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黒騎士と中央の勇者(前編)

カイン回です。

カインが東の大陸に飛ばされて二日目…、付近を納める人間の王の前に跪いていた。

初日で、大魔王軍に襲われていた防衛都市を救い、そのままその地を守っていた騎士団に案内され王城へと案内された。


「ふむ、其方が東の防衛に助太刀してくれたものか?」

「ええ、たまたま通り掛かったものでして」


カインの返答に、王が大仰に頷く。

それから、カインの目をジッと見据える。


「して、其方の名は?」

「タケルと申します」


助けてやったのに、あまりに偉そうな態度に若干イラッとしつつも無難に答える。


「聞いた事無いのう…だが、そこな第2騎士団の団長の話では一太刀で鰐の魔族を切り伏せたとのことだから、相当の手練れのはず」

「はっ、恐らく勇者様方に近い力をお持ちかと」


王の言葉に、騎士団長が追従する。

この地の勇者か…まだ会った事無いが、強いのか?

そんな事を思いながら、2人のやり取りを見ていると王が何か思いついたように頷く。


「そうか、それほどなら是非とも頼みたい事がある…とはいえ、今回の助力に対する褒美も与えねばなるまい…ここに」


王がそばに控えていた老齢の男性に耳打ちをすると、その男性の指示のもと、若い兵士が金の入った袋を持ってくる。


「国王陛下からの褒美である」


それから老齢の男性が、少し低く威厳のある声でカインに伝えると、兵士の1人がそれをカインに手渡す。


「そのようなつもりではございませんでしたが、まあ、断るのも失礼に当たるでしょう。謹んでお受けいたします」


そう言ってカインが両手で受け取る。


「これで、取りあえず今回の件は終わりだ…といっても、防衛成功の宴には是非参加してもらいたい。これから防衛都市の損害等を調査して対応等を考えねばならぬゆえ、お主の対応は他の者にしてもらう事になる。すまんな…それと、頼みたいことは宴の席で話そうと思う」

「はあ…」

「時間まで部屋を用意するゆえ、ゆっくりと寛ぐがよい」


頼みを受けるとも言ってないし、こっちの都合も聞かずに宴への参加を決めつけられて若干イラっとしたが、まあ久しぶりに人に囲まれてゆっくりするのも悪くないか。

そんな事を思いながら、侍女に部屋まで連れて行ってもらう。


「お時間まで、こちらでお寛ぎください。これから、第二騎士団長のザムザ様が参られますので、外出等の場合はザムザ様にお伝えください。時間になりましたら、またご案内いたします」


それだけ言うと、侍女はそそくさと部屋から出ていく。

それから入れ替わりで騎士姿の初老の男性が入って来る。


「先ほどは、助かりました。時間までしばらくお相手させていただきます」

「はあ…宜しくお願い致します」

「まあ、そう固くならずに…基本的には置物程度に思って頂いたら宜しいかと」


そういうと、ザムザは入り口の脇に立って正面を向く。

うーん…なんだか逃げ出さないように見張られているみたいだな。

特にすることも無いが、同じ部屋に騎士姿の男性が居るのも気まずい。

長い沈黙が続く。

寛げる訳が無い。


「あの…タケル様はどういった方なのですか?」


唐突に質問を投げかけられる。

恐らく、自分の素性調査なのだろうが、こんな不躾な質問あったものだろうか?

どう考えても、人選間違えているだろう…

といっても、隠してもしょうがない。

ある程度は正直に話す。


「えっと、北の世界の勇者をしてました。この地には北の元魔王を追って参りました」

「なんと!勇者様でしたか…しかも北の魔王までもこの地に来ているというのですか?」

「ええ、まあ」


カインの言葉に、ザムザが腕を組んでうーむと唸る。

そしてまた暫くの沈黙。


「それにしても、北の勇者様というのはお強いのですね」

「いや、それほどでも…」


そして沈黙。

会話が続かない…苦痛だ。


「またまたご謙遜を」


反応が遅すぎるだろ。

唐突にそんなことを言われても、さっきの会話はとっくに終わってる。

カインが大げさにため息を吐く。


「どうかなされましたか?」

「いえ、貴方の方こそもう少し肩の力を抜かれてはいかがですか?」


ザムザがハッとした表情を浮かべた後で、軽く微笑む。

固い…微笑むというか、作り笑い感が満載過ぎてなんとも言えない気持ちになる。

それから長い苦痛の時間を過ごし、宴に参加することになったのだが、北の勇者という事を知った王から案の定面倒くさい頼み事をされる。

というのが、いまこの地を襲っているのが百人衆の1人、ウラクネ族のアリアという女性らしいが、その魔族の討伐依頼だった。

しかも、中央東大陸の勇者二人と協力して討伐せよという、半ば命令に近い依頼で嫌気がさしてくる。

魔族にいい様にやられて、国力も減っていくだけのはりぼての王のくせに、態度だけは一人前だ。

とはいえ植物系の魔族という事で、これはタナカの国造りに役立つだろうと考えて、仕方なくその依頼を受ける事にした。


―――――――――

「はん、あんたが北の世界の勇者か…足だけは引っ張んなよ」

「ああ、こっちの世界の魔族は他の世界の魔族とはだんちだからな。お前はあくまでサポートだからな」


最悪だ…

一緒に旅をするという勇者が、北の世界の勇者というだけで見下したような挨拶をしてくる。

まあ、彼らが主体となって戦ってくれるというのなら、甘える事にしよう。

それに、タナカ様も言っていた…能ある鷹は爪を隠す。

人には馬鹿にされて、ここぞという時に実力を見せた方が評価が跳ね上がるらしい。

その話を聞いて、なるほどと思った。

だから、取りあえずはこの2人よりは弱いふりをしておこうか。


「そうですね。この世界の事は貴方がたの方が詳しいでしょうし、私はサポートに徹しますよ」

「殊勝ないい心掛けだ。俺はバルゴだ」

「分かってんじゃねーか!俺はカノンだ」

「タケルと申します。よろしくお願いします」


カインの言葉に気を良くした2人が、満足そうに自己紹介をする。

これでいい…今は。

そんな事を思いながら、カインも名乗って手を差し出すが、2人に無視される。

ムカッ!

まあ、いいいでしょう…楽させてもらいますか。


アリアが居を構える町までの道中様々な魔物が襲い掛かってきたが、そのすべてをバルゴとカノンの2人が切り殺していく。

なかなかに、デカい態度を取るだけの事はある。

少しだけ見直したカインであった。


それから特に問題も無く、東にある町の1つチクーバに辿り着く。

町の中は、あちこちの建物に植物の蔦が張っていて、主に鳥族やリス族、ネズミ族などの小動物系の魔族が偉そうに歩いている。


「それじゃいっちょやりますか!」

「ああ、さっさとこの町を解放しないとなー」


2人が町に入るやいなや、外套を脱ぎ去って名乗りを上げる。

バカだ…こっそり、アリアの住む館まで行けばいいのに門を潜っていきなり宣戦布告するとか…


「俺の名は勇者バルゴ!お前ら魔族を全員ぶっ殺して、この町を解放してやんぜ!」

「同じく、俺は勇者カノン!死にたい奴から前に出てこいや!」


そう言って2人が剣を抜いて道行く魔族に斬りかかっていく。

これじゃ、どっちが魔族だか分かんねーな。

いきなりの奇襲…しかも少人数という事もあって、町を歩く殆どの魔族が抵抗することも出来ずに斬り殺されていく。


「くっ!アリア様にすぐに伝令を!」


リス族の1人が、決死の覚悟で町の中心に逃げ出そうとしたが、その背中目がけて魔法の矢が放たれる。

カノンが放ったもののようだが、寸分違わず頭と心臓部に突き刺さって魔族の男がすぐに絶命する。


「おいおい、背中向けるとか殺してくれって言ってるようなもんだぜ?」


なんて悪そうな顔をしているんだ。

そんな事を思っていると、バルゴと目が合う。


「おいおい、タケル―!お前もちっとは働けよ。すぐに、この地の魔族全部殺し尽くしちまうぜ?」


勇者のセリフじゃない。

自分のイメージする勇者像とあまりにかけ離れていて頭痛がしそうになるが、よくよく考えてみたら北の世界にもまともな勇者から逝っちゃってる勇者までピンキリだった事を思い出す。

うん、この勇者がたまたま外れだっただけだろう。

そんな事を思っていると、建物に絡みついていた蔦が3人目がけて伸びてくる。


「気を付けてください…でかい魔力を感じますよ」


タケルが2人に警告をだすが、そんな事は分かってるとばかりに睨まれる。


「ああ、本命のお出ましだな…」

「来たか」


2人が襲い掛かって来る蔦を切り刻みながら、正面に向かって視線を送ると一人の女性が立っている。

足が植物のようになっていて枝分かれした茎の数本が地面に突き刺さっている。


「これはこれは勇者殿か?ようこそ我が町へ」


女性が腰の辺りの葉っぱを摘んで優雅にお辞儀をすると、その下にあった蕾から種が飛ばされてくる。

こいつがアリアか…中々にえげつない事をしてくるな。

種を飛ばすと同時に、毒霧まで振りまくとは油断ならないことで。

といってもカインも、ある程度の状態異常無効は持っているためこの程度の毒が効くことは無い。

ただ、耐性を持たないであろう2人の勇者は慌てて解毒剤を飲んでいる。


「お前を倒せば、ここも終わりだな?」

「ふん、人間風情が私を倒すですって?面白い事をおっしゃいます…ねっ!」


バルゴが大声で話掛けて興味を引き付けている間に、カノンが背後から斬りかかる。

だが、アリアはその攻撃を簡単に蔓で防ぐと、反対に多数ある蔓を2人に向けて放つ。

バルゴも、カノンも凄い速さでその蔓を切り刻んでいくが、間で種を飛ばしてくることもあり、なかなか近づけずに居る。


「ちっ、面倒な奴だな…」

「おいっ!」


バルゴ焦れたように漏らすと、カノンが何やら合図を送る。


「ああ!」

「何をなさるつもりか知りませんが、させませんよ!」


2人の動きに不穏なものを感じたのか、アリアが人型の上半身から火の魔法を放ってくる。

植物の癖に火属性を平気で使うとか、狂気を感じるな。

自分に燃え移ったら楽しいのに…とはいえ水分を多く含んだ草が燃える訳も無いが。


「魔法まで使えるのか…だが残念」


アリアの放った火はバルゴに当たる事なく、彼が立っていた場所の背後に壁にぶつかって爆発を起こす。

ほお、人の身で転移魔法を即座に発動できるとは凄いな。

といっても、からくりがあるみたいだが。


「馬鹿な消えた!」

「よそ見してていいのかい?」


アリアが一瞬気を抜いた隙に、カノンがまたも背後から斬りかかるが、すぐにアリアが反応してその剣を新たに作り出した蔓で受けている。


「ふん、さっきの方は囮という事ですね?でもそんな遅い攻撃じゃ当たりませんよ」

「残念!」


すぐに体制を整えたアリアが、火の魔法をカノンに向けて放つがそれが当たるより先に、黒い影が上空から降って来る。


「俺が囮だよ」


カノンがそういうと、アリアが信じられないもを見るかのように自分の肩からお腹に向かって切り裂いた剣を見つめる。


「あっけねーな!俺達2人はこう見えても、この世界最強クラスの勇者だからな」

「こう見えてもって、どう見えてもだよ!」


2人がそんなやり取りをしながらも、止めをさすかのようにカノンがアリアの首を刎ね、バルゴがアリアの腹から突き出てる剣をそのまま横薙ぎにして胴体を切り離す。


「さようなら」

「これにて、任務完了!」


あーあ、終わりましたね。

2人が自信満々に剣を肩に担いでこっちを見ているが、魔力が消えて居ない事に気付いてないみたいですね。


「ぐあっ!」

「なっ!バルゴ!ってうわぁっ!」


突如2人の足元から蔦が生えて来て、2人の胴体を貫く。

それから、その2本の蔦が絡まりあって、先ほど2人が倒した魔族と同じ姿を作り出す。


「フフフ…それじゃあ2回戦といきましょうか?」

「くそっ、生きてたのか!」

「化け物め!」


2人がどうにか、その蔦を腹から引き抜いて地面を転がる様にして距離を取る。

それから、自分の腹に空いた穴に回復魔法を掛けている。

みるみるうちに傷が塞がっているが、態度と口調以外は本当に優秀だよな。


「でも、2対1って少し卑怯じゃなくて?私も2人でお相手させて貰おうっと」


アリアがそう言うと、地面からもう1本蔦が生えて来てさらに数が増える。


「ばっ!バカな!」

「くっそ、タケルお前も手伝え!」


2人が途端に焦ったような表情を浮かべる。


「でも…さっき2対1でいじめられちゃったんだから、こっちも同じことしないとね…」


2人の顔が急激に青ざめていく。

それもそのはずだ、さらに2本の蔦が生えて来て目の前に4人の魔族が現れた訳だ。


「流石にちょっとまずくないか?」

「ああ、これは逃げるしかないか」


2人が小声で逃げる算段を付けているが、アリアが大声で笑いだす。


「逃がすかよボケナスがぁっ!倍返しって言葉知ってる?2対1でいじめてくれちゃったんだからさぁ?倍返しの4対1ってのはどうかしら?」


一瞬物凄い形相で怒鳴ったかと思うと、また余裕の表情に戻ってさらに4体の分身を作り出して、バルゴとカノンを四方から囲む。


「ひいっ!百人衆が8人も…」

「馬鹿な!どれも魔力が一定だと!あわわわわ…無理だ…殺される…」


2人が闇雲にアリア達に向かって剣を振るっているが、斬っても斬ってもすぐに再生されて、徐々にその包囲網を狭ませてくる。


「そうねー…肩からお腹まで斬られてぇ…首を刎ねられて、上半身と下半身を分断されるのって…どんな気持ちか味わってみたくなーい?」


バルゴのすぐ背後に迫った分身の1人が、彼の首に手を当てて耳元で囁く。

カノンが咄嗟に何やら丸いものを投げるが、すぐに地面から蔦が伸びて来てその物体を捕まえる。


「貴方の転移の秘密なら知ってるわよ?これでしょ?」


それから、バルゴに後ろから抱き着いていた分身体が彼の胸元から一つの宝玉を摘み上げる。

転移石か…そしてカノンが投げたのが…


「そしてこれ…転移先のマーカーよね?そこの短髪の坊やがこのマーカーを相手の死角に投げて、貴方が胸に隠していた転移石を使って転移してただけ…種が分かると、単純すぎて笑えるわね。ちなみに最初から気付いてたからぁ!」

『キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』


そして分身体全てが同時に大声で笑いだす。


「ひいいいいい!許してくれ!すまなかった…俺達が悪かった」

「あああああああ…もうダメだあああああ…終わりだぁぁぁぁぁ…死ぬんだ…死ぬんだ…死にたくない…死にたくない…死にたくない…」


2人とも恥も外聞もかなぐり捨てて、その場に蹲って頭を押さえて命乞いはじめちゃいましたか。

情けないったらないです。

カインが深く溜息を吐くと、一足飛びでバルゴを囲う分身体の1体に近づくとそのまま殴り飛ばして、バルゴの襟首を掴んで後ろに投げ捨てる。

さらに、そのままカノンの方に向かうと今度は蹴りで分身体の1体を弾き飛ばし包囲を切り崩してカノンも放り投げる。

そしてすぐに自身も後ろに飛んで、バルゴとカノンの前に立つ。


「あらっ?貴方もやる気だったの?」


それまで動こうとしなかったカインが、唐突に目まぐるしい働きを見せた事にアリアが意外そうな表情を浮かべつつも、すぐに余裕の笑みに切り替えて妖艶な声で語り掛ける。

その背後で2人の勇者が状況を飲み込めずに居たが、カインが2人とアリアの間に立っている事に気付きお互いが顔を見合わせる。


「おっお前!いいぞ!そのまま時間を稼げ!」

「ああ、俺達がすぐに救援を呼んできてやるから、頑張れ!」


それからすぐにそんな事を言いながら、2人がそこから逃げ出そうとするがその進行方向に蔦が生えて来て、さらに分身体が増える。


「あ…」

「うっ…」

「逃がすわけないない…」


完全に退路を断たれた2人が絶望に顔を歪めている。

しかし、そんな彼等とは対照的にカインは涼やかな表情を浮かべ分身体をジッと見据えている。

唐突にカインの右手が光を纏う。


「さてと…それじゃあ、除草作業でも始めましょうか」


それからなんでもないかのように歩き始めたカインの手には、魔剣堕ちした漆黒のアロンダイトが顕現していた。

さらに、その剣を横薙ぎに軽く振るっただけで2体の分身体が消滅した。



ブクマ、評価、感想お待ちしております。

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新作更新始めました!
(仮)邪神の左手 善神の右手
宜しくお願いしますm(__)m
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