新たなる住人達、そして村へ
ほのぼの日常回です。
「レベッカ、ジェシカ、ジョン、マイケル、トミー、フランシスカ、エルザ、お前らが各家の主だ!それぞれが3人の子供達を面倒みてやってくれ。一番小さいアルクとコーギはハクとコウが面倒を見る事に決まっているからな。気にするな」
俺がそう言うと、14歳~16歳の少年、少女が恐る恐るといった感じで日本家屋に入っていく。
今までもこの七人がお互いに相談をしあって、子供達を統率してお金を稼いでいたらしい。
取りあえず、服も身体も綺麗にしてあるから、今日は家の割り当てと所持品の整理だ。
ルカ達が住んでいる家の周囲に、新たに7軒の家を作り出してそこに住まわせる。
こいつらの主な仕事は、2人ずつ交代で城の清掃と雑務を行って貰う。
それ以外のメンバーは、俺が作り出した森で薪を集めたり食料を集めたりしてもらう。
といっても、疑似的なものだ。
本来ならそんな事をする必要は無いのだが、万が一この国を出た後でも自給自足が出来るように訓練も兼ねている。
当然火も自分で起こしてもらうし、水も汲んできてもらう。
ただし、土日は祝日で俺が食材を届けたり、必要な消耗品は届けるようにしている。
「すげー…なあなあ、レベッカ姉ちゃん!僕たちここに住んでもいいの?」
8歳くらいの男の子がレベッカと呼ばれた少女の裾を引っ張て、キラキラとした目で見上げている。
レベッカが少し困った様子で俺の方を見てくるが、俺は大仰に頷いてみせると男の子の頭を優しく撫でる。
「うん、お館様のいう事をちゃんと聞いて、真面目に働いたらいつまでも居てもいいって」
俺もたいがいだと思うが、ここではお館様と呼んでもらう事にした。
まあ、建造物や町の雰囲気的にもその呼び名の方がしっくりくるだろうし、人の子らに魔王様と呼ばせるのも憚られたからだ。
「さてと、お前らは基本的に持ち回りで城の雑用を行ってもらうのと、教育を受けて貰う」
村というよりは集落だが、田中国初の村という形を取ってある。
住人の平均年齢は7歳~8歳と低すぎるくらいだが、まあこれからいろいろな事を学んでもらう分には十分過ぎる程の逸材だ。
「教育ですか?」
「勉強出来るの?」
俺の言葉にレベッカが疑問を浮かべているが、ジョンは嬉しそうだ。
他の面々も目を輝かせている。
勉強が出来る事を喜ぶとは変わった奴等だ。
「学校っていうと、貴族様の子供か大きな商店の子供くらいしか通えないんだよね?」
「村の教会でも、神父様が教育は施してくれるけど、やっぱりお布施が出来る家しか無理だからねー」
「ああ、俺達みたいに身寄りの無い子供達は教育なんて、受ける事は到底無理だと思っていたが…」
ふむふむ、この世界では金持ちしか勉強ができないのか。
まあ、農家の子供は農家、樵の子供は樵といった感じで親から教育というか、必要な技術は学ぶのだろう。
「まあ、お前らの先生は魔族になるが、大丈夫!きっと優しく教えてくれるよ。まず算術は、お前たちが元いた国の財務大臣のポークがやってくれる事になっている。それから文学や読み書きは元四天王の1人のブルータスだ。それから、武術は俺の直属の部下の荒神と、あとはグレズリー達が持ち回りで教えてくれるぞ!魔法学はネネとコウとハクだ!」
中々に豪華メンバーだとは思う。
それに荒神やコウ、ハクは俺の知識を直接脳内に叩き込んであるから、きっと教育者としても優秀なはずだ。
ブルータスは、結構本を読むのが好きらしく、また割と教養もあるので基本的な授業はブルータスが担当することになる。
大きい7人とそれ以外でクラス分けはされている。
7人には早急に様々な知識を得て貰う必要があるし、いざという時に子供達を守れるよう武術と魔法学は割とガチで行って貰う。
それ以外の子供たちは楽しく学んで、いっぱい遊んでもらうようなカリキュラムだ。
ちなみにユミとシュウは、既に様々な知識や技術を習得しているため通常は子供達側、武術と魔法学は7人側に加わるようにしてもらっている。
―――――――――
なんじゃというのだ、この世界は。
妾はいま、これ以上ないくらいの衝撃を受けている。
まず、妾とポーク、それからピッグがこの国に付いてすぐに案内をしてくれた荒神という魔族。
こやつの内包魔力が、ポークを倒したグレズリーを遥か遠くに置いてくるレベルの魔力を秘めている。
それでいて、その足さばきや立居振舞は一流の武芸家を思わせるような、流麗で一分の隙も無いものだ。
後ろも見ずに、前を歩いて居るというのに背後から不意打ちをする気も起きないレベルだ。
ボクッコと呼ばれた魔族も百人衆らしかったが、その能力は既に四天王に手が届きそうなレベルにまで強化されている。
そんな連中がそちらかしこに居るのだから、そら恐ろしいものを感じた。
じゃがのう…最も恐ろしいのはこの城の居心地の良さじゃ。
風呂、部屋、食事の全てがとてもじゃないが、各国の王レベルの生活水準ではないか。
しかも、渡された衣も特殊な魔力を編み込んだ絹で作られた着物なるもので、その着心地たるや噂に聞く天女の羽衣たる神々しさを放って居る。
だめじゃ…隣でポークとピッグが貪るようにフライドチキンなるものを次から次へと口へと運んでいるさまを見て、妾も慌てて手を伸ばす。
まさにここは天国ではないか。
―――――――――
俺が国に戻ると、すでにオウキとポークとピッグの懐柔は終わっていたようだ。
3人から羨望の眼差しを向けられ、命を賭してこの国に尽くすとの言葉まで頂いた。
どうやら、この国を作るにあたって俺は自重という言葉をどこかに置いてきたらしい。
まあいいだろう、お陰でポークに子供たちの教育と、この国の補佐官という役割を快く引き受けてもらう事が出来た。
「それにしても、タナカ様も人が悪い。このような厚遇が受けられるなら、いくらでもこの身を捧げたのにのう」
これはポークの言葉だ。
ここに来る前とはえらい違いだ。
だが、ここまで現金だといっそ清々しくも思える。
そうこうしているうちにダラダラと1ヶ月もの時が過ぎた。
俺自身は特に進展は無いが、カインの方は上手い事やっているらしく、東の大陸全土の村や町を解放し、今は主要な国と協力をして東の塔を取り囲んでいるとの事だった。
ただ、どうも雲行きが怪しくなってきたらしく、東の四天王のピンキーに執拗に狙われているらしい。
というのが、敵対というよりも求婚をされているらしく、自分に好意を寄せる相手に攻めあぐねているらしい。
単純にやらかしたのだろう。
まあカインの事だから、どうでもいいか。
驚くべきは子供達の成長速度だ。
すでに、ある程度の読み書き算盤は習得しているらしく、今はそれぞれの得意分野を伸ばしているところらしい。
七人はそれぞれ得手不得手があるものの、武力、魔力ともに大幅に成長しておりこの世界の勇者レベルは既に凌駕しているとの報告が上がっている。
「あっ、お館様!見てください!やっと二属性の魔法の同時発動に成功しました!」
これはフランシスカの言葉だ。
彼女は特に魔力の使い方に長けており、既に上級の魔法を扱えるどころか、異なる属性の魔法を合わせて放つという、この世界の賢者と呼ばれる魔術師に片足を突っ込んでいる。
ちなみにジョンとマイケルとトミーは、3人掛かりでピッグから一本取るレベルにまで成長している。
…そうなのだ、魔族の幹部を相手に人間3人で太刀打ち出来るとか、すでに人間を止めている。
レベッカは、リザードマンに殺されかけた子供を見取ると言っていた子なのだが、彼女は聖属性の魔法に才能があったらしく、あらゆる病気や怪我を治せるくらいには魔法を使いこなしている。
もう少しで、死んですぐなら蘇生の魔法を使う事も出来るだろう。
ジェシカとエルザは、弓を持たせると百発百中で20m先のリンゴを射抜ける程になっている。
しかも、矢に魔法を込めて放つことも出来、その威力たるやブルータスの剣を弾くくらいだ。
まあ、からくりとしては俺が彼等の潜在魔力を解放させたことで、それぞれが得意としている分野が大きく伸びた事が要因の一つだ。
どっかの緑色の触角の生えた長老みたいだが、俺からすれば片手間に出来る事だ。
だが、それ以上に彼らの訓練に対する真摯な姿勢がこの結果を生み出したのは間違いない。
それもそうだろう…ここでずっと暮らしていける事を考えたら、ちょっとした訓練なんて苦でもないらしい。
魔族に迫害される事に比べたら、遥かに生温いと言っていた為、荒神が苦笑いしていた。
荒神ですら心配になるくらいに、ストイックにより過酷な訓練を望んでくるとの事で、こっそりとだが時折魔法で疲労を回復させている。
すでに7人揃えば魔族に迫害されるどころか、百人衆ですら町から追い出せるとグレズリーが笑いながら言っていたのは聞かなかった事にした。
ちなみに7人には西の大陸の後処理として村々を解放して回るという、実践訓練をやらせた結果のちに七英雄と呼ばれ、人々に崇拝されたというのはまた別の話だ。
それにしても、子供たちの吸収力というのは恐ろしいものがある。
「よし、お前ら良く頑張ってくれたから今日は、全員で城のお風呂に入ろうか?」
丁度1ヶ月が過ぎる最後の日に褒美として、城のお風呂に招待した。
子供達がお風呂ではしゃぎまわって、のぼせたりしたが各々が風魔法や水魔法を使ってのぼせた体を冷やして気持ちよさそうにしている姿を見た時は、正直心配になった。
魔法をこんなに便利に使いこなすとは、まるで小さな主様みたいですねとネネに言われて、思わず閉口してしまった。
とはいえ、楽しそうに温泉巡りをする子供達を見ているとこっちまで幸せな気持ちになったから、よしとしよう。
あちらこちらで、楽しそうな声が聞こえる。
「あははは!これくすぐったーい!」
6歳のミラがジェットバスに打たれているようだ。
仕切りの向こうの女湯から、大笑いする声が聞こえてくる。
「うわあ!アババババ…ぷはっ!なにこのお風呂!深くて溺れちゃった!」
こっちはこっちで、5歳のメロウが大人用の立位浴に落ちて溺れかけたが、すぐにお湯を操って自分の顔の周りの湯をよけたのには将来が心配になった。
「は…はしゃぐのは良いが、ほどほどにな」
俺は大浴場の湯船につかって、思わずつぶやいたが皆はーいと元気な返事はするものの、まったくといっていいほど遠慮する気は無いらしく全力でお風呂を楽しんでくれていた。
それから、大広間で料理を振る舞うと、そのままそこに布団をたくさん引いて全員で雑魚寝した。
子供達は久しぶりに全員で寝るのが嬉しいらしく、そこでもはしゃぎまわって襖に穴を開けて泣きそうになったり…まあ荒神がすぐに手際よく、張り替えていたが。
枕投げで調子に乗った、7歳の男の子のラインが身体強化を使って投げた枕が4歳の女の子のキャリーの顔に当たって、キャリーが大泣きしながら仕返しとばかりに、枕を10個程、魔力で操って全方位からボコボコにぶつけてラインを泣かせたりと、まあ、それはそれは恐ろしい枕投げ大会になっていた。
しかし、そこは子供だ…湯疲れもあってか1刻もしないうちにあちこちから寝息が聞こえ始め、1時間もしないうちにほぼ全員が、あっちこっちに色んな向きで掛け布団もかけずに力尽きていた。
荒神と、コウと、ハクで子供達を綺麗に布団に並べて寝かしつけると、その寝顔を見て全員でほっこりとした気分に浸りながら縁側で酒を酌み交わす。
「それにしても、良い子達ですね」
ハクがしみじみと漏らすのを聞いて、俺も頷く。
「ああ、だからこそ幸せになってもらいたいし、まだまだ世界中に居るこの子達も救ってやりたいな」
「そうですね…主様ならきっと出来ますよ!この世界の子供と言わず、すべての人に救いを与えられるだけの力をお持ちですからね」
荒神が俺の言葉に、笑顔を向けて応えてくれるのを聞いて、俺は盃を一気に飲み干して月を見上げた。
そうだな、中野が人類の敵を演じてくれている間に、こっちはこっちで魔族も人もどんどん引き込んで巨大な魔人国を作り上げてみせようじゃないか。
今はまだ、子供達が住む村程度だが、いずれは魔族と人が手を取り合って暮らしていけるような国を作ってやろう。
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