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七英雄と龍神と田中 前編

「ジョンそっちに行ったぞ!」

「よし、任せろ!」


マイケルが放った斧での一撃を、どうにかといった様子で躱したピッグだが、すでに背後ではジョンが大剣を構えている。

細身の優男風のジョンが大剣を振るう姿はどこかアンバランスだが、彼は身体強化の魔法に優れており細腕からは想像も付かないような膂力を発揮する。

慌ててしゃがむ事でどうにか、横薙ぎの剣をよけることが出来たが地面からトミーが飛び出しピッグの顎にアッパーを叩き込む。

その拳は固い岩で覆われており、ピッグが後方に一回転しながら吹き飛ばされる。

トミーは地属性の魔法が得意な様で、いまは土の中に潜った状態から、土を操作して発射台代わりに飛び出してきたのだろう。

すでに3人掛かりでならピッグと10回戦えば7回は勝てるようになっている。


「いやあ、参ったわい!こうも年端の行かぬ子供達に手も足も出ないと、自尊心というものが音を立てて崩れていくようじゃわ」


口ではそう言いながらも、どことなく嬉しそうだな。

まあ、一番熱心に組み手をして、アドバイスを送っていたのはピッグだからな。

安心しろ、訓練が終わったらピッグもポークも、オウキも俺が強化する予定だからすぐに3人掛かりでも勝てないくなるだろう。


「お疲れ様じゃったの」


オウキがタオルをピッグに手渡す。


「これは、姫様恐れ多い事でございます」

「ふん、もはや妾はお主と同じタナカ様の配下じゃ。同僚じゃぞ?気にするでない」


言ってる事の割には偉そうだが、まあ長年そういった付き合いをしてきたんだ。

すぐには直らないだろうし、直す気もなさそうだ。


「よし、お前らよくやったぞ!そろそろ、西の大陸の村を解放に向かうか?」


俺の言葉に3人が、驚いたような表情を浮かべる。


「た…確かに、僕たちも強くなったとは思いますが…あくまでこれは組手なのでいきなり実戦というのは」


ジョンが不安そうに答えてくるが、実戦はいつだっていきなり行われるものだ。

むしろ、実戦の予行演習なんて組手の延長線上にしかないもんだろう。


「大丈夫だよ、俺が全力でサポートするからさ。それにそこのピッグはそれでも、かなりの実力者なんだぜ?そのピッグ相手に勝ち越せるようになったんだ、もっと自信を持て」


俺の言葉に3人と1匹がニヤニヤする。

どうやら、俺に褒められた事がよっぽど意外だったらしく、ピッグが鼻をブヒブヒ鳴らしているのが鬱陶しい。


「まあ、案ずるより産むが易しだ!今回は7人全員で行くか!」


俺がそう言って、全員で手ごろな村に転移しようとすると、辰子とウララが慌てて飛びついてくる。

俺の腰の辺りにしがみつく辰子に目をやると、ウーと唸りながら頬を膨らませている。


「どうした?」

「最近、パパが全然相手してくれない!」


どうやら、ここ最近7人の訓練に付きっ切りで寂しかったようだ。

しょうがない奴だ。


「よし、分かった!今回はお前も連れて行ってやろう!だったら一気にオウガのお膝元の、西の塔のある街に行くか!」

『えーーーーー!』

「えっ?皆、私と一緒なの嫌なの?」


可愛そうに辰子が泣きそうになっている。

ウルウルとした瞳を7人の少年少女に向けているが、7人は慌てて首を振っている。


「いや、そうじゃなくて、いきなり魔族の本拠地を攻めるとか、お館様頭大丈夫っすか?」


この失礼な物言いをしたのは、マイケルだ。

馴染んでくれていると取るか、嘗められているととるかは微妙なところだが。

取りあえずは、懐いてくれていると思う事にしよう。


「大丈夫だ。辰子も付いてるんだし、俺がサポートに全力で回れるから、格上相手の方が実力が伸びるだろ?」

「いやいやいや!いきなりすぎるでしょ!」


レベッカも青い顔をして、イヤイヤと首を横に振っているが俺は決めたら実行する男だ。

イケてるだろ?

ってわけで、問答無用!レッツ西の塔の町へ!


「決定事項だ!いまさらジタバタするなよ」


一気に転移で西の塔の町まで移動すると、7人が魂の抜けたような表情をしている。


「えーと、僕たち普通の服なんですけど…これで、魔族を攻めるんですか?」


ジョンが心配そうに、こっちの様子を伺ってくる。

そうだな、装備くらい整えておいた方が、俺もあんまり手を出さなくて済むしな。

そうだ、そうしよう!


「ああ、分かった、分かった!それじゃあ、それぞれに武具を装備させるから、それなら良いって事だな?」

「いや、そういう問題でも無いような…」

「いや、さっきのジョンの言葉はそういう意味だろ?装備さえ万全なら行けますよって聞こえた!うん、絶対そういう意味で言ってたな!よし、なら装備をくれてやろう!」

「ちょっ!そんな勝手にってうわっ!」


いつまでもグダグダと煩いので、とっとと魔法で装備を装着させていく。

ジョン、マイケルにはアダマンタイトで作り出した漆黒のプレートアーマーと、オリハルコン製のフランシスカと、ツヴァイハンダーを装備させる。

トミーは天羽雷命の生地を加工した武闘衣にオリハルコンの胸当てと、土の魔石を埋め込んだ手甲を装備させた。

女性陣は同じく、天羽雷命の生地を加工した服だ。

ジェシカとエルザには緑を基調としたパンツと、シャツにベストを装備させている。

レベッカには白いローブ、フランシスカには黒いローブだ。

ジェシカとエルザの手にはアルテミスの弓と、アポロンの弓を装備させている。

レベッカにはアンク、フランシスカにはケリュケイオンを渡しておいた。

全て模造品だが、それぞれに見合った効果を付与しているから、十分な品だろう。


「えっと…これ、ヤバくないっすか?」

「ああ、この鎧…どう考えても見た事の無い素材だし…魔力がやばいくらいに込められてるんだけど?」

「それを言ったら、私のこのローブなんて神気を纏ってるんですけど」

「私達のもそうよ…」

「買ったらいくらくらい…」

「無理無理無理!絶対傷とかつけたら、弁償できないって!」


ジョンはおかしなことを言う子だな。

鎧なんだから、攻撃を防ぐ為のもんだし傷付く事前提だろう?

といっても、俺が自重せずに作り出した防具に傷を簡単に付けられる魔族が居たらそれはそれで脅威だが。


「これで準備は出来たな!それじゃあ、レッツオウガの元へ!おーい!魔族の皆さーん!この7人がオウガぶっ殺してやるから出て来いって言ってまーす!」


俺はそれだけ言うと、転移で上空高くに移動する。


「ちょっ!お館様何言ってるんですか!」

「決めた!生きて帰れたら真っ先にお館様をやっつける」

「いやぁ、マジありえないっしょ、あの人?」

「いいから、あんたたち頑張りなさいよ!私達そんなに戦力にならないわよ!」

「怪我したら、治してあげるから逝ってこーい!」

「私の魔杖が火を噴くときが来たようね」

「大丈夫だって!辰子が居るから、なんかあったら助けてあげるね」


約一名ノリノリの娘がいるのが気になるが、相変わらず肩で寝ているウララを見てると癒されてどうでもよくなってくる。

毎度思うが、こいつは付いて来ても寝てるだけのくせして、毎回何しに来てるんだろうな。

そうこうしているうちに、8人が魔族に囲まれている。

豚、豚、豚、豚、見渡す限り豚だらけだ。

まあ、繁殖力も旺盛だし、雑兵にはちょうど良いんだろうな。


「お前たちか?っていうか、子供じゃないか!いたずらにしては度が過ぎるだろう」

「流石に、子供だからって、無事に返すわけにはいかないレベルだぞ?」

「良い装備持ってるから、それを献上すれば100叩きくらいで許してやろう」


豚が8人に何か言ってるが、問答無用で殺しに来ないあたり、この国の豚は中々に質が良いらしい。


「ブヒブヒうるさいの。こっちは殺る気なんだから、とっとと来い」

「ちょっ!辰子ちゃん?何を言ってるのかな?」

「おーい!この子も頭ヤバいって!」


辰子が挑発するのを見て、レベッカとマイケルが慌てているが時すでにお寿司だ。

どうやら、豚さんたちもやる気になったようだ。


「ふん、折角その装備で見逃してやろうと言っているのに、仕方が無い死体と鎧のセットで不問にしてやろう」


死体にしたら、不問も何も終わってね?

まあ、死んでまで罪に問わないって事か?


「まず一匹!」


なんて事を思っていたら、一瞬で先頭の豚の背後に移動した辰子が、首に手刀を叩き付けて意識を刈り取っている。


「なっ!こいつら、ただの子供じゃないぞ」

「お前ら本気で行け!」


慌てた豚が一斉に襲い掛かって来るが、はてさてどうなることやら。

取りあえず、ジョンとマイケルが前に出るか。


「くらえ!」


1匹の豚が、轟音を立てながらジョンに拳を振るうが、それを難なく躱す。

目の前を通り過ぎる拳を目で追いながら、首を傾げている。


「あれ?遅くないか?」

「そうだな…子供だからって手加減してくれてるんじゃないか?」


ジョンとマイケルがひそひそと話し合っているが、残念な事にたぶんそれがその豚の限界だ。

本人は大まじめに殺す気で放った一撃だろうな。


「ブヒッ!避けただと!」

「じゃあ、こっちも手加減してっと」


そう言いながらマイケルが、フランシスカを軽く振るうと豚の腕が切り落とされる。


「柔らか!ちょっ、脆すぎるだろ?」

「あれ、これって本気で凄い武器なんじゃないか?」


いや、武器もだけどそれ以上に君たち強くなってるからね。


「ブヒーーーー!よくも俺の腕を、お前ら武器を抜け!」


腕を切り落とされた豚が、大声で叫びながら指示を飛ばすと全員がモーニングスターやらこん棒を構える。

それから次々と殴りかかってくるが、ジョンとマイケルに当たる様子は全くない。


「ピッグさんと比べたら止まって見えるよね?」

「逆に、もしこれがこの人達の全力だとしたら、それ以上の速度で殴りかかって来るピッグさんって、マジ大人げないよね」


うん、酷いな二人とも。

それは、ここの豚共に対しても、ピッグに対しても失礼だと思うぞ。

それに、そのピッグの猛攻で訓練した結果お喋りする余裕すら出来たというのに。

もう少し感謝してあげてもええんやで?

ただ、少し油断しすぎだな。


ガンッ!ドカッ!


案の定、豚の放ったモーニングスターの先の鉄球が他の豚の武器に当たって不規則な動きをしたため、ジョンの背中を強打する。

しかし、まったくダメージ入って無いな。

さすが、トミーだ…戦い方もそうだが、こういうところ抜け目ないよな。

間一髪トミーの作り出した土の壁が鉄球を弾き返していた。


「おい、油断しすぎだぞ!もし鎧に傷でも付けたら、一生奴隷のようにこき使われても弁償できないぞ」


いや、別に魔力で作ってるからタダだからねそれ?

しかも、あげたもんだから弁償とか気にしなくてもいいのに。


「悪い!」

「ちょっと真面目にやるわ!」


2人がトミーに向かって片手でゴメンねのポーズをしているが、それが油断だというんだ。

まあ、それでも豚程度にやられるほど柔に鍛えてないけどさ。

って、この魔力の奔流はちょっとヤバくないですかねフランシスカさん?


「【|ウォーターボール】【サンダーボルト】」


その場に居た全ての豚に対し個別で水の玉で包み込むと、そこに電撃魔法を叩き込む。

えぐ過ぎる組み合わせの魔法使うなー。

案の定、水中で高圧電流を流された豚共が全身の血液を沸騰させながら、目や鼻、口から血を流して絶命していく。


『うわぁ』


辰子を含めた残りの7人がドン引きだが、本人はドヤ顔でこっちを見上げている。

まさか、魔力感知をここまで使いこなしているとはな。

バレないように見ていたつもりだが、フランシスカにはあっさり見つかってしまったようだ。

それにしても…荒神も、ネネも、ハクも、コウも、ピッグも、やり過ぎだろ!



マイケルの武器フランシスカ、魔法使いの女の子の名前フランシスカ…やらかしたorz

ブクマ、評価、感想お待ちしてます。

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(仮)邪神の左手 善神の右手
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