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タナカと四天王

「さてと…ピンキー、カインから離れろ!」


場所は田中城の一室。

大広間ではなく、小さな会議をするための部屋だ。

板張りで真ん中に囲炉裏が置いてある、この面子の中にあって全く異質な空間だ。

そこに集められたのは、荒神、カイン、ブルータス、シャッキ、オウガ、ピンキーだ。

ピンキーがしなを作ってカインにしだれ掛かっているのを、カインが一生懸命押しとどめている。

俺は大げさにため息を吐く。


「はい…カイン様、続きはあ・と・で!」


頭が痛くなってくる。

とはいえ、この4人の実力はこの大陸でも折り紙付きだ。

この上に位置するは東西南北の世界を統べる魔王、そして4人の将軍だけだ。


「まずだが…四天王としての位置づけをそのまま、俺のこの地での位置づけだがお前らには四瞬鬼(ししゅんき)という役職を与える」

「有り難く頂戴致します」

「ししゅんきって何っすか?」

「なんか、イラッとする役職やな」

「あら、私は凄く甘美な響きに聞こえますわ」


ブルータスは疑問も持たずに受け入れている…真面目か!

ピンキーには好評のようだ。

そして、2人はどうも腑に落ちないといった様子である。


それもそうだろう。

ムカ娘に人知れずそっと恋心を抱くブルータス。

バニーにぞっこんラブのシャッキ。

カインに色ボケピンキー。

そしてシスコンオウガ。


どこのラブコメ設定だってくらいに、4人が4人とも現在進行中の四瞬鬼(思春期)だ。


「という事はだ…実質この世界での俺の部下の中では幹部も幹部、大幹部だな?その上に影の騎士隊長のカインと、総隊長の荒神だ」

「私が総隊長で宜しいのでしょうか?ウロ子様の方が適任かと…」

「影の騎士隊長…フフッ」


俺が役職を任命すると、荒神が申し訳なさそうに進言してくる。

その横で、カインはすでに自分の役職名に酔っている。


「私が、あの締まらない男より下なのですか…あっ、いえ荒神様の事ではありませんよ?その、実力は認めるのですが…なんというか性格がアレな方に指揮が…」


ブルータスも申し訳なさそうに俺に言葉を投げかけてくる。


「総隊長は現状、荒神はんしかおらんやろ?」

「実力、性格、指揮力全てにおいて、この城で実質バランスが取れている武人っすからねー」


シャッキとオウガも荒神の事は認めている様子だ。


「ああ、ウロ子や他の魔族が合流するのが確実ともいえないしな。待っていてもしょうがない、早めに職務について、この城の指揮系統を掌握して整備してもらいたい。もちろんサポートとして、ポークをつけようと思う。いいよなオウガ?」

「ええ、タナカ様の部下として総隊長補佐って羨ましいっすわ!喜ぶっすよー」

「そうか、有難う。シャッキは一応友人枠ではあるが、四瞬鬼(ししゅんき)の1人として役職を与えようと思う。が実質お前は俺達の指揮下に入る必要はない。お前みたいな奴は、自分で考えて自由に動かした方がよっぽど、良い動きするだろうしな」


オウガは取りあえず、オウキが傍に居れば不満は無いらしい。

シャッキに関しては、一応同志ということで俺の指揮下には入る必要が無い事を、他の幹部の前で名言する。


「ただ、友として頼み事は聞いて貰いたい」

「ああ構わんで。別に部下でもええんやけどな」


シャッキが笑いながら答えてくれる。


「いや、同じ思想を持つもの同士だしな。それに、俺が間違った時に正してくれる存在も必要だろう」

「あんさんが間違えた瞬間に世界が亡ぶイメージしか沸かんわ。忠言するまえに、わい消滅しとるかもしれんし」


「カイン様…騎士隊長就任おめでとうございます」


目を離した隙に、またもピンキーがカインに持たれかかっている。


「んー、ゴホン!」


俺の咳払いに、ピンキーが恨めしそうにこっちを見ながらカインから離れる。

本当に油断も隙もないというか、よくもまあこんなところでいちゃつけるもんだ。

ちなみに、普段はこういった事に五月蠅い荒神もことピンキーにはノータッチだ。

実質カインより強くなっているであろう荒神が、ピンキーを注意して下手に実力を見せつけてしまった場合…をイメージして、カインには文句を言うがピンキーには直接何も言わない事にしたらしい。

やはり、俺が信頼をする部下だけの事はある…賢い選択だ。


「そうだぞピンキー!」


おっ、カインがピンキーに注意している。

早速騎士団長としての自覚が出て来たか?


「私は騎士団長ではなく、影の騎士団長だ!主様から頂いた役職名を間違えるとは、部下として失礼千万ですよ!」


そうじゃない!そうじゃないぞカイン!


「はっ、はい!申し訳ありません…影の騎士団長カイン・さ・ま!」

「うむ!」


………パコーン!


「いたいっ!」


俺は囲炉裏から樋廻を拾ってカインの頭に投げつけた。

うむじゃねーよ!


「はあ…まあ、別に真面目に畏まって会議するのが良いとは思わないし、囲炉裏を囲んで話しながらって感じではあるが、真面目にしろ!」

「えっ?」

「はっ?」


俺の言葉に、2人が首を傾げる。

頭痛が痛い…

カインが役職や役割を与えれば与える程馬鹿になっていく。

そして、ピンキーがそれをさらに悪い方に加速させていく。


「た…大変ですね」

「まあ、がんばろやー…はは」

「良いっす…この緩い感じ。大魔王様のとこの会議はどうもひりついてて、ストレスで胃がやられそうだったすけど、なんというかアットホームで良い感じっすねー」

「…はぁ」


オウガの感想に、荒神まで溜息を吐いている。

しかし次の瞬間…


『あっ!』


思わず、荒神とブルータスとシャッキが声を漏らす。


バキッ!

ドカッ!

ガスッ!


と突如何も無い空間から手が現れて、カインとピンキーとオウガの頭に思いっきり拳骨が落とされる。


「痛い!」

「痛いですわ!」

「な…なんだ!」


見るに見かねたマヨヒガが3人に拳骨を喰らわせたのだ。

それから俺にしかわからないだろうが、異次元空間を3人の後ろに作り出して、巨大な瞳で威圧を込めた視線を送る。

すぐに3人が居住まいを正して座り直す。


「すいません…お騒がせしました」

「申し訳ありません」

「なんで、自分まで…」


オウガが納得いかないといった表情を浮かべているが、文字通り軽薄な事を言うからだよ。

中野の部下をやるのも大変だったかもしれないが、こいつらを纏めるのも正直しんどいな。


「まあ、というわけだ!この3人の統率はお前に任せるぞ荒神!ブルータスは大丈夫だろうが、特にオウガとピンキーも頼むな」


俺の言葉に荒神が驚いた表情を浮かべる。

それから、死んだ魚のような眼でこっちを見てくる。

すまんな…

心の中で荒神に謝っておく。

勿論、俺の心はガードが掛かっているから読心術をもってしても読み取ることは不可能だろうが。

一応形だけでもね。


「で、4人を集めたのは他でもない…お前ら弱すぎるからさ、ちょっ『えっ?』


4人が、言っている意味が分からないといった表情をしているが、分かるだろう?

そんな難しい言葉は使ってないはずだが。


「えっと…お前らが弱いから、ちょっと強化を『えっ?』


こいつら、耳が悪いのか?

2回も聞き逃すとは。

しかもこんな狭い部屋で。

よし、分かった


「「「お前ら!弱いから」」」

「ちょっ、聞こえてるっすって!そんな弱い弱いって連呼しないで」

「あ…ああ、確かにタナカはんと比べたら弱いかもしれないけど、弱すぎるっちゅーことは無いかと思うで」

「その言葉、聞き捨てならないですわ!」

「いや…たぶん、タナカ様の言われる通りかと…」


ブルータスだけが、心から理解しているっぽいが、まさか子供に負けたオウガまでも自覚してなかったとは。


「お前ら、自覚してなかったのか?多分俺の世界の一部の一般人にも劣るぞ?」


実際にこいつらが北の世界に進行してきたとしてだ…まず城下町で住人に刃を向けた場合、1対1なら間違いなくこいつらが勝つだろう。

1対1ならな…

1人斬った瞬間に、他の戦える系の住人に囲まれて袋叩きだな。


四天王1人に対して、住人が30人くらいで当たれば簡単に制圧できるだろう。

間違いなくモー太の兄とかの一部の規格外の住人に見つかったら1対1でもボコボコだろう。


「そ…それは流石に言い過ぎかと」

「ああ、せやで。いくらなんでもそれは侮辱やで」

「そうっすよー!そんなに弱くないっすよー!」

「ホホホ、北の魔王様は冗談が下手ですわね。それは愉快ではなく、不愉快ですわ!」


4人の殺気が膨れ上がるのを感じるが、事実だしなー。

といっても証明する術は無いわけだし、いくらこいつらが凄んだところで俺にとってはそよ風みたいな威圧感でしか無いし。


「まあ、そんな細かい事を気にしてもしょうがないだろ!」

『細かくなんかありません!(ないわ!)(ないっす!)(ないですわ!)』


4人が同時に大声で反論してきて思わず肩を竦める。


「では、私の配下の白蛇達を相手取って勝てますか?」


荒神の言葉に、4人が悩む。


「さらに他の蛇達と、子供達が全員同時に襲い掛かってきたら?」


4人が、ちょっと不安げな表情になってくる。


「ちなみにその蛇達は、タナカ様統治時の住人よりは弱いですよ?」


その言葉に、4人の表情がサーっと青くなっていく。


「俺達…弱いな」

「そうっすね」

「大魔王の庇護ってなんなんやろ?」

「北の世界は良い男がより取り見取りって事!!!」


約1名解釈の仕方がおかしいがと思って白い目で見つめると、ピンキーが慌てて首を振る。


「あらっ、申し訳ありませんですわ!私はカイン様一筋ですわ!」


そうじゃない…

もうピンキーに何を言っても無駄だろう。

そして、強化を施す予定ではあったが、ピンキーを強化するが危険なような気がしてきた。

とはいえ、最終決戦に向けて戦力の底上げは必要だろうしな。


「という訳で、お前ら強化してやるから!ほれっ!」


そう言って、俺がこの日の為に作った魔力を圧縮した宝玉を4人の核に放り込む。

次の瞬間、4人の魔力が一気に膨れ上がったあと、凝縮されてその体に留まり馴染んでいく。


「こ…これは」

「や…やばいっす!」

「あかん…体が燃えるように熱いわ」

「いやん、はぁはぁ…身体が火照って抑えられそうにありませんわ」


ピンキーとシャッキが似たような事を言ってるようで、どうもピンキーが言うといやらしく感じる。

まあ良いだろう。


「どうだ?実感はあるか?」


「あ…あります。今なら氷雪系地獄魔法も第4位くらいまでなら使えそうな」

「ああ、わいもや…炎熱系の地獄魔法を使える気がしてきた」

「ん?実際使えると思うぞ?」


ブルータスとシャッキが溢れ出る魔力をどうにか抑えつつ、興奮した様子で報告してくる。

一方でオウガの方はというと…


「こ…これは雷属性が迸ってるっすー!しかも地属性まで強化されてるっす!この世界は自分のものっすよー!っていたいっすー!」


オウガが調子にのって、雷を纏ながら立ち上がって、大地を踏み鳴らして揺らすと即座にマヨヒガが拳骨を2発落とす。


「タナカ様、全然強くなってないっすよ!マヨヒガさんの拳骨、超いたいっす!」


オウガが不満そうに俺に訴えかけてくると、さらに拳骨が落とされる。

頭の上をひよこと星がワルツを踊っているが、気のせいだろう。

いい夢見ろよ!


「フフフ、今の私ならカイン様の横に並び立つ資格がありますわね!もし2人に子供が生まれたら、きっと魔族最強の鬼が生まれると思いますが?」


ピンキーが全身を風と植物で包んでカインに迫っているが、簡単に避けられている。


「影を捕まえられる事は出来ませんよ…」

「あら、いけず!」


カインにスルリと逃げられたピンキーがほっぺを膨らませているが、可愛いっちゃあ、可愛いんだよなー。

でも絶対に惚れられたらあかんタイプというのだけは分かる。

ちなみに、荒神もさらに強化してある。

正直に言うと、第2形態の大蛇の次の変化を用意しておいた。

本人にも伝えてあるし、結構制御が大変だと思っていたが1時間の訓練で御しきれた時は、俺ですら驚いたが。

さて、待ってろよ中野!

あっちこっちの町で、色々と嫌がらせしながら追い詰めてやるからな!


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新作更新始めました!
(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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