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帰り道。日達瑠璃は、すでに暗くなり始めた道を、歩いている。隣にはスーツを来た甲斐雪人と、その向こうには篠塚桃花が並んでいる。片付けも手伝おうかと言ったのだけど、翌日仕事があると芹沢雅は知っていたので、無理やり追い返された格好だ。
「あーあぁ。面白かったけど、ちょっとびっくりしちゃったよね。甲斐君は私以上に災難だったんじゃない?」
「災難だったけど、充分面白かったよ」
「こういうミステリィイベントって、私始めての経験だったけどぉ、結局誰が犯人ってことになったの? 私なんて浅葱……勇さんだったかしら、彼に刺されてからずっとベッドで待ってたんだから。ほら、最後に甲斐君とももちゃんが来て、ばれるかなぁってどきどきしてたら、すぐにどこかに行っちゃうもんだから。結構退屈だったのよ」
「悠長なもんだな」
甲斐の向こうから、篠塚が顔を出しながら言う。
「悠長?」
「もしあの時、私たちがお前を調べていたら、お前が生きていることが分かってしまうだろう。そうなると導かれる結論は、お前が犯人、ということなのだぞ」
「えー? そういうことになるの?」
「そうだ。気がついておらんかったのか」
「だって私ぃ、朝気絶して? その後に真相を聞いちゃったでしょ。だから、被害者扱いになれば、疑われないって」
「まあ、犯人なんて誰でもよかったってことだ」
「うーん、お姉さんにはよく分からないわ」
笑いながら、中央を歩いていた甲斐が胸のポケットを探る。中から、少し前に瑠璃が包装をしたプレゼントが出てくる。
「結局、これ無駄になっちゃったな」
「あれれ? 甲斐君、それプレゼントしなかったの? 私、1日目は渡せなかったからさっき夕飯作ってるときにあげちゃったよ」
「ははは。それって、損だよ。だって、誕生日てのも嘘だったんだから」
「嘘ぅ。私プレゼントあげるとき、ありがとうって、雅ちゃん言ってくれたよ」
「騙されたんだ」
「嘘ぅ」
「全く。騙されたのは甲斐だ。誕生日というのは本当のことだ」
「え?」
「昨日雅の誕生日、というのは本当のことだ。お前、そんなことも分からんかったのか?」
「だって、嘘つく必要なんてないじゃない……あっ」
「まあ嘘つく必要なんてない場面だったが」
甲斐が立ち止まったので、それにあわせるように瑠璃も篠塚も止まる。甲斐は篠塚の方を振り返ると、そのプレゼントを篠塚に手渡す。
「何のまねだ?」
「だって、それなら桃花も昨日が誕生日だったんでしょ」
「まあそうだが」
「だから、プレゼント」
「お前、こんなお下がりなプレゼント嬉しいはずがないだろう」
「あらら、いいわぁ。やっぱり彼女にあげるんじゃない。うんうん、お姉さんもそのほうがいいと思うわ。今さら雅ちゃんにあげても、ねぇ。私と同じネックレスなんだし」
「そうそう。だから、これは桃花にあげるよ」
「そこまで言うなら、貰ってやる」
そわそわとした様子で、篠塚はその包装された袋を触る。
「な、中を見てもいいか?」
「ここで? そりゃ、いいけど」
暗くなった場所にあっても、包装を取るとそれは輝いている。ネックレスと、その先にペリドットのアクセサリーがついている。さっとメッセージカードに目を通すと、篠塚はそのネックレスを早速つけようとする。けれど、首についているリボンがじゃまになっている。
「甲斐、ちょっと、これを解け」
背中を見せると、髪を持ち上げる。
「はいはい」
甲斐はそのリボンを取ると、代わりに渡されたそのネックレスをはめてあげる。ああ、もう、見ているだけで妬けてくる。
「私、明日仕事だから、先に行くね」
「おう。瑠璃、なかなかいいセンスをしているな。今度お前の店に行ってやるから、まっておれ」
これ以上見ていられない!




