単だ。
「なっ!目を瞑ったまま…」
フフッ…きっとテルモトはまた目を見開いているんだろうな。
目がショボショボするぞっと!
凄い速さで振るわれる剣を最小限の動きだけではたき落としていると、不意に脇腹に衝撃が走る。
えっ?…受け損ねた?
今度は俺が驚きつつも目を開けると、ヨシツネが俺の腰に天之尾羽張を放っていた。
「えー…ズルくね?」
「いや、目を瞑ってる方が悪いだろ!」
「うん、僕もそう思うからやったんだけど…ていうか、なんで斬れないの?」
ちっ、面白くない奴等だ。
折角遊んでやってるのに、マジになってからにもう。
2人は俺が目を瞑って防ぎ続けたことよりも、ヨシツネの刀が通らなかったことの方が驚きらしい。
重ね重ね失礼な奴等だ。
「そりゃ、魔人化したんだから固くなって当然だろ?」
うっとおしいから、取りあえずヨシツネを蹴り飛ばす。
あれっ?
思いっきり喰らってやんの。
「くそっ!斬れなくて驚いているところに、蹴りをいれてくるなんてそっちの方が卑怯じゃん!」
5~6mくらいフッ飛ばされたよしつねがブーブー言ってるが、これって俺が悪いの?
いや、おかしくね?その価値観。
1対1でしかも目を瞑ってる相手に横槍ならぬ、横刀入れるやつのが卑怯だろ。
解せぬ。
「というか、その剣なんで出来てるんだよ!なんでミスティルテインを簡単に防いでんだよ!赤金色の金属とか、どんな不思議素材だよ!」
うん、テルモトも感心するところがおかしいよね?
それよりも、目を瞑って受けきった事に驚いて欲しいんだけど。
ちょっと、こいつらと感性のずれを感じるわ。
ていうか、赤金色なんて馴染み深いあれしかないだろ?
勇者が魔王を倒す為に、王様から下賜されるあれだよ!
「ただの銅の剣だけど?まあ、魔王退治の勇者が最初に手にする剣といえば聞こえはいいけどね…ちなみに俺の魔力をふんだんに練り込んで、さらに俺の魔力でコーティングしただけだけど」
「銅…」
なんだこいつ!
さっきまで、驚きに目を見開いてたから今度は目ん玉飛び出すかと期待してたら、死んだ魚みたいな目になりやがった。
てか、銅も知らないとかどんな田舎もんだよって話だよな!HAHAHAHA!
その時体に、なんとなく馴染み深い感覚が蘇って来る。
「おっ!」
「今度はなんだよ!」
捨て鉢になったのか、テルモトが大声で怒鳴って来る。
短気か!
「いや、完全状態異常無効が、完全状態異常無効を喰われた事を状態異常と認識したらしい…それと、魔力の固定も状態異常と認識したようだ。すなわち状態異常という判断の元、完全状態異常無効が今の状態を異常として正常に戻したことで、完全状態異常無効と魔力が戻った…ちなみに、魔力も魔人形態に相応しい量になったから」
うん、状態異常が軽くゲシュタルト崩壊だ。
何を言っているかわからねーと思うが、状態異常がうんちゃらかんちゃらって状況だな…うん、分からん!
そして、この発言でヨシツネの顔からも表情が消えた。
2人揃って死んだ魚の目だ。
久しぶりに見た気がする。
「いや、スキルでしょ?無くなったはずでしょ?なんで?」
俺に聞かれても困るけどさ…
そりゃ不思議だろうね。
でも…完全状態異常無効だもん…状態異常があったら正常化するでしょう?HAHAHAHA!我ながら思うわ、出鱈目なスキルだって。
「それが、完全な状態異常を無効化するスキルだからじゃないか?」
うん、とっても分かりやすくて親切な説明だったと思うよ。
だから、キョトンとしないで?
俺も無理があると思ってるからさ。
―――――――――
「ふいはへんへひたー」
「もうかんへんしてくらひゃい…」
数分後、俺の目の前には顔をボコボコに腫らしたテルモトとヨシツネが正座している。
いやー、優しいわ俺。
足斬られて、腕斬られて、頭細切れにされて、魔核貫かれたのに殴るだけで許しちゃうなんて。
でも、こいつらなんか性格的に配下に加えたくないんだよねー…
取りあえず、テュークも復活させて3人で元の場所に帰って来たんだけどね。
どうしよっかな…そんな事を思いながら周囲を見渡すとルカと目が合う。
すぐに、目を反らして顔を背けたが…まあいいや。
「おい、お前らはこの娘の直属の部下ね!」
「はんへおへが!」
「ほふが、にんへんのへらいはんへ!」
うん、何言ってるか分からん。
分かるけど、分からん。
取りあえず傷を治してやる。
「ちょっ!なんで俺が人間みたいな下等な生き物の部下に!」
「僕だって、こんなゴミみたいな奴等の家来なんて!」
「………否!」
「あっ?」
3人が拒絶の意思を示すので、取りあえず思いっきり睨み付けてやると、慌てて視線を逸らす。
「あの、私も要りません…こんな物騒な人達」
ルカも嫌そうにしている。
そうか、ならば仕方が無い。
「うん、じゃあしょうがないから死んでもらおうか?ルカの護衛になればいいかと思ったけど、双方嫌みたいだし。俺の部下には要らないキャラだしね」
俺の言葉に3人がビクッとなる。
うん、面白い。
「そうだ、ただ殺すのも面白くないし、状態固定って俺も使えるんだよね?もっとエグイやつが。首だけ固定してから切り離したら、首だけでも生きてけるんだよねー」
ニヤニヤしながら3人の顔を順に見ていく、3人が慌てて顔を反らしている。
楽しくなってきた。
「それでさ、中野のとこに持ってたらあいつ喜ばないか?なんせテルモトとヨシツネだっけ?長い付き合いなんだろ?名前からして、あいつの寂しさを紛らわせるために生まれたような感じだしね」
3人が顔を反らしたままガタガタと震え始める。
そして、最初に心を折ったのは…
「………娘…美人…我…守」
すげーな…
口数少ないってレベルじゃないけど、あからさまに媚売ってるの分かるわ。
「えっ?テューク?」
「ププッ!テルモトだって、部下の躾けちゃんと出来てないじゃん!」
テルモトが信じられないといった感じの、悲しい表情をテュークに向けている。
しかし、テュークは目も合わせない。
「誰?…男…我不存知…男他人…我…娘…僕…主人…娘…只一人!」
うわぁ…引くわー…
こんな掌返しされたら、立ち直れんわ。
「なんか、その男の人必死みたいだし…でも部下とかってのはちょっと…」
「我…美人娘…守…共…永久…守」
必死か!
そして、頬を赤く染めるルカ…ちょろすぎるだろ。
初心か!
「じゃあ、そいつだけ助けて二人は中野に送り返すか?」
「ちょっ、そこのお嬢さん?僕なら君を守り通せますよ!貴方の為なら、たとえ地獄の業火に焼かれようとも守り抜いて見せます!」
おいっ!ヨシツネ、おいっ!
こいつも、根性ねーな。
いや、発言は根性あるけどさ。
「本当か?じゃあ、ちょっと俺がこれから第二位地獄級魔法の大焦熱地獄放ってみるから、ルカを守ってみるか?」
「えっ?」
出ました、死んだ魚の目!
口だけかヨシツネ!ってか、こんな奴にヨシツネとか失礼過ぎるだろ。
「ちょっ!ヨシツネふざけんな!じゃあ、俺もその小娘の為に命掛けるわ!」
「小娘?」
テルモトの発言に、ルカがムッとした表情を浮かべる。
「あっ、そちらの綺麗な御令嬢…私に貴方を是非護らせてくださりませんか?」
白々しいわ!
っていうか、ルカの頬がまた赤くなってる。
チョロ過ぎるだろおい!
そんなこんなで3人の強力な部下を手に入れたルカであった。
―――――――――
そのころ
「そうっすねー…自分はまだそんなに料理を頂いてないっすけど、カレーいうんでしたっけ?あれはめっちゃ好きっす」
「オッ!お前分かってるな!ケビンもカレー好きだぞ!ちなみに、とんかつっていうの乗せると、マジサイコー!あれ毎日食べられる」
「とんかつっすか?あー、食べた事ないかもっす」
「でも、カリッとした食べ物、ケンチキがナンバーワンよ!ケビンの国の料理だぞ!食エ!絶対食エ!今スグ食エ!」
「今すぐは無理っすよ」
何を話してるんだこいつらは。
ていうか、戦ってないのかよ!
呆れた表情で、話し込んでる2人を見ているとケビンと目が会う。
「オイ!タナカ!お前酷い奴!ナンデ、こいつにカツカレー食べさせないよ!というか、まずケンチキだろ!だから出せ!今すぐ出せ!」
追剥か!
っていうか、いまお前敵だろ!
どこにいても、なんのポジションだろうと変わらないケビンにほっこりしつつ、ケンチキとカツカレーを作りだす俺。
「ゴメンタナカ言い過ぎた!お前やっぱり良い奴ヨ!タナカ大好き!」
告白ですか?
嫌ですよ…こんな毛むくじゃらのTHEアメリカンに告られても嬉しくもなんともありませんよ?
とか思いながらもにやついてしまう。
取りあえず、みんなで美味しく頂きました。
あれっ?何しに来たんだっけ?